秋晴れとなった9月19日(日)午後、国会正門前で「戦争法強行からまる6年!戦争法廃止!立憲主義の回復!いのちと暮らしを守れ!自公政権退陣!総選挙勝利!9・19行動」が開催された(主催:戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会、安倍9条改憲NO!全国市民アクション)。
戦争法(安全保障法制)成立に反対する人で国会正門前車道が埋め尽くされ自由広場が出現した2019年9月から、早くも6年の月日が過ぎた。19日を命日と称し、毎月19日(平日は夕方、土日祝日は午後)に議員会館前(土日祝日は国会正門前)に集まる「総がかり行動」もこの日で72回になった。
コロナ禍のため時間を55分に短縮しオンライン中心だが、それでも主催者発表で1000人超の参加(オンライン視聴含む)があった。
集会は、舌鋒鋭い菱山南帆子さんの主催者あいさつから始まった。一部紹介する。
「9月2日、菅首相は突然、政権を投げ出すと表明した。昨年8月28日安倍首相の突然の投げ出しからたった1年だ。2代の内閣が突然政権を投げ出すとはきわめて異例なことだ。この1年のコロナ禍の感染爆発で、救急車も来ない最悪の医療崩壊が現実のものになった。救える命も救えなかったのは政治の失敗であり、安倍・菅政権の罪は重大だ。もはや自公政権に命と暮らしと尊厳を守ることは期待できない。
9月8日、衆議院選挙を見据え立憲野党4党と市民連合のあいだで政策合意を締結した。ともに闘い切り開いていこう!」
スピーチは、立憲野党の政治家から始まった。菅直人さん(立憲民主党最高顧問/衆議院議員)、田村智子さん(日本共産党副委員長/参議院議員)、福島みずほさん(社会民主党党首/参議院議員 オンライン参加)の3人がそれぞれ違憲の戦争法(安全保障関連法)を批判し、近づく総選挙での政権交代、新しい政府作りを訴えた。
そして5人の方から連帯のあいさつがあった。
うち石川健治さんと高山佳奈子さんは、口々にデモクラシーの前提が安倍・菅政権で壊され、統治機構、行政機構の機能不全を招いたことを指摘した。それが強く印象に残ったので、その部分を詳しく紹介したい。
石川健治さん(立憲デモクラシーの会/東大教授)
立憲デモクラシーの会は、じつは護憲団体ではなく改憲派も入れることがポイントだった。理系の先生にも入っていただいて法律家・政治学者だけでなく幅広い人たちに参加をお願いして作った。なぜかというと、個別の問題、たとえば9条解釈について意見が対立していても、議論を戦わせようとする土俵そのものがいま壊されようとしている、その危機感でもって連帯できないかということで、この組織をつくり、現在も続いている。
発足したのは2015年4月、つまり2015年7月1日の解釈変更がなされる前に、それを止めようということで立ち上がったということなのだが、憲法解釈を人事の力で変えるということを許してしまった。また理屈の面からいうと、われわれの見解は内閣法制局とも共有されたものだったので優っていたものであったにもかかわらず、数の力で押し切られるというかたちで6年前の今日の日を迎えたというわけだ。こう考えてみると、われわれが訴えようとした前提条件の破壊、これはそれほど間違った見立てではなかったという気がする。
問題は9条論議からコロナ対策へと移ったが、菅政権の断末魔というのは結局、あのとき安保法制へとつながる一連の大きななかで壊れてしまった統治システムがこのように無残に機能不全に陥るものなのか目の当たりに見せてくれたのだと思う。そういう意味で、もちろん立場はいろいろあると思うが、共有すべきゲームのルールというか、政治の大前提が壊されている、その部分でわれわれの連帯の輪をもっともっと広げていけないかと念願している。
6年前にやはり参議院議員会館前で(今日と)同じように立ち、そのとき申し上げたことを繰り返したい。そのとき申し上げたのは"malgre moi"(マルグレ・モア 「~にもかかわらず」)というフランス語だった。ロマン・ロランの言葉だが丸山眞男先生が好んで使った言葉だ。非政治的な人間であっても連帯するときはある。こういうところに本来場違いだなと思うわたしのようなものでも、やはり立ち上がらなければいけないときはあるのだ。そういう思いを新たにしながら今日を迎えた。
高山さんの姿は、2017年の共謀罪のとき、議員会館周辺での集会でよくみかけた。この日は胸に大きく「投票」と書いたTシャツでスピーチしたので、スーツ姿のときとずいぶん違う印象を受けた。お話は、昨年、巨額の税金を投じて実施したアベノマスクの話から始まった。日本はいつからこんなにバカになってしまったのか、こんなはずではない、という思いをもっている人も多いと思う、と続けた。
高山佳奈子さん(安全保障関連法に反対する学者の会/京大教授)
わたしたち学者の使命は専門知を民主主義のために提供すること、若い人たちを教育することだ。わたしは小泉政権のころから政府の審議委員の担当を始め、いまも参加している。いろいろな分野の人たちが知恵を寄せ集め知見を持ち寄り、熟議を重ねて、いま一番いいと考えられる政策を決定していく。これが民主主義の本来のあり方だ。そのために役割を果たすのが学者だと思う。
しかしいま専門知がきちんと民主制のなかに生かされる仕組みが壊されていると思う。いま情報が正しく流通しない、隠ぺいされている、捏造されている、ワクチンないのに黙っている、質問に答えない等々、民主主義のあり方に対しての直接の攻撃と思われることがまかり通っている。前は総理大臣がわりに短期間で変わってもそれなりに国としてつながっていた時期もあったと思うが、それは専門家集団としての官僚組織がいまよりきちんと機能していたということがある。しかしここ15年くらいの間に国家公務員の人数が約半分に削減され、いま霞が関は超ブラック企業化している。本来の統治機構のあり方がなくなってしまっている これをみて何とかしなければと思う。
わたしは学術会議会員の任命拒否の問題についてはただちに任命をすべく、学者の会としても学術会議内部の人間としても発信し続けていくつもりだ。学術会議は専門の学会の分野を越えて理系文系すべての分野の人が集まって最新の問題に対して政策を提言していくところだ。これが攻撃されているということは、新しい問題に日本の国としてどういうふうに対処していくかについてのアイディアを出す場所がなくなっているということだ。
いまこんなに日本の仕組みが壊れているのは若い方々のせいではない。もちろんわたしたち上の世代のせいだ。若い人たちはどんどんもっと文句をいっていい。「こんな日本はイヤだ、もっと変えていかなきゃ」ということをぶつけてほしいと思う。そのためにぜひ投票に足を運んでほしい。
壊された行政機構を元に戻すためにはかなりの時間がかかることが予想され、困難な道だ。でも一歩を踏み出さない限り何も始まらない。国の仕組みを取り戻せない。ぜひみなさん力を合わせて世代を越えて共闘していきましょう。
●元山仁士郎さん(元SEALDs・SEALDs琉球)は「国会正門前で徹夜した9.19から6年、わたしの出身地・沖縄、琉球列島は再軍事化の波に呑み込まれている。戦没者の遺骨が辺野古の新基地建設の埋立に使われるかもしれず、奄美大島、宮古島、与那国島、石垣島への自衛隊配備で地域住民は差し迫った不安を感じている。具体的な不安を抱えている人にも目を向け、その地域に住む人とともに声を上げてほしい」と訴えた。
●高岡直子さん(安保関連法に反対するママの会・医師)は「20年以上在宅医として働いてきた。この夏、思いもよらず訪問診療をすることになった。自宅療養を強いられた患者さんに、わたしたちは防護服を着て滞在時間15分以内に抑え、薬を渡し酸素濃縮器を設置してくる。そんなことしかできなかった。本来なら入院して24時間医療的管理をしないといけない人を置いて、すぐ次の患者の家に向かわなければいけなかった。
在宅で亡くなられた方が8月だけで250人、いったいこの国はどうしてこんな情けないことになっているのか」と生々しい現場の声を伝え、「政治家は国会を開き、政治家の仕事をしてほしい。次の選挙は、わたしたちがわたしたちの手でわたしたちの命を守る選挙だ。投票率8割を超えよう」とアピールした。
●福山真劫さん(市民連合)は「自民党総裁選に出ている4人は、憲法改悪をめざし、権力を私物化しそれを隠蔽するという点では、同じ穴のムジナだ。表紙の掛け替えだけでは世の中は変わらない。わたしたちは9月8日に立憲野党4党と、大項目6項目、個別20項目の政策協定を結んだ。ただ残念なことに国民民主党は加わらず、労組のセンター・連合は消極的だ。しかし国民民主も仲間だと思う。自公政権の狙いは野党共闘の分断だ。本気の野党共闘で頑張ろう」と締めくくった。
最後に小田川義和さん(憲法共同センター)から行動提起があり、集会を終えた。集会全体の動画はこのサイトで見られる。
来月も19日(火曜)18時半から議員会館前で総がかり行動は続く。
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