田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼の故郷   麻屋与志夫

2008-11-05 11:56:01 | Weblog
妻の声で失神から目覚めた。

「あなた、しっかりして。いますこしの辛抱よ」

ところが、めざす母屋の方角で爆発音。
母屋がふっとび、炎を上げた。

「パパってかわいそう。血を流しすぎると……失神するんだ。わたしたちなら、灘の生一本じゃないけれど輸血用の生血をぐっとひっかければ……」

祥代はわざと緊張を和ませようととんでもないことをいっている。

「それはいわない約束よ。血は飲まない定めよ。わたしたちは美をもとめるマインドを吸収して生きていく道を選んだのよ」

生真面目な妻がマジで応えている。
妻の車の中だ。わたしは祥代に支えらている。

「すまん、だらしがないな」
「そんなことない。パパがもちこたえてくれたので、コウモリを呼ぶことができたんだよ」

左肩に激痛が走る。血はまだとまらない。

「小型ミサイルの攻撃を受けたみたい」
「ガス爆発でしょう」
母屋がこっぱみじんにふきとんで火をふいていた。
巨大な曼珠沙華の花が何万といっせいにひらいたようだ。
曼珠沙華は彼岸花ともいう。
人狼とたたかってやぶれた九尾族の女たちを悼むように燃え盛る。
ごうごうと炎が音をたてて燃え上がっている。
金色に光に輝く炎のもとで屋敷が消滅していく。
いくつもの炎塊が屋敷の上にできていた。

特に高く燃え上がっている炎の峰はわたしの書斎のあるあたりだった。
半生かけて収集した民俗学の資料が燃えている。
いままで読んできた本がもえてしまう。
古い民具が灰になってしまう。

車は火炎の中につっこんだ。
車は道場にむかっていた。
「パパ、いたむ。道場にいけば治療できるからね」
「人狼はどうした」
「コウモリにおそわれて退却していった。でもこれから本格的な戦いよ」
「これでもまだ前哨戦だというのか」
「こんどの戦いは、どちらかが根絶やしになるまでつづく」

「なによ。まだヤッラいる」

祥代が妻とわたしの注意をうながす。
開け放たれた道場の扉。
人狼に襲撃にあっているのが丸見えだ。
人狼が薄闇に跳ねてい。
威嚇するように高く咆哮している。
負傷していたので道場に残した女たちが健気にも戦っている。
足の立つものは長刀で。
下半身に傷を負ったものは半弓とボーガンで。
長刀を振り、矢を放ち防戦していた。
あやういところだった。
わたしたちがつくのがいますこし遅れていたら。
餓狼の牙に全員切り裂かれて餌食にされていた。

「祥代、いくわよ」
「パパ。道場の扉閉めて」

肩の痛みに耐え、わたしは重い扉をいわれたとおりにした。
扉にすがるように立った。
扉によりかかった。
ここからは一匹も人狼を外に出さない。
命にかえてもここの安全は守り通す。




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吸血鬼の故郷  麻屋与志夫

2008-11-04 13:06:52 | Weblog
「もうすこし堪えて。もちこたえて」

ふたりは蒼白な顔に、青く変化した顔に凄絶な覚悟をみせている。

戦闘能力のあるのはわたしたち家族だけなのか。
このままでは、わたしたちもかみ殺されてしまう。
もうこれまでなのか。     

「いますこし……あいつらをひきつけておいて」

いわれるまでもない。   

幸い無傷の利き腕で片手正眼に太刀をかまえなおす。   
中央にいかにもボス狼の威厳をみせて犬飼がいる。
わたしたちは人狼にとりかこまれている。 
周囲では傷ついた九尾の女たちの苦鳴の喘ぎがきこえる。
血と露出した内臓の生臭いが充満している。
人狼の呻きもきこえる。

わたしたちは孤立している。  
背後でなにやらかすかな音がする。
美智子と祥代が長刀の峰をこすりあわせている。
可聴領域すれすれの音。
なにをしているんだ。
もう戦う気力を喪失してしまっているのか?
どうした、戦え。  
さいごの血の一滴がながれおちるまで気力をしぼってたたかうのだ。                            
森の上空、霧の中から黒雲がわきでた。
それを視界の隅にとらえ、わたしは正眼のかまえのままじりじりと間合いをつめていく。
わたしは人狼の壮絶な体技をみた。
街のあわただしい騒音がきこえていた。
よかった。街の全体が人狼に屈したわけではなかった。
ここからあまり離れていないところで街が動きだした。     
犬飼に手傷を負わせたことで、いつもの日常がはじまっているのだ。
まだ、異形のものは眼交にいるのに、車の警笛が聞こえる。
子供たちが朝の挨拶を交わしているのがきこえてくる。
よかった。子供たちは子供たちのままでいる。

そしてもうひとつの音。  
おもわず、上空をみあげた。
こうもリだ。 
黒い、夥しいコウモリの群れが、羽音をたてて人狼に襲いかかっていく。

朝の街の騒音がすぐそばで蘇ってい。
それなのにここはまだ異界だ。    
いや、わたしたちがなにげなくすごしているすぐそばに、異界が存在しているのだ。

わたしは何匹もの人狼を切ったという確かな手応えと妻の役にたったという満足感をいだいた。            

……その街と異界の狭間で……人狼に刃をむけたまま……失神した。


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吸血鬼の故郷   麻屋与志夫

2008-11-03 10:58:59 | Weblog
たとえひとりでも人狼の牙から逃れようとしている街の人がいれば。

その人のためにわたしは戦う。

わたしたちを千年の長きにわたり生かしつづけてくれたこの街にむくいるために。

たとえ反対されようとも。

わたしは愛する美智子のために祥代のために家族を救うために命をかける。

わたしは、ヒロシの首を切り離した。
もうこいつの顔はみたくない。    

わたしは雄叫びをあげて霧の中へ突入した。
人狼をなぎたおしていた。
襲いかかる人狼へ突進する。
上段にふりかぶった太刀をその首にふりおろす。
人狼の哀れな咆哮。
下から上に薙ぎあげる。
人狼が右に左に倒れていく。

美智子は間合いを詰められていた。     
長刀は間合いをつめられてふところにとびこまれると無用に長物となる。

あぶないところだった。
いちどは跳び退いて間合いをあけ身を沈めて長刀を振り上げた。
犬飼は高く空にジャンプして避けた。  

その態勢で妻の頭上から鉤ぎ爪をながくのばしておそいかかる。

「させるか」

裂帛の気合いをこめわたしは剣を振った。        
間にあわない。 

凄まじい戦慄を覚えた。

妻が人狼の牙に食いちぎられるイメージが一瞬閃いた。

剣をふるいながら妻に体当たりをかました。   
ふるった太刀は犬飼に切り付けた。
手応えはあった。  

妻のいた位置にわたしがいた。
左肩に激痛がきた。    
刃物をつきたてられたようだ。
いやそれ以上の痛み。
肩の肉をごっそりもっていかれた。 

犬飼はあろうことか空中で回転した。
わたしの左肩の肉をさもうまそうに噛みしめている。

「パパ」
「パパ」

妻と娘の声が同時にひびいた。





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吸血鬼の故郷   麻屋与志夫

2008-11-02 06:25:13 | Weblog
いまのところは分からない。
いずれにしても、人狼が変身を開始したときには、猫のようすで察知できる。
というような索敵防御システムではほとんど無効にちかかったのだ。

そこへきて、本田が倒れてしまっていた。
本田は街のヒトの中に埋没していた。
彼を目にしてもだれも彼を意識しない。
静穏にひっそりと生きていた。

駐輪場の日だまり。
背をかがめた彼の孤独な姿。
『涅槃原則』というか、ただただ猫に餌をあたえる隠者として。
老人としての静かに生存していることで。
一族のために人狼の覚醒のみに気をくばっていたのだ。

霧の中で咀嚼音がする。  
人狼の牙鳴りがする。
グチョグチョという音がする。 
美智子が食べられている。 
美智子が切り裂かれている。 
わたしは恐怖とともに走りだしていた。
「パパ、わたしもいく……」
祥代が長刀で血路を開く。   
人狼の街ビトの血が飛び散る。
もうこうなっては戦うのみだ。
その選択の可否を論じている余裕はない。

美智子が犬飼とにらみ合っていた。
こんどはみごとに擬音にひっかかった。
犬飼はヒトの形態をまだとっていた。   
わたしが美智子を助けに割って入ろうとする。

「婿殿のあいてはおれだよ」
ばかにした口調で人狼がいう。
狼が口をきくのがもう不審ではない。
そしてソノモノがヒロシだと認知できる。
がばっと開いた口に本田のところからつれてきた黒猫がとびこんだ。
ムックがヒロシの背を爪で切り割く。
黒猫はみずからをギセイにして人狼の喉をふさぐ気だ。
ヒロシはなんども口を歯を噛み合わせている。
黒猫を飲み込もうと焦っている。 
わたしはヒロシに猫たちの万感の恨みをこめて剣をつきたてた。
必殺の気合いを込めた。  

剣は人狼の背中を胸のほうまでつきぬけた。 
わたしは人狼の顎に両手をかけて大きく開いた。
黒猫を救い出した。   
全身に牙をつきたてられ瀕死の重傷だ。




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吸血鬼の故郷  麻屋与志夫

2008-11-01 23:02:57 | Weblog
「ボスと呼ぶな。犬飼新造だ」
「石裂豪だ」
「豪傑というタイプではないな」
「この男は、石裂屋敷の入り婿です。九尾の血はひいていません」
「それで幻の音にもひっかからなかったのか」

背後で車のエンジン音が起きた。

美智子がヘッドライトをつけたクルマで人狼の群れにつつこんだ。

「ヒロシぬかるな」

人狼のボス犬飼がジャンパ男のヒロシに叫ぶ。

「ヒロシです」

人狼がキメゼリフをはく。

12

屋敷の上空で、霧の街の空で冬の雷鳴がとどろいた。

霧は濃くなるばかりだ。

ねばい霧は寒風に吹き流されることもない。  
さきほどからの、争いで飛び散った血を含んでいる。

血の臭。

生臭い臭。

たしかに生存している証しである血が流され過ぎている。

霧に赤い色がついている。

錯覚ではない。

たしかに赤い霧だ。

粘つく。

粘性の霧が体にねばりついてくる。 

血の成分がふくまれているからなのだ。

その霧の内側に消えた美智子の車を追って門を離れる。

前方の霧の中で車輪のスキット音がした。  

これは幻聴ではない。 

ガオっと人狼が咆哮している。

街のヒトがパーカーのフードをかぶっている。

その闇のなかで目が青く光っている。   

みんな短足になっている。   

手も縮んでいる。 

腰のあたりに段ができ、二足歩行が困難な感じだ。  
いまにも狼となって歩き出しそうだ。   

街が一夜にして、人狼にのっとられてしまったのか。
街のヒトがみんな人狼に変身したのか‼ 




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coelacanth三億八千万年の孤独  麻屋与志夫

2008-11-01 21:40:23 | Weblog
       

●coelacanth三億八千万年の孤独。霧降の滝の岩壁や川治は龍王峡両岸のそそり立つ岩肌をみていると、確かに億単位の年月の経緯に思いをはせることができる。

●coelacanth三億八千万年の孤独。GGがあの「恋空」で有名な「魔法のiらんど」の携帯小説に応募した作品名です。ぜひ読んでみてください。「goo」ですと書きなれているのですが、オクメンもなく参加したこのサイトはみなさん若いひとばかり。ヨロシクネ。などとオドケテみたところで、浮いてる感じはいなめない。

●そこへきてGG初のなんと恋愛小説ときている。書いていて楽しかった。でも、そこはほら吸血鬼作家、まちがいなくでます、日光の吸血鬼。吸血鬼と黒髪、榊、麻耶族との戦いの話がバックにながれています。

●恋愛が主旋律なので現在大問題になっている「大麻汚染」についても書いているのですが。このほうは、ほんのちょっぴり麻薬捜査官がでてくるていどです。

●北海道で学生がどうやら大麻を乾燥させていたらしい、製造していたらしい、といまテレビで報じています。

●次回のこの作品の第二部では大麻汚染を主題に据えて書いてみたいなどと思っています。

●わたしは、なにせ、大麻卸販売と堂々と名刺に刷って営業ができた唯一の生き残りではないかと思います。

●もちろん葉っぱではありません。大麻の茎からとる鹿沼大麻の販売を代々家業としてきました。

●家業では食って行けず、とうの昔に廃業しました。それから学習塾。これも現在大手塾においこまれ風前の灯。これから作家として三度目のカムバックをめざしているGGです。

●coelacanth三億八千万年の孤独のことをあれこれ考えながら、すこぶる元気なカミサンのあとにしたがつて龍王峡の対岸の山を散策してきました。

       

       

       



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吸血鬼の故郷  麻屋与志夫

2008-11-01 15:51:34 | Weblog
門前には長刀の林ができていた。
鬨の声をあげている。
ひさしく戦うことを忘れていた。
昂奮している。   
あるいは門倉を略取されていきり立っている。
抑止しなければ、女たちは勇み立ちこのまま霧に攻め込む。
「さわぐな。全員が疑似音声にまどわされている」
「疑似音声? それって……」
「いかようにもきける音だ。祥代にはどうだ? こころを静めてきいてみれば……」
「まやかしだわ。パパ、こんどはわたしにもただの足音にきける」
「いやちがう。門倉はここだ」
 霧の中から人狼の唸るようなたどたどしい声がした。
 門倉なんかいやしない。
 体をくいちぎられてはいない。
 人狼に咀嚼されてはいなかった。
 だが、生首がなげられた。
 真っ赤に血をふき、脳漿を飛び散らせて椿の胸元に飛び込んだ。
 無念の形相の門倉の顔。
 椿がとりすがった。
「あんたぁ」
 その叫びは苦悶。
  夫の生首をかかえて悲しみと怒りに痙攣する。
 体ががくがくふるえている。
 惨い、むごい、ムゴイ。

 ジャンバー男が霧の中から現れた。
 鉤爪から血がぼたぼたとしたたっている。
 にたにた人狼がわらっている。
 不気味に嘲笑。
「ボス、かかりませんでしたね」
 幻音でわたしたちを霧の中に誘いこみ、門倉のように首をはねる。
それからゆっくり体の肉をくいちぎり咀嚼する作戦だったのだ。
 灰色の体毛におおわれた巨大な人狼がそこにはいた。  
 いかにもボス狼だ。  
 ここにもきれいな歯並びをした一族がいる。
 完璧な歯並び……犬歯がにょきっと下唇まで伸びて……。
 大きな肢体をした精悍な感じだ。 
 まだ二足で起立している。

 あのまま霧の中へでれば、わたしたちも襲われていた。
被害は甚大だった。


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