ITの世界で、DXなる言葉が飛び交っている。その意味するところは文字通り、デジタルの世界からのトランスフォーメーション(変形、変容、形質転換、変換、変圧、変流)で、経済産業省の呼び掛けによるところが大きい。まずは経済産業省自体の業務改革と言う事でポンチを書いてから、色々な分野で脚光を浴びたように思われる。その経済産業省の資料によると、DigitalTransformationは、2004年に発表されたスウェーデンのウメア大学のストルターマン教授の提唱による。
◎ The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life. (Erik Stolterman Umea University,Sweden)
◎ これを受けて、 企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、 文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォームを利用して、新しい製品やサービス、 新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値 を創出し、競争上の優位性を確立することを目指すとしている。
そしてこれを展開する形で総務省などが教宣資料で示している。以下に示すが、単なるIT 化から個々に行われたIT 化を、サーバー空間内でシームレスにつなげて新たな創造を生み出せる様にしたものがDXだと言うわけ。
急速に進展するDXの状況をIT出版社のインプレス社がそのWEBサイトに展開していたので引用した::::::::::::::::::::::
DXの体現者は米Amazon.com
よく知られている例が、本の販売だ。オンラインによる書籍購入の広がりによって、本のビジネスは大きく変わった。米Amazon.comが始めたビジネスモデルは、インターネット上で本を、早く、簡単に、安く購入できるようにした。当初は、大手書店チェーン同様の品揃えや価格ながら、購入の便利さが差異化要因だった。
それがデジタルソリューションでしか実現できない検索や品揃え、さらには顧客情報や購入履歴を使ったリコメンデーションといった各種サービスへと進化した。本の“販売プロセス”を全く変えてしまったのだ。さらに、コンテンツ(中身)をデジタル化した電子書籍を普及させることによって、紙でできた商品からデジタルコンテンツへと商品自体をも変革してしまった。電子書籍では、本を届けるという配送プロセスを不要にした。
このようなデジタル化による変革は、市場を変えていき、変わらないと信じられていた顧客の興味や顧客との関係も大きく変えていく。一方で既存の手法は急速に陳腐化していく。デジタル化の波によって既存の産業構造が破壊される“デジタルディスラプション(Digital Disruption)が引き起こされたのである。デジタルディスラプションを起こせる企業は少ないが、このような変革に対応できるよう準備することは、すべての企業に必要だ。
顧客との新しい関係の構築に成功すれば、その成功したサービスモデルを他分野に応用し、さらに新しいビジネスへと拡大できる。実際にAmazonは今や、本だけでなく様々な商品を扱うEC(Electric Commerce)や、ビデオ配信などのサービスを展開し成長を続けている。加えて、サービスを基に顧客との関係をさらに強固なものにする会員モデルの構築も可能になる。Amazonの「Amazon Prime」の会員は、年会費3200円(米国では月10.99ドル)で様々なサービスを受けられる。
Amazonの例は、デジタル化によってビジネスを成長させるモデルが実現可能なことを示している。デジタル化で新たな顧客価値を実現し、それをビジネスとして成長させる。次に、そのビジネスをキラーコンテンツ(アプリケーション)に、仕組みを水平展開する。その過程で顧客を囲い込み、会員組織を立ち上げることによって、さらなる顧客との関係を構築するのだ。
そこでは、デジタルテクノロジーによる変革、すなわちDXこそが、デジタル化の世界で競争力を持つためのキーになる。DXができない企業は、デジタルディスラクションによって価値を失い、新興企業や変革に成功した企業との競争に負けていくことになる。そしてDXは、変革への対応のためだけでなく、企業の価値や業績を上げていくためにも必要である。
価値や業績へのデジタル化の影響には“法則”がある
DXの実践例としてIT業界のトップ企業を見てみたい。IT企業は、デジタル社会を牽引するとともに、生き残り向けて自らのデジタル化にも取り組んでいるからだ。Apple、Alphabet(Google)、Microsoftの米IT企業3社は、株価時価総額でも世界のトップレベル(1位はAppleの約63兆円)を誇り、いずれも20~40%の営業利益率を誇る。それに比べて、日本の製造業はトップのトヨタが株価時価総額は約20兆円、営業利益率は約10%である。価値や業績の差にもデジタル化が影響している。
デジタル化が企業の価値や業績に影響を与える原因となる“法則”がいくつかある。
1つは、ブライアン・アーサー教授が提唱した「収益逓増(ていぞう)」と呼ばれる法則だ。生産規模が倍になると生産効率が高まり生産量は倍以上になるとする。従来型のビジネスは、規模の拡大を図ると、部品の調達や、工場の増設、物流の強化、販売チャネルの増強など複雑性が増し「収益逓減(ていげん)」の法則により、投資効率が下がる。
ところが、ソフトウェアやデジタルサービスは、損益分岐点を一度、越えてしまうと後は追加コストがあまり増えないため、利益率は上がる。ユーザーが増えると、保守のための人件費やシステム関連費などが固定費として発生するが、これらはユーザー数に比例して増えるわけではない。サーバー性能の向上やクラウド化など、技術の進展によって同じ処理にかかるシステム費は年々下がっているので、ユーザーが増えるほど、固定費の割合は減り、利益率が押し上げられる。
さらにWebサービスや、Webコンテンツ、モバイルアプリケーションは、材料や仕入れ費用などの変動費がかからない。有料ユーザーが増えれば、そのほとんどが利益になる。会員サービスモデルも同様だ。会費がそのまま商品購買やサービス使用に結びつかないので、利益の源泉となる。Amazonの場合、米国だけで4900万人のAmazon Prime会員がいると言われている。この会費だけでも約65億ドルの収入になる。
2つ目の法則は、コネクティビティやデータの価値に関するものだ。ネットワーク通信において、ボブ・メトカーフ氏が提唱する「メトカーフの法則」が、それだ。「ネットワーク通信の価値は、接続されているシステムのユーザー数の二乗に比例する」というものである。
この法則は、通信やSNSなど会員相互のやり取りを許可している会員モデルにも当てはまる。10人でやり取りする際の組み合わせは10 × (10 – 1)= 90である。これが100人になると、100 × (100 – 1)= 9900と2乗以上になる。やり取りは爆発的に増え、それが価値になる。
ビッグデータ時代にはデータがビジネス価値を生む。ユーザーやつながるものが増え、データが増えれば増えるほど、そのデータによるサービスの価値を増やせる。コネクティビティやデータが増えることで、顧客価値は高まる。だが固定費比率は、それほど上がらず、利益率の向上が図れる。このようなビジネスを実現できれば、企業価値や利益率を高めることにつながっていく。
技術がビジネスに与える影響を分析できる人材が不可欠
では企業は、どのようにDXに取り組めば良いのだろうか。DXを実現するためには、図1に示す準備が必要になる。まず、自社や自社のビジネスにとってDXがどういう意味を持つのかを考えなければならない。デジタル化によるディスラクションや、その影響、DXによって自社の商品やプロセス、顧客との関係をどう変えられるのかを検討する。
当然ながらDXは、テクノロジーをベースとした変革である。影響を検討するためには、テクノロジーの動向と、それら技術の影響を把握し、継続的に動向をフォローする体制が必要になる。現時点の対象は、クラウド、ビッグデータ/アナリティックス、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)、AI(Artificial Intelligence:人工知能)、ロボティックス、AR(Augmented Reality:拡張現実)/VR(Virtual Reality:仮想現実)、3Dプリンティング、ブロックチェーンなどである。
次に、DXプロセスを構築するためには、インターネットやクラウド、スマートフォンなどのデジタルリテラシーと、これらのテクノロジーによって何が変革できるかを理解した人材が必要になる。そうした人材を核に組織や仕組みを作り、ビジネス検討やプロセス検討の際に、デジタル化やテクノロジーの影響を検討できるプロセスを作る必要がある。DXのカルチャー醸成も重要なポイントになる。
ビジネスモデルを迅速に実現し、かつ運用コストを抑えるためには開発・運用プラットフォームの実現が重要になる(図2)。標準化の基に、自ら構築または既存のプラットフォームを活用する。
インターネット時代によく言われた「Fast Eat Slow(早いものが遅いものを飲み込む)」という言葉は、DXの時代にも健在だ。早く顧客価値を提供したものが勝つというパラダイムでは、顧客価値を提供し、そのサービスを広げ、顧客との関係を築くことを迅速に実行することが要求されるだけに、プラットフォームが担う役割は大きい。
これらの準備ができれば、次に行うのは、このデジタル化を実際に適用できるプロジェクトを見つけることである。実際の案件を実行することによって、上記の要件の確認と修正をしていく。
DXを検討することは、これまでに多くの企業の事業を成功させてきたビジネスやビジネスモデルを見直すことでもある。デジタル時代に対応できるDXを実現するためには、既存の企業にとって“強み”だった体制や、プロセス、カルチャーから見直すこと必要がある。DXによって実現する目標は、自社の仕組みを変えていくだけでなく、顧客価値提供へのテクノロジーの活用、テクノロジーをベースにした新しい顧客価値の提供であるからだ。