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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

大林宣彦監督の故郷・尾道

2023年01月22日 | 日記

尾道は、故・大林宣彦(のぶひこ)監督の生まれ故郷で、「転校生(1982)、「時をかける少女(83)、「さびしんぼう(85)の尾道三部作、「ふたり(91)、「あした(95)、「あの、夏の日(99)の新尾道三部作の舞台となった町である。そこでレンタサイクルでロケ場所を訪ね歩いた。
6本のうち自分が見たのは4本、それもかなり昔のことで、部分的にしか覚えていない。行く前にロケ地ガイドのサイトだけは見て行った。
以前、尾道の対岸、観音寺で「青春デンデケデケデケ(1992)ロケ地を同じように自転車で巡ったことがあった。行けばなんとかなるだろうと思った。しかし観音寺の場合は観光協会でつくったかなり精密なロケ地マップがあったのだが、「おのみちロケ地案内図」(市観光課、観光協会)は「一美の家(西土堂町 弓場邸)」などと具体的な記述はあるものの肝心の地図の道路が略図なので、これで辿り着くのは至難の業だった。尾道の町を知っている人にはこれで十分なのかもしれないが・・・。
おのみち映画資料館という施設があるが、ネット情報では、大林監督の作品はなく冷淡だと書かれていた。大林監督の尾道ロケ関連の資料がないのは事実だったが、窓口の方に声をかけると、いろいろ親切に教えていただいた。ひとつは一夫の家、もうひとつは大林監督の生家だ。
ロケ場所の詳しいデータがないのは、大林監督がそういうファンの聖地訪問や生家探検などを好まなかったからではないか、とのことだった。一ファンとしてはちょっと残念だ。
ついでながらこの映画資料館は、明治時代に倉庫として利用されていた蔵を改装して作られた資料館で、由緒ある建物の有効活用が第一目的なのではないか、とのことだった。

一夫の家のロケ地 海岸べりにあった。いまにも母(樹木希林)が出てきそうだ
わたくしがわかったロケ地は、「転校生」で、2人が転がり落ちた階段(御袖天満宮)、一夫の家(尾崎本町)、一美の家に行くため自転車で駆け上った跨線橋、一美のおばあちゃんの法事のあった寺(福善寺)、ラストで一夫と一美が別れた場所(市役所前)など。
「ふたり」で、ピアノ教室に行くとき乗るフェリー乗り場(福本渡船乗船場)、事故現場(海徳寺下の坂道)、ピアノの発表会のあった寺(浄土寺)、美加と真子が討入りの時待ち合わせした神社(艮(うしとら)神社)、真子の家(魚信)など。

「転校生」で2人が転がり落ちた御袖天満宮の階段(長江1丁目)
大林監督の出身小学校は土堂小学校、高校は尾道北高校とウィキペディアにも出ているが、なぜか出身中学はわからない。地元の方の話では、この学区なら長江中学校だろうとのこと。土堂小からは1kmほど距離があるが、北高とはほんの200mくらいの場所にある。
土堂小学校は学校統合問題で揺れているらしく、尾道のアーケード商店街に何枚も「土堂小学校存続を願う地域の会」のポスターが貼ってあった。高校は創立98年、一学年200人弱、6-7クラスの規模の学校だ。校内に同窓会館まである伝統校のようだった。
大林監督の生家が医者の家ということは判明しているが、場所は千光寺へ上がる坂の途中だろうとのことで、歩くとたしかに大林(通用口)という表札をみつけた。1-2軒おいて2階建ての聖華寮と書かれた鉄筋の建物があった。病院かと思ったが、名前からすると看護婦さんの寮だったのかもしれない。
見下ろすと山陽本線の線路、もっと先には瀬戸内の海のながめがよく、こういうところで育ったのかと納得できた。
尾道は、呉と同じように坂の多い街で、しかも細い道や階段が多く、自転車で回るのは不都合だった。ただ駅から尾道北高校に行くのはかなり距離があるので、やはり乗っていってよかった。

監督の母校・尾道北高校(長江3丁目)
帰宅してから「転校生」「ふたり」を見直してみた。ただ「転校生」のレンタルDVDはないようで、間違えて「転校生――さよなら あなた(2007 主演:森田直幸、蓮佛美沙子)といういわゆる長野版を借りてしまった。仕方なく自宅にあったテレビ版をみたが、残念なことに77分までしか入っておらずエンディングがわからない。
「転校生」は40年前の作品なので、LGBTQの現在からみると、時代を感じさせる部分もあった。男らしさ、女らしさの表現で、男はがさつな食べ方、がに股で歩き、いばった言い方をし、女はその逆、たとえば女らしく内股で歩く、など「らしさの典型」の連発、おそらく山中恒の原作でもそうなっているのだろう。「お嫁に行けなくなっちゃう」というセリフなどアウトだろう。考えてみると、そうした認識の差が40年の社会の進歩なのかもしれない。

「ふたり」の事故現場(東久保町)
なお、映画を見直して、向島には行くべきだった。「転校生」の水泳教室や「ふたり」の渡船や駅伝マラソン、「さびしんぼう」の百合子宅への家路のロケ地だったからだ。せっかく自転車に乗っていたのに惜しいことをした。市役所手前にある「つたふじ」という尾道ラーメンの有名店で、開店前に行っても1時間近く待たされたのが時間的に痛かった。たしかに待つ甲斐のあるおいしいラーメンではあったが・・・。
ところで昔みた映画を見返して気づいたことは、大林監督は若いヒロインを発掘するのがうまく、また脇役にいい俳優を起用するのが得意だということだ。「時をかける少女」の原田知世(映画デビュー・初主演)、「さびしんぼう」の富田靖子(デビューから3本目)、「ふたり」の石田ひかり(映画デビュー作)、「転校生」の小林聡美も映画デビュー作、長野版「転校生」の蓮佛美沙子も映画初主演だ。
脇役では「転校生」の一夫の母に樹木希林、2人の教師役が志穂美悦子、「ふたり」の姉妹の父が岸部一徳、母は富司純子、実加のライバル万里子が中江有里、その母が吉行和子なのだからすばらしい。奥方の大林恭子プロデューサーが優秀なのだろうか。
最後に尾道の町の感想を書く。駅を出たときは普通の地方都市にみえた。しかし駅近くのアーケードのある商店街に入ると、まず林芙美子の記念館がある。芙美子通り、土堂中商店街、本町センター街、絵のまち通り、尾道通りと5つのアーケード商店街が延々1.2キロも続き、観光客と思われる人が大勢歩いている。アーケードごとに、異なるデザインのたれ幕が吊るされていた。
商店街の一筋裏の海岸ぎわにもいくつも店があり、大和湯という一見古い銭湯かと思うと、建物をそのまま使った中華の飲食店だったりする。

山陽本線に沿って、土堂小学校近くの持光寺から新尾道大橋手前の海龍寺まで、わずか1.8キロの線路沿いの山裾に16もの寺が並んでいる。寺なので、本堂や屋敷だけでなく墓もあるので敷地は広い。大きな道路は線路の海側(南側)にあり、いくつか線路を越えるトンネルのようなものがあり、短い階段を上ると寺に上がる道がある。こういう光景はほかの町でも見たが、尾道のこの地域はずいぶん密度が高いと思った。わたしは行っていないが、駅西側の西願寺(さびしんぼうのヒロキ(尾美としのり)や母(藤田弓子)が住む寺)にも行けばよかった。
尾道北高に向かう途中、なぜこんなところにと思うようなところに画材店があり驚いた。その近くに小林和作という独立美術協会所属の洋画家の旧居があったので、弟子も含めそのための画材店だったのかもしれない。
長い商店街の東端「尾道通り」の近くにあるうおしま大黒丸(久保2丁目)
☆旅の楽しみのひとつはいい酒場にめぐりあうことだ。もちろん初めて行く土地で偶然そんな店に出くわすことは稀なので、居酒屋礼賛の浜田さんのブログや太田さんの「居酒屋味酒覧」を頼りにすることが多い。尾道で浜田さんのブログに紹介されているのは「たまがんぞう」と「うおしま大黒丸」だ。「たまがんぞう」は外からのぞいただけ、「うおしま大黒丸」は商店街の東端の近くにあったが、たしかに魚がうまくいい店だった。
ただここでは、浜田さんお気に入りの呉駅近くの森田食堂のことを書いておく。浜田さんは、呉でも長く勤務されたが、行きつけだった店として推奨されている店だ。店内に、めし(大220、中180、小170)、みそ汁100、湯豆腐300、カレーライス550、牛肉丼600などの札が下がっている。特徴は入口近くに置いてある冷蔵ケースで明太子200、冷や奴200、梅干、らっきょ100など。もちろん魚も多い。
すずこラムネ200、「おかえりなさい、すずさん」のポスターもあった。たまたま店主の奥方の名がすずこだったので、その名前にあやかったとのことだった。義理のお姉さんとのツーショット写真の下に「母を大事に。妻を大事にそれが『呉』男じゃ」との貼紙があった。そのいわれは聞いていない。
昼下がりでこれから列車に乗るところだったのでわたしは清酒二級330といわし300だけにしておいた。いわしの量が多かった。またゆっくり訪ねたい店だった。

呉駅近くの森田食堂

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。


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