【7月12日 AFP】アポロ11号による月面着陸がうそだと考えている人は、世界中に数多く存在している。彼らは、1969年7月に米航空宇宙局が配信した画像が、実際には米ハリウッドのスタジオで撮影されたものだと信じているのだ。また、月面着陸はなかったとしてアポロ11号のミッションそのものを疑い、それが「ねつ造」であったと実証を試みるウェブサイトも星の数ほどある。

 

 こうした懐疑派の中には、NASAにはそのような途方もない計画を成功させる技術的ノウハウはなかったと言う人や、宇宙飛行士だったら宇宙線で焼かれて死んでいるはずなので、月面に着陸していたとしてもそれは人間ではなかったと主張する人もいる。

 その他、月面着陸には宇宙人が関与しており、宇宙飛行士らが発見した月の文明と共に隠ぺいされたという意見もある。だがほぼすべての陰謀説で「怪しい点」が指摘されるのは、地球に送信された画質の悪い写真やビデオ映像だ。

 陰謀論者たちは、映像の中の影に不自然な点があることや一部の写真に星が写っていないことを指摘しているが、こうした説は科学者らによって何度も反証されている。

 2009年には無人月探査機「ルナー・リコネサンス・オービター」が月面に残された歴代のアポロ宇宙船の残骸を撮影している。それでも、こうした説がなくなる兆しは今のところ見られないのだ。

  1969年、「静かの海」にアポロ11号の着陸船が降り立った時、テレビに映る映像を疑ってかかった米国人は20人に1人もいなかった。米調査会社ギャラップ(Gallup)のデータによると、世紀が変わる頃でもこのイベントに疑いを持っていたのは米人口の約6%にとどまっていたとされる。一方、冷戦時代の敵国ロシアでは同時期、国民の半数以上が米国を最初に月に到達した国と認めることを拒んでいたという。

■出来事の重要性に比例する陰謀論

 

 フランスの研究者で、陰謀論に関する広範な著作のあるディディエ・ドゥソルモー氏は、出来事の重要性が増せば増すほど、とんでもない陰謀論を引き付ける傾向があると指摘する。

 ドゥソルモー氏はAFPの取材に対し、「宇宙で主導権を握ることは人類にとって重大な出来事だった。それを攻撃することで、科学の根源と人類による自然支配という概念を揺さぶることができる」と述べ、そのような理由からアポロ11号の月面着陸が陰謀論者たちのターゲットになっていると説明した。

 アポロ以前の陰謀論──1963年のジョン・F・ケネディ大統領暗殺やUFOが墜落したとされる「ロズウェル事件」──でも画像は検証された。だがアポロでは、NASAが公開した画像の詳細な分析が陰謀説の基となった点がそれまでのケースとは違うとドゥソルモー氏は言う。

■「画像は思考をまひさせる」

 ドゥソルモー氏によると「メディアイベントの視覚的解釈を中心に構築され、それがすべて仕組まれたものであると非難する陰謀論」は月面着陸が初めてだったという。

 また同じ論法が、米国で相次ぐ学校襲撃事件をうそだとする陰謀論でも繰り返し使われていることも指摘された。画像は、よりゆがんだ論理的飛躍とともに提示されると「私たちの思考能力をまひさせる」というのだ。

 NASAの史料編さん官だったロジャー・ラウニアス氏は、否定論者たちは他の人々が指針としている調査方法や知識を受け付けないと批判する。「彼らは政府に対する人々の不信感や、社会に対するポピュリスト的な批判、(科学的な考え方の)基本と知識の創出に対する疑問といったものにつけ入ってきた」

 またラウニアス氏は、そうした妄想にメディアが油を注いだと非難し、「月面着陸陰謀論は、この出来事をより新しく、異なる視点で伝えたいという(メディアの)競争によってあおられた」と指摘している。(c)AFP/Frédéric POUCHOT