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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

「普天間」――いま日本の選択を考える

2010年03月25日 | 集会報告
3月20日(土)午後、法政大学で「『普天間』―いま日本の選択を考える」というシンポジウムが開催された(主催:法政大学沖縄文化研究所、普天間緊急声明呼びかけ人 参加300人)。暖かい日で、市ヶ谷駅から大学に向かうお濠端の桜が、もう1週間すれば見ごろかと思われる陽気だった。
まず主催者である普天間緊急声明呼びかけ人の作家・加賀乙彦さんと宇沢弘文・東京大学名誉教授から「米軍基地は日本全土からすべて撤退してほしい」というスピーチがあり、増田壽男・法政大学総長が開会の辞を述べた。普天間緊急声明とは1月18日の記者会見で学者・知識人340人が発表した声明のことである。
次に現地、沖縄の2人の学者の講演があった。
桜井国俊・沖縄大学学長は、環境の視点から、今年10月名古屋でCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が開催されるが辺野古・大浦湾はまさに生物多様性の高い場所であること、ジュゴンと海草藻場の関係、危険なオスプレイ、高江がカエルなど希少な動植物が多い世界的に貴重な場所であること、辺野古の環境アセスがアセスになっていない理由、などを説明した。
佐藤学・沖縄国際大学教授は、日米安保の視点から、今年1月名護市長選挙で稲嶺市長が当選し、2月に県議会で全会派一致で県内移設反対の意見書を可決した意味、海兵隊は北朝鮮・中国への抑止力とはならない理由、3月9日にワシントンで行ったシンポジウム、アメリカからみた普天間観、などについて語った。
このお二人に、川瀬光義・京都府立大学教授、古関彰一・獨協大学教授、明田川融・法政大学沖縄文化研究所の3人が加わり、遠藤誠治・成蹊大学教授の司会でパネルディスカッションが行われた。

■歴史からみた日米安保の問題点
古関●日米安保に代わり、「日米同盟」という言葉がいつのまにか定着した。1981年に鈴木善幸首相が、はじめて「日米同盟」という言葉を使った。国会で、軍事同盟の意味が含まれているかどうかが問題になり外相が辞任する結果となった。それ以降「同盟」という言葉はある意味でタブーとなった。それが96年の橋本・クリントンの「日米安保共同宣言」で、安保は「極東の平和、日本の平和と安全のため」から「アジア太平洋地域の平和と安定」へと「再定義」され、2005年の日米安全保障協議委員会共同宣言のタイトルはまさに「日米同盟」となった。そのころから政治家以上にメディアが、当たり前のように日米同盟と言い始めた
地位協定も非常識なものであることをもう一度考えるべきだ。ほとんどの国は軍事基地協定と安全保障条約を別にしている。安全保障条約のなかに基地協定があるのは韓国と日本くらいだ。基地と安保は不可分ではないのに日本は60年以上維持している。安保を根本から考え直すべきである。
また米国と同盟関係をもつ国は50カ国あるといわれるが、そのうち米兵が1万人以上駐留するのは、ドイツ、日本、韓国、イギリス、イタリア程度にすぎない。冷戦終結以降もそのまま維持しているのは日本と韓国くらいだ。冷戦以前とまったくおなじでよいのかどうか、最低限でも考えるべきである。
明田川●日本の地位協定には環境条項がない。ドイツは数度改訂し、韓国も覚書で取り決めた。イラクも地位協定で「環境を尊重する」という文言を盛り込み、核の貯蔵や域外移設の禁止を明記している。日本よりイラクのほうが主権を尊重されているとも言える。同盟というが「詐称」の同盟である。
川瀬●復帰前、沖縄の問題点は、建設業の比率が高く、逆に製造業が9.1%と低く(全国平均では27%)、第3次産業は基地に依存していることだといわれた。それから40年近くたったいま製造業はそれより低い5%台を推移している。補助金で道路や港湾を整備する政策を40年間続け、補助金の累計は9兆円に及ぶ。しかし成果は上がらなかった。日本全体では補助金を減らしているのに沖縄はこの枠組みを残している。総量ではピークだった98年の4400億がいま2000億に減ったが、埋め合わせるがごとく普天間移設関連見返り資金などを含めれば4000億円だ。そんなカネはいらないと言い出さないかと思っていたら、ついに名護市長が米軍再編交付金を来年度予算に計上しないことを決めた。涙が出るほどうれしかった。
桜井●いままで「アメ」で箱物を作らされてきたが、地元の負担金もあるし維持管理費を負担しなければいけないので、借金は膨らむばかりだった。SACO合意以来15年、名護にぶちこまれた600億に上る「アメ」が地元の人の生活改善につながっていないことが実感されている。再編交付金はアセスが終われば何パーセント、工事に着手すれば何パーセントという露骨な「出来高払い」になっている。これをいらないという声が出てきていることはいままでの沖縄と明らかに違う。
沖縄は製造業の比率が低いので、環境問題の最大の原因は米軍基地である。ところが基地は地位協定で治外法権になっており、生活環境保全条例(かつての公害防止条例)が適用されなかった。環境審議会で「よき隣人」なら、立ち入り調査を申し入れることができる紳士協定を結ぶ申し入れをしようとすると、県は地位協定を理由に剣もほろろにダメを出した。その後08年12月に議会構成が変わり申し入れできることになったが、このように沖縄では安保と同時に地位協定の存在がきわめて重要である。
佐藤●基地がないと沖縄は食っていけないだろうという話がよくある。しかし政府から出ている交付金がすべて基地との交換というわけではない。それなのに沖縄の人は一方的に、基地がないと生活が成り立たないという恐怖を煽られてきた。
沖縄の基地問題は、米軍基地問題か一般的な基地問題か今後考えなければいけない。将来米軍が撤退したとき沖縄が自衛隊のアジアへの前線基地として使われることがないよう、段階的に基地を縮小していくことが必要だ。
■日米安保と地位協定
古関●軍事による安全保障が強化されている一方、アフガニスタンやイラクでの貢献は軍事的なものでなくJICAやNGOによるものである。いままでにない、こうした平和への模索の動きに注目すべきである。
明田川●普天間がクローズアップされるが、日本の安全保障を考える際、嘉手納基地をどうするか、また存続するあいだの危険性除去も大きな問題だ。町議会の統計によれば復帰後の航空機事故の6割が嘉手納関係という現実がある。
佐藤●3月のワシントンでのシンポジウムで海兵隊関係者が「海兵隊はツナミなど自然災害救援が使命だ」と強調していた。軍事的役割は小さくなっているので、組織維持のニーズが強いのではないだろうか。
川瀬●地位協定の財政的側面について述べる。「米軍再編の政治学(ケント・カルダー 日本経済新聞出版社2008.5)に「アメリカの戦略目標に対し日本ほど一貫して気前のよい支援を行った国はない」という一節が出てくる。軍用地料として政府が地代まで支払っているのは日本だけだろう。米軍維持経費を旧防衛施設庁予算でみると、2000年には5800億円だったが来年度予算は4400億円に減っている。ただSACO関係経費や米軍再編経費を広義の思いやり予算とみれば、5800億円でまったく減っていない。しかも地位協定の枠外の、根拠のはっきりしないカネが増えている。必要なものかどうか再点検したい。   
桜井●シュワブ陸上案でも勝連半島沖案でもいずれも環境アセスは必要である。500mの滑走路ならアセスがいらないと思っている節があるが、国のアセスは必要なくとも県条例に基づくアセスは必要だ。そうすると膨大なアセスの時間を要することになる。その間、アメにより沖縄を分断しようとする動きがあるだろう。それはいま以上に沖縄に問題を引き起こすことになる。沖縄の県民所得は全国最低レベルだが、それ以上に大きな問題として県内格差が激しいことがある。アメで潤う部分とまったく潤わない部分が極端なのだ。授業料を払えず退学していく学生の比率が全国よりずっと高い。こういう学生をみているとつらいものがある。もうこれ以上分断状況を拡大しないでくれ、というのが沖縄からのメッセージだ。

司会:遠藤●言い残したことがあれば一言ずつ。
明田川●勝連半島沖移設案は1000haを埋め立て3000m滑走路を1本、3600mを2本つくる案だ。辺野古沖よりずっと広い。嘉手納は2000haだ。おそらく米軍と自衛隊の相互運用性を高める構想だろう。
古関●世論調査では、「基地が必要」「安全保障条約が必要」と答える人が圧倒的に多い。では、「あなたの地域に基地ができることに賛成か」という世論調査を一度やってみてはどうだろう。みんながいやなら基地をやめることになる。そのときどうすれば基地なしで平和に生きていけるか、それぞれの地域でそれぞれの人が考えてみてはどうだろう。
佐藤●沖縄の負担を軽減することがスタートだったはずなのに、なぜ大きい基地をつくる話になるのか、また沖縄の民意や選挙にもかかわらずなぜ沖縄に押しつけるのか、とうてい受け入れられない。かといって沖縄の社会が反米になったということではない。基地で働く人も8000人いる。すぐ全部返還ということは考えていない。
川瀬●日本政府、日本人に品格が問われている。また世論喚起の一環として、ぜひ沖縄の新聞を1紙購読してほしい。
桜井●今年は安保50年の年であるとともに韓国併合100年の年でもある。韓国併合につながったのは日露戦争だが、日露戦争は沖縄が侵略戦争に加担した最初の戦争だ。昨年末から放映されている「坂の上の雲」には違和感がある。戦争美化の空気が日本に蔓延している。
安保はいらないというとき、一方で東アジア共同体をどうつくるか、われわれの姿勢が問われている。
司会:遠藤●「抑止する」ということはだれかを脅かすことだ。脅かしながら共同体はつくれない。脅かすのではない平和のつくり方を考えていく必要がある。日米グローバル安保は軍事的行動を固定化させていく大きな役割を果たしかねないが、これを転換するロジックを組み立てるきっかけに、今日の議論がなるとよいと思う。

最後に、屋嘉宗彦・沖縄文化研究所所長と宮本憲一・大阪市立大学名誉教授のお話があった。宮本名誉教授は、「1.世界一危険な普天間基地を早期に撤去しなければいけない、2.これ以上沖縄に基地を新設してはいけない、3.本土に代替地を探してもどこも拒否する、4.まったく不平等な日米地位協定を国際的に認められる協定に改訂すべきである」と、この日のシンポジウムを締めくくった。そして基地を撤去し、地球環境を保全する新しい地域へ、グリーンニューディールによる再生への道を求めることを提唱した

☆考えてみると、わたしが入学した中学の校区には自衛隊の分屯地があり自衛官の子弟が通学していた。転校した先には米軍基地が近くにあり北が攻勢をかけたときにはヘリの爆音で窓を閉めないと授業ができないほどだった。いま住んでいるところも陸上自衛隊東部方面隊第1師団司令部から3キロ程度でそう遠くない。基地は意外に身近にあった。
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