近距離無線通信による認識ものでも、、NECは最先端を行っている。しかし、今や、NECはPCもマイナー、スマホもマイナー、半導体もマイナー、認識もので、世界に冠たるメーカーとして頑張ってほしいもの。
顔認証を使って本人確認する「顔パス経済圏」が広がっている。小売店舗やATM、空港での出入国管理など、世界の市場規模は5年後に1兆円に倍増するとされる。一方、先進国では監視の道具になるとの懸念も根強い。NECと情報通信研究機構は量子暗号技術を使い安全性を高めるなど、不安を払拭しながら用途を広げる。急伸する中国企業が米中ハイテク摩擦で足踏みするなか、日本勢が巻き返しの好機とみて攻勢をかける。
11月中旬、パンダで有名なアドベンチャーワールド(和歌山県白浜町)。来場者がタブレット端末に顔を寄せると本人確認と支払いが済みスムーズに入場していた。NECが白浜町で展開する実証実験の風景だ。
利用者は事前に顔写真やクレジットカードを登録する。テーマパークへの入場だけでなく、お土産の購入やホテルの部屋の解錠、レストランの決済など町全体に顔パスが広がる。利用者からは「ビーチや温泉を手ぶらで楽しめる」と好評だ。
NECは50年以上前に開発した文字を認識する技術をベースに、1989年に顔認証技術の研究に着手した。
目や鼻などの特徴を分析する顔認証はかつて誤認率が3割ほどあったが、人工知能(AI)の活用や独自のアルゴリズムの開発で精度とスピードを改善。米国標準技術研究所(NIST)の審査では認証エラー率0.5%、速度も毎秒2億3000万件と、2位以下を大きく引き離し首位に立つ。老いによる顔の変化やマスク姿にも対応する技術を開発するなど、世界をリードする存在だ。
それでもNEC関係者の表情はさえない。顔認証で世界を席巻しつつあるのは「世界一」の技術を持つNECではなく、中国企業だからだ。
中国では国民一人ひとりの学歴や職歴、懲罰などを「档案(ダンアン)」と呼ぶ書類にまとめ共産党が管理してきた。個人情報を国が握ることにあらがいようがないほか、2億個ともされる監視カメラの配備で犯罪が抑制され安全になった側面もある。市民の顔認証への抵抗感は小さい。
その巨大な市場で新興企業が急成長。監視カメラの杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)は先進国企業の半分以下とされる価格で世界展開し、シェア首位に躍り出た。顔認証でもNISTの審査で商湯科技(センスタイム)など中国系が上位5社のうち3社を占める。政府の産業補助など国家資本主義のもと中国企業が市場を席巻する構図は、液晶パネルや太陽光パネルと同じだ。
ただ、ここに来て風向きは変わりつつある。トランプ米政権は10月、ハイクビジョンやセンスタイムなど28団体・企業に輸出禁止措置を科すと発表。米企業との取引が原則禁じられ、米国由来のソフトウエアや半導体などの調達が制限される。
日本企業は巻き返すチャンスと攻勢に出る。
NECは情報通信研究機構と、原理的に解読困難な「量子暗号」の技術を使い顔認証の安全性を高めるシステムを共同開発した。データをサーバーに送る通信に量子暗号を利用。サーバー側に置く認証用データは「秘密分散」という手法で分散保管する。データの漏洩や盗聴リスクを低減。「安全性」を中国企業に対抗する武器に加える。
ハイクビジョンの海外売上高は19年1~6月に前年同期比10%増と、伸び率は17年通年の3分の1に減速した。だが「敵失」だけで巻き返せるほど世界競争は甘くない。問われるのは価格も含めた市場開拓力だ。
パナソニックは11月、顔認証技術をクラウド経由で安価に提供するサービスを始めた。従来は個別の企業に合わせてシステムをつくる利幅の大きい事業が中心だったが、利用拡大を優先するため「黒子」の役割も担う方針だ。
第1弾としてサイバーエージェント系のマッチングサービス「タップル誕生」にサービスを提供する。登録した個人の身分証明書が本人かどうかを確認するもので、パナソニックは1回の認証で1円を徴収するなど従量課金制を採用した。
顔認証は自動運転や金融、医療など幅広い分野への応用が見込まれる。日本勢が技術で先行した初期の競争環境は、中国勢が市場開拓で幅をきかせる形で第2コーナーを回った。次世代技術への応用という第3段階で抜き出ようと、企業の競争が過熱する。
■個人情報保護に規制議論
インドの調査会社モルドール・インテリジェンスによると、顔認証の世界市場は2024年に約91億ドル(約1兆円)と18年から倍増する見通しだ。用途が広がる一方、プライバシー保護などの観点から利用に制限をかける動きも出ている。
「まさに、つぼの中から顔認証の魔神が出現しようとしている」。米マイクロソフト(MS)のブラッド・スミス社長は18年、顔認証の規制を訴えた。差別の助長やプライバシーの侵害、政府による監視のリスクを指摘し「規制するための法律が重要」とした。
実際にサンフランシスコ市では19年、行政機関による顔認証技術の利用を禁じる条例案が可決されたほか、欧州連合(EU)でも利用を制限する議論が進む。日本ではNECの新野隆社長がMSの提言などを踏まえ「議論を歓迎する」との声明を発表。19年4月には、顔認証を含めAI活用を人権やプライバシーに配慮しながら進める指針を示した。
顔認証はデジタル時代の利器として人々の生活を便利にする一方、使い方によってはプライバシーの侵害や国民監視の道具となり得る。最新テクノロジーをどう安全に社会に役立てるか、丁寧な議論が欠かせない。