4月26日(火)午後、東京地裁に「安保法制違憲訴訟」が提訴された。差止訴訟は原告52人、国賠訴訟は原告500人、訴訟代理人は620人という前例のない大型訴訟である。また福島地裁いわき支部にも原告200人が提訴した。

これに先立ち4月20日夕方、参議院議員会館で「4.20安保法制違憲訴訟 提訴決起集会」(主催:安保法制違憲訴訟の会)が開催された。3人掛けのテーブルがすべて満席となり、400人以上の参加で立ち見の人も多数、という盛会だった。
違憲訴訟のことは昨年秋からウワサは聞いてはいたが、その後どうなったのかわからなかった。それでこの集会に参加すると、すでに一般市民の原告募集も進んでいることがわかった。
裁判は具体的には差止請求行政訴訟と国家賠償訴訟の2種類から成る。国家賠償訴訟は原告が市民約2000人(東京の第一次訴訟は約500人)、訴訟代理人が全国の弁護士620人という大型訴訟で、内容も前例がないものである。訴訟代理人には元裁判官が三十数人、元検察官も数人含まれている。元裁判官は高齢で弁護士登録しない人もいるので、三十数人というのは結構な数だそうだ。
共同代表・寺井一弘さんの「憲法訴訟の意義と現状」に引き続き、伊藤真弁護士のスピーチがあった。
なぜ今違憲訴訟か 共同代表・伊藤真さん

現在この国では前代未聞の事態が進行している。安保法制は日本を戦争できる国に変える。国のかたちを変えることは、本来主権者である国民の意思でしかできないはずだ。それを、最高裁が「違憲状態」と断じた正統性のない選挙で過半数の議席を獲得しただけで、しかも有権者の24%の支持しか得ていない自公政権が、憲法を無視し国を変えるのは、国民の主権侵害であり、法的には一種のクーデターにほかならない。
前代未聞の事態に対しては、これまでとはまったく異なる前例のない手段で対処しなければならない。党派を超えた総がかり行動、2000万人署名、野党統一候補擁立による選挙である。ならば法律家としても前例のない規模と質の訴訟を提起しなければばならないと考えた。司法を通じてこの異常事態から脱却し、政権与党による憲法破壊のクーデターを阻止し、日本の憲法価値を守り、立憲主義と民主主義を取り戻すため、職責を果たさねばならない。
なぜ、いま訴訟を提起するのか。理由は二つある。ひとつは弁護士としての職責を果たし、司法の役割を問うため、もうひとつは国民運動の一環として必要だと考えたからだ。
目の前に苦しんでいる人がいて、また今後だれか犠牲者となる事件が起こるまで傍観することは、法律家としてけしてできない。また裁判所には違憲立法審査権の行使を通じて壊された憲法秩序を回復する職責がある。裁判官のなかにも違憲法制を看過できないと思う人も必ずいるはずなので、裁判官に判断の場を提供することも弁護士の使命のひとつだ。国民運動の一環として裁判を通じて安保法制を許さないという世論をより強くより大きくし、選挙を中心とする多様な政治過程をつうじて違憲の安保法制を廃止させることこそ最大の目的であることを再度確認する。
2つの裁判が提起されているが、共同代表の福田護さんと田村洋三さんから解説があった。その概要を紹介する。
1 差止請求行政訴訟
差止の内容は
1 内閣総理大臣は、自衛隊に存立危機事態における防衛出動をさせるな
2 防衛大臣は、重要影響事態に際し、外国の軍隊への兵站活動をするな
3 防衛大臣は、PKO法に基づき外国に出て行って兵站活動をするな
4 原告に対し損害賠償請求を求める
というものだ。
原告は、戦争被害者(原爆、空襲など)、基地周辺住民、戦争に駆り出され危険な目にあう航空・船舶・鉄道など公共機関労働者、戦場ジャーナリスト、子どもがいつ戦争に駆り出されるかもしれない母親、自衛隊員の父親など、どういう権利侵害が発生するか具体的に説明できる典型的な人、52人(1次訴訟分)を選んだ。自分が危険な立場におかれる人や人格を侵害される人たちだ。
侵害される権利としては、平和的生存権、人格権、憲法改正・決定権(憲法制定・改正権を有する主権者として、憲法の条項と内容を自らの意思に基づいて決定する権利のこと。国民投票などなしに閣議決定で変更したことは権利侵害に当たる)がある。前例のない裁判となる。
2 国家賠償訴訟
原告は1の原告に加え、一般市民も多数含まれ500人に上る(1次訴訟分)。国家賠償訴訟は、国家賠償法1条1項、すなわち公務員が違法に権利侵害したときは、属する国や地方公共団体が賠償責任を負うという条文に基づく。違憲の安保法制を閣議決定し、国会に提出し多数で押し切って議決したことを違法行為ととらえ、その加害行為について原告は精神的苦痛を受けたのでその賠償を求めるという構成の裁判だ。加害をした公務員とは、国務大臣と法案に賛成した国会議員ということになる。
侵害された権利は1と同じだ。損害賠償請求額は1人10万円とする。
次に原告の方7人から発言があった。そのなかから大学教員の志田陽子さんの発言を紹介する。

志田陽子さん(憲法学者)
私立大学で日本国憲法を教えている。2014年以降安保法制の動きにより、憲法研究者や教員には、わたくしも含め精神的、人格的損害が生じている。また職業上の損害も生じている。
大学教員や高校教員は憲法の根幹になる知識を教え、学生が自分自身で考える主権者教育を行っている。しかし2014年7月の集団的自衛権の行使容認の閣議決定以降、新たな政府解釈をどう位置づけて教えればよいのか困惑している。さらに混乱のなかの議決で安保法制が有効に成立したと教育者として言い切ってよいのかどうかもわからない。引き続き「多様な議論がありうる」と教えることが職責なのだが、「政治的偏向」とのレッテルを恐れ本来の教育活動や社会活動がやりにくくなった。憲法に関する学習会や講演会を学内で開催できなかったり、許可されないことが実際に起きている。
多くの市民が信頼できる学識経験者の話を聞くのに会場が借りられないので、国会前の路上に聞きに行くと警官がこわくて身のすくむ思いがするという声もしばしば耳にする。私自身も国会前でのスピーチのあと飲み会に行こうとしたとき足止めされ、自分の立場やなぜ通行したいかを説明するのに1時間もかかったこわい体験がある。法的安定性が損なわれた一場面ともいえる。
将来の日本を背負う若者に必要な知見を手渡すため、平常心で普通に憲法教育をするには、裁判所に自国の憲法の根幹と矛盾する国政のあり方を違憲だと判断してもらうしかない。そこで原告に立候補した。
そのほか、在日三世でピアニストの崔善愛(チェソンエ)さん、足立区花畑の僧侶・石川徳信さん、両親も含めて身体障碍者の原かほるさん、国会前コーラーの菱山南帆子さん、埼玉のママの会の辻仁美さん、横須賀基地周辺住民の新倉裕史さんからそれぞれ安保法制の自分自身への権利侵害や精神的苦痛について具体的なスピーチがあった。
菱山さんは「わたしたちが安倍政権を被告席に引き据えて告発する、新しい闘いに立ち上がることになった。この闘いを擬人化すれば、憲法破壊者を、憲法そのものが立ち上がりこらしめる闘いだ」と評し、喝采を浴びた。
会場には多くの国会議員が参加していたが、戦争法廃止の野党各党代表からスピーチがあった。民進党・近藤昭一幹事長代理、共産党・山下芳生副委員長、社民党・吉田忠智委員長である。スピーチはなかったが沖縄の糸数慶子議員(沖縄社会大衆党委員長)も参加していた。

鎌田慧さん
支える会について鎌田慧さんから「この会は原告を支える、応援するというだけではなく、自分たちがいっしょにやり枠をどんどん広げていこうという会だ。傍観者や無関心ではなく、いっしょに闘う運動にし、全国的に宣伝し、広げていく」と会の趣旨を説明した。最後に提訴宣言を採択し、欠席だった青井未帆さんのメッセージを読み上げて閉会となった。青井さんはこの裁判を「安倍政権の暴走に歯止めをかけ、憲法秩序の維持を大きな使命とするわが国の司法の役割を問うものとして大きく注目される」ものと位置付けた。
なお原告になるには、このサイトから申し込めば訴訟委任状が送付されることになっている。ありがたいことに経済的負担はないそうだ。そのかわり「支える会」(年会費一口3000円)に入ってほしいとのことだった。
わたくしもさっそく原告に立候補し支える会に会費を送金した。
なお裁判は4月26日の東京(一次)、福島県いわきのあと、札幌、仙台、埼玉、横浜、長野、名古屋、大阪、京都、岡山、広島など全国の地方裁判所で次々に提訴される予定だ。東京でも二次、三次の訴訟が提訴されることになっている。
☆4月27日一部追記

これに先立ち4月20日夕方、参議院議員会館で「4.20安保法制違憲訴訟 提訴決起集会」(主催:安保法制違憲訴訟の会)が開催された。3人掛けのテーブルがすべて満席となり、400人以上の参加で立ち見の人も多数、という盛会だった。
違憲訴訟のことは昨年秋からウワサは聞いてはいたが、その後どうなったのかわからなかった。それでこの集会に参加すると、すでに一般市民の原告募集も進んでいることがわかった。
裁判は具体的には差止請求行政訴訟と国家賠償訴訟の2種類から成る。国家賠償訴訟は原告が市民約2000人(東京の第一次訴訟は約500人)、訴訟代理人が全国の弁護士620人という大型訴訟で、内容も前例がないものである。訴訟代理人には元裁判官が三十数人、元検察官も数人含まれている。元裁判官は高齢で弁護士登録しない人もいるので、三十数人というのは結構な数だそうだ。
共同代表・寺井一弘さんの「憲法訴訟の意義と現状」に引き続き、伊藤真弁護士のスピーチがあった。
なぜ今違憲訴訟か 共同代表・伊藤真さん

現在この国では前代未聞の事態が進行している。安保法制は日本を戦争できる国に変える。国のかたちを変えることは、本来主権者である国民の意思でしかできないはずだ。それを、最高裁が「違憲状態」と断じた正統性のない選挙で過半数の議席を獲得しただけで、しかも有権者の24%の支持しか得ていない自公政権が、憲法を無視し国を変えるのは、国民の主権侵害であり、法的には一種のクーデターにほかならない。
前代未聞の事態に対しては、これまでとはまったく異なる前例のない手段で対処しなければならない。党派を超えた総がかり行動、2000万人署名、野党統一候補擁立による選挙である。ならば法律家としても前例のない規模と質の訴訟を提起しなければばならないと考えた。司法を通じてこの異常事態から脱却し、政権与党による憲法破壊のクーデターを阻止し、日本の憲法価値を守り、立憲主義と民主主義を取り戻すため、職責を果たさねばならない。
なぜ、いま訴訟を提起するのか。理由は二つある。ひとつは弁護士としての職責を果たし、司法の役割を問うため、もうひとつは国民運動の一環として必要だと考えたからだ。
目の前に苦しんでいる人がいて、また今後だれか犠牲者となる事件が起こるまで傍観することは、法律家としてけしてできない。また裁判所には違憲立法審査権の行使を通じて壊された憲法秩序を回復する職責がある。裁判官のなかにも違憲法制を看過できないと思う人も必ずいるはずなので、裁判官に判断の場を提供することも弁護士の使命のひとつだ。国民運動の一環として裁判を通じて安保法制を許さないという世論をより強くより大きくし、選挙を中心とする多様な政治過程をつうじて違憲の安保法制を廃止させることこそ最大の目的であることを再度確認する。
2つの裁判が提起されているが、共同代表の福田護さんと田村洋三さんから解説があった。その概要を紹介する。
1 差止請求行政訴訟
差止の内容は
1 内閣総理大臣は、自衛隊に存立危機事態における防衛出動をさせるな
2 防衛大臣は、重要影響事態に際し、外国の軍隊への兵站活動をするな
3 防衛大臣は、PKO法に基づき外国に出て行って兵站活動をするな
4 原告に対し損害賠償請求を求める
というものだ。
原告は、戦争被害者(原爆、空襲など)、基地周辺住民、戦争に駆り出され危険な目にあう航空・船舶・鉄道など公共機関労働者、戦場ジャーナリスト、子どもがいつ戦争に駆り出されるかもしれない母親、自衛隊員の父親など、どういう権利侵害が発生するか具体的に説明できる典型的な人、52人(1次訴訟分)を選んだ。自分が危険な立場におかれる人や人格を侵害される人たちだ。
侵害される権利としては、平和的生存権、人格権、憲法改正・決定権(憲法制定・改正権を有する主権者として、憲法の条項と内容を自らの意思に基づいて決定する権利のこと。国民投票などなしに閣議決定で変更したことは権利侵害に当たる)がある。前例のない裁判となる。
2 国家賠償訴訟
原告は1の原告に加え、一般市民も多数含まれ500人に上る(1次訴訟分)。国家賠償訴訟は、国家賠償法1条1項、すなわち公務員が違法に権利侵害したときは、属する国や地方公共団体が賠償責任を負うという条文に基づく。違憲の安保法制を閣議決定し、国会に提出し多数で押し切って議決したことを違法行為ととらえ、その加害行為について原告は精神的苦痛を受けたのでその賠償を求めるという構成の裁判だ。加害をした公務員とは、国務大臣と法案に賛成した国会議員ということになる。
侵害された権利は1と同じだ。損害賠償請求額は1人10万円とする。
次に原告の方7人から発言があった。そのなかから大学教員の志田陽子さんの発言を紹介する。

志田陽子さん(憲法学者)
私立大学で日本国憲法を教えている。2014年以降安保法制の動きにより、憲法研究者や教員には、わたくしも含め精神的、人格的損害が生じている。また職業上の損害も生じている。
大学教員や高校教員は憲法の根幹になる知識を教え、学生が自分自身で考える主権者教育を行っている。しかし2014年7月の集団的自衛権の行使容認の閣議決定以降、新たな政府解釈をどう位置づけて教えればよいのか困惑している。さらに混乱のなかの議決で安保法制が有効に成立したと教育者として言い切ってよいのかどうかもわからない。引き続き「多様な議論がありうる」と教えることが職責なのだが、「政治的偏向」とのレッテルを恐れ本来の教育活動や社会活動がやりにくくなった。憲法に関する学習会や講演会を学内で開催できなかったり、許可されないことが実際に起きている。
多くの市民が信頼できる学識経験者の話を聞くのに会場が借りられないので、国会前の路上に聞きに行くと警官がこわくて身のすくむ思いがするという声もしばしば耳にする。私自身も国会前でのスピーチのあと飲み会に行こうとしたとき足止めされ、自分の立場やなぜ通行したいかを説明するのに1時間もかかったこわい体験がある。法的安定性が損なわれた一場面ともいえる。
将来の日本を背負う若者に必要な知見を手渡すため、平常心で普通に憲法教育をするには、裁判所に自国の憲法の根幹と矛盾する国政のあり方を違憲だと判断してもらうしかない。そこで原告に立候補した。
そのほか、在日三世でピアニストの崔善愛(チェソンエ)さん、足立区花畑の僧侶・石川徳信さん、両親も含めて身体障碍者の原かほるさん、国会前コーラーの菱山南帆子さん、埼玉のママの会の辻仁美さん、横須賀基地周辺住民の新倉裕史さんからそれぞれ安保法制の自分自身への権利侵害や精神的苦痛について具体的なスピーチがあった。
菱山さんは「わたしたちが安倍政権を被告席に引き据えて告発する、新しい闘いに立ち上がることになった。この闘いを擬人化すれば、憲法破壊者を、憲法そのものが立ち上がりこらしめる闘いだ」と評し、喝采を浴びた。
会場には多くの国会議員が参加していたが、戦争法廃止の野党各党代表からスピーチがあった。民進党・近藤昭一幹事長代理、共産党・山下芳生副委員長、社民党・吉田忠智委員長である。スピーチはなかったが沖縄の糸数慶子議員(沖縄社会大衆党委員長)も参加していた。

鎌田慧さん
支える会について鎌田慧さんから「この会は原告を支える、応援するというだけではなく、自分たちがいっしょにやり枠をどんどん広げていこうという会だ。傍観者や無関心ではなく、いっしょに闘う運動にし、全国的に宣伝し、広げていく」と会の趣旨を説明した。最後に提訴宣言を採択し、欠席だった青井未帆さんのメッセージを読み上げて閉会となった。青井さんはこの裁判を「安倍政権の暴走に歯止めをかけ、憲法秩序の維持を大きな使命とするわが国の司法の役割を問うものとして大きく注目される」ものと位置付けた。
なお原告になるには、このサイトから申し込めば訴訟委任状が送付されることになっている。ありがたいことに経済的負担はないそうだ。そのかわり「支える会」(年会費一口3000円)に入ってほしいとのことだった。
わたくしもさっそく原告に立候補し支える会に会費を送金した。
なお裁判は4月26日の東京(一次)、福島県いわきのあと、札幌、仙台、埼玉、横浜、長野、名古屋、大阪、京都、岡山、広島など全国の地方裁判所で次々に提訴される予定だ。東京でも二次、三次の訴訟が提訴されることになっている。
☆4月27日一部追記