多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

辻本絵美「陽の湊」に感動した85回国展

2011年05月16日 | 美術展など
今年もチケットをいただき、国立新美術館に国展を見に行った。いつもは1階の絵画部から見始め、彫刻や写真を経て工芸部にたどりつくころには、物量に圧倒されかなり疲れてしまう。そこで今回はまず3階の工芸をみてから1階に降りることにした。

工芸部で今年最も注目したのは、一番奥の部屋にあった辻本絵美「陽の湊」だった。
白地の布に白の小さいパターンが織り込まれている。その上に細い赤の横線が引かれ、肩や裾の部分は間隔が密になっている。そして肩と裾に赤が乗る。それが半端な色ではない。紅蓮に燃えるような赤なのだ。裾の一番下の部分などは黒に近い色になっている。これはすごい。色が烈しいと、袖や裾の輪郭までくっきり立ち上がる。圧倒されしばらく立ち尽くした。

辻本絵美「陽の湊」
この作品のベースは白だったが、今年は白を基調にしたいくつかの作品が印象に強い。根津美和子「緑光」は裾と肩に淡い緑を配し、小島秀子「檸檬」は黄色を配していた。黄色はレモンのような淡い黄とみかんのような濃い黄の2色がある。色鮮やかな作品だった。
杉浦晶子「佐保姫」は白っぽいベージュの地に緑の連続リングが横に走っている。目に残像が残るような効果を上げていた。
山下健「吉野市松絣着物」は茶と緑の格子縞の作品だった。吉田悠子「朝を詩う」は白地にパステルのような淡い緑と黄色が配されていた。タイトルに影響されていると思うが、朝の連続テレビドラマのタイトルバックに使えそうなさわやかな作品だった。
白ベース以外では、村江菊江「湖北の郷」は裾が深い湖を表すような紺色、上は紺のチェック柄で湖面を吹き抜ける寒風を感じるような作品だった。

宮平初子「花扇」
人間国宝・宮平初子のベージュの地に細かい花織のある作品「花扇」は、前にも似た作品をみたような気がするが、何度みても完成され切っていて見あきることがない。この模様を拡大したようなのが宮城かおり「うららか」だった。初入選だそうだが今後を期待したい。
寺村祐子「蒼天の風 11」は、じゅうたんの上にも側面にも、長いカールした毛が付いている作品だった。毛足の長い犬、あるいは昔よくいたおじいさんのヒゲのような立体的な作品で、普通の織以外にこういうやり方もあるのかと思った。
出口晋子「タピストリー 11」はベージュの画面に矩形が40-50並んでいる。旗にもみえるし階段にも見える、抽象画を織物にした作品だった。
織以外のジャンルでは、加藤陽子「鶴首瓶」、川野恭和「唐草貼付文胴紐手付花瓶」、阿部眞士「白磁鎬手大鉢」などの白磁の作品、不思議な色の村山耕二や岡林隆雄のガラスが好きだった。自分の好みは何年たっても案外変わらない。

国展を見始めて5回目になる。すると名前は覚えていなくても、昨年もこの人の作品の前で立ち止まったという記憶がよみがえることがある。たとえば駆け足で眺めた絵画部の野々宮恒人上條喜美子瀬川明甫といった人の作品だ。どれも集合人物のテーマで、自分がどういう傾向の作品を好きなのか、再発見することになった。
絵画部の会場で、高橋美則「枯山水の庭」に足が止まった。広い砂利の向こうに石組みと松の枯山水が広がり、手前の縁に腰かけた3人の女性ながめている様子を俯瞰で描いた作品だ。気分がほっとする絵だった。

高橋美則「枯山水の庭」
国展は、毎年いろいろ新しい試みを行っている。絵画部では「未来のスターだ!若手作家の挑戦状」という30歳以下の作家29人の展示を行っていた。このなかでわたしが好きだったのは木村宙「夜」だった。モノクロの絵で、1点は洗濯機やテレビの中古家電販売店の店頭風景を描いたものだ。絵の中の看板には「1万円ヨリ」との文字があった。もう1点は電車の駅の夜景だった。

公募展なので、毎年物量に圧倒される。しかし一つの会場で写真も版画も彫刻も見られるのだから「お得」といえば「お得」だ。
今年は約3時間かけてみたが、工芸部以外は早足で歩いているだけのようなものだった。半券があれば出入り自由なので、次回は途中で食事休憩をはさみ、4時間くらいかけて見てみたい。それでも工芸部以外は、何にポイントを置いてみるか先に方針を定めてから回るべきである。普通の展覧会とはやはり違うので、「回り方」の作戦を立てることが必要なようである。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 空にヘリが舞った4.29反「昭... | トップ | 国立新美術館のシュルレアリ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

美術展など」カテゴリの最新記事