1.爆弾の中の都市東京
渋谷駅の周りのビル群が完成を向かえた。
そして渋谷も「中央集中熱管理システム」を使用する事となった。
この「中央集中熱管理システム」は集約が進み到底個々のエアコンでは解決できない冷却・暖房問題を解決する為に天然ガスを使った温度管理システムである。
温度管理を、このシステムで行う事で、高効率で大量の温度管理を実現するが、それは地下に備えた巨大システムが必要だった。
現在、同システムは、霞ヶ関、渋谷、新宿などに配備されている。現在進行中のものが3基あり、その為に大量の天然ガスが地下のパイプラインを流れているのである。
そして、そのすぐ横に地下埋設の電線ラインが存在する。これも空を電線で見栄えを悪くしない為だ。
そんな中、霞ヶ関熱管理組合の関係者に、ある通達がやって来た。
「帰化インドネシア人57名に温度管理システムの運用補助を割り当てる。」
現在仕事をしている皆が戦慄したが、管理トップの糞馬鹿文化京大学出(慶応出身)は涼しい顔だった。
「どう言う事ですか?」
次長の石井の目が眼鏡の中で光った。
「通常の通達だ。増員だよ。」
「いきなり倍ですか?人員削減を言っていたのに?」
「社の方針だ」
毎度見え透いた事を平気でやる。
石井達は、自分達が切り捨てられる事を理解した。
元々霞ヶ関熱管理組合は準公務員的待遇との事だったが、アベノミクスのお陰を被って、企業体となり、年俸制となり、勤務実績制となり、契約制となった。
つまり今霞ヶ関熱管理組合の人材派遣会社パーソナルテックル正社員は唯一、この糞みたいな何も知らない糞馬鹿文化系大学出の馬越龍二だけだった。
この糞馬鹿のお陰で、元居た優秀な技術者がドンドン辞めて行った。
石井も多少の矜持があったが、それを徹底的に馬鹿にするのが慶応出身のゴキブリだ。
石井は、半ばカリスマになった高橋健吾の言葉を思い出した。
「一万円の糞馬鹿面を『ふざけた諭吉』がやっている限りに於いて、平和と捏造された戦争は終わらない。我々の敵の存在は紙幣が示している。だから夏目漱石が野口英世になり、新渡戸稲造が、樋口一葉に変わろうとも、居続けているのだ!」
「とり合えず、春の掃除の時期だ。社員同士で、やりたまえ」
何時もは外注業者で燃焼炉を掃除するが、それを帰化インドネシア人と一緒にやれとの事だ。
嫌な事は石井にやらせるのが社の方針だ。
58人の日本人メンバーは皆嫌がった。
「毎度の事だ…。とり合えず。」
「技術者ですよ!我々は!」
今村係長が怒った。
「馬鹿正直って意味ですよ、それ…」
西山社員が諦めて言う。
「技術職がドンドン減って、外国人ばかりだ。ソフト関係はベトナムやインド、機械プラントだから簡単に止めさせないと思っていたのですがね。
橋口課長もうんざりしていた。
「連中にとっては何てこと無いんだろう。」
このシステムが動き出した時には破損状態を確認する為にカメラや探傷装置を持って入っていったものだった。
当然馬の糞(馬越龍二の事)は来ない。
中を見て驚いた。
「メーカーもよく、この状態をOKと言いましたね。」
橋口が懐中電灯を近づけて見る。
「メーカーも立ち上がりが終わったら、後は厄介物件だ。まぁ金を出すのが三住井商事だから、金の問題として、利益合算の都合が悪いのだろう。」
石井も嫌そうな顔で答える。
「まぁ燃焼量が少ないクーリング(冷房)では、まぁやれるでしょうが、夏の終わりから冬の始まりは、その逆より早く来ますよ。これ内装のパネルの相取っ替えしないと次の火入れは不味いですよ。」
「クーリングでもヤバイだろうな。だが俺達技術を知っている人間の判断は聞かれない。」
「メーカーは?」
「強力にプッシュしているようですが、それも、あの足し算しか出来ない馬の糞では無理ですよ。馬の糞の耳に念仏です。」
そして、後では言ってきたインドネシア人だが、どうもいい加減な感じだった。
連中も「美辞麗句」を並べられたのだろうが、やっている事が人足仕事だった。
揉め事が起きたのは、こんな仕事はお前達がやれ!とインドネシア人が言った事だった。
「とにかく内部確認も仕事だろう!技術者として、この内部の状況はどう思う!」
と言うと
「さぁ~」
と言い出す。
「そりゃ立派な技術者だな…。いいか、このプラントを動かすにはイマジネーションが必要だ。中の構造を想像しながらやらないと上手く行かない。だから、こうやって見るんだよ」
と石井は言いながらも
「掃除は業者にして貰いたかった。」
と思っている。
掃除をやる事を認めたにしても、インドネシア人の行動は適当でやっつけだった。
「やっぱり日本人とは感性が違う。」
そう言う石井に橋口が
「糞馬鹿文化系大学出とは意見が合いそうじゃないですか。アバウトで適当で口から先で上から目線で」
嫌だとは言いながら石井も内部の損傷箇所を記録して自前のスマホで写真を撮った。
結局インドネシア人は役に立たなかった。
色々な事を含めて一応報告書を書いて提出した。
これは一応の予防措置である。何も無かった事にしたがるのが慶応の糞馬鹿文化系大学出である。