4月27日、新国立劇場でオペラ「神々の黄昏」をみた。ニーベルングの指環4部作の最後の作品である。延々6時間15分(正味では4時間45分)もかかる大作だが、充実したストーリーでそれほど長く感じなかった。わたしは2002年3月のワルキューレ、03年3月のジークフリートはみたが、04年のときはチケットを入手できず、昨年の「ラインの黄金」とあわせて結局8年がかりで全作みたことになる。
新国立劇場のHPからストーリーを引用する。
【序幕】前奏曲に続いて幕が開く。三人の運命の女神が綱を編むうちに、もつれて切れてしまう。運命から見捨てられたと嘆く彼女たちは、母エルダのもとへと降りてゆく。ジークフリートとブリュンヒルデが現れ、夫は妻に指環を与えてから彼女の愛馬にまたがり、腕試しの旅に出かける。「ジークフリートのラインへの旅」の間奏曲が演奏される。
【第1幕】ライン河畔のギービヒ家。家長のグンター、妹グートルーネ、グンターの異父弟で邪な男ハーゲンの三人が勇士ジークフリートの噂を語る。そこにジークフリート本人がやってきて、自分の素性を打ち明ける。薬入りの飲み物を口にした彼は過去をすべて忘れ、目の前のグートルーネに惹かれる。グンターは彼に「火に包まれているブリュンヒルデを連れてきて、自分の妻に与えてくれるなら、妹を嫁にやろう」と告げる。二人は兄弟の盃をかわし、河を下る。ハーゲンはほくそ笑む。場面が変わり、ブリュンヒルデの前に姉妹のヴァルトラウテが現れて、「指環をラインの乙女たちに返してくれれば、神も世界も平和になる」と告げる。しかしブリュンヒルデはそれに応じない。その後、記憶を失くしたジークフリートが隠れ頭巾を身につけて現れ、グンターの願いどおり、ブリュンヒルデを連れ去るべく、彼女から指環を奪ってしまう。
【第2幕】前奏曲に続いてギービヒ家。ハーゲンの夢に実父アルベリヒが現れて、「指環を乙女たちに返すな」と告げて消える。朝になりジークフリートが戻る。彼がハーゲンとグートルーネに事の次第を語る。ハーゲンが角笛を吹いて家臣を集める。ブリュンヒルデを伴って現れたグンターは、「自分と彼女、妹とジークフリートの結婚式だ」と告げる。その言葉にブリュンヒルデは驚愕、ジークフリートの姿を認めて呆然とし、彼の指にある指環を目にして神々に復讐を誓う。怒りと絶望の中、彼女はハーゲンに「ジークフリートの急所が背中にある」と教えてしまう。婚礼を祝う行列が近づく。
【第3幕】前奏曲に続いて河畔の低地。ラインの乙女たちがジークフリートに指環の恐ろしさを教えるが彼は理解しない。ハーゲンとグンターが現れる。ハーゲンはジークフリートの背中を槍で突き殺す。人々は英雄の死を悲しみ、遺骸を運ぶ。ギービヒ家ではグートルーネが夫の帰りを待つが、冷たくなった彼を目にして逆上する。ハーゲンは指環を要求し、グンターと争って彼を殺す。ブリュンヒルデが現れて、「あなた方全員が裏切ったジークフリートの妻が復讐に来た」と告げる。彼女は火葬の為の薪を用意させ、夫の遺骸から指環を抜き取り、燃え盛る炎を目指して愛馬に跨り突き進む。ライン河が炎に流れ込み、乙女たちは指環を取り戻し、ハーゲンは水中に引きずり込まれる。炎は天上をも包み込む。
1幕3場でジークフリードが岩室でブリュンヒルデを強姦するシーンがある。ハーゲンの計略で忘れ薬を混ぜた酒を飲まされたジークフリードはブリュンヒルデのことを忘れてしまう。隠れ頭巾をかぶってグンターになりすまし、怪力で指環を奪い取り、ブリュンヒルデは無防備な姿にされてしまう。そしてブリュンヒルデの住居である岩室に追いやって強姦し、いったんブリュンヒルデはドアまで這い出してくるが、再び部屋に入れて犯す。電灯が灯る窓から悲劇がうかがえる。つまりジークフリードは次の妻であるグートルーネに忘れ薬を飲まされ、ブリュンヒルデは本当の夫に強姦される、しかも場所は自分の部屋という複雑で残酷な話になっている。このオペラの初演は1876年、日本でいうと明治9年だが、そんな昔から130年もこんな露骨な強姦シーンが繰り返し上演されてきたのかと、びっくりした。
そこで高辻知義氏の翻訳(音楽の友社2002.9 p264)をみてみた(次のように書かれていた)。
ブリュンヒルデ:さがれ、盗賊!
狼藉をはたらく盗っ人!
厚かましく、私に近寄るな!
指環は私を鋼よりも強くする。
お前は決して指環を奪えない!
ジークフリート:お前から指環を奪え、と教えてくれているのだな!
今こそ、お前はおれの物だ!
ブリュンヒルデ、グンターの花嫁よ――
お前の岩室を借りるぞ!
ブリュンヒルデ:何を守れというの、この憐れな女に!
ジークフリート:さあ、ノートゥングよ、証人になれ、
おれの求婚には、左方に悖る点のなかったことの!
義兄弟に誠を尽くしつつ、その花嫁から、おれを隔ててくれ!
(ブリュンヒルデの後を追って入る。幕が降りる)
今回舞台でみたほど露骨ではない。どうやらキース・ウォーナーの演出のようだ。
映写フィルムの多用、赤、青、黄色の蛍光インキの色の傾いている家、ジグゾーパズルの指環というウォーナーの奇抜な演出には、3作みてきたのでだいぶん慣れた。今回は外科医のスタイルの家臣団、ギービヒの領土を示す地図と死すべきジークフリードを象徴する羽をむしられた鶏(羊かもしれない)が出てきた。ゲルマンの伝説風の演出でなく1930年ころの時代背景のポップな演出は、これはこれでよいと思う。しかしワーグナーの重厚な音楽とはやはり合わないと思った。ヴィラ・ロボスやプーランクならよかったのかもしれない。
歌手では、ブリュンヒルデ役のイレーネ・テオリンがすばらしかった。とくに最終場面の「がっしりした薪のやまを私のため、あそこ、ラインの岸に堆(うずたか)く積み上げなさい」から「あなたの妻が、喜ばしい挨拶を送ります!」までの長いアリアが感動的だった。テオリンはスウェーデン生まれ、16歳で妊娠・結婚、25歳までに3児を生んでから音楽学校に入学したという人だ。張りがある強い声で、がっしりしたブリュンヒルデらしい体格、オペラグラスでみると意志の強そうな顔の美人だった。
日本人ではグートルーネ役の横山恵子の透明な声がよかった。また男性合唱が迫力があった。わたしが聞いたなかでは2007年の「さまよえるオランダ人」に次いでよかった。10年たって新国立劇場合唱団がだんだんこのホールになじんできたのと、合唱指揮の三澤洋史の功績だろう。
オケに対しては、わたしの席の左隣の男性がブーイングを飛ばしていた。「最低」と話していたのでそういうものなのかとも思った。わたしは他の演奏を大して聴いていないこともあり、よくわからなかったのだが・・・。
音楽は4管編成、ハープが4台、ティンパニーも2台という大編成だった。プログラムによればホルンは4本でなく9本だった。うち4本くらいはワグナーチューバとの持ち替えだった。わたしはワグナーチューバの持ち替えをはじめてみた。
☆神々の黄昏でもっとも有名な曲は、3幕2場の「ジークフリートの葬送行進曲」だ。吹奏楽では、40年ほど前に玉川学園高等部の定期コンサートでの演奏を、小田急線の玉川学園まで行き、講堂のようなところで聞いた記憶がある。ダイナミックで迫力ある演奏だった。
新国立劇場のHPからストーリーを引用する。
【序幕】前奏曲に続いて幕が開く。三人の運命の女神が綱を編むうちに、もつれて切れてしまう。運命から見捨てられたと嘆く彼女たちは、母エルダのもとへと降りてゆく。ジークフリートとブリュンヒルデが現れ、夫は妻に指環を与えてから彼女の愛馬にまたがり、腕試しの旅に出かける。「ジークフリートのラインへの旅」の間奏曲が演奏される。
【第1幕】ライン河畔のギービヒ家。家長のグンター、妹グートルーネ、グンターの異父弟で邪な男ハーゲンの三人が勇士ジークフリートの噂を語る。そこにジークフリート本人がやってきて、自分の素性を打ち明ける。薬入りの飲み物を口にした彼は過去をすべて忘れ、目の前のグートルーネに惹かれる。グンターは彼に「火に包まれているブリュンヒルデを連れてきて、自分の妻に与えてくれるなら、妹を嫁にやろう」と告げる。二人は兄弟の盃をかわし、河を下る。ハーゲンはほくそ笑む。場面が変わり、ブリュンヒルデの前に姉妹のヴァルトラウテが現れて、「指環をラインの乙女たちに返してくれれば、神も世界も平和になる」と告げる。しかしブリュンヒルデはそれに応じない。その後、記憶を失くしたジークフリートが隠れ頭巾を身につけて現れ、グンターの願いどおり、ブリュンヒルデを連れ去るべく、彼女から指環を奪ってしまう。
【第2幕】前奏曲に続いてギービヒ家。ハーゲンの夢に実父アルベリヒが現れて、「指環を乙女たちに返すな」と告げて消える。朝になりジークフリートが戻る。彼がハーゲンとグートルーネに事の次第を語る。ハーゲンが角笛を吹いて家臣を集める。ブリュンヒルデを伴って現れたグンターは、「自分と彼女、妹とジークフリートの結婚式だ」と告げる。その言葉にブリュンヒルデは驚愕、ジークフリートの姿を認めて呆然とし、彼の指にある指環を目にして神々に復讐を誓う。怒りと絶望の中、彼女はハーゲンに「ジークフリートの急所が背中にある」と教えてしまう。婚礼を祝う行列が近づく。
【第3幕】前奏曲に続いて河畔の低地。ラインの乙女たちがジークフリートに指環の恐ろしさを教えるが彼は理解しない。ハーゲンとグンターが現れる。ハーゲンはジークフリートの背中を槍で突き殺す。人々は英雄の死を悲しみ、遺骸を運ぶ。ギービヒ家ではグートルーネが夫の帰りを待つが、冷たくなった彼を目にして逆上する。ハーゲンは指環を要求し、グンターと争って彼を殺す。ブリュンヒルデが現れて、「あなた方全員が裏切ったジークフリートの妻が復讐に来た」と告げる。彼女は火葬の為の薪を用意させ、夫の遺骸から指環を抜き取り、燃え盛る炎を目指して愛馬に跨り突き進む。ライン河が炎に流れ込み、乙女たちは指環を取り戻し、ハーゲンは水中に引きずり込まれる。炎は天上をも包み込む。
1幕3場でジークフリードが岩室でブリュンヒルデを強姦するシーンがある。ハーゲンの計略で忘れ薬を混ぜた酒を飲まされたジークフリードはブリュンヒルデのことを忘れてしまう。隠れ頭巾をかぶってグンターになりすまし、怪力で指環を奪い取り、ブリュンヒルデは無防備な姿にされてしまう。そしてブリュンヒルデの住居である岩室に追いやって強姦し、いったんブリュンヒルデはドアまで這い出してくるが、再び部屋に入れて犯す。電灯が灯る窓から悲劇がうかがえる。つまりジークフリードは次の妻であるグートルーネに忘れ薬を飲まされ、ブリュンヒルデは本当の夫に強姦される、しかも場所は自分の部屋という複雑で残酷な話になっている。このオペラの初演は1876年、日本でいうと明治9年だが、そんな昔から130年もこんな露骨な強姦シーンが繰り返し上演されてきたのかと、びっくりした。
そこで高辻知義氏の翻訳(音楽の友社2002.9 p264)をみてみた(次のように書かれていた)。
ブリュンヒルデ:さがれ、盗賊!
狼藉をはたらく盗っ人!
厚かましく、私に近寄るな!
指環は私を鋼よりも強くする。
お前は決して指環を奪えない!
ジークフリート:お前から指環を奪え、と教えてくれているのだな!
今こそ、お前はおれの物だ!
ブリュンヒルデ、グンターの花嫁よ――
お前の岩室を借りるぞ!
ブリュンヒルデ:何を守れというの、この憐れな女に!
ジークフリート:さあ、ノートゥングよ、証人になれ、
おれの求婚には、左方に悖る点のなかったことの!
義兄弟に誠を尽くしつつ、その花嫁から、おれを隔ててくれ!
(ブリュンヒルデの後を追って入る。幕が降りる)
今回舞台でみたほど露骨ではない。どうやらキース・ウォーナーの演出のようだ。
映写フィルムの多用、赤、青、黄色の蛍光インキの色の傾いている家、ジグゾーパズルの指環というウォーナーの奇抜な演出には、3作みてきたのでだいぶん慣れた。今回は外科医のスタイルの家臣団、ギービヒの領土を示す地図と死すべきジークフリードを象徴する羽をむしられた鶏(羊かもしれない)が出てきた。ゲルマンの伝説風の演出でなく1930年ころの時代背景のポップな演出は、これはこれでよいと思う。しかしワーグナーの重厚な音楽とはやはり合わないと思った。ヴィラ・ロボスやプーランクならよかったのかもしれない。
歌手では、ブリュンヒルデ役のイレーネ・テオリンがすばらしかった。とくに最終場面の「がっしりした薪のやまを私のため、あそこ、ラインの岸に堆(うずたか)く積み上げなさい」から「あなたの妻が、喜ばしい挨拶を送ります!」までの長いアリアが感動的だった。テオリンはスウェーデン生まれ、16歳で妊娠・結婚、25歳までに3児を生んでから音楽学校に入学したという人だ。張りがある強い声で、がっしりしたブリュンヒルデらしい体格、オペラグラスでみると意志の強そうな顔の美人だった。
日本人ではグートルーネ役の横山恵子の透明な声がよかった。また男性合唱が迫力があった。わたしが聞いたなかでは2007年の「さまよえるオランダ人」に次いでよかった。10年たって新国立劇場合唱団がだんだんこのホールになじんできたのと、合唱指揮の三澤洋史の功績だろう。
オケに対しては、わたしの席の左隣の男性がブーイングを飛ばしていた。「最低」と話していたのでそういうものなのかとも思った。わたしは他の演奏を大して聴いていないこともあり、よくわからなかったのだが・・・。
音楽は4管編成、ハープが4台、ティンパニーも2台という大編成だった。プログラムによればホルンは4本でなく9本だった。うち4本くらいはワグナーチューバとの持ち替えだった。わたしはワグナーチューバの持ち替えをはじめてみた。
☆神々の黄昏でもっとも有名な曲は、3幕2場の「ジークフリートの葬送行進曲」だ。吹奏楽では、40年ほど前に玉川学園高等部の定期コンサートでの演奏を、小田急線の玉川学園まで行き、講堂のようなところで聞いた記憶がある。ダイナミックで迫力ある演奏だった。