都賀社長は、3度もテスラを訪問し、いーろん・マスクCEOに値上げを要望したと言うが、テスラも事業が計画通り進んでいおらず、パナソニックの車載電池の利益計画の4割にしか達していないと言う。
主要4事業が減益に
美談のように聞こえるかもしれない。しかし、裏を返せば頻繁にトップ外交に出なければいけないほど、パナソニックは今“非常事態”に置かれている。
12年に社長へ就任した津賀氏が「高成長事業」と位置づけていたのが、テスラ向けの電池を軸とする車載事業だった。15~18年度に事業部の予算とは別に設けた1兆円の戦略投資枠のうち、過半が車載向けに振り分けられ、うち2000億円がギガファクトリーに投じられた。さらに、「電池以外でも『車載』と名のつく投資案件には、どんどん決裁が下りていた」(パナソニック関係者)という。
にもかかわらず、その車載事業の18年度営業利益は期初計画のわずか4割にとどまった。グループ全体で一時的な利益を除く実質営業利益は前期比25%減となったが、主因は車載事業の不振だった。昨年は1500円を超えていたパナソニックの株価は、2月に下方修正が発表されると800円台まで下落、その後も900円前後と低迷が続いている。
不振は車載事業に限らない。これまで安定的にキャッシュを稼いできた白物家電も冷蔵庫やエアコンで他社からシェアを奪われ、営業利益は下振れとなった。特定顧客における需要サイクルの一巡でもともと減益予想だったBtoB事業も含めると、主要4事業すべてが前期比で営業減益だった。
こうした中、パナソニックは各事業の位置づけとポートフォリオの改変を急速に進めている。
今年5月に発表した新中期戦略で、高成長事業だった車載関連の製品は一転、「再挑戦事業」に格下げとなった。この動きと並行する形で、テスラ向けとは別の角形電池事業をトヨタ自動車傘下に切り離した。20年末までに合弁会社をつくり、トヨタが51%、パナソニックが49%を出資。約3000人の社員と4つの工場もトヨタに移管する。独フォルクスワーゲン向けとみられる車載コックピットでは値上げ交渉に失敗し、18年度に多額の減損を出したため、日本メーカー向けの供給に絞った。
車載事業で好調なのは、16年に買収したスペインのフィコサ社が手がける電子ミラーぐらいだ。18年には、電子アウターミラーがトヨタの新型「レクサス」に搭載されているADAS(先進運転支援システム)向けに採用されている。
非常事態を受け、4月に幹部人事も刷新している。主要4事業中、比較的順調なBtoB事業を除くすべての事業でトップが交代となった。中でも注目の人物が、車載事業を手がけるオートモーティブ社のトップに就任した楠見雄規氏(54)だ。楠見氏はトヨタと角形電池事業移管の交渉を行った人物で、津賀社長からの評価も高い。
ほかに、家電と住宅を中心とする中国・北東アジア社のトップとなった本間哲朗氏(57)や家電事業を所管するアプライアンス社のトップになった品田正弘氏(53)も、ポスト津賀と目される重要人物だ。
新中期戦略の策定を任されたのは、4月にCSO(最高戦略責任者)に就任した片山栄一氏(53)だ。電機業界を見る著名証券アナリストだった同氏がパナソニックに転じたのは17年。介護事業や自転車事業の要職を経て、今やグループ全体の戦略を描く立場となった。
片山氏が中心となって作った新中期戦略では、リストラが大きな目玉だ。19~21年度までに1000億円の固定費を削減すべく、事業の売却や撤退を進めている。
その1つが住宅メーカー、パナソニック ホームズの切り離しだ。同社は17年10月にいったん本体の完全子会社となったが、業界シェア7位に甘んじ将来的な成長が見込めないため、20年1月にトヨタの住宅子会社と統合され連結から外れることになった。新設される合弁会社はパナソニックとミサワホームを含めたトヨタグループが同率を出資する。
5期連続の営業赤字が続いている半導体設計・開発会社では、トランジスタとダイオード事業を今年10月末までにロームに売却すると発表。同じく赤字とみられる太陽電池事業は5月、中国太陽電池メーカーのGSソーラーに事業の一部を譲渡した。
さらに、9年で累計2000億円近い営業赤字を計上している医療や放送業界向けの中型液晶事業は、19年度の黒字化が果たせなければ売却することも視野に入れていることが明らかになった。同事業の生産拠点である姫路工場はトヨタ向け角形電池の工場として使われている。
16年からテスラのニューヨ―ク州バッファロー工場で生産している太陽電池も、テスラの方針転換を受け生産が余剰となっているため撤退を検討しているという。
事業リストラに限らず、間接部門を含めた人員削減も断行する。あるパナソニック幹部は「あらゆる手段を使ってこの固定費削減は実現する」と語気を強める。
“自分らしさ”の消失
これらのリストラを経て、パナソニックはどこに向かうのか。
「さまざまな事業を展開していく中で、気づくとパナソニックが何の会社なのかが見えなくなっていた。正直、かなり悩みました」。昨年10月、取引先や各国のメディアなどを招いて、都内で大々的に開かれたパナソニックの100周年記念フォーラム。この場で津賀社長は、パナソニックがアイデンティティーの消失に直面していたことを明かした。
11年度に約7500億円の最終赤字に陥ったパナソニックを、組織再編と成長分野の絞り込みで17年度に約2400億円の過去最高純益に導いた津賀社長だが、特殊要因を除けば、再び利益は下降線をたどっている。意を決し攻めたはずの車載事業はつまずき、成長シナリオは完全に崩れている。
そんな自問自答の末に津賀社長が導き出した新しい経営方針のキーワードが、「くらしアップデート業」。創業者・松下幸之助氏が定め、今でも朝礼などでパナソニック社員が唱和する「綱領」にある「社会生活の改善と向上を図り」というフレーズに由来する、原点回帰の目標だ。
くらしアップデート路線では、空間形成をパッケージで提供する「空間ソリューション」、サプライチェーン(製造、流通、小売り)の業務効率化を支援する「現場プロセス」、電子部品をモジュールで提供する「インダストリアルソリューション」の3領域を基幹事業に位置づけた。これで19年における全社EBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)の7割を稼ぐという計画だ。
“再挑戦”と位置づけられた車載事業も、文字どおり再起を図る。今は材料メーカーからの調達価格を引き下げながら、テスラに黒字化を達成させるため電池の供給価格を下げているが、テスラが黒字化したタイミングで値上げをのんでもらうべく交渉を重ねる。現在1%弱しかない車載事業の営業利益率を21年度に5%へ引き上げる計画だが、これが実現できなかった場合、車載事業とてリストラ対象にならないとは限らない。
投資家が抱く失望
一方で市場の評価は厳しい。毎年、各事業の方向性を市場関係者に示す「IR Day」は、通期決算説明会を行う5月に実施されるのが通例だ。しかし今年は、「大きな人事異動もあり、十分な用意ができなかった」(前出幹部)ため、異例の11月への延期となった。
長年パナソニックを見ているみずほ証券アナリストの中根康夫氏は「18年度に保守的とみていた業績予想が下振れし、新中期戦略に基づく個別の戦略も生煮え。今や純粋な比較はできないが、ゲームや半導体で稼ぐ道筋が明確なソニーとは見劣りをする」と話す。
実際にソニーとは、時価総額で比較して大きく差がついている。パナソニックは幹部の発言や決算説明会資料などで、単品売りではなく継続的な収入を得ることを意味する「リカーリング」という言葉を使う機会が増えた。ソニーがコンテンツ事業などでリカーリングへのシフトに成功したのと同じ姿を、パナソニックが追い求めているようにも見える。
過剰投資に陥っていたプラズマテレビから撤退する決断をした津賀氏が社長に就任して8年目。一度は経営危機を救った津賀社長は昨年10月に「従来の延長線上で経営ができる安定期ならまだしも、この不透明な時期に社長が次々代わるのがよいのかはわからない」と、続投の必要性をにおわせている。だが、非常事態から脱出する道筋をつけたタイミングで社長を退任するのではないかという観測も飛び交う。
新たなビジネスモデルを模索する中、津賀社長は自らの進退を含めた決断を迫られている。
飲食店の人手不足を補い、客単価も上がると言うeメニューを株ビッグバンが開発したと言う。
ここからリンク→セルフオダーシステム←ここまでリンク