米医学誌「ニューイングランド医学ジャーナル」にこのほど発表された調査結果は、アップルウォッチは実際にそうできるという、かなり説得力のある証拠を示すものだった。
心房細動(や心房粗動)は米国でも最もよくみられるタイプの不整脈で、毎年、米国人およそ600万人に起きている。同誌に掲載された論文によれば、一生のうちに心房細動に見舞われる人は3人に1人に上るとも推定される。心房細動はそれ自体は必ずしも問題にならないものの、脳卒中のリスクを大幅に高める恐れがある。たが、心房細動が起きても気づかない人も多いので、簡単な検出方法が実現すれば医療面で非常に役立つものになる。
今回の調査研究は規模がとても大きく、41万9297人の被験者を約4カ月にわたってモニターした。これほど多くの人に調査に参加してもらえるのは、アップルウォッチのような人気製品を持つアップルくらいだろう。やろうとしたことはいたって単純だった。アップルウォッチを利用して、心房細動や心房粗動の兆候の可能性がある脈の乱れを見つけ出す、というものだ。
調査の過程では、被験者の約0.5%に当たる2161人のアップルウォッチから、少なくとも1回の不整脈が報告された。これらの被験者にはパッチ型の心電計を送って数日間つけてもらい、実際に振動細動が起きているかどうかを調べた。その結果、心電計をつけて記録し、必要なアンケートにも回答し、心電計を返却した450人のうち、34%が実際に心房細動を発症していることが確認された。一時的な症状の人もいたが、中にはほぼ継続的な症状の人もいた。
研究では、アップルウォッチの「誤検出率」、つまり、実際には心房細動や心房粗動は起きていないのに不整脈を報告していた比率も割り出そうとした。チームは、心電計をつけた被験者のアップルウォッチから送られてきた報告をすべて評価した。すると、アップルウォッチからの不整脈についての報告の71%は、同時に心電計でも心房細動として記録されていたことが判明した。残りの29%も異常を告げるもので、うち4分の3は「頻繁な心房期外収縮」によるものだったことも分かった。
つまり、全体的に見て、アップルウォッチによる検出は驚くほど正確で、誤った率は感心するほど低かった。
アップルウォッチはどのように心拍の異常を見つけているか。アップルウォッチの背面には、光を検出する複数のセンサー(フォトダイオード)のほか、緑色LEDライトと赤外線LEDが内蔵されている。アップルのウェブサイトではこう説明されている。
「Apple Watchは毎秒数百回LEDライトを点滅させ、心臓が1分間に鼓動を打つ回数、すなわち心拍数を計測します」
これが可能なのは、皮膚がある程度、透けて見えるようになっているからだ。あえて言うまでもないが、皮膚の下に通う血管の一部は目でも見える。アップルウォッチは血流の計測に加えて、背面と、側面の「デジタルクラウン」と呼ぶ小さなダイヤルに内蔵されている電極を用いて、電気信号の測定もできる。再びアップルの説明を参照しよう。
「Digital Crownに指を載せると、心臓から両手を通る回路が閉じ、胸に流れる電子パルスが記録されます」
言い換えると、アップルウォッチは腕時計型の心電図モニターのように機能するということだ。アップルによれば、将来は心臓モニターの役割も果たし、一段の効果が見込まれるという。
もっとも、アップルウォッチが万全かと言うと、そういうわけでもない。一つには、アップルウォッチが心房細動を見落としていた数が不明だという問題がある。今回の調査では、不整脈が報告されたのは被験者全体のわずか0.5%にすぎなかったわけだが、残りの99.5%のうち、実際には不整脈があったのにアップルウォッチが検出しなかった人が何人いたのかは分からない。論文の著者たちも、この点(専門用語では「感度」と呼ぶ)については測ろうとしなかったと断っていて、こう強調している。
「脈の乱れについての通知が(アップルウォッチから)なかったということは、不整脈があった可能性を排除するものではない」
もう一つ留意しておくべき点は、今回の研究はアップルから資金支援を受けて実施されたものだということだ。研究を率いたのはスタンフォード大学のチームで、ほかにも一流の大学や研究機関の研究者が参加している。アップルからの助成については、論文の中で開示されている。
その一方で、アップルウォッチが心拍計として、ほかのどの装置よりもはるかに使いやすいのも事実だろう。不整脈を訴える患者は普通、心拍計を1度につき数日間ないし数週間つける必要がある。その間、体の6カ所に電極をテープで貼りつけ、それらをケーブルで装置(普通は携帯電話)に接続し、そこで記録したデータがモニター会社に送られるようにしなくてはいけない。こうしたモニター方法は費用も高額で、アップルウォッチの価格よりもずっと高い。
こう考えると、まだ不十分な点もあるとはいえ、アップルウォッチは、軽量で、身につけてわずらわしくない健康モニター機器の先駆けと言えるかもしれない。いずれにせよ、その性能はどんどん向上してきている。