声明によると、トランプ大統領は新たな政府機関の閉鎖を避けるため、壁建設費用を盛り込む予算案に署名する意向だが、それに加えて、連邦議会の予算決定権を迂回(うかい)して防衛予算を建設費用に充てる方針だという。
国境の壁建設費用を確保するため国家非常事態宣言を発令する方針だ。ホワイトハウスが14日、声明を発表した。
野党・民主党の幹部は、「権力の著しい乱用」および「無法行為」だとして、大統領を非難している。
連邦議会が可決した法案は、大統領の署名を得て初めて発効される。
国境の壁建設は重要な選挙公約だが、トランプ氏はこれまでのところ必要な予算を確保できていない。
ホワイトハウスの発表
ホワイトハウスのサラ・サンダース大統領報道官は14日、政府予算案に関する声明をツイッターで発表した。
「トランプ大統領は政府予算案に署名するほか、これまでに宣言していた通り、国境における国家安全保障と人道にとっての危機を確実に阻止するため、国家非常事態宣言を含む大統領権限を行使する方針だ。大統領は壁を築き、国境を守り、偉大な国を保護するという約束を今一度果たそうとしている」
トランプ氏は以前、連邦議会の承認なしに壁の建設費用を確保するため、国家非常事態宣言を発令すると警告していた。しかし、危険な先例になると、共和党内からも批判の声が出ていた。
ところが、与党・共和党幹部のミッチ・マコネル上院院内総務は14日、トランプ大統領が「国境対策強化のために合法的に行使できるあらゆる手段を用いている」と述べ、支持する姿勢を見せた。
予算案はこの日の上院で賛成83票、反対16票で可決された。続いて下院も賛成300、反対128で可決した。
民主党の反応
民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長はすでに、トランプ氏が非常事態宣言を発令した場合には、民主党として法的に争う意向を示していた。
ペロシ議長と共に民主党幹部のチャック・シューマー上院院内総務は、大統領の動きを強硬に非難する共同声明を発表。
「国家非常事態の宣言は、無法行為であり、大統領権限の著しい乱用となる。壁の費用をメキシコに負担させるという公約の要を、トランプ大統領が自ら破ったという事実から国民に目をそらそうと必死だ」と批判を重ねた。
ペロシ、シューマー両氏はさらに、「大統領は役に立たない高額な壁の費用負担についてメキシコも、アメリカ国民も、そして国民を代表する議員も説得できなかった。だから今になって大統領は納税者に負担させようと必死で、連邦議会の予算決定権を迂回(うかい)しようとしている」
民主党は、連邦議会が「我々の憲法上の権限を守る」ことを誓った。
国家非常事態とは
国家非常事態とは、国家が危機にさらされている時に宣言される。今回の場合トランプ氏は、アメリカとメキシコの国境に到達している移民によって危機がもたらされているとしている。
専門家たちによると、国家非常事を宣言することで、大統領には通常の政治的プロセスを回避できる特殊な権限が与えられる。
つまり、トランプ氏は既存の軍事予算や災害救済予算を壁建設費用として流用できるようになる。
ただし、米南部の国境での状況が非常事態にあたるのかどうかという議論もある。
一方では、昨年11月だけで1日あたり2000人以上が国境で追い返されたり、逮捕されたりしており、トランプ支持者はこの状況は緊急事態に匹敵するとしている。
他方で、2000人という数字は10年前よりもはるかに低いという意見もある。
ホンジュラスなどからアメリカに向けて北上する数千人の多くは、難民として合法的に入国することを求めている。

<解説>連邦議会を迂回――アンソニー・ザーカー BBC北米担当記者
連邦政府が閉鎖危機の最中あった1カ月前、大統領が壁建設費用を確保するには、議会への予算要求を取り下げ、別の財源を確保するため、国家非常事態を宣言するのが一番簡単な方法だというのが、大方の総意となった。
結論を出すのに時間がかかったが、最も無理のないこの方法をトランプ氏は選んだ。
「壁を築く」という選挙公約を実現している証拠だと支持者に示せる行動を取りつつ、トランプ氏は自ら招いた苦境から抜け出した。
もちろん、国家非常事態宣言に伴う諸問題は、1月に指摘された通りでなくなっていない。
共和党は、これが連邦議会を迂回するための大統領権限行使の先例となり、いつの日か民主党側も同じことをするのではないかと恐れている。
大統領が壁建設予算のために非常事態を宣言すれば、差し止め請求が裁判所に相次ぐのは必至だ。つまり当面は、具体的な成果につながらないはずだ。
大統領は、手段を変えて勝利を獲得したのだと主張したいだろうが、議会で民主党の抵抗に遭い、撤退したことに変わりはない。
政府機関閉鎖の争いは最初から国境の壁に留まらず、向こう2年間のトランプ政権の政策目標を決めるのは誰なのかという争いでもあった。
もし大統領が今後も自分の意志を通したいなら、議会を通すのではなく、議会を迂回する方法を見つけなくてはならないだろう。今回の予算案をめぐる争いが、そのことを示している。