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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

福島の教訓を捨てるGX基本方針に反対! 2023さようなら原発全国集会

2023年03月31日 | 集会報告

早くも桜が咲き始めた3月21日(火・祝)午後、今年も代々木公園で「さようなら原発全国集会」が開催された(主催:『さようなら原発』一千万署名 市民の会、参加:4700人)。正式タイトルは「岸田政権の新たな原発推進政策反対! フクシマを忘れない! 再稼働を許さない! 3.21さようなら原発全国集会」とずいぶん長い。
東日本大震災とあの福島第一原発事故から12年、昨年末、政府・GX実行会議は、原発新建設、老朽原発の運転期間60年以上延長など、原発再稼働反対側のわたしたちからすれば信じがたい暴挙基本方針として打ち出した。「のど元過ぎた」とでも思っているのだろうか。また昨年のこの集会でも問題になった汚染水(政府や東電は「処理水」と呼ぶ)の海洋放出のための工事も着々と進めている。

写真は「これ以上海を汚すな!市民会議」「ひだんれん」「避難の協同センター」「福島原発訴訟団」「福島原発刑事訴訟支援団」など福島の団体
今年3月3日「さようなら原発」の呼びかけ人の一人、大江健三郎さんが88歳で亡くなった。報道されたのは集会の1週間ほど前のこと、そこで集会は大江さんや呼びかけ人の故人、地震・原発事故の死者への1分間の黙祷から始まった。主催者あいさつは鎌田慧さん、澤地久枝さん、落合恵子さんからあったが、落合さんの大江さんの思い出を紹介する。

デモの最前列を歩くと、歩道の人からいろんな視線を浴びる。大江さんは、とても静かに頤(おとがい)を上げていつもの歩幅で歩いておられた自分のお腹の底に自分との誓いをストンと落として生きることはこういうことなんだ、とそのとき思った。
エリカ・チェノウェス「市民的抵抗――非暴力が社会を変える(小林綾子・訳 白水社 2023.1)に「3.5%が動けば社会は変わる」という言葉がある。わたしたちがその3.5%になりませんか。
悲観主義に陥らず、かといって楽観主義に乗っからず、自分の歩幅で歩いていく。それを大事にしたい

福島から4つの団体の報告があった。「これ以上海を汚すな!市民会議」「避難の協同センター」「3.11甲状腺がん子ども支援ネットワーク」「フクシマ連帯キャラバン」である。
福島県では震災時18歳以下だった子どもに20歳まで2年に一度、それ以降は5年に一度県民健康調査で甲状腺検査を行い、5巡目に入っている。
すでに300人以上の子どもが甲状腺がんと診断され、転移した人、苦しい手術を受けた人、再発した人、転移した人もいる。そのなかから7人が原告となり、東京電力ホールディングスを相手取り、昨年1月27日損害賠償請求訴訟を提訴した。今年3月15日までに5回の口頭弁論を終え、7人の原告全員が意見陳述した。子ども支援ネットワークはこの裁判を支援している。

会場では、3人の原告のメッセージが発表された。中学生のとき被災し大学生で手術し、希望の就職先に採用されたが体調の関係で退職せざるをえなかった方、過去4回の検査は無事パスしたが、5巡目で悪性と診断され頭が真っ白になった方、大学生のときがんが再発、肺に転移した人など、それぞれ「青天の霹靂」のような苦しい体験が語られた。
わたしもときどき311子ども甲状腺がん裁判の傍聴に行くが、なかなか抽選に当たらない。しかし毎回ていねいな報告集会が行われる。津波は自然災害だが原発事故はまぎれもない人災だ。裁判の進展をしっかり見る必要がある。次回は6月14日(水)14時(その前に抽選あり)だ。
その他、脱原発をめざす首長会議柏崎刈羽原発再稼働おことわりグループあさこはうす、原子力資料情報室から報告があった。
3月15日国会でGX推進法案の審議
が始まった。この法案は、原発の運転期間延長、次世代革新炉による原発新増設や建替えなどを含み、フクシマ事故の教訓を完全に捨て去ろうとするものだ。昨年9月のこの集会で、GX実行会議での竹内純子・有識者委員のトンデモ発言が紹介されたが、12月22日に答申が出、今年2月10日「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、それに基づく法案である。
しかも原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、再処理法、再エネ特措法の5つの改正案を束ね細かいチェックをしにくくし世論の反対に目くらましさせる、政府得意の「束ね法」で審議させるものだ。この法案の問題点をわかりやすく解説した原子力資料情報室・松久保肇さんの報告を詳しく紹介する。松久保さんは、経産省の原子力小委員会で、2人しかいない原発反対派の委員を務めた方だ。

GX実行会議の「GX実現に向けた基本方針」の問題点

            原子力資料情報室事務局長 松久保肇さん
昨年末政府・GX実行会議は、原発新設や運転期間延長などにより脱炭素、エネルギー安全保障を図ろうとするグリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた基本方針を策定し、いまこの方針に基づいたいくつかの法律が国会で審議されている。だがこの基本方針には数多くの問題がある。
まず第一に、GX基本方針はグリーントランスフォーメーションを図るというもので、原発推進が電力需給ひっ迫や脱炭素に役に立つ、としている。しかしこれは長期的にも短期的にも的外れだ。
いま運転できていない原発は、工事が進んでいないとか、地元の了解が得られていないとか、それぞれ個別の事情がある。運転を再開しても多くの原発はすぐに停止に追い込まれる。使用済み燃料の行き場が存在しないからだ。
脱炭素にも不適当だ。10年かけても原発が再稼働できていないという状況がある。さらに原発の新設には10年以上かかる。これからG7が行われる。昨年のG7で2035年までに電源部門ですべて(または大部分)の脱炭素化で合意した。
つまり原発はこの目標にほぼ役に立たないことがわかっている。それにもかかわらず、原発をこれからも進めていこうとしているわけだ。
第二に、今回の方針は福島原発事故の教訓を忘れるものだ。福島第一原発事故以前は、原発安全規制を、原発を推進する経済産業省が担当していた。事故の大きな教訓は、規制と推進が一体化したため、安全性が劣化したことだった。そこで事故後、原子力規制委員会を新しく発足させ原子力の規制を、経産省から原子力規制委員会に移した。以来、原発は原子力規制委員会が世界最高水準の規制を行っている、と高らかに謳ってきた。
ところが今回法改正で運転期間規制を規制委員会から経産省に移すという。世界を見渡しても運転期間の認可を規制当局以外が担当している国はほとんどない。つまり、日本は福島第一原発事故のあと、原子力利用は安全最優先といっていながら、福島の大事な教訓を忘れ去って安全を劣化させようとしていることになる。
第三に、この基本方針についてほとんど国民の声を聞いていない。基本方針の策定にあたり、とくに原子力政策に関し、経産省の原子力小委員会で議論を行った。21人委員がいるがわたしもその1人だ。2人しか脱原発を訴える委員がいない。非常に偏った委員会だ。この委員会で、何度も国民の声を聴くべきだと訴えてきた。ところが政府は聴く耳をまったくもたず、事実上協議を続けてきた。
基本方針に対し、一応国民意見募集は行われた。しかしこれも「聞いた」に過ぎない。事実上ゼロ回答だった。
第四に、わたしたちは原発維持費の負担をずっと強いられてきた。原発は運転してもしなくても維持費が必要になる。税金も必要になる。全国の原発維持費を合わせると、年間2.1兆円。これらを電気代や税金というかたちでわたしたちは負担している。国民1人当たり年間およそ1万7000円、福島第一原発事故から12年間累計すると約20万円わたしたちは負担してきたことになる。これほどの負担を強いられてきたにもかかわらず、原発事故後原発は電力供給にほとんど役に立っていない。ずっとムダにおカネを支払わせられてきたことになる。
原発の運転期間規制が問題になるのは10年以上先の話になる。原発新設に関しても、政府は2030年代前半に建設開始といっている。いま決めなければいけない理由は何もない。なぜこの方針をいま打ち出すのか。ウクライナ侵攻に乗じて行き詰ってきた原子力政策を強引に進めようとしているのに過ぎない。国は、ウクライナ危機を「神風が吹いた」というふうに表現している。信じられない。国民をバカにしている表現でもあると思う。
現在政府は、緊迫する北東アジア情勢などを理由に国防費の大増額を進めようとしている。しかし現実を考えていただきたい。原子力発電所が並んでいる状況で戦争など起こしてみようものなら原発をターゲットにされ、戦争継続なんてまずムリという状況になる。そうした状況下で抑止力増強などありうるわけがない。政府は多くの問題を無視して、ムリヤリ原発推進方針を打ち出している
しかし原発の老朽化は、動いても動かなくても進む。わたくしが原子力小委員会で話を聞いてきたのは「原子力産業界は衰退の一途をたどっている、国が支援してくれないと何ともならない、だから国におカネを出してほしい」ということをいっている。国はこの状況をなんとしても阻止しようとしているが、現実は原発はもはや衰退産業だということだ。わたしたちはその原発をなくしていく日を一日でも早くするため、共にがんばって闘っていこう。

集会を1時間半で終え、昨年9月の集会同様、渋谷と原宿の2コースに分かれデモに出発した。この日の集会の動画はこのサイト見られる。

☆これに先立ち3月11日の12周年当日13時半から東電本社前で「事故から12年・追悼と東電抗議」集会が開催された(呼びかけ:経産省前テントひろばたんぽぽ舎 参加:355人)。鎌田さん、落合さんのほか、いわきから東京に避難した父子、東海第二原発再稼働に反対する茨城県議、福島事故で死んだペットや牛馬、鶏を悼む肉球新党、福島除染労働に出かけ肺がんで死んだ仲間を忘れない山谷労働者、さらに日本音楽協議会や日本原電六人衆の歌もある多彩な集会だった。地震が起きた14時42分すぎには、東電の担当者への申し入れが行われた。
閉会前の多摩川太鼓腹に響く2人がかりの太鼓の音「東電はあやまれ!」「東電は償え!」の声は迫力があった。
東電前集会もこのサイトで視聴できる(迫力ある太鼓は1時間35分あたり)。

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。


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