時々雑録

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読書録3 

2010年05月03日 | Indiana大学
春学期終了。読書録として、今学期、Teaching Assistantとして働いた授業Introduction to statisticsで使用した教科書を。著者は、担当のTrosset先生。長年、統計学入門を教えて使ってきた教材を最近出版したもので、今回初めて授業で使われました。

Michael W. Trosset Introduction to statistical inference and its application with R. Chapman & Hall, 2009.

まず、とてもバランスのいい本だと思います。統計学科の授業のための教科書ながら、理論に偏りすぎず、具体的な統計分析をするためにそのまま使える手順・数式・Rコマンドが手際よく説明されていて、かなり実践的。とはいえ、確率論に数章を割いて、数学的な基盤もおろそかにしていない。カバーしている統計手法は、t検定、一要因分散分析、予測変数が一つの回帰分析までですが、正規分布が仮定できないときの対処も丁寧に解説してあって、見た目より内容がつまってる。分割表の検定も、カイ2乗値によるのでなくて、一般化線形モデルへの発展を考えてG検定を中心に議論する、など統計学を専門にする第一歩としての役割も十分果たすと思います。

この本の一番の美点は、Exercisesでは。教授職に就く前にしていた、統計コンサルタントとしての仕事の経験を生かして、実際の研究例に基づく練習問題を豊富に収録してあって、入門の教科書を超えた味わい深さがあります。宿題は全て、中間・期末試験もほとんどがこのExercisesから出されるので、私はそれを採点するため、分かるまで読んで、問題を解き、学生の誤答にコメントをつけるためあれこれ見直したりと、徹底的にこの本を使ったので、かなり内容に精通したと思います。

一方、この本は本当の入門書ではないかもしれません。数学のバックグラウンドがちょっとあり、統計も多少の経験がある人が、もっと厳密な理解を目指す、という状況が最適か(日本人はアメリカの学生よりそういう人が多い気がするので、英語さえ苦にならなければ、読める方は多いのでは)。私は、ちょうどそういう段階にあったようで、いちばん勉強になった学生かも。Wilcoxonの符号付順位和検定のリクツがどうも分からず、三重大学の奥村晴彦先生のWebを参考させていただいて、やっと問題が解けたということもありました。理解してから読んでみると、教科書はちゃんと分かるように書いてあったのですが。

もう一つの問題は、Rに関する説明がちょっと簡単なこと。Trosset先生は十分だと思っているでしょうし、私もそう思わなくもありませんが、やっぱり経験がない人は面食らうかも。そのためか、手計算でやろうとした学生もいましたが、どうしてもどこかで間違う。Excelを使った人が、ExcelのLOG()関数のデフォルトがlog10である(自然対数ではない)ことを知らずに使って全然違う答えを出したり。。。

そんなわけで苦しんだ学生も多くて、こっちも採点には大変な時間がかかったし、「統計って難しいんだな」と再認識させられた、という面もあります。450ページほどのこの本を、15週間で隅から隅までカバーした先生も、付いてきた学生も立派。有名になることはない本なのかもしれませんが、良書だと思います。本のWebsiteのURLは以下。データセットと正誤表(たくさんある。いくつかは私が見つけた)がダウンロードできます。

http://mypage.iu.edu/~mtrosset/StatInfeR.html

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読書録というか、今学期の仕事を振り返った記事になりました。今日、一学期の合計点を報告して、私の仕事は終わりました。

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