まだ梅雨が明けないのが信じられないような猛暑のなか、今年もブックフェアを見に東京ビッグサイトに行った。会場は人があふれ、ごった返していた。
今年は目玉というほどのものはなかったが、しいてあげれば昨年の延長で電子書籍だろう。昨年はシャープ、ソニー、富士通など国内メーカー各社の端末が参考出品として展示され、そのコーナーに人が群がっていた。今年は、凸版印刷と大日本印刷のブースが、セミナーを開催したせいもあり盛況だった。凸版はブックライブ、大日本はhonto(ホント)という電子書籍販売のキャンペーンをしていた。奇しくも立ち上げた時期は両社とも今年1月、似たようなシステムに見えたので、相手よりすぐれている点を両社に聞いてみた。凸版は「大日本はあまりにもNTTドコモに特化している。それに比べ凸版はソフトバンクやKDDIのスマートフォンとも親和性がある。また一度購入した作品を最大3台の端末で読むことができる」、一方、大日本は「bk1と提携しているので、サイトのリンクで紙の本を購入することも可能」とのことだった。いま半年たったところだが、震災の影響もあるのだろうが、それほど売れているようにはみえなかった。
凸版のブースで「次世代雑誌」をみた。いったい何かと思ったら、雑誌を記事ごとに購入することができるシステムのことだそうだ。
隣のボイジャーのブースで「デジタルで加速する中国巨大マーケット」というセミナーを開催していた。講師は中国移動携帯閲読基地の女性だった。中国では2010年1月に電子ブックがスタートしたが1年半で読者が1000万人、売上が15億円に伸びたそうだ。たしかに人口の多い中国はいろんな可能性がありそうだ。
教育関係は別のフロアに移ったとはいえ、いまやブックフェアの会場の1/2が国際電子出版EXPOに当てられていた。
立ち見客も多かった凸版印刷の会場内セミナー
さて、リアル本の純粋「ブックフェア」のほうだが、きわだって元気のよい出版社は、今年はみつけられなかった。ただ京都のミネルヴァ書房は昨年同様勢いがあった。河出書房新社は天井まで届くような高い書棚に宮本常一「日本の民俗」、神西清訳「ヴァーニャ伯父さん」など代表的な過去の商品を展示していた。1965年の高橋和巳、71年の古井由吉、80年の田中康夫など、なつかしい表紙の「文藝」が並んでいた。
会場を歩いていてデザイン雑貨と本の相性がよいことを改めて発見した。昔から丸善をはじめ文具と書籍を同じ店舗内で売っている店は多かったが、雑貨は書店の個性や雰囲気づくりをする点で、ディスプレイ以上の効果があると思った。雑貨のマークスの向かって右隣は「すし」「カレー」「そば」の店舗ムックなどを出版する京阪神エルマガジン、左隣は自転車、日本酒、ホルモンなどの雑誌を発行する薯T(えい)出版社、左斜め前が雑貨のPlasticArtsだったが、ブックフェアの会場内で違和感をまったく感じさせなかった。
雑貨のマークス
ここ2-3年大学出版部の数がずいぶん増え、内容も充実してきたように感じていた。しかしブースを見る限り32社に数が増えたのは一目でわかるが、質はともなっていないように感じた。そのなかで「ジョン・ケージ」(白石美雪)、「石本泰博」(森山明子)を出版した武蔵野美術大学出版局が気を吐いていた。
筑摩書房や作品社など出版梓会の会員有志10社が「生きる力、本の力」というキャッチを掲げ、はじめて共同出展していた。いままでも書物復権8社の会や版元ドットコムの出展はあった。また自然科学書協会や歴史書懇話会、大学出版部協会は古くから共同出展していた。いままでも筑摩や作品者は個別に出展していたが、読者にとっては大きいシナジー効果を感じられるのでありがたい。
装幀コンクール
今年は、黒1色とか白1色のシンプルな本が目立った。黒1色の「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」(阪急コミュニケーションズ)、白1色の「正義論 改訂版」(紀伊国屋書店))、銀1色の「マラルメ全集」筑摩書房)、黒1色の「超訳 ニーチェの言葉」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などのことである。
逆にいうと、装幀コンクールのひとつの特色ともいえる「鬼面人を驚かせる本」は少なかった。しいてあげれば「テニスの王子様 完全版」(集英社)がそれで、カバーに丸い穴が開いていて黄色い球が見え、12巻セットにして小口側を並べてみると1枚の絵が浮かび上がるというものだった。
わたくしは見逃したが、カタログで「一九堂100周年社史」という本を知った。ポップアップ絵本の社史だそうで、どこかの図書館ででも見てみたいものだと思った。
昨年までずっと無料だったコンクールのカタログが、今年は500円で販売されていた。販売していた女性は「いままでと全然違います」と言っていた。たしかに28p分カラーになり「装幀」を目でみられるようになり、書誌データが横組みになり一目で把握しやすくなったということはいえる。
国書刊行会の美術書の棚
さて、セリーヌやボルヘスなど翻訳文学で有名な国書刊行会のブースで面白そうな本をみつけた。河出書房新社のような「日本ホーロー看板広告大図鑑」「明治・大正・昭和 お酒の広告グラフィティ」「竹久夢二「セノオ楽譜」表紙画大全集」である。ホーロー看板そのものはいろんな本に出ているが、味の素のお椀のマークだけで6種、全部で10種も掲載されており比較する楽しみもある。そのうち図書館で借り出そう。また美術書も充実していた。「戦争と美術」は読んだが、「『帝国』と美術――一九三〇年代日本の対外美術戦略」「冒険王・横尾忠則」「横尾忠則全ポスター」「モホイ=ナジ 視覚の実験室」も刊行している。ナジについてほとんど知らないので、ぜひ読みたい。
ちょっと興奮する棚だった。わたくしにとっては国書刊行会の文学以外の棚を知ったことが今年のブックフェアで最大の収穫だったかもしれない。
今年は目玉というほどのものはなかったが、しいてあげれば昨年の延長で電子書籍だろう。昨年はシャープ、ソニー、富士通など国内メーカー各社の端末が参考出品として展示され、そのコーナーに人が群がっていた。今年は、凸版印刷と大日本印刷のブースが、セミナーを開催したせいもあり盛況だった。凸版はブックライブ、大日本はhonto(ホント)という電子書籍販売のキャンペーンをしていた。奇しくも立ち上げた時期は両社とも今年1月、似たようなシステムに見えたので、相手よりすぐれている点を両社に聞いてみた。凸版は「大日本はあまりにもNTTドコモに特化している。それに比べ凸版はソフトバンクやKDDIのスマートフォンとも親和性がある。また一度購入した作品を最大3台の端末で読むことができる」、一方、大日本は「bk1と提携しているので、サイトのリンクで紙の本を購入することも可能」とのことだった。いま半年たったところだが、震災の影響もあるのだろうが、それほど売れているようにはみえなかった。
凸版のブースで「次世代雑誌」をみた。いったい何かと思ったら、雑誌を記事ごとに購入することができるシステムのことだそうだ。
隣のボイジャーのブースで「デジタルで加速する中国巨大マーケット」というセミナーを開催していた。講師は中国移動携帯閲読基地の女性だった。中国では2010年1月に電子ブックがスタートしたが1年半で読者が1000万人、売上が15億円に伸びたそうだ。たしかに人口の多い中国はいろんな可能性がありそうだ。
教育関係は別のフロアに移ったとはいえ、いまやブックフェアの会場の1/2が国際電子出版EXPOに当てられていた。
立ち見客も多かった凸版印刷の会場内セミナー
さて、リアル本の純粋「ブックフェア」のほうだが、きわだって元気のよい出版社は、今年はみつけられなかった。ただ京都のミネルヴァ書房は昨年同様勢いがあった。河出書房新社は天井まで届くような高い書棚に宮本常一「日本の民俗」、神西清訳「ヴァーニャ伯父さん」など代表的な過去の商品を展示していた。1965年の高橋和巳、71年の古井由吉、80年の田中康夫など、なつかしい表紙の「文藝」が並んでいた。
会場を歩いていてデザイン雑貨と本の相性がよいことを改めて発見した。昔から丸善をはじめ文具と書籍を同じ店舗内で売っている店は多かったが、雑貨は書店の個性や雰囲気づくりをする点で、ディスプレイ以上の効果があると思った。雑貨のマークスの向かって右隣は「すし」「カレー」「そば」の店舗ムックなどを出版する京阪神エルマガジン、左隣は自転車、日本酒、ホルモンなどの雑誌を発行する薯T(えい)出版社、左斜め前が雑貨のPlasticArtsだったが、ブックフェアの会場内で違和感をまったく感じさせなかった。
雑貨のマークス
ここ2-3年大学出版部の数がずいぶん増え、内容も充実してきたように感じていた。しかしブースを見る限り32社に数が増えたのは一目でわかるが、質はともなっていないように感じた。そのなかで「ジョン・ケージ」(白石美雪)、「石本泰博」(森山明子)を出版した武蔵野美術大学出版局が気を吐いていた。
筑摩書房や作品社など出版梓会の会員有志10社が「生きる力、本の力」というキャッチを掲げ、はじめて共同出展していた。いままでも書物復権8社の会や版元ドットコムの出展はあった。また自然科学書協会や歴史書懇話会、大学出版部協会は古くから共同出展していた。いままでも筑摩や作品者は個別に出展していたが、読者にとっては大きいシナジー効果を感じられるのでありがたい。
装幀コンクール
今年は、黒1色とか白1色のシンプルな本が目立った。黒1色の「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」(阪急コミュニケーションズ)、白1色の「正義論 改訂版」(紀伊国屋書店))、銀1色の「マラルメ全集」筑摩書房)、黒1色の「超訳 ニーチェの言葉」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などのことである。
逆にいうと、装幀コンクールのひとつの特色ともいえる「鬼面人を驚かせる本」は少なかった。しいてあげれば「テニスの王子様 完全版」(集英社)がそれで、カバーに丸い穴が開いていて黄色い球が見え、12巻セットにして小口側を並べてみると1枚の絵が浮かび上がるというものだった。
わたくしは見逃したが、カタログで「一九堂100周年社史」という本を知った。ポップアップ絵本の社史だそうで、どこかの図書館ででも見てみたいものだと思った。
昨年までずっと無料だったコンクールのカタログが、今年は500円で販売されていた。販売していた女性は「いままでと全然違います」と言っていた。たしかに28p分カラーになり「装幀」を目でみられるようになり、書誌データが横組みになり一目で把握しやすくなったということはいえる。
国書刊行会の美術書の棚
さて、セリーヌやボルヘスなど翻訳文学で有名な国書刊行会のブースで面白そうな本をみつけた。河出書房新社のような「日本ホーロー看板広告大図鑑」「明治・大正・昭和 お酒の広告グラフィティ」「竹久夢二「セノオ楽譜」表紙画大全集」である。ホーロー看板そのものはいろんな本に出ているが、味の素のお椀のマークだけで6種、全部で10種も掲載されており比較する楽しみもある。そのうち図書館で借り出そう。また美術書も充実していた。「戦争と美術」は読んだが、「『帝国』と美術――一九三〇年代日本の対外美術戦略」「冒険王・横尾忠則」「横尾忠則全ポスター」「モホイ=ナジ 視覚の実験室」も刊行している。ナジについてほとんど知らないので、ぜひ読みたい。
ちょっと興奮する棚だった。わたくしにとっては国書刊行会の文学以外の棚を知ったことが今年のブックフェアで最大の収穫だったかもしれない。