おジャ魔女どれみと徒然

おジャ魔女のこと、

日常のこと、

いろいろ。

愛しい時の中で 執筆記

2016-10-16 18:31:00 | 愛しい時の中で
『愛しい時の中で』投稿しました。
初めて書く短編なります。

話を短く切るなんてできるかい! と思ってたんですけど、やればできた!!w

当初はハピナコンテストに出すために書いてたんですが、「嘘」というテーマ、難しい!w

まだ題目を決めて書くには腕が足りんな。
てか、これ書くのに集中しすぎて春夏秋冬一行も進んでないよw

もう当分、短編は書かん。
夏編が完結したら次書くかな。

次はどれみとおんぷを結婚させる(キリッ
誰もやらないのなら、俺がやるしかないだろw

今回、短編を書いてたら感慨深いものがありました。
俺も書く側になったんだな~って。

おジャ魔女はアニメを見てハマりましたが、「どれおん」はネット小説を見て目覚めました。

今や、「どれおん SS」なんて検索しても数えるくらいしか作品がないわけですが、俺は誰かが残してくれたその作品をきっかけに今、小説を書いています。

たまに寂しくなります。
俺ももっと早く生まれて、もっと早くおジャ魔女に出会っていれば、どれおんの同志と語り合えたものを…

消えた作品を読むことだってできたはず。
時代の流れで仕方ないけど、でも、ささやかながら抵抗を続けてるw

これからおジャ魔女二次やどれおんSSは先細るだけなんでしょうが、そん中でも次は俺が誰かのきっかけになる作品を書いていきたい。

まぁ、今回は「おんどれ」なんですけどw
おんぷ攻めを意識して書いたけど、どう?

キスシーンとマジョリカは悩みましたが、なんとか整いました。

ハナちゃんの泣き声の書き方が分からなくて困り果てたなw
上手く雰囲気が出てればいいが…

この作品が僅かでも、一人でも、誰かの心に届いたら俺は大満足です。

では、また。4/5にて。
https://novel.syosetu.org/81228/



ちなみに参考文献。
http://indeep.jp/time-kairos-kronos-and-my-transformation/
『カイロスとクロノスの時間の整合性のバランスが崩れてきまして……。これは変容? それとも崩壊? そしていよいよ見えてきた2009年のウェブボットの「新しい戦争」の行方』

In Deepはよく読ませてもらってます。
記事一つ一つが芸術品と言ってよいくらい、面白いです。

オカルトやスピが苦手な人も是非読んでみてほしいです。

okaさんにはこの場を借りて感謝を述べたいと思います。
本当にありがとうございました。



10/16にて加筆して投稿。
今読むと、やはり春夏秋冬とは違いますね。

やはり空気感というか、初めて原作を元に書いた作品だから…
おジャ魔女もそれぞれのシーズン毎にテーマが違うから面白さの表情が変わります。

俺もそれに影響されてるのかもしれないです。
気のせいかもしれませんがw 一応は意識して書いてますけど。

何よりの分岐点はハナちゃんの存在にあると思います。
ハナちゃんと出会ってから、どれみの感情が外に向き始めたというか…他者への思いやりがより強くなりました。

無印の時は時で、あれはどれみ本来の姿なんじゃないかなと。
優しさや思いやりだけが人間の全てじゃない。身勝手な部分も含めてどれみなんだと。

春夏秋冬ではそういう所を描きたいと思ってます。
短編では「も~っと」「ドッカ~ン」のように、どれみの賢さや成長を描きたいです。

また唐突に書くと思います。
何時になるか分かりませんがw

『愛しい時の中で』 後編

2016-10-16 18:05:00 | 愛しい時の中で
          ☆

「ねぇ、どれみちゃん。『クロノス』と『カイロス』って言葉知ってる?」

「なにそれ?」

「ギリシャの古い哲学でね。クロノスって言うのが時計で刻まれる普通の時間のこと。カイロスって言うのが主観的な時間……楽しいことはあっという間に過ぎちゃうとか。時間の流れは一定じゃないって考え方があるの」

「ふ~ん……」

 あたしはソファの上で、おんぷちゃんの話を静かに聴いていた。

 別に話の内容に興味がなかったってわけじゃなくて、気持ちが段々とぼんやりしてたんだ。

 毛布の中が暖まる。
 あたしの体温がおんぷちゃんに奪われていくのを感じる。
 おんぷちゃんの体温があたしに与えられてくのを感じる。

 お互いに、与えて与えられて。
 胸一杯に温もりが広がって、言葉がなくても想いが伝わり合ってる気がした。


 幸せだった。
 ノーベル賞を取るだとか、宝くじに当たるだとか、そういうのじゃない。


 体を寄せあって暖め合う。

 誰かが、隣にいてくれる。

 たったそれだけのことで。


 喜びが、このまま永遠に続くんじゃないかってくらい溢れてきて、あたしの中を循環していく。

 小さなソファには完璧な世界が築かれて、必要なものが全て揃ってる。

 あたしはその途方もない、でも、ほんの些細なことを目の前にして、茫然としていた。

「……もう五年生なのね」

「うん?」

 おんぷちゃんがぽつりと呟く。

「四年生、ハナちゃんの子育てであっという間だったよね。五年生も、ももちゃんが転校してきて、お菓子屋さんを手伝って、ハナちゃんがまた帰ってきて……きっと五年生もすぐに終わっちゃうの。六年生になって、その後、わたし達は……」

 息をつきながら、ゆっくりと喋る。
 切れ切れに、重く、深く、刻みつけるように。

 おんぷちゃんはじっと天井を見つめていた。

 その横顔は余りにも切なげで。
 苦しくて、胸が張り裂けそうになった。

 おんぷちゃんに、そんな顔をしてほしくない。
 心から、そう思った。

 衝動が走る。
 あたしは毛布を払い除けて起き上がった。

「でもさ! あたし達は一生大親友だよね! 六年生になっても! 中学とか高校とか、正直ぜんぜん想像できないけど……それでもそれだけは変わらないよ! そうでしょ!?」

「どれみちゃん、シーッだって」

「あっ、ごめん……」

「ふふ、どれみちゃんったら」

 あたしがモゴモゴと口を押さえてたら、おんぷちゃんがそっと微笑んだ。

「ありがとう、どれみちゃん。そう言ってくれて嬉しいわ。でもね……時間の流れが早いのはあなたのせいなのよ」

「えっ? どういうこと? あたしなんか悪いことしちゃった?」

 急な指摘に慌てるあたし。

 それを見て、おんぷちゃんは悪戯っぽく笑う。

「ふふ、違うわ。わたしにとってね、どれみちゃん……あなたとの時間は『カイロス』なの」

「……『カイロス』?」

「そう」

 おんぷちゃんが体を起こす。

「三年生の時、ここに転校して色んな人に出会ったわ。魔女見習いになって……MAHO堂の皆やクラスメイト、魔女界の人達。そして、ハナちゃん……今まで関わってきた皆に元気や勇気をたくさん分けてもらって、ずっと支えてもらってた」

 あたしは曖昧に頷く。
 おんぷちゃんの言いたいことが分からなくて、顔を窺いながら次の言葉を待つ。

「辛いことも悲しいこともあった……でも、挫けそうな時に傍にいてくれた。楽しい時はもっと楽しくて……わたしの思い出の中心には、いつもどれみちゃんがいるの」

「あたしが?」

 きょとんとしてしまう。
 
 おんぷちゃんはにっこりと笑って、あたしの手を取った。

「禁断の魔法を使って好き勝手してた時、どれみちゃんが言い聞かせてくれたわ。心に囲いを作って閉じ籠っていたわたしを連れ出してくれた。呪いの森にも一人じゃ絶対に入れなかった。どれみちゃんが勇気をくれたから。楽しい思い出も、どれみちゃんがいたから。どれみちゃんと一緒にいるから楽しかったの」

 おんぷちゃんがあたしの手を大切そうに包みながら、熱を込めて言う。

 あたしはおんぷちゃんに握られた手をじっと見つめていた。
 真正面からそんなことを言われて嬉しかったけど、とんでもなく恥ずかしかった。
 おんぷちゃんは女優さんだから堂々と言えるんだろうな。

 でも、あたしは顔が真っ赤になって目を合わすこともできない。
 直視する勇気なんてなかった。
 声を震わせて、戯けて言うのが精一杯。

「へへっ、ありがとう、おんぷちゃん。あたしだっておんぷちゃんがいたから辛いことも乗り越えられたし楽しいことがたくさんあったよ。いや~、それにしてもおんぷちゃんにそこまで言われるなんて世のオトコのコが羨ましがるだろうね。まるで愛の告白じゃん」

「……ふふ、そうかもしれないわね」

 胸が詰まる。
 その一言に、はっとして顔を上げてしまう。

 目の前には、絶世の美少女。
 ゆらゆらと光る瞳、艶やかな唇。

 おんぷちゃんが、しだれかかってくる。

「夜になると、堪らなく寂しくなるの。どれみちゃんといる時間が日に日に短くなってる気がして……楽しすぎて、不安になるの。今日だって居ても立ってもいられなくて会いに来ちゃったわ」

 甘い囁きが耳をくすぐる。
 心臓が痛いくらい高鳴る。

 気持ちがもどかしくなって落ち着かないけど、体は固まったように動かない。

 瞳はおんぷちゃんを捉えて離せなくなる。
 
 おんぷちゃんが一言一言、想いを込めるように語りかけてくる。

「わたしね、どれみちゃん。夜になるといつもあなたのことばかり考えてるのよ? 離れたくなくて、傍にいたくて、少しでも、どんなに短くても、目を閉じても、あなたを探し続けてる」

 暴れる心臓を服の上から手で押さえつけた。

 おんぷちゃんの声が優しく強く迫ってくる。

「でもね、ふふっ……気付いちゃったの。時間が短くなるんならその分一緒にいればいいんだわ。ずっと目を離さなければいいの。そう思わない?」

 楽しげに、おんぷちゃんが笑った。

 あたしはうんともすんとも言えなかった。
 身勝手な言い方だなと頭の片隅では思うんけど、それも心臓の鼓動が押し流してしまう。


 ただ、心から溢れ出す感情に身を任せる。

 恥ずかしさと、もうひとつ――


「不思議ね……なんでわたし、どれみちゃんのことばっかりなんだろ。頭から全然消えてなくならない。でも、それが幸せなの。とっても幸せで、自分でも分からなくなるの……ねぇ、あなたはなんなの? わたしにとってあなたはどういう存在? あなたにとってわたしは? それが知りたいの。ねぇ、おねがい……答えて」

 まるで自分に言い聞かせるように、おんぷちゃんがあたしに問う。


 あたしにだって、そんなこと分からない。
 
 何か答えを出そうにも言葉が出なかった。

 見つめ合う時間だけが過ぎて。

 やがて、時計の針は止まる。


 心臓が軋む。
 でも、鼓動はいつしか消えていた。

 名付けようのない気持ち。
 渦巻く。蠢く。芽生える。

 躊躇が、戸惑いもある。
 それなのに、体だけが勝手に動いた。


 
 頬に手を添える。

 顔がだんだんと近づいて。

 吸い込まれるように、その唇を啄む。

 柔らかい。

 生まれて初めての、キス。



 少しだけ体を離して、おんぷちゃんを見る。

「ごめん……」

「なんで謝るの? 嬉しいわ、どれみちゃん。ほんとに、ほんとに……」

「わわっ、なんで泣いちゃうのさっ!?」

 おんぷちゃんの頬を伝わる涙。

 あたしは咄嗟におんぷちゃんを抱き締めた。

 頭や背中を優しく撫でた。
 艶やかな髪、白いうなじ、柔らかな肢体。

 声はないけど、おんぷちゃんの涙は止めどなく溢れて、あたしの胸の中で小さくなりながら、すんすんと泣いていた。

 さっきまで感じなかったドキドキが今になってぶり返してくる。


 あたし、キスしたんだ。

 この子と、キスしちゃったんだ。

 この後、どうしよう。


 内心、大慌てだった。

「ねぇ」

「ひゃいっ」

「なにその声。ねぇ、どれみちゃん。もう一度、キスして。そしたらわたし泣き止んであげる」

 涙で顔をグショグショにしながら、おんぷちゃんが茶目っ気たっぷりでウィンクしてくる。

 そんなことを言われたら、こっちは堪らない。
 抗う術がなくなってしまう。
 拒む理由が、そもそも無いんだけど。

 あたしは再び顔を寄せて目を閉じながら、おんぷちゃんに口付ける。


 一度目のキスよりも。

 もっと長く、もっと深く。

 想いを伝え合う。


 どうしようもないほど、喜びが溢れかえって。

 途方もない幸福感。
 永遠に思える時間。

 ひとつだけ。
 泡のようにぽっかりと言葉が浮かんで弾けた。



 ――好き。

          ☆

 信じたい。祈りたい。

 そしてなにより、強く望むこと。

          ☆

「ねぇ、どれみちゃん」

「……なに?」

「さっきの時間の話なんだけど、実はカイロスの説明にはまだ続きがあってね」

 憑き物が落ちたような、おんぷちゃんのすっきりとした笑顔。

 あたしの胸にすっと溶け込んでいく。

「カイロスは楽しい時は早く過ぎるとか、苦しい時は長く感じるとか、そういう時間の捉え方なんだけど……カイロスにはね、そもそも時間が存在しないとか、時間には終わりも始まりもない。時間は永遠で無限だって、そう考えることもできるんだって」

「それじゃなんでもありになっちゃわない?」

「わたしもそう思うけど、要は気持ちの問題ってことね。10年20年、時計の針が進んだとしても想いは色褪せることはない……」

 おんぷちゃんは深い溜め息をつく。
 体をソファに沈ませて、寂しそうに笑った。


 幸せそうに笑ってたんだ。


 その横顔を眺めていたら、あたしは背中がジーンと熱くなった。

 美しいと思った。
 チャイドルとか女優とか、そんなの関係ない。


 人として、美しかった。


「……そうだよね。もし、あたしがおばあちゃんになっても小学校の思い出は絶対に忘れないよ。もしかしたら自分の孫に『あたしゃ昔、魔女見習いをやっててねぇ~』なんて話してるかも」

「じゃあ、わたしは今夜のどれみちゃんのキスについて語り継がないといけないわね」

「ぶっ! おっ! おんぷちゃん。変なこと言わないでよ!?」

 おんぷちゃんの爆弾発言に、思わず吹き出す。

『あれ』は一夜の過ちというか、兎に角、心の奥に仕舞っておきたいものだった。

 じゃないと、思い出す度に頭が風船みたいに熱で膨れ上がってしまう。

「ふふ、変なことって? と~っても凄かったわ。口を舐めとるように――」

「わーっ! わーっ! ストップストップ!」

「蕩けるほど気持ちよくてね。首に痕が――」

「もう勘弁してって~!」

「あははっ……もしかしてわたしとキスするの嫌だった?」

「えっ、それはその、っ!!……んっ」

 強引に口を塞がれる。

 おんぷちゃんの顔がいつの間にか近づいて。
 近すぎて見えない距離にまで。

 おんぷちゃんの舌が口の中に入り込む。
 舌と舌を擦り合わせて、唾を吸い取られた。


 陶酔に溺れながら、罪悪感が重くのし掛かる。
 やってはいけないことをしている、という意識はあった。

 けれど、その罪すら、甘い。

「……嫌?」

 口付けをしながら、おんぷちゃんが問う。

「……ヤじゃないけど」

 あたしの答えを見越したかのように、また唇を寄せてくる。

「またしたい?」

 水音が響く。

「したい」

 唇を何度も重ねた。

「嬉しい?」

 頬や首にも。

「……嬉しかった」

 おんぷちゃんは顔を上げて、にっこりと笑う。

「なら、いいじゃない。嬉しいことは何度でもすれば」

「そりゃそうだけど……うわ~ん、なんか誘導されてる気がする~!」

「ふふふ、これでどれみちゃんは一生わたしのものね」

「ちょっ! なにさらっととんでもないこと言ってるのさ!?」

 毛布や見習い服をくしゃくしゃにしながら、ソファの上でじゃれ合う。

 脇をくすぐったり、背中を撫でたり。
 キスも、おでこや腕とお構い無しだ。

 流れる汗、髪の毛一本すら愛おしいと思った。
 
 傍目から見れば、あたし達のしていることはバカで情けなくて滑稽かもしれない。

 でも、それでいいと思った。

 ささやかに、激しく。
 あたし達は互いに想いが一つだと実感する。

 触れ合うたびに、満たされるんだから。

 二人でいられるなら、あたし達は――



 ――もうなにも、神様すら、いらない。



「おぬしらはほんっっっとうに仲が良いの~」



 ――……え?



 ピタッと体が止まる。

 おんぷちゃんと顔を見合せ、ふと頭上に視線を向けると緑ガエル――もといMAHO堂店主マジョリカがちり取りに乗ってプカプカ浮いていた。

 頭は理解が追いついてないけど、『あっ、ヤバい』と本能が背筋を凍らせる。

「ホッホッホ、見てて微笑ましいわい。どれみ達との付き合いも長くなって、ワシも情が移ってきての。おぬしらが睦まじく過ごしてくれるのが嬉しくて仕方ないんじゃ」

 マジョリカは菩薩のような微笑みを湛えながら優しく語りかけてくる。
 だけど、目は全然笑ってなくて瞳には暗雲。怒りが迸っていた。

「だがな……この神聖なMAHO堂で! 朝っぱらから何をイチャついとるんじゃあ~!! いっちょまえに盛りおって! 乳繰り合いは他所でやらんかあ~!!」

「ちょっとマジョリカ! どこから見てたのさ!?」

「うるさ~い!! 今日という今日はその性根を叩き直してくれる! そこに正座せんかあ~!!」

「ふふ、どれみちゃんと二人ならそれもありかしら?」

「今そんなこと言ってる場合じゃないよ!? おんぷちゃん!」

 マジョリカ特大の雷が落ちて、甘い空気は一気に霧散する。

 あたし達は逃げ惑うしかなかった。

「ゥウウウエエエアアアェェェ~~~ンッッッ」

「も~う、マジョリカ~。朝からなに大きな音立ててるのよ。ハナちゃん起きちゃったじゃない……って、どれみにおんぷ? なんでここにいるの?」

 ハナちゃんが泣き出し、眠り目を擦るララが飛び出してくる。

 もうてんやわんやだ。


 マジョリカが箒を振り上げながら追いかけてきて、あたしは冷や汗を流して逃げる。

 ララは目を点にしてポカンとしてる。

 ハナちゃんの泣き声はさらに大きくなり、終いには魔法が発現し、のし棒やらホイッパーやらが浮き上がって所構わず飛び回った。

 頭を押さえて飛来物を避けるおんぷちゃんは声を上げて笑っていた。



 窓から日が射し、小鳥の囀りが聞こえる。
 そんな中、MAHO堂は上へ下への大騒ぎで、早朝の静けさとは無縁だった。

 後ろには鬼の形相のマジョリカ。
 いつの間にか標的はあたし一人になっていた。

 頭に玉子や小麦粉を被りながら、あたしはのびやかに叫ぶ。

「あたしって、世界一不幸な美少女~!」

          ☆

 騒がしい日々は時間を忘れるほど、忙しく過ぎていく。

 おんぷちゃんが言うように、確かに時は待ってはくれなくて、楽しいから悲しくなって、振り返りたくなって、寂しさが降り積もってしまう。

 だけど、思うんだ。

 辛い記憶も、楽しい記憶も。
 それは全て大切な思い出になる。

 どんなに寂しさや悲しみが付きまとっても、纏めて抱き締めて、あたし達は生きていく。


 朝日に照らされたおんぷちゃんが、天使みたいに笑う。

 おんぷちゃんが笑ってくれると、あたしも嬉しいんだ。

 そんな想いも、いつか忘れるかもしれない。
 悲しみに移り変わってしまうかもしれない。

 それでも、ふとした瞬間に思い出す時が来るかもしれない。
 悲しみにそっと触れて、力をもらう時が来るかもしれない。

 そうして、生きていく日々の中に――



 あたしたちは愛しさを得る。



 それはきっと――

          ☆★

『愛しい時の中で』 前編

2016-10-16 18:05:00 | 愛しい時の中で
          ☆

「……綺麗ね。まるで宇宙を漂ってるみたい」

「うん。ホウキで宇宙を飛んだら、こんな感じなんだろうね。真っ暗には終わりも始まりもなくて。無限に、永遠に、どこまでもどこまでも、デッカい空っぽが続いてるんだよ」

「ふふ、どれみちゃんにしては詩的なことを言うわね。ステーキしか頭にないと思ってた」

「そりゃもう~! 宇宙は広いから~、松阪牛とか神戸牛がたくさん生息してる惑星とか、星一個丸々のステーキ! って、おんぷちゃん!! なにさらっと失礼なこと言ってんのさ!? あたしだってたまにはおセンチなこと言うよ! もう! プップのプ~だ!」

「あらあら、嫌われちゃった? ごめんね」

 おんぷちゃんがクスクスと笑う。

 雲が緩やかに流れていた。
 下を見れば濃い闇が広がって、かと言えば今日は月が明るい。

 光と闇が入り雑じって明滅が自然に溶け込む。
 夜が淡く映し出されていた。

 夜空に瞬く星が金粉となって、箒で飛行するあたし達に降り注ぐ。
 月の光が白く輝き、風に舞った花びらが目の前を、一枚、二枚と通り過ぎていった。

 静けさが深みを増す無重力の世界。


 「どれみちゃん、デートしない?」と誘ったのは、おんぷちゃんだった。

 見習い服に着替えたあたし達は、二人一緒に夜空へと飛び出した。


 おんぷちゃんはいつもと同じ横座りで箒に乗ってるんだけど、さっきからそれを眺めるあたしは何故か目が離せない。

 風に靡く髪は宝石のように揺れて、光に照らされた目や鼻が白く浮かび上がって、まるでこの世のものとは思えないくらい美しくって――


 その髪を梳いたらどんな感触がするんだろう。

 その首や頬に触れたら――


 夢想が、おんぷちゃんの肌を撫でる。

 あたしの頭の中はそんなことばかり考えてて。

 胸が波打つように、不安定で。
 甘えのような、怯えのような。

 ずっとこのまま、空を飛び続けていたい。
 そんな想像に、駈られてしまう。


「どこかで休憩しましょうか」

「あ、うん……」


 その笑顔に。

 見とれてしまう、あたしがいる。

          ☆

 ゆるゆると高度を落としながら、あたし達は会話もなく空を飛んでいた。

 暗闇が海のように広がっている。
 その夜の闇の中には、MAHO堂がどっぷりと深く沈んでいた。

 明かりはついていない。
 もうマジョリカとララは寝ているんだろう。
 最近はハナちゃんの夜泣きが少なくなって、夜通し子守りする必要がないんだ。

 MAHO堂の中庭に降り立つ。
 裏口から、室内に入る。

 いつもはお客さんで賑わう店内も、今の時間はしんと静まり返っていた。

 あたし達は2階のハナちゃんを起こさないように忍び足で移動する。
 暗くて、足元が覚束ない。

 でも、特に目的があるわけじゃないから、これから何をしたらいいのか困ってしまう。

 あたしはとりあえずこの暗闇をどうにかしようと、魔法を使ってみる。

 パララタップを叩いて、スウィートポロンを取り出した。

「ピ~リカピリララポポリナペ~ペルト♪ ろうそくよ、出てこ~い」

 ひそひそと呪文を唱えると、テーブルに三又のキャンドルが煙とともに出現した。

「これなら、ハナちゃんのお休みの邪魔にならないよね?」

「ふふっ、さすがね。どれみちゃん。なら、わたしは……プ~ルルンプルンファミファミファ~♪ 紅茶セットよ、出てきて~」

 光が輪郭を描き、ポットとティーカップが二つ、現れる。

 薄暗い室内に紅茶の香りが漂った。

「夜のお茶会なんて中々ロマンチックでしょ?」

「あたしは紅茶よりステーキの方が……」

「もう。やっぱりどれみちゃん、お肉のことしか頭にないじゃない」

 おんぷちゃんが口元を押さえて笑う。
 あたしは恥ずかしくて顔を赤くした。

 互いに向かい合って座る。

 おんぷちゃんがカップに紅茶を注いでくれた。
 あたしは「ありがとう」と言って、一口すする。

 ミルクを入れるのを忘れたけど、思ったより苦味が気にならなかった。
 さっきまで空を飛んでいたせいか、暖かさが、体に染み込んでいく。

 カップから立ち上る湯気の先で、おんぷちゃんが紅茶に口をつけながら微笑んでいた。



 それを見ていたら、苦さとも暖かさとも違う、胸にぴりりっと、痺れが走った。

          ☆

 コチコチと時計が針を刻む。
 日付は、とっくに変わってしまった。

 別に明日が――もう今日になってしまったけど、日曜日で夜更かしOKってわけじゃない。
 今日も普通に学校があって、後何時間かしたら、あたし達は通学路で出会って「おはよう」と言い合う日常が待っている。

 だけど、今、こうしておんぷちゃんと向かい合っていると、その日常が、なんだか遠い日々のような気がして。

 夢とか、錯覚とか。嘘のように感じてしまう。

 おんぷちゃんとハナちゃんの話をする。
 芸能界の話。学校の話。MAHO堂の話。

 顔を合わせて、笑いあって。
 でも、お互いに自由気儘というか、好き勝手に過ごしてる。


 まるで、おんぷちゃんと、長い旅をしてるような、そんな気持ち。


 永遠に続くような、遠い道のり。
 でも、本に纏めたら、きっとたった数ページで終わってしまう。

 思い出はたくさんあるけど、大事なことはずっとずっと先にあって。
 あたし達は前を向いたまま、振り返る暇もなく歩いてきた。
 それが良いことなのか、悪いことなのか、よく分からないけど。



 ただ、おんぷちゃんと一緒にいると、そのなんだか分からない気持ちが、ぴたりと、心の隙間に丸く収まってしまうんだ。


 おんぷちゃんはチャイドルで美人で可愛くて。
 頭もいいし、まるであたしとは正反対。


 でも、どうしてあたしは、おんぷちゃんのことをこんなにもすんなり受け入れているんだろう。


 遠い昔から馴れ合ってきたかのように、生まれて初めて会ったかのように。
 いつも心には安心する気持ちと新鮮な気持ちが宙ぶらりんになってる。

 それは全然、悪い気持ちなんかじゃなくて。

 多分、おんぷちゃんも。
 そんなに満更でもないじゃないかなと思うのはあたしのゴーマンなんだろうか。



 他人だけど、他人だから。

 あたし達は同じ気持ちで。

 地続きの道を歩き続ける。

          ☆

「なんだか眠くなっちゃった」

 おんぷちゃんが椅子から立ち上がって、ソファに寝転がった。
 小さな欠伸をして、目を擦る。

「ダメだよ、おんぷちゃん。見習い服のままだと風邪ひいちゃうよ。それにここで寝ちゃったらおんぷちゃんのママにどう言い訳するの?」

「いいじゃない、そんなこと。どれみちゃんも一緒に、ね?」

 おんぷちゃんが寝転がったまま、あたしの腰に手を回して抱きつく。
 まるで赤ん坊みたいにお腹に顔を埋めてくる。


 鳥肌が立つほど、こそばゆくて。
 ぎゅっとされるたび、体から力が抜けていく。

 とろりと顔が溶けそうになって。
 余りの気持ち良さに、心から快感で震えだす。


 誘われるように、おんぷちゃんの髪を撫でた。
 清水に手を入れたような、涼やかな触り心地。

「気持ちいい。もっと撫でて、どれみちゃん」

「ふふ、今日のおんぷちゃんは甘えん坊だね」

「うん、どれみちゃんのお腹の匂い嗅いでるとすっごく気持ちが落ち着くの」

「うへぇっ? なに恥ずかしいこと言ってるのさ……ちなみにどんなにおい?」

「お姉ちゃんの匂い」

「まぁ、あたし長女だし……」

「ママの匂い」

「ママもやってるからね~」

「どれみちゃんの、匂い」

 急に腰を抱く力が強くなって、

「おりゃ」

「えっ、のわぁっ」

 そのまま、体を引き寄せられる。
 どさっとベットに押し倒された。

「ちょっと、おんぷちゃ――」

「プ~ルルンプルンファミファミファ~♪ 毛布よ、出てきて~」

 真上から毛布がバサッと降りてきて、あたし達を包み込む。

「だから寝ちゃダメだって!」

「シーッ、ハナちゃんが起きちゃうでしょ。寝ないから朝までずっとこうしていましょうよ」

「徹夜する気なの? どうしてそこまで家に帰りたくないのさ?」

「どれみちゃんと一緒にいたいの。ダメ?」

 息が詰まった。
 おんぷちゃんのまっすぐな願いに、YesともNoとも言えない。

 何も。
 言葉が出せなかった。

 おんぷちゃんの瞳。
 強くて、眩みそうなほど、激しい光。


 あたしは黙って見つめ返すしかなかった。

          ☆

愛しい時の中で 前書き

2016-10-16 18:04:00 | 愛しい時の中で
物足りない時間。
あなたのことを思うと眠れなくなる。

おんぷとどれみが美空の夜を飛翔する。
互いに欠けたモノを埋め合わせために。

魔女見習いの恋。
未熟な二人が織り成すラブストーリー。



とまぁ、ハーメルンにて投稿している短編をブログにも掲載します。
多少、加筆もしてリニューアルです。

来月にはWitchlovesの方も掲載しようと思います。
それでは『愛しい時の中で』本編をお楽しみください。