多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

30両以上の車両が並ぶ鉄道博物館

2008年07月25日 | 博物館など
鉄道博物館はJR東日本の創立20周年記念事業で2007年10月14日の鉄道の日に開館した。オープン直後は連日満員だったそうだが、波はすでに引いたようでわたくしが訪れた日はそれほどではなかった。5歳以下の子ども連れのファミリー客が多かった。
大宮駅から1.5キロくらい北にあるが、その間はJR東日本の巨大な工場(大宮総合車両センター)が続いている。
3階建て建物の1階には30両近い蒸気機関車や客車の実物が展示してあり壮観である。全体に薄暗く、博物館というより機関車工場のような雰囲気だった。中央には貴婦人と呼ばれたC57がターンテーブルの上で回転し、警笛まで響かせてくれる。

日本の鉄道の始まりは1872年の新橋駅~横浜駅間正式開業だった。このとき走った1号機関車も展示されていた。
その後、官営のみならず釧路鉄道(1887年)、伊予鉄道(1888年)など全国各地で鉄道が敷設された。そして1892年の鉄道敷設法公布、1906年の鉄道国有法公布、1920年の鉄道省設置を経て戦前の鉄道黄金時代を迎えた。
昭和戦前期の車両として1936年製のクモハ40形が展示されていた。中央線で通勤用に使われた列車だ。お茶ノ水駅に立川行きの列車が停車しているという設定になっていた。木製の床、柱、太いたこ糸のような繊維で編んだ網棚を見ていると、機械油の匂いが漂ってくるような気がした。中央線なので、きっと村山知義も乗ったはずだ。
戦後の1949年、省営鉄道は国の手を離れ公共企業体・国鉄が事業を継承した。昭和30年代には交流電化の進展で全国に特急網が広がり「こだま型」の485系の列車が走った。  
一番西側には、1886年(明治9年)の1号から1924年の12号まで、6代の御料車が一列に並べて展示されていた。熊本での陸軍大演習のお召列車、1922年のイギリス皇太子来日用などに製造されたとあった。御座所、女官室、御剣璽奉安室など特殊な車両もあった。三種の神器を積載したのだろうか。いまも原宿駅の代々木寄りに特別プラットフォームが存在する。大日本帝国時代の皇室の特別扱いを目でみることができる。
行幸の警備は極度の緊張を強いられた。鉄道でなく車の例だが、1934年11月群馬県桐生で先駆車の運転手が行程を間違えた。運転手は精神錯乱になり、群馬県警部2人が自宅謹慎、うち1人は自殺をはかった。全市民がお詫びの黙とうを捧げ、知事以下関係者は懲戒処分になった(「天皇・天皇制をよむ」東大出版会 2008.5)。
2階で企画展『ポスターにみる鉄道のあゆみ』を開催していた。1921年の「国有鉄道貨物運賃」、1935年の「朝鮮から満州へ」という遣唐使船のような船のデザイン、1936年の「阪神間27分、京阪間36分、快速無比の超特急」というポスターなど、戦前のポスターはデザインの質が高かった。それが敗戦後、急に旧態然としたものになり、1970年の「ディスカバー・ジャパン」、78年の「いい日旅立ち」でふたたびデザインのレベルが高くなる。あのころはまだ国鉄だったのだ。
この博物館は、車両の展示や動力のメカの解説はある。しかしそれを動かした鉄道マンの影は希薄である。国鉄は最盛期には営業距離21000キロ、職員数40万人を誇り、鉄道病院、鉄道学園、プロ野球球団まで有していた。ちょうど平岩弓枝が「私の履歴書」(22回 7月23日)で、1967年放映のNHK連続テレビ小説「旅路」のシナリオ執筆の思い出を書いていた。北海道取材で保線のOBの方が「最終列車が通過した後、黙々とカンテラを提げて骨まで凍ってくるような線路の上をひたすら異常はないかと目をこらして歩いた」「非番の日、夜明け近くどうも気温がゆるんで来ているのに気がついた。(略)どうにも不安で、いつも雪崩事故の危険がある所へでかけていくと果たして線路は雪に埋もれ、(略)暗闇の中、頼みのカンテラをふり廻し、なんとか列車を止めた」ことを淡々と語ったとある。
分割民営化から早くも21年が過ぎた。しかし2005年に地裁で一部勝訴した鉄建公団訴訟をはじめ裁判闘争はいまも続いている。

会場近くの屋外に展示されていた蒸気機関車D51

住所:埼玉県さいたま市大宮区大成町3丁目47番
電話:048-651-0088
開館日:水曜日~月曜日(年末年始除く)
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
入館料:大人1000円、小中高校生500円、幼児200円
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