時々雑録

ペース落ちてます。ぼちぼちと更新するので、気が向いたらどうぞ。
いちおう、音声学のことが中心のはず。

愛が足りない...のか?

2013年02月19日 | 
幼稚園の友人や、お隣のおねえちゃんの影響か、このごろ「気持ちはお姫様」うちの娘。具体的イメージは、たぶんプリキュア(以前の憧れ、まいんちゃんは、今はそうでもないらしい)。絵を描かせれば父親だって髪が背中まで届くほど長いし、ロングスカート、目の中には☆。気が向くと、私を(サービスで)「王子様」と呼んでくれます。先週の木曜のバレンタインデー、そんな娘に「今日は大好きな人にチョコとか、お花とか、プレゼントをする日だよ。お母さんに何かあげよう」と持ちかけると、大賛成。彼女の脳内イメージ的には、目にハート、自分の周りにはお花畑、という喜びよう。ということで二人で嫁さんにチョコレートケーキをプレゼント。

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幾度も紹介したFreakonomics Blogでも、Justin Wolfersという経済学者(この記事の時点でミシガン大学教授)がバレンタインに引っ掛けた記事をポスト。Gallupという有名な米国の世論調査会社の調査で、「Did you experience love for a lot of the day yesterday?」という質問に対する回答を分析したもの。概要は、

- 2006年、世界136か国、各国平均1500人くらいに調査
- 世界平均で約70%が「昨日の私は愛に満ちた日を過ごした」
- 米国は世界26位、80%が愛に...
- 日本は107位、約60%が...

掲載されている散布図は、この「愛指数」と、経済学者がまず検討しそうな一人当たりGDPとの相関。ところが見てのとおり、GDPの予測性は高くない。じっさいたとえば、日本のようにGDPが高いのに「愛指数」が低い国や、ルワンダとか、フィリピンとか貧しくても愛に満ちた国がある。パートナーであるBetty Stevensonさん(事実婚で、お二人の間にお子さんもいる)と共著のBloomberg.comのコラムによると、日本は世界7大経済大国のうち、ずば抜けて愛に乏しい。ちなみに、死別や離婚をした人より、結婚してる人のほうが、さらには事実婚の人のほうが愛指数が高い(つまり、自分たちですか)。また、この指数は30~40代でピークを迎えて、その後は徐々に下がっていく、など、いろいろ面白い。

Freakonomicsの記事の意図は、GDPがダメなら、何かいい予測指標はないか、原データを提供するので、読者諸氏も検討してみて、ということ。さっそく反応があったらしく、その日の午後にもう続編が載ったのですが、Wolfers氏がいちばん面白かったと言うのが、実は同じ散布図。ある読者が、「このグラフ自体がハート型をしてるよ」と指摘したのだそう。面白い... かもしれないけど、それがデータの傾向なのだとすれば、これは統計の教科書で回帰分析などの解説で必ず出てくる「直線の相関ではないケース」の典型(二群に切れ)、というハナシでは?

ところで、この「愛」のデータは大規模な調査の一部で、Gallup社のWebsiteに各部門の分析が公開されています。このうち、幸福感等についてはこのStevenson/Wolfersが詳細な分析を寄稿。のぞいてみたところ、経済的に豊かなのに幸福感の低い日本が問題になってました(46-56ページ)。この論文は、経済学の分野で有名らしい「Easterlinのパラドックス」(経済的に豊かになっても幸福感は上がらない)を反証する目的で書かれているのですが(つまり、経済的豊かさは幸福度を上げる)、日本の低い幸福感は、彼らの主張の手ごわい反証になりうるらしい。著者お二人は、過去のGallupの調査の質問文の変化と幸福度の推移などを詳細に分析した結果、「日本も経済の行き詰まりや失業率と幸福感が連動していて、例外とはいえない」と考えているもよう。

ということで、Gallupデータに限れば、経済的豊かさが上がれば幸福感も上がる傾向はたしかにある、ということになりそう。このテーマについては数多の研究があるでしょうし、実際どっちが正しいかは私にはわかりませんが、日本の「愛」や「幸福感」の低さについてはちょっと気になることがあります。

米国にいたとき質問紙調査を受ける機会も多かったのですが、「米国では満足度調査などでは満点以外だと、と調査側が不安を抱く」と聞いたことがあります。たとえば5段階評定で、日本人が「なかなかよかった」と肯定的につけた「4」を、あちらは「5じゃないとは、何か問題が??...」と不安になる(あるいは社内で問題視される)のだとか。

上に戻ると、経済大国の中で抜きん出て得点の低い日本は、本当に幸福じゃないのでしょうか、愛が足りんのでしょうか。そうなのかもしれません。また、われわれが米国で耳にした日本人の評定傾向のお話も、たんなる誤りかもしれません。だとしても、日本人が「4」と付けたときの幸福感と、米国人の「4」とが等価値だと単純に見なしてよいとは考えにくい。このような世論調査における文化間の差に限らず、言語学でよく行われる容認可能性における評定の個人間の等価性など、主観的評定については、「同一の聞き方をして、同一の答えを得たからといって、それを等価値と見なせるとは限らない」という慎重さが必要なように思えます。ちょっとGoogleで調べてみましたが、そういう問題に関する研究は少なからずあるようでした。

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ハートといえば、最近のうちの「姫」は、手を胸の前でハート型にして、ハートミサイルを飛ばしてくれます。それを受けた私はノックアウト...と毎回付き合うのはちょっと疲れますが、遠からず飽きてやってくれなくなるのは確実なので、ありがたくいただいています。

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2 コメント

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Unknown (まつーら)
2013-02-19 21:33:39
日本だとキリスト教圏ほど愛というものが身近でないとか、「愛って何?」と考えてしまうところから、同じ質のアンケートになってるのか疑問に思いました。
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Unknown (管理人)
2013-02-22 15:02:13
こんにちは。わざわざコメント恐縮です。

おっしゃるとおり、宗教とか、文化とかそういうものの差が影響する可能性が考えられる項目だという気がします。

実際、あの散布図で日本の近くに位置する「GDPは高いが愛は足りない」国に、韓国、シンガポール、香港・・・ これに限らず、西洋人の学者の研究には、「西洋の物差しで他も測っておいて、普遍的な洞察を導く」ということをやってるせいで、かなり怪しいものになっているケースが少なくない、と感じています。
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