おジャ魔女どれみと徒然

おジャ魔女のこと、

日常のこと、

いろいろ。

Witch Lovesについて、そのどれみの誕生日

2017-02-19 04:11:00 | Witch loves
誕生日おめでと~!!
誕生日SS、一度やりたかったんよな~!!

念願が叶いました。
まぁ、この1ヶ月えらい大変でしたが。

何しろ、前中後の三編で三万字ですからね。
間に合わね~かと思った!!w

良かった~。誕生日過ぎたら興醒めもいいとこだし、いや~こんなに一気に書いた経験なかったから焦りました。

考えてたより長くなってしまった。
カットした部分もあるくらいだし。全部書いてたら四編に分かれてたかも…

流石にそれはいかんかなと思って止めた。
短編だから長くても三編。文字は詰めて一万字ずつで綺麗に収まるかなと。

前回の「愛しい時の中で」と同じ感覚で、のんびり書こうと思ってたのに過酷なスケジュールだったw

内容も書いてる内に変わっていったし。
最初はバッドエンドにしようと思ってたんだけど、なんかどんどん明るい内容に…

なんでそうなったか分からないけどw
大筋だけ考えて書き出したから…

まぁ、誕生日だし。いんじゃねーの?(まさる君口調)
夏だし、俺も浮かれていたのかもしんないw

濡れ場も前回よりパワーアップ。
これから百合を書くに当たってもっと上達していかんといけんわ。

まぁ、R18でガッツリ書くわけじゃないけど、多少はね。

おんぷが何故どれみが魔女になると分かっていたのか、マジョユキエの思惑とか、話の中で語られてない謎がありますが…なんかもうメンドくさくなって書くの止めましたw

理由はありますけど、これは次の作品に持ち越そうかと思います。
「春夏秋冬」の次回作は原作に沿った話になるから、そこで存分に。

これは俺がおジャ魔女を見てて一番疑問に思ってたことなんで長編でじっくりやります。
だから、今作を見て「?」と思った人も気長に待っていてくれたらありがたいです。

それにしても、もう二度と誕生日SSは書きたくないわ~w 大変だった、ホント。

これが最初で最後です。多分!!w
今だにおジャ魔女に、どれおんに魅了されてる方々へ。

俺からの誕生日プレゼント…いや、御中元ってとこですかw
楽しんでもらえたら嬉しいです。

では、また。
https://novel.syosetu.org/93182/


naked manの記事で「変な人がいるもんやな~。でもそんな人は昔も今もいて急に増えたわけじゃないだろ」
なんて否定的なことを言ったら、直後にやまゆり園の事件が起きて俺ガックシ…

ダルマが言っていたように「この世そのものが地獄」だからなのか、それとも世の中の変わり目が来てるってことなのか…
俺も最近は苛ついたり怒ったりすることが多くなってるし他人事じゃないわな。

何にしても凶悪な事件や凄惨な事故で時代の狭間を感じるのは嫌なもんだ。

狂った考えが現実になった分だけ時代が進むくらいなら、何も変わらない方がいいんじゃないかと思うけどそういうわけにもいかないんだろうな…

まぁ、こんな時代だからこそ「おジャ魔女」の出番なんですよね。
人との繋がりを再確認させてくれる、それを難しくなく伝える大事なアニメだと思います。

SSの題材としてもこれだけ奥深い作品は他にありません。
皆でおジャ魔女のアニメを見て、SSを書けばいいじゃない。

それが真の世界平和だと俺は信じます。
どれだけそっぽを向かれようが俺はどれみSSを書くのをやめない。

決意を新たに、どれみのステマをかましつつ今日はお別れです。
バナナ食ってセロトニンの補充を忘れないでくださいw

じゃ、さいなら~。



2/19にて加筆して投稿。
去年の11月に投稿しようと思ったらここまでかかっちゃったいw

てか、今考えたら時期が夏ってだけで誕生日欠片も関係ないなw
せっかくの誕生日SSが……結婚させることしか考えてなかった。エンディングも……本来はバッドエンド。

episode1まで頭の中で描いてた。
そこから筆が進んで完成したのがWitch loves

           ☆

 気だるげな憂鬱に包まれて、漂う、溺れる。
 あたしはおんぷちゃんの腕の中で身を任せるんだ。

「三人で暮らしましょう。――永遠に」

 耳元でおんぷちゃんにそう囁かれても、あたしはただ曖昧に笑うだけだった。

           ☆

episode1の最後に付け足して本当はこう終わるはずだった。
何故辞めたかと言うと……気分かな?w

この頃はヒロアカにハマってて、ヒロイックなどれみ像ってのに惹かれた時があったんよ。
それは今もなんだけど。どれみの強さ、強いどれみというものをこれから書き続けたい。

技術的なことを言うと、もう少し台詞増やさないとダメねってとこか。
加筆してたら地の文の多さにビビるw これからの課題ですね。もっとテンポよくしよう。

では、また。
次の作品でお会いしましょう。

episode 3―2: With all my love.

2017-02-19 04:10:00 | Witch loves
 溜め息と共に胸の中に落ちる言葉。
 どんな意味があろうと信じられる。

 あたしは熱くなった胸を掌でギュッと抱いていた。
 そこに、おんぷちゃんが手をパンパンと叩いて、

「そうだ! なら、わたし達の婚約をはづきちゃん達にも報告しに行きましょう。いい加減、あなたも3人と仲直りしないとね」

「うげっ!? それは……!!」

「わたしと一緒ならきっと大丈夫。それに3人共、とっくにあなたのことを許してるのよ?」

「……えぇぇぇ~~~!?!?」

「あなた、ハナちゃんやぽっぷちゃんの話をろくに聞いてないものね」

 おんぷちゃんが飽きれて肩を竦める。

 あたしは唖然として何も言えなくなる。
 嬉しいより先に動揺してしまう。おんぷちゃんのプロポーズ並の仰天発言だ。
 ずっと悩んでたことが取り越し苦労だったなんて、そんなのあり~!?

「¨あり¨よ」

「心を読まないでよ! おんぷちゃん!」

「アハハ! ……ねぇ、どれみちゃん。そろそろ……答え、聞かせてくれる?」

 おんぷちゃんが声のトーンを落として、静かに聞いてきた。

 沈黙。けれど、決して嫌な雰囲気じゃない。
 真剣さと気恥ずかしさが混じって、少しだけ心地よさを感じる。

 話し合った結果、結婚するために必要な物は全て揃ったし、障害もなくなって……。
 なんだこれ、すごく……照れ臭い!!

 あたしは照れを誤魔化すように咳払いをして、

「……え~っ、まぁ、ね……」

 言葉に詰まる。
 いや!! こういう時、どう言ったらいいの!?

 普通に言えばいい? なんか洒落たことが言いたいけど何も思い浮かばない!
 一生の思い出になるのに~! 下手なことしたら笑い者になっちゃう!!

 心中であ~!と嘆いていると、あたしの頬におんぷちゃんの手がそっと触れた。
 あたしの心を掬い取るように、顔を上げさせてくれる。

「ねぇ、どれみちゃん。あなたはわたしのことをよく綺麗だとか美しいって言ってくれるけど……わたしだっていつかはしわしわのおばあちゃんになっちゃうわ。それでも……醜くなったわたしでも、あなたはわたしのことを愛してくれる?」

 その言葉に、あたしの中にあった迷いや不安が粉々に砕かれた。
 今まで抱いていた辛さや後悔すら残らず消えて、それ以上に、勇気が沸き上がってくる。


 今日はおんぷちゃんに助けられてばかりだな、と頭を抱えたくなるけど、いつものことだ。
 おんぷちゃんはうじうじするあたしに呆れたり苛ついたりしながらも、知らん顔はせずに励まして背中を押してくれる。

 そんな日々がこれから毎日でも続く。
 あたしも、おんぷちゃんに返していかないといけない。

 おんぷちゃんと一緒にいることが堪らなく幸せで、おんぷちゃんが喜ぶことなら全て、なんだってしてあげたい。



 あたしから言えることは、たった一つ。



「――愛してるよ、おんぷちゃん。これからも、ずっと」



 目の前にいるのは最愛の人。花開く笑顔。

 月の輝きをそのまま借りてきたような艶やかな髪に深く染まった紫の瞳、透き通るような白い肌。たおやかな肢体。どの角度から見ても計算し尽くされたように理想的な美貌。

 自身が望まずとも、彼女は美しかった。

 だけど、その中にはひねくれたところや子供っぽいところとか、色んな物が詰まってて、あたしは、そんなおんぷちゃんが全部大好きだった。

 まぁ、正直、今の姿からしわしわのおばあちゃんになる姿は想像つかないんだけどね。
 てか、そうなるまで何百年かかるんだよって話。金寿でもすごいのに魔女となったら……。

 でも、楽しいことばかりも言ってられない。

 これから先、何が起きるか。
 おんぷちゃんが言うように、争いや混乱が幾度も巻き起こって、幸せな気持ちや互いを想い合う心も、いつか引き剥がされたり、脆く崩れ去る。

 マジョトゥルビヨン様が苦しんだように、現実や世界を恨んでしまう瞬間が――

 ……考えても仕方ないか。きっと大丈夫!!



 だって、あたし達は――



 おんぷちゃんは何も言わず、そっとあたしの手を取った。
 摘ままれた指輪が、ゆっくり、あたしの指へと嵌め込まれる。

 左手の薬指。
 緩くもきつくもなく、すんなりと収まる。

 あたしはこの上ない充実感に包まれて、しばらく指輪に見とれていた。
 宝石の輝きが目に染みて泣きそうになる。

 おんぷちゃんの手があたしの顎に添えられて、導かれる。
 すぐ目の前に甘い吐息を感じる。あたしは自然と目を閉じた。



 永遠を誓い合う二人に祝福を贈るように。

 笑う月だけが見守っていた。

 幸せな一時を。誰よりも愛を込めて。

           ☆★

episode 3: With all my love.

2017-02-19 04:08:00 | Witch loves

          ☆

 あたしも一度は……いや、何度も想像した。

 人を好きになり、互いに想いを伝え、手を取り合い、やがて愛を自覚した恋人同士は――

 人生の大きな節目。
 永遠の愛を誓う約束。

 あたしの妄想――もとい予行演習ではいつも相手がコロコロ変わっていたけど、自分が誘いを受ける側なのはいつも同じだった。

『僕と……結婚してください』

『……はい、喜んで』

 な~んつって。
 たまに変化球で『う~ん、どうしようかしら~?』とか、いい女を気取ってみたり。

 色々パターンを用意して、その瞬間のために研鑽を積んできたのさ。
 まぁ、あたしの趣味みたいなもんでね。
 

 いざ本番――現実でも、相手から誘いを切り出されるまでは予定通りだった。

 でも、合っているのはそれだけで他はまるっきり、予習をぶち抜いていた。


 本当ならドレスで着飾って花畑に座り込んでるところを白馬の王子様が……ってそこまで歯の浮くようなことは考えてないけど、もうちょっとロマンチックにねぇ~。

 まず裸だし、湿っぽいベットの上だし。
 台詞も素っ気ないし、いきなり差し出されたのは紙ぺら一枚……。



 そして何より、相手は女の子だった。



 おんぷちゃんから、あたしへ。

 人生初のプロポーズは、突然舞い込んできた。

           ☆

 紫紺の瞳が、あたしだけを見つめている。
 その視線に絡め取られて、逃れられない。

 まるで夢の中にいるみたいだった。
 あたしはさっきの言葉を未だに引きずって、真義を図りかねていた。



 ――……え? 今ってどういう状況?



 とっくに我には帰っていたけど、何とも声が出し辛い雰囲気。
 意味は一つだけだ。分かってる。台詞を聞き間違えたわけでもないだろう。

 あれ? これ、あたしがおかしいの?
 勇気を出して、もう一回お願いしますって言った方がいいような……。

 でも、おんぷちゃんは答えを急くように瞳を一層輝かせる。
 頬を赤く染めて、指をモジモジ。

 なにそれかわいいんですけど……じゃなくて!!
 あたしは困惑したまま口を開いた。

「あの……おんぷちゃん、これって……」

「見て分かんないの? 結婚すんのよ、わたし達」

 あたしの迷いも何のその、おんぷちゃんがズバリと言い切る。

 まるでもう決定事項のような言い方。
 そういう強気な態度で押してくるの、けっこう好きなやつ……。

 ――いや! だから!!
 
「そうじゃなくて! なんで結婚ってそうなるの!? この婚姻届も意味分かんないし!」

「意味もなにも書いてある通りよ。魔女界ではね、魔女同士で結婚ができるの」

「……えぇぇ~~~っ!?!? ウッソ~~~!?!? 信じらんな~~~い!?!?」

「シーッ、どれみちゃん。静かにしなさい。夜中なのよ」

 おんぷちゃんが指を立てて嗜めてくるけど、あたしはそれどころじゃない。

 口をあんぐり開けて唖然とする。
 今までそんな話聞いたことがなかった。でも、今手に持っている『婚姻届』には微弱な魔力が流れてて、ただの紙ぺらというわけではないのは確かだ。

 あたしはますます混乱して、

「いや、えと、初めて聞いたんだけど!? そんなことできたの?」

「まぁ、知らないのも無理ないわ。廃れたも同然の制度だし。元々は魔女の赤ん坊を一人で育てられない魔女のための救済策なんだけど……特にメリットがあるわけじゃないから」

 おんぷちゃんは淡々と説明してくれる。

 へぇ~と感心しながら件の品物を見やった。
 まだ知らないことが多いんだね。魔女界って不思議だな~。

 あたしは手でクイクイと縦横に傾けたり、裏表を見比べみたりと鑑定するみたいに婚姻届をまじまじと観察していた。

「オッホン! ……それで?」

「えっ? それでって?」

「だから、答えを聞いてるんじゃ……いや、これはこっちが悪いわね。ちゃんと分かるように言わなくちゃ……しっかりしろ、わたし」

 わざとらしい咳をしたかと思ったら、おんぷちゃんが何やらブツブツ言い出す。
 いつもスマートなのに珍しい。こんなに慌てる様子は見たことがなかった。

 おんぷちゃんは指を弾いて、煙とともに空から落ちてきた小箱をキャッチする。
 あたしの手を引いてベットから起き上がらせて、側に跪いた。

 あたしはポケーッとしてて状況を理解するのに時間がかかった。



 気付いた時には――



 おんぷちゃんの美貌が目の前にあった。

 顔を上げ、見つめる瞳は真摯な色を纏って視線を逸らさない。
 まるで王子様みたいに。側で傅かれ、手をキュッと握られて――



「どれみちゃん。わたしと、結婚してください」
 


 おんぷちゃんが小箱を開ける

 真正面からの愛の告白に添えて。

 紅の宝石があしらわれた、銀の指輪。



「ただの指輪じゃつまらないと思ってね。ダイヤじゃなく、どれみちゃんのイメージに合うルビーを付けてみたの。魔女界で取れた魔法の宝石……スッゴく貴重なものなんだって。これが……あなたへの婚約指輪よ。どうか受け取ってください」


 
 あたしはおんぷちゃんと指輪とを見返した。

 さっきの言葉を心の中で何度も反芻して、指輪の輝きがゆっくりと染み込んで、だんだんと、心臓の鼓動が大きくなる。

 バカみたいに、心が震えていた。



「……えぇぇ~~~!?!? ウッソ~~~!?」

「もう! どれみちゃん! 人が折角真面目にやってるのに! 今度は何が信じられないの!?」

「全部だよ! 全部! あたしと? おんぷちゃんが? 結婚!? ありえな~い!」

「ちょっと! わたしじゃダメだって言うの!?」

「いや、ダメとかじゃなくて……!!」

 互いにヒートアップして声を捲し立てていると隣から「はしゃぐな! 下郎!」と壁ドンされて、あたし達の意気がシュルシュルと下がった。騒いでごめんなさい……。

 すると、おんぷちゃんが耳打ちするみたいに手で口を覆い今度はヒソヒソと喋りだす。

「で、どれみちゃん……返事、聞かせて?」

「い、今言わなきゃダメ? 心の準備が……」

「そんな意気地のないこと言わないでよ。悩みとか不安があるなら今ここで解決しましょう? もしかして、結婚自体が嫌とか?」

「そんな! 嫌じゃないよ! おんぷちゃんにプロポーズされたのはすっごく嬉しくて……」

「そう、良かった……」

 おんぷちゃんはホッと息をつく。
 いつもの涼しげな顔付きと違って、力の抜けた安堵の表情。
 長い睫毛の影が落ちる瞳は少し潤んでいて、感情が剥き出しになっていた。

 今日のおんぷちゃん、何だかかわいいぞ……!

 綺麗で美しい絶対的な神々しさとは無縁な、人並みの女の子みたいなあどけない雰囲気。
 ひ~っと悲鳴を上げたくなるほど、その姿が堪らなく愛おしかった。


 ――でも、


 あたしはおんぷちゃんを感情のまま抱き締めることは出来ずにいた。
 胸にグッと引っ掛かりを覚えて、上げかけた手をゆっくり下ろして目を伏せる。

「……おんぷちゃんの気持ちは嬉しいよ。結婚も……だけど、それってもう今まで通りじゃいられないってことだよね? 魔女界で一緒に暮らそうとか、そういう意味だよね?」

「ええ……それが嫌なの?」

「……あたしは魔女として半端者だから。未だに自分が魔女になった意味を見つけられないし、仕事も約束も放り出して…… あたしが、今さら魔女界に行ってもおんぷちゃんの迷惑になるだけだよ。ハナちゃんだって……」

 あたしは悔しさで唇を噛んだ。

 本当に情けない。
 自分の体たらくのせいで、おんぷちゃんの決意に水を差してしまう。
 今まで怠けていたツケが本来なら幸せに彩られるはずの、この瞬間に回ってきていた。


 魔女になったこと、魔女として生きること。
 あたしは後悔と戸惑いを抱き、それをずっと先伸ばしにして……。
 無視して、押し隠して生きてきた。


 下を向くあたしに、おんぷちゃんは苦笑混じりの溜め息をつく。

「まぁ、そうよね。終わったことをいつまでもグチグチと引きずって。大役を任されたと思ったらプレッシャーで逃げ出しちゃうし。ホントなっさけないな~、どれみちゃん」

「うぐっ……」

 おんぷちゃんが容赦なくグサグサッと言葉を突き刺してきて、あたしは堪らず胸を抑えた。

 「でも……」と、おんぷちゃんが続ける。

「悩むのがどれみちゃんらしいと、わたしは思うけどね。魔女になりましたでハイハイすんなり飲み込んじゃうどれみちゃんなんて気持ち悪いじゃない」

「気持ち悪いって……」

「それに……あなたは意味が見出だせないって言ってたけど……本当にそうなのかしら?」

 あたしは「えっ?」と声を漏らす。
 おんぷちゃんの意外な言葉に目が点になった。

 あいちゃんにも、はづきちゃんにも、ももちゃんにも、ぽっぷにも。
 あたしが魔女になった理由を聞かれたけど、おんぷちゃんだけは尋ねてこなかった。

 あたしはそれをずっと疑問に思っていた。

 自分も当事者だというのに。
 ましてや、おんぷちゃんはあたしが魔女になったから自分も魔女になったんだ。

 当然、気になるはずだし、聞く権利があったはずだった。
 そして、あたしには答える義務があった。


 だけど、おんぷちゃんは魔女になる直前に『あなたが魔女になるなら、わたしも魔女になる』と言うばかりで、かなり揉めたんだけどマジョユキエ様からの条件もあり、あたしは渋々おんぷちゃんと共に魔女になった。

 もしあの時、おんぷちゃんがあたしに説明を求めていたら、あたしは何も言えなかった。
 おんぷちゃんならあたしを簡単に言い包めることだってできたはずで。
 あたし達は魔女になれなかったはずなんだ。

 なのに、おんぷちゃんはあたしに選択を委ねただけで、それ以来、何も聞いてこなかった。

 自分でも分からないことを、何一つ問うことがなかったおんぷちゃんが知っている?
 あたしはおんぷちゃんのその口ぶりに、狼狽しながらも興味を引かれていた。

「どれみちゃんはバカでドジで間抜けで、後先考えずに突っ走ってコケるし失敗するし……」

「ちょいちょい、おんぷちゃん。いきなりなにさ。悪口イクナイよ」

 罵倒から始まる物言いにあたしはつい口を挟んだけど、おんぷちゃんに無視される。

「……でも、いつだって必ず正解を選んでたわ。人も、魔女も、わたしすら……全て助けてしまう。最後には人間界と魔女界を……あなたは世界を救った英雄『マジョドレミ』」

「ッ!? も、もう! なにが言いたいのさ!? それはさすがに買い被りすぎだって! 色んな人達と協力してできたことじゃん。あたしはどっちかって言うと足手纏いだったし……」

 今度はいきなりの誉め殺しで心臓が飛び出しそうになる。
 畏まって語尾が聞き取れないほど声から息が抜けてしまう。

 てか、言いたいことがよく分からなくて、どう受け止めたらいいか困っていた。

 けれど、おんぷちゃんは思ったままを口にしてるかのようなすっきりした表情で、

「そうね。あなたは良いとこなしの落ちこぼれ。勉強も魔法もロクにできない……」

「こら、おんぷちゃん。いい加減にしなよ」

「でも、その代わり……あなたは優しい。他の誰よりも優しくて……素晴らしい物を持ってるんだわ。だから、色んな人と絆を広げて、頑なだった魔女達の心を動かすことができた」

 おんぷちゃんは微笑むように目を細め、

「どれみちゃんは……特別なの。あなたが中心にいたからこそできた偉業よ。今まで人間界は魔女の存在を忘れ続け、魔女界は人間を恨み続けてきた。そんな地獄のような世界を繋ぎ止めて、人と魔女に『愛』を示した……何度でも言うわ、どれみちゃん。あなたは英雄なの」

 とりあえず言いたいことを言い切ったかのように、おんぷちゃんは少し間を空ける。

 上げたり落としたりで忙しい。
 落胆と含羞、疲れで肩を落とした。

 一先ずあたしは困惑を誤魔化してへらへらと笑っておく。

『英雄』か……。
 マジョトゥルビヨン様を救った後も同じような過大な賛辞を魔女界の方々から貰ったけど、おんぷちゃんに言われるのが一番こそばゆい。

「たはは、くすぐったいね。なんか」

「ふふ、今や魔女界の教科書にも載ってる大魔法使い様だものね~」

「やめてよ、恥ずかしい」

 あたしは思わず手で顔を覆う。
 あれはほんっっっとうに恥ずかしかった!


 ハナちゃんが女王に即位してまず最初にやったこと。それは魔女界の教育改革だった。


 中世の時代の『魔女狩り』を皮切りに、人間が魔女を奴隷化といった凄惨な事件の頻発。
 魔女の不満は膨らみ続け、ついには魔女ガエルの呪いよって断交が決定付けられる。

 それ以降、人間界に近付かないように魔女達は幼い時から、人間は怖い存在なのだと厳しく教え込まされてきた。
 だけど、何百年も両界を隔てていたその呪いもやっと解かれて、人間界と魔女界はまた新たなスタートを切ることに。


 ハナちゃんの治政では今まで方針をガラリと転換した。人間界との融和を目指すため、まずは人間に好意を抱いてもらおうと……。
 あたしはその政策の一分として、まんまと利用されてるってわけ。

 政治的な宣伝のために、魔女見習いとしてのあたし達の4年間は教科書に載ることに……。
 でも、読んでみたら大筋は合ってるんだけど、まるであたしだけが活躍したような誇張っぷりで見てると何だか心苦しかった。

 幼児用の絵本なんかもっと酷くて、あたしを主人公にして氷に囚われたマジョトゥルビヨン様を復活させるため仲間達と共に6つの秘宝を探す旅をエンヤコラと。
 今やそれが魔法使い界でも発売されてるんだから始末が悪かった。


 やっぱり皆の協力あってのことだからさ。
 あたし一人が手柄を横取りしてるみたいで嫌な気分になるんだよね。

 当然反対したんだけど、ハナちゃんのやれプロパガンダだの象徴が必要だのといった話術で丸め込まれ、あたしはすごすごと引き下がるしかなかった。

 最近はますます女王としての貫禄が出てきてるみたいなんだよね。
 娘の意外な成長を見て、母としては……立つ瀬がないな~トホホ。


 それに――はづきちゃん達の意向でもある。


 あたしとは絶縁状態だけど、ハナちゃんにはちょくちょく会っているという。
 教科書の編纂にも快く協力して、自分達の活躍が陰ることに文句一つ言わなかったらしい。

 その話を聞いた時、あたしは何とも言えない複雑な気持ちになった。

 はづきちゃんやあいちゃん、ももちゃんの心理はよく分からない。
 本当ならどういうつもりなのか直接問い質したいところだけど、そんなこと出来るわけもなく、いつもモヤモヤと心が燻っていた。

 あたしがやれやれと溜め息をついていると、

「――そんなあなただから、この決断にもきっと意味があるとわたしは感じてるんだけどね」

 ハッと顔を上げる。
 考え事をしていたら、いきなりおんぷちゃんの呟きが滑り込んできた。

 そういえば、まだ話の途中だったよね……。

 あたしを貶めたり誉めたり、話は脱線しちゃうし、言いたいことが全く分からない。

 さっきからおんぷちゃんは難問を過程を経ずに答えだけを知ってるみたいな口調で。
 あたしを見る目はまるで運命を占うようにミステリアスで、遠く深かった。

 おんぷちゃんの見据える先――。

 あたしは一人取り残された気分で、ただ誘われるまま話に耳を傾ける。

「あなたは魔女になったことを衝動と言っていたけど……本当は知らず知らずの内に自分の『使命』を理解していたんじゃないかしら? ただその使命があまりにも大きすぎて、今まで見極めることができずにいただけ……」

 あたしは思わず絶句する。
 使命――唐突に出てきた言葉が胸を突いた。

 意外を通り越して点と点が繋がらないほど無関係。あたしが今まで抱いていた衝動とはかけ離れ過ぎた響きだった。

 いくらなんでもそれは……と咄嗟に否定を口に出そうとしたんだけど、おんぷちゃんの真剣な表情にそれを押し留められる。

「魔女ガエルの呪いが解かれて、魔女界と人間界は新たな時代を迎えたわ。英雄『マジョドレミ』、望むと望むまいとあなたは旧時代の楔を断った張本人。どれみちゃんから全てが始まった。あなたは……世界の命運を担う責任と義務を負った勇者なのよ」

 確信どころか、まるで預言者のように朗々と語られる言葉。

 楔? 勇者?
 次々と出るキーワードにあたしの頭がグルグルと混乱する中、おんぷちゃんは止まらない。

「これからは激動の時代よ。魔女と人間の交流復活。ハナちゃんが進もうとしている道は茨の道でもある。魔女と人間が交流すれば……互いに怒りや悪意を持った者が出てくるのは目に見えてるもの。そして争いが、『魔女狩り』や『百年戦争』のような悲劇が必ず、また……」

 おんぷちゃんは目を伏せる。物憂げに溜め息をついた。

 あたし達やマジョユキエ様が抱いていた理想は生易しいものじゃないんだと、あたしも大人になるにつれて理解していた。


 ハナちゃんから色々な話を聞くし。
 補佐をしてるマジョリカやララやドド達も、緊張感が違うからね。

 順調、とはお世辞にも言えない状態らしい。
 市井の魔女の反発は未だに根強かった。

『魔女狩り』で仲間や家族を大勢失ってる人もいるから、仕方ないんだけどね。
 一応、元老院が満場一致とはいえ強行策に出て反対派と対立してしまったら、それこそ『百年戦争』の二の舞いになってしまうし……。


 人間だってどうなるか分からない。
 自分が元人間だから分かるけど、魔法は本当に便利で禁断の果実と言っていい代物だ。

 魔女や魔法を悪どく利用しようと考える人間は必ず出てくる。
 悲しいけど現実で、そして今や現代。中世とは違って悪い想像もさらに大きく膨らむ。
 魔法や魔女を受け入れずに差別してくる人間だっているはずだ。


 魔女と人間は因縁深く、罪深い。
 肩を並べて一緒に歩むことができれば両者はもっと幸せになれるはずなのに、いつの間にか、憎しみが広がってしまう。

 魔女は忌まわしい過去に怯えて、その再来を恐れている。
 人間も過去の罪をとっくに忘れて、同じことを繰り返す。


 でも、じゃあ、だったら――

 お互いこのまま出会わずに暮らすのが、正しい選択なの――?



 ――絶対に違う!!



 混乱も困惑もはね除けて、沸き上がる言葉。

 魔女も人間も、同じように悩み苦しむ、心を持っている。
 人間が悩んでいることを魔女が解決できるかもしれないし、魔女が苦しんでることを人間が癒すことができるかもしれない。

 あたしが魔女見習いとして学んだことは、その無限の可能性だ。
 魔女と人間が同じ心を持っている限り、決して諦めたりなんかしない!! できない!


 いつの間にか、おんぷちゃんの話にあたしは熱中していた。
 胸の中で炎が上がる。闘志とも言える熱い感情が高まっていく。

「ハナちゃんが夢描く世界は……パンドラの箱なの。開けた瞬間、憎しみや悲しみが次々と溢れ出す。それでも、きっとそれを乗り越えた先にはマジョユキエ様が言っていたような素晴らしい世界が待っている……その希望を見せてくれたのが、あなた」

 おんぷちゃんはそっと微笑みを浮かべる。
 瞳には優しい光が灯っていた。

「ハナちゃんが魔女界で生まれた光明なら、どれみちゃんは人間界で選ばれた希望なの。二人が揃って初めて未来の扉が開く。あなたはそれを純粋に感じ取っていただけ。マジョユキエ様だってそれが分かっていたからこそ、魔女になることをお止めにならなかった……」

 頭の中に電流が走った。全身が閃きに満ちる。

 あたしが単純なだけで、おんぷちゃんの熱弁に押されてるだけなのかもしれないけど。
 でも、じゃあ、この言い様のない感覚は……?

 今まで剥離していた体と精神がピタリと一致するような、得体の知れない満足感。
 止まっていた時間が動き出したような躍動感は、一体――?

 少しずつ、自分が前に進んでいく気がした。
 追い風に背中を押されて、とにかく熱く、激しい戦意に包まれる。

 戦意と言っても誰か敵を倒すわけじゃない。
 もっと大きな、世界とも言える、過酷な現実。

 思うのは、ハナちゃんのこと。

 現実を相手に立ち向かってる、我が娘。
 それを思えば、今すぐにでも駆けつけてあげたかった。

 圧力を感じるほど冷静なおんぷちゃんの眼差しに、尚もあたしの心がズキリと疼く。

「いずれ、魔女も人間も混乱に飲み込まれてしまうでしょう。あなたの使命は魔女と人間の架け橋になり、争いを食い止めること。それが為せるのは、どれみちゃんだけ。なぜならあなたは、魔女と人間が共に生きることができると証明した『愛』そのものなのだから」

 真っ直ぐな、おんぷちゃんの目。
 心中の弱気を見透かそうと試してるような、その視線。

 あたしは目を逸らさない。
 
「あなたならきっとできるわ。わたしも手伝うから。ハナちゃんも、マジョリカも、ララや妖精達も側にいるわ。マジョユキエ様やマジョトゥルビヨン様も信じて力を託してくれた。あなたのために用意された元老院の席は、"まだ空いている"」

 おんぷちゃんの満足そうな微笑み。

 あたしはドクドクと脈打つ胸を抑えようと一度大きく深呼吸した。
 握った拳はとても熱くて、汗が滲む。


 ――おんぷちゃん……!


 感動に体が打ち震えた。
 その一つ一つの言葉に衝撃を受けていた。

 おんぷちゃんが言ったことは全部分かり切ったことで、全部あたしが忘れていたことだ。


 ――あたしはバカだ……!


 やることは何一つとして、変わらない。
 おんぷちゃんに、一から十まで丁寧に説明されるまでそれが分からないなんて……!

 魔女見習いの時から、思い描いていた。
 大親友達や愛娘と交わした約束。

 それがあたしの全てだった。

 衝動だろうがなんだろうが構わない。
 勇者とか英雄とか、関係ない。

 あたしがやるべきことは自分を責めることじゃない。前を向いて為すべきことが一つ。


 ――全て、おんぷちゃんが示してくれたこと。


「……本当はわたしも、あなたに偉そうな口を聞ける立場じゃないんだけどね」

 おんぷちゃんがジャラリと手首のブレスレットを揺らして掲げる。

 忌々しげにそれを睨んだ。

「わたしは卑怯者よ。魔女についても、あなたを愛してるということさえ、パパやママに話すのが怖くって……こんな物に頼ってしまう。大義を持ったあなたとは違って、わたしは……」

 おんぷちゃんが気まずげに顔を俯ける。
 寒いわけじゃないのに、声が震えていた。

 緊張を表情に滲ませて怯えるようにあたしの顔を窺うその姿は、いつものおんぷちゃんとは思えないほど弱々しい。


 おんぷちゃんが初めて吐露した弱音だった。


 魔女も、人間も、懊悩からは逃れられない。
 気高き女王だったマジョトゥルビヨン様すら何百年の眠りにつくほど悲しみに拉がれる。
 人間と結婚するために人間界に渡って、その苦しみから呪いの森を生み出してしまった。

 人間から魔女になった者も、それは同じ。
 あたしより何倍も強いと思ってたおんぷちゃんだって顔に出さないだけで辛かったんだ。

 あたしが為すべきこと。
 それはこれ以上、魔女と人間の出会いによって生まれる悲しみや苦しみを増やさないこと。

 そして、まずやるべきことは目の前にいるこの世界で一番愛してる人を少しでも救うこと。
 
 あたしは身が引き締まる思いを感じて、それを真摯に受け止める。
 おんぷちゃんの手を掴み、両手で包み込んで、強く握った。

「正直言うとね、禁呪を使ったことは本当に許せないんだよ? でも、だったら、あたし達のことだけはちゃんと話そうよ。魔女についてともかくとしてさ。同性愛も言いづらい話だけど……あたしと一緒ならきっと大丈夫!!」

 「あたしも魔女のことは親に黙っときたいしね~」とけらけらと笑う。
 言えないのはあたしも同じだ。おんぷちゃんだけを責めることはできない。

 ちょっとずつでも、進んでいけたらいい。
 言えることだけでも、しっかりと伝えていかなきゃダメなんだと思う。

 おんぷちゃんは目を見開いて驚いていたけど、すぐに顔を綻ばせてクスリと笑った。

「……あなたが魔女になってくれて、わたし嬉しいわ。これから何万回でもあなたを抱き締めることができる。人間の寿命なんかじゃとても足りない」

「おんぷちゃん……ふふ、何万回も抱き締めれたら体が擦りきれて消えちゃうかも」

「あら、両界を救ったスーパーヒーローがそんな柔なわけないじゃない。わたしよりも何倍も凄い大魔法使い様だものね」

「も~! いいでしょ! それは!!」

 人差し指を立ててさも自信満々に答えるおんぷちゃん。

 あたしはワタワタと恥ずかしげに身を捩る。
 くすぐったさに眉を顰めて溜め息をついた。


 ――凄いのは意味を持たせてくれたおんぷちゃんだよ。

episode 2: I need you because I love you.

2017-02-13 04:48:00 | Witch loves

          ☆

『ひどいわ!! どれみちゃん! こんなこと――!!』

『どれみちゃん!! 許さへんで……!』

『How come……どれみちゃん……』


 はづきちゃんのつんざくような悲鳴。

 あいちゃんのあたしを睨む眼差し。

 ももちゃんの呆然とした溜め息。


 今でも、鮮明に思い出せる。
 あたしのせいで苦しみ、悲しんだ大親友達。



 決して忘れることのない、苦い記憶――。



 何故、あたしが魔女になったのか。

 これは皆にも頻りに聞かれたんだけど、とうとう明確な答えを出すことができなかった。
 多分、これから千年生きようが解決しないような気がする。

 あたしだって聞きたかったんだからさ。
 他でもない、あたし自身に。


 あたしは説明しようがない衝動に突き動かされて魔女になってしまった

 
 衝動としか言い様がなかった。
 小さい時の夢は魔女だったし、ハナちゃんを心配してとか、もっともらしい動機や理屈は何個かあるけどどれもあたしの中ではしっくりこない。

 今のどっちつかずなあたしを見るに、やっぱり、衝動が正しいんだと思う。

 例えるなら、ミライさんの時に似ているかもしれない。
 ガラス工芸を教えてくれたミライさんはベネチアへ一緒に行こうと、あたしを誘った。

 夕陽に包まれる交差路であたしは長い間立ち尽くして、ついにミライさんの元へ駆けていく。
 結局ベネチアへは行けなかったけど、あの時も、衝動に背中を押されたんだ。

 今思えば、なんでそんなことをしたのか説明ができないのは同じ。
 一つ違うとすれば、魔女になった時は自分でも驚くほど、まったく悩まずに決めたことだ。

 ミライさんの時は延々と思いを巡らせて一日それしか考えられなくらい悩んで、最後にやっと出した答えがまさに衝動だった。
 燃えたぎる炎や猛烈な大風、感情がグワッと沸き上がって脇目も振らず飛び出したのに。

 魔女になる時は心の内で囁かれる命令に淡々と従っただけというか、いつも表情に出やすいあたしが最後まで悟られなかったほど冷静でいつも通りだったんだ。

 女王様――今は退位なされ先代女王となられたマジョユキエ様に選択を持ち掛けられ、1ヶ月の猶予をもらったあの日。
 その日からずっと、あたしは密かに魔女になることを決めていた。

 決めてたというか、多分……。
 その瞬間から、もう魔女になっていたんだ。
 
 いやね、あたしも意味分かんないんだけどさ。

 人間か魔女かという選択を迫られて動揺する大親友達を見ながら、あたしも少し苦い顔でどうしようかとか考えてはいたんだよ。
 フリじゃなく本気でね。


 でも、既に結果は見えてたというか……。


 心に一本だけ通る芯があって、あたしの気持ちや血や肉がいくら挿げ替わろうと、その一本は、決して消えることも失うこともない。

 信念にも執念にも似た、あたしの中の奥底で眠っていた根源がスーッと水面から浮かび上がるように顔を出していたんだ。

 ドッペルゲンガーとか悪魔憑きとか、オカルトみたいな話じゃなくてね。
 魔女のあたしがオカルトを否定すんのもどうかと思うけど、あれは何も特別な物じゃない、自分の内にある本心だったから。
 セミナー本なんかでよく『自分に従え』って書かれているけど、まさしくそれ。

 あたしは自分に従っただけなんだ。
 他人に流されたわけでもなく、全て自分の意志で決めた。
 少なくともそれを自覚できるほど、あたしは平然としていた。

『魔が差した』と言われれば、それまでなんだろうけど。
 やっぱり、オカルトなのかもしれない。


 最後の1ヶ月間、ももちゃんのアメリカ行きやあいちゃんの大阪帰りが決まったり、おんぷちゃんやはづきちゃんが別の中学に行ったり、身が引き裂かれるほど悲しかったのは本当で。

 ハナちゃんには内緒でこっそり5人で集まり、ぽっぷとも相談して、魔女にならないと決めた時も皆でワンワン泣いた。
 その時の涙も、本物だったんだ。


 なのに、あたしは猶予の前日にマジョユキエ様の下へ行ってある頼み事をしていた。

『……それで良いのですね?』

 マジョユキエ様から反対はされなかった。
 だけど、その声音は重苦しくて言外に咎めようとしているのが分かった。

 でも、あたしは昨日までの涙なんてコロッと忘れたみたいにすっきりした顔で頷いた。
 最後まで、決心は揺らがなかったんだ。


 翌日、皆でマジョユキエ様に魔女にならないと告げてハナちゃんと大事な約束を交わした。
 元老院魔女のお歴々に見送られ、あたし達の見習いとしての4年間はそこで終わった。



 あたしの人間としての人生も。



 あたし達の水晶玉をハナちゃんに渡すことは事前に決めていた。
 魔女になる儀式で6個の水晶玉がハナちゃんの水晶玉に吸収されて、これであたし達は魔女になる権利を手放したことになる。今度こそ永久に。

 激しい光に包まれて、一つになる水晶玉。
 その光景を、あたしは黙って見ていた。

 ポケットの中で、自分の本当の水晶玉を握り締めながら。



 マジョユキエ様へのお願い。

 それは、あたしの水晶玉を、偽物にすり替えておくこと。



 あたしはまんまと皆を出し抜き、ちゃっかり自分一人で魔女になろうと画策して、それを見事に成功させたわけさ。
 話し合って決めた結論も、さっきまで涙混じりで語っていた約束も、堂々と踏み倒して。

 罪悪感は湧かなかった。
 成功して、やったー! とか嬉しくもないし。
 魔女になってしまった悲しみも。特に、何も。

 強いて言うなら、最後の別れの挨拶でマジョユキエ様が抱き締めてくれた時、あたし一人だけが泣けなくて、それが少しだけ、苦しかったのは憶えてる。

 
 ……なんか、魔女というより悪女だよね。


 その後は人間界へ戻り、何食わぬ顔で皆と別れ、家に帰り、寝て、起きて、学校へ行き、また夜になって、あたしは再びMAHO堂へ赴いた。

 訝しむマジョリカやララを制して、魔女界の扉を開く。
 あえて箒には乗らず、城へと続く道を散歩でもするみたいにゆっくり歩いた。
 
 足を出すたび、息をするたび、脱皮を繰り返してる感覚。
 人間の手、目や鼻、精神や意識がボロボロと剥がれ、或いは掴めないほど遠退いて『人間だった』頃の記憶として隅に押しやられる。

 途中で景色を見るために座り込んだりのんびりとした時間の中で、あたしの表面や内面は急速に変化して、まるで強烈な波動を叩きつけられてるみたいで。

 だけど、変化の狭間にいるあたしはな~んも気にせず落ち着いていた。
 無情に流れいくものを粛々と受け入れる。



 ミライさんが言っていたガラス越しの世界。

 その向こう側へ。あたしは踏み込んでいた。



 城に着き、謁見の間へと通される。

 白いベールで顔を隠すマジョユキエ様。
 玉座の側で佇むマジョリンさん。
 目を瞑って腕組みをしてるマジョハートさん。
 ピョンピョンと跳び跳ねて喜ぶハナちゃん。



 そして――



 それまで波紋一つなかった穏やかな心が初めて動揺する。
 激しく打ち震えて、体がバラバラに崩れ落ちそうになった。

 目の前が赤く、ビリビリと歪んだ。
 お腹がぎゅっと縮んで肩が強ばる。

 頭が割れるように痛い。神経がぶつ切りにされるみたいだった。
 汗が後から後から噴き出して、なのに手足の感覚がなくなるほど体が凍えていく。

 「なんで!? 」「どうしてあなたが!?」と大声で叫びたかったのに、言葉どころか呼吸すらままならないほど息が詰まって呆然と立ち尽くした。

 瞬きを忘れて、その後ろ姿を見つめる。

 こんなこと、あってはならなかった。
 現実を受け入れられなくて、何度も疑って、でも現実で、その度に暗闇に叩きつけられる。

 

 あたしに気付いたのか、かわいらしいサイドテールがぴょこんと揺れた。
 爪先を軸に軽やかなターンで彼女が振り向く。

 彼女の微笑みがあたしを紫紺に染める。
 リンと、鈴鳴りのような涼しい声。



 ――遅かったじゃない、どれみちゃん。



 おんぷちゃんの声が、未だに耳から離れない。

           ☆

 目を覚ますと窓の外で月が輝いていた。
 ボンヤリと輝く満月。笑う月。

『見てたのか、変態』と、あたし達の情事をチラ見するノゾキ魔を睨みつけた。

 いつものニコニコ顔が今日はヤラしく見えて寝起きだけど急にキーッ!と腹が立った。
 エッチ! スケベ! と目覚まし時計とか夜空に向けて投げつけてやりたい感じ。

 でも、そんな幼稚な癇癪を受け止める月はフッとさらに穏やかさを深めた気がした。
 見透かされる笑みに、あたしは胸を突かれ慌ててタオルケットの中に隠れた。

 頬が熱くなる。
 優しい光を当てられるのが恥ずかしくて、それと布にくるまってるとフツーに暑い……。

 あたしはその内、ガバッと起き出た。

 全てを見守るように月が天高く昇っていた。
 後ろめたさに似た何かを感じながらも、あたしは素直にその輝きを直視する。


 ――綺麗。


 あたしの瞳一杯に映る光の玉。
 パンパンに張り詰めるようなエネルギー。
 幻想的な色があたしへ一直線に降り注ぐ。

 真珠のように煌びやかで、世界一大きな宝石。
 それを独り占めしてるみたいな贅沢な気分。

 自分が魔女だからか月を見上げてると力が漲ってくるし。
 さっきは怒ってごめんなさい。

 少し照れ臭くなった。
 月に向かって、あたしは何を思ってんだか。

 だけど、あたしにとって月は特別だ。
 嬉しい時も悲しい時も、あたしを照らしてくれた月の光。気が付くと側にいた。

 そのくらい遠い昔から、あたしはよく月を見上げていた。

 魔力の強弱が月相によって変わると知って、満月や新月に合わせて魔法の練習をした。
 魔女見習いになってからは魔女界への入り口が開く笑う月を、試験は嫌だったけど魔女界へ行くのは楽しみで仕方がなかった。
 ハナちゃんが幼稚園に通ってた時は面会日が待ち遠しくてヤキモキしてたっけ。

 あたしはいつも月を見ては確かめていた。



 あたしが魔女になった日も。

 美しい月の夜だった。



 まん丸の月の縁に懐かしさを辿る。
 魔女に憧れた女の子の毎日、魔法が結びつけた友達との日々。

 ぽっぷが生まれて、可愛かったりウザかったり大変で、でもやっぱり嬉しかった。姉妹で魔女見習いになるとは夢にも思わなかったよ。

 はづきちゃんと仲良くなって、ピアノとバイオリンを一緒に演奏をした。それからはあたしのドジな性格を支えてくれて感謝しきりだった。

 あいちゃんが転校してきて、初対面なのに酷いこと言われたっけ。夕日を見ながら食べたタコ焼きの味は今も覚えてる。

 おんぷちゃんがマジョルカと現れた時はビックリしたな~。騒動に巻き込まれもしたけど今となっては結果オーライ。

 ももちゃんのケーキ美味しいよね~。もうすでにプロ並だったもん。夢に向かって頑張ってたももちゃんのこと、ずっと尊敬してたんだ。



 魔女界へ渡って色んな経験をしたり、人間界で魔法を使って事件を解決したり。
 両界を繋ぐ笑う月は、そんなあたし達をずっと見守っていた。

 喜びや悲しみをかき混ぜて今にも弾けて飛び出しそうなほど、膨らんだ月の中には、皆との思い出がたくさん詰まっていたんだ。



 だから、あたしはその光にこんなにも慈しみを覚えて、こんなにも泣きそうになる。



 暗夜を優しく照らす月。
 部屋に光を散りばめて、あたしの目を静かに灼いていた。

「んん? どれみちゃん……?」

 おんぷちゃんがもぞもぞと寝返りを打ってあたしの方を向いた。

「あっ、ごめん。起こしちゃった?」

「ううん、いい。なに見てるの?」

 小さく欠伸をして眠り目を擦るおんぷちゃん。

 あたしは指し示すように目線を空に向けた。

「うん、月が綺麗だなぁって……」

「えっ……?ふふっ、そう。わたしも愛してるわ、どれみちゃん。死んでもいいくらい」

「うえぇ!? なにさ急に!?」

「あら? 意味を知らずに言ってたの?」

 おんぷちゃんは何故かキョトンとして、薄く笑ったと思ったら突然変なことを言い出す。

 あたしはあわわっと逆上せあがった。
 心臓を掴まれて血流を無理矢理上げさせられてるみたい。

 ここ何年も、昨夜だって何回も同じセリフを言われてるけど……いつも緊張して照れる。
 あんまりにも慣れないんで、もしや禁呪を!? と疑ってみるけどアレは人間にしか効かないから、全てあたしの本心ということになる。
 分かっちゃいたけど、自分の気持ちを自覚するのは思いの外恥ずかしい。

 たまには「ふ~ん、それで?」とか冷静に返してカッコつけたいのに……今んとこ全敗です。
 不意打ちに弱いし連打されるのにも。フワ~と溶けてしまいそうになる。

 要するにあたし弱すぎ。
 大体、状況が不利なんだよね。状況が。

 一緒に寝て、生まれたままの姿で寄り添って、あーんなことやこんなこと……。
 二人の喘ぎ声や汗が縺れ合って染み込んでるベットの上、まだ興奮も冷め切らない。

 ほら見ろ。シチュが悪いのさ、シチュが。
 じゃあ、どこなら勝てるのかって、そりゃあもう……どこ?


 思えば、何年もあたしはおんぷちゃんに振り回されっぱなしだ。
 見習いの時にもそうだったけど、魔女になってからは……その、恋人だし……。

 いつから想われていたのかは分からないけど。
 いきなり告白されて、あれよあれよという間に流されて――成り行きで付き合うことに。

 最初の頃は悪い気持ちはしないな~って程度で本気にはしてなかった。
 あたしレズってわけじゃないし、女同士ってどうなの? って疑問があったわけよ。

 でも、おんぷちゃんはこっちの考えとか計算とか挟む余裕がないくらい熱烈に迫ってきて、ありったけの愛情をぶつけ続けてきた。

 もうそりゃあ、あたしが「ひえ~」って悲鳴を上げるくらい。
 世が世なら犯罪だよ、あんなの。

 いたいけな少女だったあたしを……。
 おんぷちゃんの意外な一面というか、4年間であたしが見聞きした部分ってのはほんの些細なことでしかなかったんだ。

 ずっごい素直というか、明け透けというか。
 クールなイメージだだ崩れよ。

 今まで恋する恋、全て叶わなかった理由が分かった気がする。
 おんぷちゃんに、あたしの恋愛運とかモテ期とか、全部ぜ~んぶ食われてたんだなぁ~と。

 それくらい情熱的で、おんぷちゃんはあたしにゾッコンだった。
 自分で言うのもなんだけどさ……。

 恋する男全員に袖にされてきた女が、世界中の男全員が振り向きそうな女に恋される。
 これはこれで世の中よく回るようにできてると言えるかもしれない。

 意図せず、あたしは自分の一生分の赤い糸を束ねたような恋愛に出会ってしまった。
 魔女の一生といったら相当なものだ。当然、苦労も大きかった。


 キスしたい。
 他の子には見向きもしないで。
 抱き締めたい。
 わたしだけを見て。
 わたしのことだけを考えて。
 ずっと隣にいてほしい。


 要求がとにかく多くて重い。
 真っ直ぐに、突き抜けるような純心を溢れんばかりに叩きつけてくる。

 これが非常にメンドクサいのです。

 何故かおんぷちゃんを振り払ったり遠ざけたりはしなかったけど。
 あまりにもしつこすぎて、こっちが折れるしかなかったのである。

 「仕方ないなぁ」「甘いなぁ~あたし」なんて思いながら頭をぽりぽり、困り顔。



 でも、それがあたしの最後の強がりで。



 目を逸らし、正面から受け止めるには恥ずかしすぎて、こそばゆいと思いながらも。
 全部完璧にってわけじゃないけど、あたしはおんぷちゃんの想いに少しずつ答えていった。

 同性だからとか、一緒にいる内にどうでもよくなってきちゃって。
 抵抗感や疑念が、自分の中で生まれた熱に溶かされていく。

 だんだんと、絆されていったってわけ。


 デートも、いっぱいした。
 箒に乗って日本中、魔女界からMAHO堂を通って世界中、色んなとこを見て回った。


 闇夜に光輝くモンサンミシェルを見た時は二人して黙っちゃうくらいの光景で。

 キラウエア火山を箒の上から眺めた時はお互い背筋が震えるほど見入って。

 桂浜を並んで歩いて、語尾に「ぜよ」ってつけてお喋りしてはゲラゲラ笑い合った。

 パンダ見るため四川省に行ったら、空飛んでるとこを戦闘機に見つかって追いかけられた。


 一緒に笑って、一緒に泣いて、たまにケンカをしたり。でも、明日なればまた隣同士。
 二人で過ごす時間は、楽しくて、幸せで、愛おしすぎて。悲しい記憶や迷いが一瞬だけでも追いやられていく。


 全て、おんぷちゃんがあたしを暖かく包んでくれたから。

 いつしか、かけがえのない存在になっていたから。


 でも、長く一緒にいると、おんぷちゃんの嫌いな部分もたくさん見えてくるんだけどね。
 魔法の使い方がルーズだったり、特に両親に禁呪を使ったことは許せそうにない。

 おんぷちゃんもそれは同じで、あたしに苛ついてることは一杯あると思う。
 魔女になってから気持ちが暗くなりがちで、いつも「辛気臭い!」とか「シャキッとしろ!」とか尻を蹴られまくってる。

 互いの悪いとこを言合えばキリがないけど、それでもあたし達は離れようとは考えない。
 あたしとおんぷちゃんはプラスマイナスやメリットデメリットで片付く関係じゃないんだ。



 ――それが、本当の愛って言うんじゃないの?



 思いがけず、自分の中から出てきた言葉に頬を染める。

「――どれみちゃん」

 いつの間にか、お互いの顔が近くなっていた。

 キスされる、と思った時にはもうキスしてるのがおんぷちゃんなんだ。
 何の躊躇いもなく、あたしの唇を奪う。

 柔らかく、優しいキス。
 最初は啄むように、回数を重ねて練り込むように舌を口の中へ。

 あたしもそれに答えるように唾液を舐め取って、舌と舌で抱き締め合う。
 おんぷちゃんのしなやかな指先が頬に触れ、鎖骨を撫で、あたしの胸の感触を確かめるみたいに手を押しつけて、ゆっくりと揉む。

 おんぷちゃんはそっと唇を離し、

「ム~。どれみちゃんってホントおっぱい大きくなったわね。うらやまし~! やっぱりバカは巨乳になるって真実なのかしら?」

「そんなこと言われても……そりゃあ、おんぷちゃんはやたらめったら揉んでくるからじゃない? ていうか、バカは余計だよ!」

 他人の胸をタプタプ弄びながら、そんなことを聞いてくる。

 子供の時は大して変わらない体型だったけど、二人とも大人なって出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込むと……。

 おんぷちゃんは予想通りというか、手足もスラリとして身長も高くて、お腹もお尻も引き締まって胸もぷるんと上向きで、卑怯すぎる成長具合。
 彫像でももうちょい謙遜して作ると思うんだよね~。独り占めしすぎ!

 対して……言っとくけど、おんぷちゃんが凄すぎるんであって、あたしが標準サイズ!
 比べられるこっちの身にもなれって話。

 身長は160越えなかったし、 体重も、うん、まぁ、適正なんじゃない?
 だから、普通なんだってば! フツー!!

 ただ1つ、自慢があるとすれば胸の大きさはおんぷちゃんに圧勝だった。
 両腕で抱いてパッと離したら、バルンバル~ンってたわむくらいには。
 ぽっぷにも身長は負けて、なんとかバストサイズのお陰で姉としての威厳は保たれていた。

 だけど、胸だけこんな成長されてもねぇ……ボインボインで肩が凝って仕方がない。
 巨乳って憧れてたけど持ったら持ったで大変なんだよ。おんぷちゃんにこれを言うと無言で胸を叩かれる。切実な悩みなのに~!

 何故かハナちゃんにはウケが良い。
 会うたびに「ばくにゅーだぁ!」って指差されて、胸にしこたま顔を埋められる。
 政務が大変そうだから、喜んでもらえるなら何でもいいんだけどね。

 そんなあたしの胸を、おんぷちゃんが桃の硬さを確かめるみたいに指でフニフニしながら、

「それだったらわたしも条件は一緒のはずなんだけどな~。さっきだってあなたに乳――」

「わぁ~! なに言おうとしてんのさ!」

 あたしは顔を赤くして言葉を遮る。
 いくら恋人でも恥ずかしいものは恥ずかしい。口から火を吹きそうだった。

 おんぷちゃんはアハハと笑いながら、甘い吐息を漏らす。
 目はしっとりと濡れ、艶かしい光を放つ。

 その視線にビクリとする。
 目の前には、傾国もかくやと言うほどの女性が、あたしに全てを晒していた。


 溜め息が出るほど、美しかった。
『素晴らしい』以外の言葉が出せないのは、きっとあたしがバカだからじゃない。


 この世全ての物は彼女を飾るためにあった。
 月の明かりも彼女の肌に触れた途端、砂金を降らすかのようにキラキラと舞う。

 どこまでも白い肌だ。
 体の先の先まで、これ以上は色を失うことはないほど、真っ白で。
 細く長い首に華奢な肩。鎖骨を流れる清水のような髪。胸はほど良く実り、先端には桃色の蕾が膨らむ。臍からなだらかなラインを結び、潤んだ秘部へとあたしは釘付けになる。
 月は彼女の体をきめ細やかに照らして、それを誇るかのように輝きをさらに増した。

 その光が作る陰影も。
 ツンとした鼻筋やふっくらとした唇。翳ることで眉目秀麗な造形を際立たせ、床に落ちるシルエットですら吸い寄せられるほど華麗で。



 伝える言葉なんて、最初から必要ないんだ。

 この美しさだけが全てで、この美しさだけが答えだった。



 そして、この世でたった一人。
 あたしだけが、この『美』を好きにできる。

 触れれば確かに温かく、唇を重ねれば蜜が止めどなく溢れる。
 怖気が出るほどの幸福だった。考える間もなく、あたしは快楽の泉へと引きずり込まれる。
 
 おんぷちゃんがあたしの背中に手を回す。
 仄かに汗をかいた肌がぴったりとくっついて気持ちが良かった。

 脇腹や腰を優しく撫で、下腹部に滑り込ませ、それから――

「と、ところでおんぷちゃん! さっき大事な話があるって言ってなかった!?」

「うん? あぁ! いけないいけない。すっかり忘れてたわ」

 あたしは話題を振って行為を中断させる。
 あっぶな~。危うくもう一戦始まる予感がしたから慌てて止めちゃった。

 あたしも気持ちいいのは好きなんだけどね~。
 いかんせん、体力が……。

 始まったら最後。もう没頭しちゃって果てるどころか、途中から記憶がないなんてことも。
 ホント気をつけないといつか腹上死とか……干からびて死ぬんじゃないかなと思う。
 昨夜もアヘアヘで、もう今日は勘弁してもらいたかった。

 あたしが断ると、おんぷちゃんはいつもなら不服そうな顔をして不機嫌になるんだけど、何故か今日はあっさりと引き下がってベットに背中を預けた。

 あたしはその反応に、あれ? と思いつつも隣に寝そべる。
 そんなに大事な用なの? と内心で首を傾げた。

 おんぷちゃんが指をパチンと鳴らし、小さな巻物を取り出して無言で渡してくる。

「なにこれ? プレゼント?」

「まぁ、そうかもね。プレゼントは後で渡すから。その紙は……保険証とか取説みたいなものよ。まずはじっくり読んでみて」

「えぇ~、なになに? おんぷちゃんがプレゼントなんてめっずらし~」

 あたしは鼻歌混じりで紐を解いた。クルクルと巻物を広げる。

 中身はギッシリと魔法文字。
 小学生の時にはまったく読めなかったけど今やスラスラよ。

 古文や英語よりかは簡単で、割りとすぐに覚えることができた。
 こんなことなら、もっと早く覚えておけばと後悔したんだよね。
 今思えば魔女になった効果なんだと思うけど。

 書類に目を通す。
 フンフンと文字を目で追っていくと、次第に読むペースが落ちていった。

 鼻歌が止まり、ポカンと呆けてしまう。



 ――へ?



「わたしの名前は先に書いといたから」

 おんぷちゃんがポツリと呟く。

 だけど、あたしは未だに書いてあることの意味が分からなくて言葉を失ったまま固まる。
 え? なにこれ? ドッキリ? どういうこと? イタズラ? そんな、うそ。



 だって、これ――



 頭の中が戸惑いに包まれる。
 普通なら冗談を疑うんだけど。

 あたしが答えを求めて顔を上げた先には、真剣な眼差しのおんぷちゃんがいて。
 咄嗟に怯んでしまうくらい、その表情は裏表なく透き通っていた。



 あたしは黙って見つめ返すことしかできない。

 おんぷちゃんの瞳の奥で、光が燃える。



「婚姻届――わたし達の」



 おんぷちゃんの決意が、あたしの空いた心に強く吹き込んでいた。

          ☆

episode 1―2: I love you because I need you.

2017-02-07 05:07:00 | Witch loves
 あたしは息を呑むことしかできない。
 全部、その通りだったから。

 2年前、ハナちゃんは女王に即位したと同時に人間界との交流復活に向けて準備を始めた。
 魔女からの反発が多くて道程は険しいけど、それでも約束を果たそうと頑張っている。

 自分の娘ですらしっかりと目的を見定めて前へ進む中、あたし一人だけだ。
 あたしだけが、自分の心と向き合おうとせず何の努力もしないでのうのうと生きていた。


 他人をとやかく言う権利なんて、あたしは持っていないのだと分かり切ったことなんだ。
 

 おんぷちゃんは一度視線を外して、窓の外遠くを眺めた。

「……わたし達の娘はよくやってるわ。なのに、母親達の中でハナちゃんにもっとも信頼されているあなたが……マジョリンさんの指導も逃げ回ってるようだし、いつまでこんなとこで燻ってるつもりなのかしら?」

「……ッ」

 あたしは黙って下を向く。
 燻ってる、ね……ぐうの音も出ない。


 もうやり直すことは出来ないのに、あたしは未だにあの時の決断を、自分自身を疑っていた。

 どうしてこんなことに……。

 呪文のように繰り返される己の後悔に苛まれ、それを見ないように目を瞑って踞る。

 そればっかりだった。


 おんぷちゃんは皮肉げに口の端を吊り上げて、

「わたしはあなたが無為に時を過ごしてるようにしか見えないわ。人間のフリをしてなにか見えてきた物があった? それをわたしに聞かせて」

 挑発的に睨む。

 勿論、あたしは何も言えない。
 当然だ。逃げていただけで得た物など何一つないのだから。

 あたしは叱られる子供のように悄気て視線を合わせられなかった。

『ほら、やっぱり』とでも言いたげに、おんぷちゃんはあたしを鼻で笑う。

「まだ自覚が足りないのかしら? いつになればあなたは自分が魔女になったと理解するの? 全員、死んでからかしら? み~んな、あなたより先に死ぬわよ。お母さん、お父さん、ぽっぷちゃん、はづきちゃん、あいちゃん、ももちゃ――」

「やめてよっ!!」

 あたしは堪らず叫んだ。

 激しい拒否感だった。
 想像するだけで吐き気を催すほど。

 60年70年先の未来なんて知らないけれど。
 一つ分かることは、あたしと皆は生きる時間を決定的に違えてるということだ。

 その時、あたしは皺も出来ていない。
 白髪もないし腰も曲がってないだろうし、入れ歯だってつけてないと思う。

 今のまま、今と変わらず。

 皆が老いていくのを眺めるしかない。
 何度も巡る悪夢のような想像。だけどこれは後に必ず現実になる。

 だって、あたしは魔女なんだ。
 血は同じ赤でも、違う。人間とは流れてるモノが違うんだよ。

 今でこそ押し潰されそうなのに遠い未来、魔女にとっては近い将来、訪れるこの深い悲しみに堪えられるのか、あたしには到底分かることも、分かりたくもなかった。

 おんぷちゃんは呆れたように溜め息をついて、

「はぁ、だったら同じことを何度も言わせないでよ。何年も前から繰り返し繰り返し……一番最初に言ったこと憶えてる? 魔女になるってことは人間をやめることだって……」

 憶えてる。小学6年生の春が間近に迫る頃だ。
 先々代女王を目覚めさせ魔女ガエルの呪いを解き放った、あの日。



『時の流れは残酷です。人間と関わった魔女に待ち受けているのは悲しい別れだけ。そして残るのは人間を愛してしまった後悔……私と同じ苦しみを他の魔女に味わわせるわけには……』

『違う! 後悔だけが残るなんて……絶対そんなことない!!』



 先々代女王の切なげな瞳。あたしの強い叫び。

 確かに、時の流れは残酷だった。
 楽しい思い出ほどすぐ色褪せるくせに、忘れたい思い出は何時までも流れ去ることはない。
 
 くっきりと、昨日のことのように憶えていた。

「……おんぷちゃんはなんでそんな簡単に割りきれるの? おかしいよ。魔女なんて、化け物みたいなもんじゃんか……嫌だよ、こんなの……」

 鼻の奥がツンとなった。
 口の端に雫が流れて、あたし泣いてるんだ、と初めて気付いた。
 気付いてから、涙が止めどなく溢れる。腕で締め付けるように体を抱いた。

 そんなあたしを見て、おんぷちゃんがふっと小さく微笑む。
 何故か物腰は、少しだけ優しい。

「化け物とは心外ね。わたしも同族なのよ? それに……自分から魔女なった癖によく言うわ」

 突き付けられる言葉。

 あたしは脅されたわけでも追い詰められたわけでもなく、自分から好き好んで魔女になった。
 傍目から見ればそうとしか見えないし、実際それは事実だ。

 なのに、あたしはうじうじと悩み続けていた。
 自分の中で生じる矛盾に何時までも苦しむ。


 対しておんぷちゃんは、あたしの後を追って魔女になったけど……。
 魔女になった時から一瞬たりとも迷った姿を見たことがなかった。

 何の未練をなくアイドルを辞め、親を惑して魔女界に越してった。
 魔女になるために必要な物、不必要な物を淡々と取捨して省みない。

 あたしはその平然とした姿に畏怖すら覚えた。
 おんぷちゃんと比べて自分の惨めな姿が心底、情けない。

「……おんぷちゃんの思ってる通り、あたしは怖じ気付いた臆病者だよ。だから、もうほっといて。なんでこんなあたしに付きまとうのさ?」

 おんぷちゃんは何時もあたしの側にいた。

 虚ろばかりが募る旅に飽きもせずついてくる。
 あたしは瞳に彼女の姿が過る度に猛烈な罪の意識に支配された。


 おんぷちゃんが魔女になったのはあたしのせいなんだから――。


 あたしはいつも責め立てられていた。
 おんぷちゃんがいくら魔女界で活躍しても何の慰めにもならない。

 人間は人間として生きるのが幸せなのだと、5人で話し合って出した結論。
 あたしはそれを翻して魔女になった。おんぷちゃんを道連れにして。

 あたし一人で良かったはずなのに、頑なで嬉々として魔女になったおんぷちゃん。

 もっと幸せになれる道があったんじゃないか。
 もっと他に方法があったはずだ、と。

 あたしがいくら悩やんでいても、おんぷちゃんは飄々としていてその内側は見えない。

 だから、あたしはいつも聞いてしまうんだ。
 先の言葉を、とっくに見越しているのに。



 ――おんぷちゃんは、後悔してないの?



 返事は、いつもシンプルだった。
 


「だって、わたしはどれみちゃんを愛しているもの。それだけよ。あなたが魔女になったから、わたしも魔女になったんだから」



 希望も不安も、同時に消え失せる。

 心痛だけが、あたしを貫いていく。



 恥ずかしげもなくそう言い切る。
 初めて魔女になった日から、ずっと。

 あたしには身に余る、愛の発露。
 おんぷちゃんにとって魔女になるということは、あたしを愛するということと同義なんだ。

 あたしはそれを何年も何年も、痛いほどおんぷちゃんに思い知らされてきた。

 その度に胸が張り裂けそうな気持ちになってキツくて堪えられなくて。
 でも、おんぷちゃんがいないと膨らんだ心が萎んで、その空洞を一人ではどうしようもできなくて退屈と苛立ちに身を蝕まれる。



 あたしも大概、惚れてるんだよね――。



 まるで魔法のような、星の巡り合わせ。

 数奇な運命が引き寄せた、あたしの恋人。



 おんぷちゃんは穏やかな表情で見つめて、

「本当は今日、大事な用があって来たんだけどね。その前に……」

 気を取り成すように髪を払って立ち上がる。
 スカートの裾がフワリと揺らして、あたしの前に座り込んだ。

 おんぷちゃんが肩を撫でる。
 薬を塗り込むみたいに、ざわりとした手触り。

 茫然自失のあたしを抱き締めた。
 背中をなぜて、頬を擦り当ててくる。

 あたしはむず痒くて首を捩った。

「今、気分じゃない」

「あなたはいつも最初はそう言うわ……」

 微熱のような眼差しが徐々に近づいて。
 おんぷちゃんが躊躇なくあたしの唇を奪う。

 唇を強引に押し割り、舌が入ってくる。
 唾液を吸いとられ、情欲を擦り付けるように口の中を貪られた。

 キスをしながら頬や首を撫でる。
 手をなぞるように、あたしの胸元へ。

 反射的に拒もうと手を出すけど、その手はおんぷちゃんに柔らかく掴み取られた。


 そうなると、もうだめだ。


 指があたしの胸を這っていく。
 先端に触れ、捏ねるように揉みしだく。


 んっ――。


 あたしは腰を浮かせて呻きを漏らす。
 全身が熱くて、骨から蕩けそうだった。

 何も考えられなくなる。
 何も考える必要がなくなる。

 今だけは悲しみや辛さが、押し寄せる快楽で隅へと追いやられていた。
 時の流れが止まって、抱き合う恋人達をおいてけぼりにする。

 少し気だるげで、ほろ苦い。
 心がじんと甘くなるチョコレートの海に漂う。

 生温い愛の蜜月にドロリと体が溶けていく。
 体も心も中身も何もかもが、ひとつに。



 あたしはおんぷちゃんの腕の中で、抗うこともなく愛に溺れていた。

           ☆