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新学習指導要領で学校はどう変わるか

2008年06月10日 | 集会報告
3月28日幼稚園、小学校、中学校の新学習指導要領が公示された。この改訂は2006年末成立した改定教育基本法を踏まえ、昨年強行採決された学校教育法など教育三法に基づくはじめての学習指導要領である。
松村昌則・都教組教文部長を講師に迎え「どうなるの?改定学習指導要領」という学習会が、練馬区役所内会議室で開催された(主催 都教組練馬支部)

1 これまでの改定のなかで、最も全面的で史上最悪の改定
これまでの改定は、あれこれいっても1947教育基本法の枠内の改定だった。しかし今回の改定は「徳目重視」の新教育基本法を具体化するはじめての学習指導要領である。
また2月に改定案を公表しパブリックコメントを募集したあと、異例なことに3月28日の官報告示の段階で新教育基本法の方針に沿いさらに修正した。たとえば小学校国語1・2年の「伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項」で現行「昔話や伝説」だったものを「昔話や神話・伝承」に変え、小学校音楽の「指導計画の作成と内容の取扱い」で、「君が代」について現行「いずれの学年においても指導すること」を「いずれの学年においても歌えるように指導すること」に改悪した。

2 トップダウンの移行措置
文科省は4月24日、小学校は09年度から2年間、中学校では3年間の移行措置案を公表した。新聞報道では算数(数学)、理科の時間増の先行実施だけが報道された。それ以外の教科では現行と改定を選択できるが、道徳教育を教育活動全体の要と位置づけた総則や道徳推進教師の設置を義務付ける道徳は09年度から実施するしかなく、全面実施に近い内容になっている。
何より問題なのは。この性急な実施案に対する現場の教師の声はまったく無視して作成され、トップダウンで押しつける体制になっていることだ。たとえば小学校算数で三位数(3ケタの数)の扱いを、1年生で簡単な三位数の表し方、2年生で簡単な加減、3年生で一般的な加減と3学年に分けて教えることにしている。文科省はスパイラル(反復)学習というが、現場からみれば本来まとめて学習したほうがわかる内容を、科学的な根拠も系統性もなく、わざわざわかりにくくかつ非効率にしているとしか思えない。

3 改悪教育基本法具体化の「眼目」はどこにあるのか
(1)国が直接教育を支配・コントロールするシステムづくり
中教審答申で述べられたプラン→ドゥー→チェック→アクションのPDCAサイクルとチェックを担う全国一斉学力テストを連動させると、国が直接教育をコントロールする仕組みとなる。しかし学力テストの学校間成績差を教育予算に反映させるといったいどんな事態が生じるのか、すでに足立区の大失敗で実証ずみだ。
(2)国民の二分化
総則1の1で、学力を基礎的・基本的な知識と活用力(思考力、判断力、表現力)に切り離して捉えている。「基礎・基本レベル」の子には、徹底した反復練習とドリル学習、「活用力」レベルの子には、論述力、表現力、判断力を養うレポートを作成させる。ここから子どもを「基礎・基本レベル」と「活用力」レベルに分ける国民二分化教育が始まる
かつて学級崩壊した6年生のクラスの教えたことがある。教師との信頼関係をつくるため机間巡視のかわりに、わからない生徒に「みんなお出で」と声をかけ、教壇の回りに机とイスをもってこさせて教えた。とうとうみんな分数がわかるようになった。ある女子生徒が「先生、私5年生まで時計が読めなかったんだよ。わかるって本当にすばらしい。時計は5飛びの掛け算なんだよ」と言った。その子の成績はそれからグングン伸びた。「できない」といわれる子にもきちんと手立てを取り、教育条件を整えれば伸びる。それを最初から断ち切ろうとするのが新学習指導要領である。
(3)教科の道徳化
道徳の教科化は幸い見送られたが、かわりに道徳を全教科・教育活動の統括的位置に据え、学校教育全体が道徳化することになった。
小中学校の国語で「言語事項」とされていたものが「伝統的な言語文化に関する事項」に変わった。すでにさまざまな市区町村で、この施策の先取りとして副読本を配布し、漢詩などの暗唱大会や朗読大会が実施されている。むりやり愛国心を注入しようという意図がみえる。
(4)人格の完成をめざす教育から「生きる力」を育成する教育へ
財界は、グローバル時代の大競争を勝ち抜くには科学技術を振興して国力の基盤とし、思考力・判断力・表現力の養成が必要だと主張する。これとまったく同じ文言が新学習指導要領にある。
この指導要領は子どもたちをどこへもっていこうとしているのだろう。かつて三浦朱門氏が「これからはできる子に金も労力も注ぎ込む。百人に一人のエリートが国を引っ張っていく。できない子はできないままで結構(略)そういう子はせめて実直な精神を養ってもらう」(斎藤貴夫『機会不平等』)と語った。そのレールの上に乗った指導要領である。東京都の教育は、新教育基本法を先取りした石原の10年で、すでにがんじがらめにされてしまった。
人格の完成をめざす教育は、憲法26条「教育を受ける権利」が保障した、どんな職業につこうとあらゆる人間に必要な普通教育を表すものだ。新学習指導要領は憲法のこの権利を根こそぎ奪おうとする。憲法は国民が権利を主張するためにだけあるのでない。為政者に憲法を守る義務があることを、われわれが再認識することが重要だ。

4 その他の改定のポイント
(1)小学校1年生から毎日5時間授業
小学校1年生の年間授業時数は68時間増、2年生は70時間増、週25-26コマとなる。授業時数1割増は、生活のリズムをめちゃくちゃにしてしまう。さらにいまでも先取りで始まっている土曜補習や夏休み短縮が強化されそうだ。
(2)これは廃止でなく「廃棄」ではないか
鳴り物入りで始まった「総合的な学習の時間」は小学校で150時間カット、中学で20~145時間カットになった。さらに極端なのは中学の選択教科である。現行155~210時間が3年後には25~136時間に減り、新課程では0、すなわちなくなってしまう。普段の授業で「勝ち組」「負け組」に振り分けているので、選択教科など必要ないとでもいうのだろうか。カットや廃止の本質は「御用済み」、すなわち廃棄なのではないか。
何の総括もしない文科省はまったく無責任であり、文科省にだけは「説明責任」などといわれたくないものである。
(3)子どもと外国語教育をバカにした「外国語活動」
小学校に外国語教育が導入される。しかし担任は免許なしで教えることになる。そこで授業ではなく「活動」となっている。またたった182人しかいないALTと地域ボランティアを活用するというが、「人・もの・カネ」を出さない安上がり教育の典型だ。子どもと外国語教育をバカにしている。教育特区で先行実施している荒川区では小学生のときから「英語ぎらい」の子どもが出現しているという。

5 どの子も大切に
これからどうすればよいのか。まず、まともな授業・教育実践をすることである。どの子も大切に、一人一人に取り組むことがますます重要になる。
次に、教育懇談会、教育集会などで父母や区民と語りあい、教育連絡会など学校と地域を結ぶフィールドに運動を広げていきたい。

☆自分は教員でないこともあり、新学習指導要領のパンフの文言だけ読むといろんなトレンドを「きれいに」並べてあるように見えた。パブリックコメントを書くために新旧学習要領を対照し、道徳教育推進教師の設置をはじめとする道徳の基幹化、「公共の精神」「公徳心及び社会連帯」「自分たちできまりをつくって守る活動」を強調していることに気づいた。この学習会に参加し、実際の教育活動に携わる方の声お聞き、さらにさまざまな問題点が浮かび上がってきた。ここが役所のつくる文章のこわいところなのかもしれない。
今後、新学習指導要領に沿った教科書が明らかになる。その内容や、今年中に公示される予定の高等学校及び特別支援学校の学習指導要領にも注目する必要がある。
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