前日よりは低いといえ気温35度の7月18日(海の日)午後、石神井公園の男女共同参画センター「えーる」で「原発問題と私たちのくらし」という学習会が開催された(主催 新日本婦人の会練馬支部)。講師は科学ジャーナリストの前田利夫さん、わかりやすい話し方で、プロジェクターを駆使し地震確率分布図、ドイツの自然エネルギーの推移グラフなど、図、グラフ、写真がたくさん出てくる説得力のある講演だった。
1 原子力発電は未完成の技術
原子力発電は、ウラン235に中性子をぶつけ核分裂したときに発生するエネルギーを蒸気にしてタービンを回す発電方法である。石炭や石油に比べわずかな燃料で膨大なエネルギーを出力できるので効率がよい。しかし核分裂したときには必ず核分裂生成物が大量につくられる。これは人体に「毒」の放射性物質で、いわゆる「死の灰」である。
原発と原爆の違いは、核分裂を制御棒を使って緩やかに起こすか、原発では3-5%しか混ぜていないウラン235をほぼ100%にして効率よく核分裂を起こすかということで、本質は同じである。
放射性物質はDNAを傷つける。DNAは傷ついても修復機能を備えているが、どんどん傷つけば修復できなくなる。子どもは大人より細胞分裂を活発に行っているので、ダメージはより大きい。「毒」を消す技術を人類はまだ持っていない。放射能(放射線を出す能力)が自然に消えるのを待つしかない。しかし放射能の半減期は、ヨウ素131は8日だが、いま話題の牛の飼料の稲わらのセシウム137は30年、ストロンチウム90は28.8年、プルサーマルに使用するプルトニウム239は24000年、ウラン235そのものはなんと7億380万年である。
核廃棄物の処理方法がないまま動かしてきたのが原発の実態なのである。外に漏れなければ問題ない、「安全」だということだった。
ところが1986年にチェノブイリでは核分裂が暴走し核燃料自体が爆発し、1979年アメリカのスリーマイル島では福島と同じく冷却水がなくなり事故を起こした。
核燃料サイクルという考えがあった。原発の使用済み核燃料を再処理し、生成したプルトニウムを抽出してもう一度燃料として使うという考えで、福井県の高速増殖炉「もんじゅ」の燃料に使う予定だった。しかし故障続きで、次にウランにプルトニウムを混ぜて燃料にするプルサーマルという方法を考えた。燃料を再使用すれば「節約」になるかもしれないが、加工費はかかるし廃棄物の「危険」は格段に増す。青森県で建設中の再処理工場は、当初見積もり7600億円だったのが現在2兆2000億に膨れ上がった。それでもまだ完成のメドは立っていない。ムダであるだけでなく危険だ。脱原発を目指すなら、再処理工場、高速増殖炉、プルサーマルをまずやめるべきだ。
2 福島第一原発の事故
福島第一原発は四重に守られているので安全だと説明されていた。3月11日に大震災がおきたとき、たしかに運転は自動停止した。そして外部電力が途絶えたあと、計算どおり自家発電ディーゼルが稼働し冷却水のポンプを回した。ところが津波が襲い、自家発電ディーゼルが停止し冷却水は回らなくなった。使用済み核燃料は核分裂反応は止まっていても熱と放射線を出し続けている。高温の燃料棒はメルトダウンし圧力容器も格納容器も破損し、水素爆発で厚さ1-2mもあるコンクリートの建屋が吹っ飛んだ。こうして、放射性物質が大気中に大量に放出された。
チェルノブイリのときもそうだったが、大気中の放射性物質は原発から同心円状に拡散するわけではない。雨や風向きで流れは変わる。たとえば千葉県の柏や松戸が福島県のいわきと同じレベルの高い放射線濃度だった。放射線量の推移をみるとまず2号機の水素爆発直後の3月15日に高くなり、次のピークは3月21日の雨の日だった。これは空中に浮遊していた放射性物質が雨で地上へ降りそそいだと考えられる。
3 原発多発地帯での原発の危険性
原発そのものが危険なのに、日本のような地震多発国にあることが危険を増幅している。世界の地震の1割は日本で起きている。そういうところには原発を作らないのが常識だ。しかし日本は違う。
「震度6以上の地震確率分布図」をみると浜岡が最も危険度が高い。逆に一番低いグループに福島は含まれていた。そんなところでもあれほど大きな地震が起こった。また活断層の分布図をみると、日本に安全なところなどない。
そういうなかで原発がつくられてきたのが日本の現実だ。
4 自然エネルギーの可能性とコストの問題
脱原発を閣議決定したドイツではいま自然エネルギーの比率が16%に及ぶ。日本は09年でわずか1%である。ドイツではこの15年で、自然エネルギーのうち風力発電が最も増え、次に木材のチップや植物由来の油を使うバイオマス・エネルギーが増えた。
日本のエネルギー自給率はわずか4%でたしかに低い。しかし自然エネルギーの資源は豊富にある。太陽光、山間部の急流を利用する水車などの中小水力、風力、地熱発電などで、現在の総発電電力量の10倍の電力を調達できるといわれる。また今年4月環境省は風力発電だけで東京電力管内の需要の64%を調達でき、東北電力管内の需要の8倍を賄えると発表した。さらに太陽光発電について新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2030年までに住宅用の累積可能導入量が4530万から7520万キロワット、200万キロワット級の原発45機から75機分の電力を賄えると予測する。自然エネルギーの可能性は高い。
一方、自然エネルギーはkWh当たりの発電コストが高いといわれる。原子力の5.3円と比較して、風力は24円、太陽光は49円(石炭は5.7円、石油は10.7円)とされる。しかし原子力の5.3円は使用済み核燃料の処理費用を含まず、稼働率80%で計算するなど実態に合わない。一方太陽光の49円は10年前の価格で、いまは30円程度、今後普及すればもっと下がるといわれる。
原発をやめると家計が150円から200円/月程度上がると、6月22日の朝日新聞で報じられた。しかし現在電源促進のため国が拠出している補助金を電力料金に回せば料金引き上げをしなくてすむともいわれる。
だいたいいったん事故が起こると、価格が安いということは問題にならなくなる。
5 放射線の健康への影響とさまざまな基準
放射線は浴びないほうがよい。まずこれが大前提である。年間1ミリシーベルトという基準がある。これは原発を運転すると放射線が出るので、敷地周辺の住民のためにつくった基準で、もともとそういう便宜的な基準なのである。避難の目安は年間20ミリシーベルトとしている。
作業員の基準もある。もとは普通のときは50ミリシーベルト、事故のときは100ミリシーベルトだった。それを今回の事故が起こり250ミリシーベルトに引き上げた。しかしその基準すらオーバーした作業員が9人も出た。
川口市は独自の基準をつくった。自然界の放射線は年間0.64ミリシーベルトで、原発の基準が年間1ミリシーベルトとすると、合計した年間1.64ミリシーベルトが限度基準となる。ここから1時間当たり0.31マイクロシーベルトという数字を出し、この値を超えると屋外保育や屋外授業は3時間以内とし、0.38マイクロシーベルトを超えると2時間以内という基準だ。なおこれは外部被ばくであり、このほかに食べ物などから体に入る内部被ばくがある。
繰り返しになるが、放射能はどこへ持っていってもなくならない。付いて回る。高レベル放射性廃棄物をどう処分するのか。ロケットで宇宙空間へ飛ばすというのか。事故が起こらないならこれがベストだが、万一事故が起これば大気中に放射線がばらまかれる。地下深く埋める方法があるが、地震国日本では難しい。使用済み核燃料をモンゴルに引き取ってもらうことを日米モンゴル政府が協議したという報道もあった。
しかしなんとかしないといけない。
きちんとした方策が決まるまでプールに入れて管理するしかない。そして当面これ以上使用済み核廃棄物を増やすのをやめるしかない。
☆質疑応答が1時間近くあった。呼吸や食物による、内部被ばくの健康への影響は本当のところ現在はわからないそうだ。今回、福島県民の内部被ばく調査が行われているがこれが世界初のデータになるとのことだった。
1週間前に志葉玲さんの講演を聞いた。そのなかで因果関係はわからないが、イラクのファルージャでは04年に劣化ウラン弾で放射線を浴びて、5-6年たってからいろんな症状がでてきたという話を聞いた。白血病やガンの患者が20倍に増え出生異常の子どもが増えた。ファルージャの汚染は広島型原発の40倍だが、福島の事故は50倍に達するそうだ。無脳症や単眼症の乳児の写真は衝撃的だった。5年たったとき日本でそんな光景を目にしなくてすめばよいのだが。
☆練馬区報に区内放射線などの測定結果が掲載され、会場でこの数字の報告があった。6月20・21日に12か所で計測したものだ。毎日発表されている東京(新宿)の計測値より高く、とりわけ泉新小(三原台)、仲町小(氷川台)、石神井小(石神井台)の値が高い。お母さんたちにとって心配ごとがまた増えたのではないだろうか。
●7月28日1か所修正
1 原子力発電は未完成の技術
原子力発電は、ウラン235に中性子をぶつけ核分裂したときに発生するエネルギーを蒸気にしてタービンを回す発電方法である。石炭や石油に比べわずかな燃料で膨大なエネルギーを出力できるので効率がよい。しかし核分裂したときには必ず核分裂生成物が大量につくられる。これは人体に「毒」の放射性物質で、いわゆる「死の灰」である。
原発と原爆の違いは、核分裂を制御棒を使って緩やかに起こすか、原発では3-5%しか混ぜていないウラン235をほぼ100%にして効率よく核分裂を起こすかということで、本質は同じである。
放射性物質はDNAを傷つける。DNAは傷ついても修復機能を備えているが、どんどん傷つけば修復できなくなる。子どもは大人より細胞分裂を活発に行っているので、ダメージはより大きい。「毒」を消す技術を人類はまだ持っていない。放射能(放射線を出す能力)が自然に消えるのを待つしかない。しかし放射能の半減期は、ヨウ素131は8日だが、いま話題の牛の飼料の稲わらのセシウム137は30年、ストロンチウム90は28.8年、プルサーマルに使用するプルトニウム239は24000年、ウラン235そのものはなんと7億380万年である。
核廃棄物の処理方法がないまま動かしてきたのが原発の実態なのである。外に漏れなければ問題ない、「安全」だということだった。
ところが1986年にチェノブイリでは核分裂が暴走し核燃料自体が爆発し、1979年アメリカのスリーマイル島では福島と同じく冷却水がなくなり事故を起こした。
核燃料サイクルという考えがあった。原発の使用済み核燃料を再処理し、生成したプルトニウムを抽出してもう一度燃料として使うという考えで、福井県の高速増殖炉「もんじゅ」の燃料に使う予定だった。しかし故障続きで、次にウランにプルトニウムを混ぜて燃料にするプルサーマルという方法を考えた。燃料を再使用すれば「節約」になるかもしれないが、加工費はかかるし廃棄物の「危険」は格段に増す。青森県で建設中の再処理工場は、当初見積もり7600億円だったのが現在2兆2000億に膨れ上がった。それでもまだ完成のメドは立っていない。ムダであるだけでなく危険だ。脱原発を目指すなら、再処理工場、高速増殖炉、プルサーマルをまずやめるべきだ。
2 福島第一原発の事故
福島第一原発は四重に守られているので安全だと説明されていた。3月11日に大震災がおきたとき、たしかに運転は自動停止した。そして外部電力が途絶えたあと、計算どおり自家発電ディーゼルが稼働し冷却水のポンプを回した。ところが津波が襲い、自家発電ディーゼルが停止し冷却水は回らなくなった。使用済み核燃料は核分裂反応は止まっていても熱と放射線を出し続けている。高温の燃料棒はメルトダウンし圧力容器も格納容器も破損し、水素爆発で厚さ1-2mもあるコンクリートの建屋が吹っ飛んだ。こうして、放射性物質が大気中に大量に放出された。
チェルノブイリのときもそうだったが、大気中の放射性物質は原発から同心円状に拡散するわけではない。雨や風向きで流れは変わる。たとえば千葉県の柏や松戸が福島県のいわきと同じレベルの高い放射線濃度だった。放射線量の推移をみるとまず2号機の水素爆発直後の3月15日に高くなり、次のピークは3月21日の雨の日だった。これは空中に浮遊していた放射性物質が雨で地上へ降りそそいだと考えられる。
3 原発多発地帯での原発の危険性
原発そのものが危険なのに、日本のような地震多発国にあることが危険を増幅している。世界の地震の1割は日本で起きている。そういうところには原発を作らないのが常識だ。しかし日本は違う。
「震度6以上の地震確率分布図」をみると浜岡が最も危険度が高い。逆に一番低いグループに福島は含まれていた。そんなところでもあれほど大きな地震が起こった。また活断層の分布図をみると、日本に安全なところなどない。
そういうなかで原発がつくられてきたのが日本の現実だ。
4 自然エネルギーの可能性とコストの問題
脱原発を閣議決定したドイツではいま自然エネルギーの比率が16%に及ぶ。日本は09年でわずか1%である。ドイツではこの15年で、自然エネルギーのうち風力発電が最も増え、次に木材のチップや植物由来の油を使うバイオマス・エネルギーが増えた。
日本のエネルギー自給率はわずか4%でたしかに低い。しかし自然エネルギーの資源は豊富にある。太陽光、山間部の急流を利用する水車などの中小水力、風力、地熱発電などで、現在の総発電電力量の10倍の電力を調達できるといわれる。また今年4月環境省は風力発電だけで東京電力管内の需要の64%を調達でき、東北電力管内の需要の8倍を賄えると発表した。さらに太陽光発電について新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2030年までに住宅用の累積可能導入量が4530万から7520万キロワット、200万キロワット級の原発45機から75機分の電力を賄えると予測する。自然エネルギーの可能性は高い。
一方、自然エネルギーはkWh当たりの発電コストが高いといわれる。原子力の5.3円と比較して、風力は24円、太陽光は49円(石炭は5.7円、石油は10.7円)とされる。しかし原子力の5.3円は使用済み核燃料の処理費用を含まず、稼働率80%で計算するなど実態に合わない。一方太陽光の49円は10年前の価格で、いまは30円程度、今後普及すればもっと下がるといわれる。
原発をやめると家計が150円から200円/月程度上がると、6月22日の朝日新聞で報じられた。しかし現在電源促進のため国が拠出している補助金を電力料金に回せば料金引き上げをしなくてすむともいわれる。
だいたいいったん事故が起こると、価格が安いということは問題にならなくなる。
5 放射線の健康への影響とさまざまな基準
放射線は浴びないほうがよい。まずこれが大前提である。年間1ミリシーベルトという基準がある。これは原発を運転すると放射線が出るので、敷地周辺の住民のためにつくった基準で、もともとそういう便宜的な基準なのである。避難の目安は年間20ミリシーベルトとしている。
作業員の基準もある。もとは普通のときは50ミリシーベルト、事故のときは100ミリシーベルトだった。それを今回の事故が起こり250ミリシーベルトに引き上げた。しかしその基準すらオーバーした作業員が9人も出た。
川口市は独自の基準をつくった。自然界の放射線は年間0.64ミリシーベルトで、原発の基準が年間1ミリシーベルトとすると、合計した年間1.64ミリシーベルトが限度基準となる。ここから1時間当たり0.31マイクロシーベルトという数字を出し、この値を超えると屋外保育や屋外授業は3時間以内とし、0.38マイクロシーベルトを超えると2時間以内という基準だ。なおこれは外部被ばくであり、このほかに食べ物などから体に入る内部被ばくがある。
繰り返しになるが、放射能はどこへ持っていってもなくならない。付いて回る。高レベル放射性廃棄物をどう処分するのか。ロケットで宇宙空間へ飛ばすというのか。事故が起こらないならこれがベストだが、万一事故が起これば大気中に放射線がばらまかれる。地下深く埋める方法があるが、地震国日本では難しい。使用済み核燃料をモンゴルに引き取ってもらうことを日米モンゴル政府が協議したという報道もあった。
しかしなんとかしないといけない。
きちんとした方策が決まるまでプールに入れて管理するしかない。そして当面これ以上使用済み核廃棄物を増やすのをやめるしかない。
☆質疑応答が1時間近くあった。呼吸や食物による、内部被ばくの健康への影響は本当のところ現在はわからないそうだ。今回、福島県民の内部被ばく調査が行われているがこれが世界初のデータになるとのことだった。
1週間前に志葉玲さんの講演を聞いた。そのなかで因果関係はわからないが、イラクのファルージャでは04年に劣化ウラン弾で放射線を浴びて、5-6年たってからいろんな症状がでてきたという話を聞いた。白血病やガンの患者が20倍に増え出生異常の子どもが増えた。ファルージャの汚染は広島型原発の40倍だが、福島の事故は50倍に達するそうだ。無脳症や単眼症の乳児の写真は衝撃的だった。5年たったとき日本でそんな光景を目にしなくてすめばよいのだが。
☆練馬区報に区内放射線などの測定結果が掲載され、会場でこの数字の報告があった。6月20・21日に12か所で計測したものだ。毎日発表されている東京(新宿)の計測値より高く、とりわけ泉新小(三原台)、仲町小(氷川台)、石神井小(石神井台)の値が高い。お母さんたちにとって心配ごとがまた増えたのではないだろうか。
●7月28日1か所修正