政府は2年前に廃案にした入管難民法「改悪」法案を、骨格を変えずに3月7日に閣議決定し、予算案通過後の4月18日(火)衆議院法務委員会で審議を始めた。この法案には多くの人、とくに若者たちが国会前で反対運動を展開している。主催団体のひとつBONDは関東の大学生・高校生中心の団体だ。
行動は毎週金曜夕方行われているが、わたしが初めて参加したのは2月3日で、その後月に1度程度通っている。審議入り後は、移住連(移住者と連帯する全国ネット)を中心に、国会審議日にシットインが行われている。
21日(水)には国会正門前で大きな反対集会が開催された。この集会で指摘された法案の問題点は下記4つだ。
1 現行の難民審査手続きを改善しないまま難民申請者の容易な強制送還が可能になること(3回以上の難民申請者も手続き中でも送還可能になる)
2 「送還忌避罪」を創設し、在留を希望する人に刑罰を与えることが可能になること。また支援者もほう助犯とされる可能性があること。
3 司法による判断を経ず、入管当局の裁量により無期限の長期収容が行われてしまう現行制度を維持したまま、在留資格のない外国人を支援者に「監視」させる監理措置制度を新しく導入すること
4 2021年4月名古屋入管で非人道的扱いを受けたスリランカ人ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなった後も入管行政の改善をまったく進めておらず、改定案はさらなる犠牲者を生み出してしまうおそれがあること
一方、国連自由権規約委員会は、2022年11月、日本政府に対し仮放免者の深刻な状況を懸念する総括所見を出した。また4月18日には国連・特別報告者からこの法案への懸念表明と対話を求める書簡が発表された。
この集会では、2時間の間に20人もの報告とアピール、さらに議員などのメッセージも届けられた。そのなかから、わたしの印象に強く残った3人の方のスピーチのごく一部を紹介する。
つくろい東京ファンドおよび北関東医療相談会の大沢優真さんは、仮放免の方、難民の方、在留資格のない人の生活・医療・住居などの支援をしている。生々しい体験を語った。
ご承知のように仮放免・難民の方は、働けない、社会保障がない、だから食べられないし苦しくても病院に行けず、家賃を払えないのでホームレスになる人がたくさんいる。今日もそそういう方から電話がきて、その対応をしてからここに来た。
そういう人に何が起きるか、残念ながら医療を受けられず亡くなる人も見てきた。自殺する人も出た。アフリカの方で難民に認定されず仮放免だった。アフリカから命からがら逃げてきて仮放免になり、最初友人・知人に支援をお願いしていた。1年2年と続き、友人たちもサポートしきれなくなった。最終的には友人・知人は電話に出てくれなくなった。そのとき彼は食べるものがない。家賃が払えずいますぐ出ないといけない。電気・ガス・水道・光熱費を払えず、全部止まっている状況。彼は両手首と首の後ろを切って命を断とうとした。気を失って倒れていたところ、血がドアの下から廊下に流れ、それを近くの人が発見して救急搬送された。
よかったかというと、おカネがかかる。健保もないので15万円かかる。仮放免の方に15万払う余裕はない。しょうがないので、傷が癒えぬまま自主退院し家に帰った。事件性があるかどうか、警察が状況確認に家に来た。事件性はないが、あるのは血だらけのシーツと、電気・ガス・水道が止まった何もない部屋だけ。彼は警察の人に「何もできないので助けてください」とお願いした。警察の人は「何もできないのでこのままでいてください」ということになった。彼は保障がまったくないので、傷が癒えないままそのまま路上生活をした。寒い日だった。
彼もいろいろがんばって、やっとわたしたちのところにたどり着いた。いまなんとか生活できるようになった。ただ電話が来たとき、彼は「なぜ死ねなかったのか」とずっとそればかり言っていた。
仮放免の人のなかには、赤ちゃん、子ども、若者などもたくさんいる。相談がたくさんくる。40度の高熱が3日間出て、ずいぶん我慢したが、もう病院に連れて行かないといけない。「連れて行っていいですか」というメールが来た。病院に行けば2万円、3万円だ。
本当に申し訳ないが断ったこともある。その後、赤ちゃんがどうなったかはわからない。
女性もそうだ。さっきお話したようにいとも簡単にホームレスになる。食べ物もない、生活費もない。だから家賃や生活費の見返りに性的関係を要求されても耐え忍んでいる人もいる。ある女性は「わたしは恥ずかしい存在です」といっていた。本当に仮放免・難民の方は、人として生きていけない状況だ。
移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)事務局長・山岸素子さんは、1990年代から難民の母子の相談をしてきた。
女性と子どもの相談のなかで、DVの被害を受けそのため在留資格をなくし、母子ともにオーバーステイになっている人が多くいた。在留資格はちょっとしたことで失うものだ。ウィシュマさんは留学生として日本に来たが、パートナーから暴力を受け、日本語学校に行けなくなり在留資格を失ったことも象徴的だ。最近では人身売買の温床といわれる技能実習生制度のなかで、過酷な労働条件からどうしても逃れざるをえなくなった人も、在留資格のないオーバーステイ状態になる。このように在留資格がなくなることは簡単に起こる。
多くの人から指摘されているように、難民申請中でも在留資格はない。これは難民保護制度の不備だ。ただし在留資格がなくても社会が寛容ならここまで追いつめられることはない。わたしが支援した2000年代のDV被害母子のほとんどの方は在留特別許可で在留資格を得てきた。
ところが、2015年ころから在留資格のない人をいっせい排除しようとする動きが出てきた。入管施設への長期収容などにより、本当に追い詰められ日本のなかで生存権を奪われてきた。在留資格がないということだけで、生存権や命を奪われてきた。
スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんは2年前の2021年3月6日、名古屋入管収容中33歳で死亡した。この事件で入管問題がクローズアップされ21年の入管法改正法案への反対運動が起こり、政府は5月に成立を断念した。
この日の集会には2人の妹さんも参加しアピールした。ウィシュマさんの裁判の弁護士の一人である指宿昭一弁護士は、妹さんとともに国会審議の傍聴を続けている。
ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなる直前のたった5分間の映像、皆さんご覧になっただろうか。
ウィシュマさんは「病院に持っていって。点滴をして、お願い。わたしは食べることも何もできない」と訴えていた。それに対し入管職員は「わたしにはパワー(権力)がない。だからできない。ボスには伝える」と言っていた。しかしその職員は実際にはボスに伝えなかった。対応していない。あのビデオのどこかの時点でウィシュマさんに点滴し、治療していればウィシュマさんの命は助かった。
法務大臣は、ウィシュマさんの件については反省し改善策を取っている、それを前提に入管法案を出している、と説明している。反省? 改善? ウソをいうんじゃないよ、何も反省していない。ウィシュマさんが亡くなったこと、点滴をしなかったことについてまったく何も反省も総括もしていないじゃないか。そんな法務大臣に、そんな入管に、入管法案を提出する資格はない。
最後に主催団体のひとつ、反貧困ネットワークの瀬戸大作さんが、ミャンマー・ロヒンギャのミュオさんと登壇した。
この団体は、若者など貧困者の支援をしているが、ここ数年外国人からSOSが届くようになった。1/3が外国人、在留資格を失い仮放免中の人も含まれる。そういう人を野宿させるわけにはいかないと個室シェルターをつくり、いま14世帯が暮らしている。
「この法案が通ったらどうなるのか、帰ったら投獄され殺されるかもしれない。ぼくたち支援者は体を張って守っていきたい。そうならないように、入管法は廃案にもっていきたい。ともに働き、ともに楽しみ、ともに生きていく仲間だから。いろんな地域のなかで彼らといろんなイベント、お祭りをやりながら楽しく生きていこう、ともに生きていくことを実践しながらこれからも進めていきたい」と力強く語った。
それぞれのスピーチに、「そうだー」、(政府や入管に)「ふざけんなぁ」という若い男女の共感の声援が何度も湧いた。久しぶりの気がする。
この集会には2人の代議士が参加していた。自民党は、この日にも採決する意向だったとの話を聞き驚いた。自民は25日(火)に4時間質疑のあと採決と提案しているというので、危機感を覚え、25日に議員会館前の昼のシットインに行ってみた。
すると海外からの人が路上にあふれていた。ベビーカーを押している人、小中学生もたくさん参加していた。日本で生まれた人、3歳から日本育ちの人などが多く、通学している学校の制服姿の人も多い。発言したのはクルドの人が多く「わたしたちを日本から追い出さないでください」「トルコに行きたくないです」「日本で安心して暮らしたい」と口々に訴えていた。
☆1月末に「ワタシタチハニンゲンダ!」という映画を見た。「わたしたちは動物ではない、人間だ」という趣旨の映画で、この映画にもウィシュマさんや2010年にタオルで猿ぐつわされ窒息死したガーナの人の話が出てきた。
さて入管法のルーツは1947年5月敗戦直後にできた外国人登録令にある。朝鮮人や台湾人をターゲットにしたものだ。1952年講和条約により在日朝鮮人は日本人ではなくなり、登録令は外国人登録法という法律に変わり、2009年出入国管理及び難民認定法になった。
日本国政府の外国人ヘイトのルーツは在日コリアン問題にあり、それが現在の高校無償化や幼保無償化から朝鮮学校のみ除外する差別として続いていることにも留意してほしい。この問題でも、国連・自由権規約委員会や人種差別撤廃委員会から日本政府への勧告が、入管法同様何度もなされている。
・4月21日の国会正門前大集会の動画はこのサイトでみることができる。
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