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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

馬場管の「死の島」「悲愴」その他

2012年01月30日 | 日記
1月22日(日) 午後、練馬文化センターで高田馬場管弦楽団第79回定期演奏会が開催された。空はどんよりとして寒く、前日のように雪が降り出しそうな天気だった。
この日の指揮は横島勝人氏で、プログラムは下記の3曲だった。
    ラフマニノフ/「死の島」op.29
    ベートーベン/ヴァイオリン協奏曲ニ長調op.61
    チャイコフスキー/交響曲第6番ロ短調「悲愴」op.74
だった。
ラフマニノフの「死の島」は初めて聞いた。「死の島」はアーノルト・ベックリンのタイトルで、世界に4点ある。ただラフマニノフがみたのは原画ではなくマックス・クリンガーが銅板画で作成した白黒の複製画だったと、プログラムにあった。プログラムの筆者とおなじくわたくしもベルリンのアルテ・ナショナルギャラリー(ポツダム広場の新(ノイエ)国立美術館と対比させている)でみた。フンボルト大学(旧ベルリン大学)や国立歌劇場の近くだ。ベックリンのこの絵のほか、セガンティーニの「家路」、レンバッハのワグナーの肖像画、クリューゲルの「1822年のオペラ座前の行進」という大作などがある。
「死の島」は、のっけからハープ2台が出てくる大編成の曲だ。5/8拍子で、小舟が死の島の周りを巡って波間を漂うような暗い曲だった。

あとの2曲はとびきり有名な曲だ。ベートーベンのヴァイオリン協奏曲はメンデルスゾーン、チャイコフスキーと並び三大協奏曲といわれる。ソロは東京シティ・フィルのコンサートマスターで、この楽団の弦のトレーナー・戸澤哲夫さん。当然ながら息はピッタリ合っている。ソリストとしての派手さはないが、オケを立てるような安定した演奏で、低音から高音、ハーモニクスまで含め豊かな音を聞かせていただいた。
有名な曲だが、1楽章の終わりのとても長いカデンツァで、ティンパニーが伴奏で出てきた。これは聞いたことがなかったが、解説によればシュナイダーハン版の楽譜なのだそうだ。伴奏付きなので、指揮も付いていた。そういう光景をみたのも初めてだった。
最後は悲愴、これもとても有名だが、横島勝人氏はテンポがすごく遅い。プログラムに書かれた標準演奏時間は50分を大きく上回り60分かかった。これだけ遅いと、音楽の安定性は感じるが、馬場管らしいダイナミズムや迫力、緊張感、キレを感じなかった。ちなみにマゼールは42分、カラヤンは46分、バーンスタインが58分だったとプログラムに書いてあった。

この日わたしは開場10分後に会場に入ったが、練馬文化センター大ホールの1階864席は8割方埋まっており、開演10分前にはほぼ満席になった。40年近い歴史をもつオケということもあるが、日本にクラシックが根付いた結果に思える。
20年ほど前にロンドンにいったとき王立音楽院の学生のコンサートを聞いた。小さな教会での平日昼間のコンサートにも地元の人が聞きにきていた。馬場管の観客は7割くらいが60歳以上、5割は70歳以上にみえた。これもヨーロッパと同じである。

ベルリン芸術大学
ここから先はベルリンで聞いた音楽の話である。
昨年ベルリンにいったとき、ベルリン芸術大学の学生コンサートを聞こうとした。ツォー駅の北にベルリン芸術大学のコンサートホールがある。11ユーロの有料コンサートで「コール」とあったので合唱かとは思ったが、それしかやっていないので行ってみた。すると学生ではなく、なんと警官の合唱団だった。ベルリン警察の混声合唱団に、ハンブルグベルリン中央の合唱団がゲスト出演するコンサートだった。日本のアマチュアのほうがレベルは高かった。ただドイツ民謡「別れ」、マイフェアレディの「踊り明かそう」、ウェーバーの「狩人の合唱」、ヴェルディの歌劇「ナブッコ」の合唱「行け,わが思いよ,金色の翼に乗って」などポピュラーな曲が多く、語学がダメでも楽しめた。
コンサートホールの北隣がお城のような感じの芸術大学である。芸大は広大なベルリン工科大学の一角にあった。ただ音楽学部はここではなく場所が違った可能性もある。
このコンサートホールは旧フィルハーモニーが焼失したあと1963年までベルリンフィルの本拠地だったそうだ。

ベルリンフィルの演奏も聞いた。本当はサイモン・ラトルの指揮で聞きたかったが、(残念ながら)佐渡裕の客演の時期だった。武満徹の「フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム」ははじめて聞いた曲だった。五角形のホールに天井から吊るされたチューブラーベルにつながる赤、青、緑、黄、白の5色のリボン、5色の衣装をまとった打楽器奏者たちがパフォーマンスにみえた。
ショスタコーヴィチの交響曲5番には期待したが、佐渡氏は2楽章くらいから自分に酔ってしまったようで、統制の効かない演奏だった。テレビで、樫本大進だったように思うが「ベルリンフィルは、この指揮者はダメだと思ったら『オレたちのやり方』でやってしまう」と話していた。日本人観客の多い演奏会で、後ろの席の人が「オーケストラがよかった、ということですな」と言っていた。
しかしオケのアンサンブルは確かにすばらしかった。とくに弦がそろうと、こんなに強い音が出るものか、ファゴットがこんなに大きな音が出るのかと驚いた。53ユーロ(現在のレートなら5300円)は得だった。チケットはネットで購入したが、売り出し初日はなかなかつながらなかった。きっと業者の人も含め、世界各国からアクセスが殺到するのだろう。

☆ところで、フィルハーモニーの黄色の五角形の建物がある付近はナチス時代、精神病患者を「生きるに値しない生命」として安楽死させるT4作戦の本部があった場所だ。1939年から1941年まで続き、その後ユダヤ人絶滅のホロコーストに続いた。「生きるに値しない生命」は、石原慎太郎都知事と同じ発想である。
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