多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

今回もやはり問題がある育鵬社、自由社の中学教科書

2020年07月01日 | 日記
今年は、中学校教科書採択の年なので、全国各地で教科書展示会が開催された。わたくしも近所の教科書センターに、見本をみに行った。
毎回似たような感想になるが、育鵬社の歴史教科書は、神話、天皇、戦争の加害責任などが他社の普通の教科書と比較し今回もやはり問題がある。今回自由社が検定不合格になったことは喜ばしい(もっとも検定制度の問題を考えると、不合格による採択不可は問題ではあるが)。公民では、育鵬社・自由社の平和主義、国民主権、憲法改正、天皇制についての記述に問題がある。またここには書いていないが、立憲主義について、育鵬社・自由社の教科書は「憲法は権力の濫用を防ぐもの」という視点が弱すぎる。
道徳は、授業のまとめを「徳目」に持ち込もうとする姿勢がみられる。道徳を教科にしたときの問題がそのまま表われている。同じく、評価の問題も残る。なかでも日本教科書は22の徳目の達成度を自己評価させるもので、問題がある。
とりわけわたくしには、天皇制や国家神道を強調している点が気になった。
この記事を書くにあたり、子どもと教科書全国ネット21のミニリーフ「中学校新教科書を読む」「教科書検討資料集」を参考にさせていただいたことを付言する。

天孫降臨神話フル登場の育鵬社・歴史教科書
歴史的分野は、東京書籍、教育出版、帝国書院、学び舎など7社の教科書があるが、検定済みであっても、育鵬社はやはり特異な教科書だった。
神話を扱う「神話に見るわが国誕生の物語」(p56-57) イザナギ、イザナミに始まり、天照大神とスサノオの姉弟、スサノオのヤマタノオロチ退治、ニニギノミコトへの三種の神器授与と高天原の天孫降臨、神武東征と橿原での天皇即位は、古事記上巻「国産み」「天孫降臨」、中巻「神武東征」の神話をフル登場させ、2月11日は神武天皇の即位記念日だと「建国記念の日」のいわれまで紹介する。
一方、他の6社は「天皇が日本を治める由来を説明する歴史書として「古事記」「日本書紀」がまとめられ」た(東京書籍p45)と、むしろ記紀成立の理由を客観的に説明することに重点を置いている。東京書籍のように東北アジア、ポリネシア、ギリシャ神話など世界の神話との比較をしているものもある(p55)。そもそもねらいが異なる。

天皇制との関連では、神道について「日本人の宗教観」(p44)というコラムをつくり「わが国固有の宗教、神道の特色」というタイトルで、元日早朝の天皇の四方拝、新嘗祭、秋・冬の皇霊祭などを紹介し「皇室の祭祀と民間の祭祀には、深い信仰的つながりがあ」るという記述は、戦前の国家神道教育を彷彿とさせる。     

その他、日露戦争(p198)で本文に乃木希典と東郷平八郎の人名を入れ、しかも東郷は戦艦三笠で指揮する絵画、乃木は肖像写真にプロフィールまで付けて詳しく紹介している。
太平洋戦争を「アジアの国々を欧米による植民地支配から解放し、大東亜共栄圏を建設することが、戦争の名目」「この戦争を「自存自衛」の戦争としたうえで、大東亜戦争と名づけ」た(p242-243)などと書くのはもちろん育鵬社しかない。まるで国民学校時代の国定教科書のようだ。

「宮中祭祀」まで詳しく紹介する自由社・公民教科書
公民は、東京書籍、教育出版など6社の教科書があるが、育鵬社、自由社の2社は平和憲法や天皇の位置づけで、他社の教科書と大いに異なる。
自由社は、よほど天皇が好きなようで、力の入れ方が違う。
「もっと知りたい」(p68-69)という2ページの大きなコラムで「天皇のお仕事」を紹介している。憲法に定められた国事行為を紹介するのならよいが、令和天皇夫妻(公的表記は今上天皇なのだろうが、そういう呼称は使いたくなく、天皇・徳仁がよいのかもしれないが、まだ普及しているとはいえないので)の被災地見舞い(2019年)や、本来は天皇家の家内宗教行事であるはずの12の宮中祭祀まで説明する。伏見天皇から昭和天皇の4首の御製、かつて皇居で祈りを捧げるため使われていた石灰壇(いしばいのだん)まで写真を使い詳しく紹介している。
直前のページは日本国憲法の三大原則のひとつ、国民主権なのに「天皇の役割と国民主権」というタイトルにし、宮中でトランプ大統領と酒を酌み交わす令和天皇の写真まで入れている。

憲法改正の図解ですら「天皇が公布」の文字が特別大きい(自由社・公民)
さらにその前のページは「憲法改正」で、改正手続きの図解のゴールは「天皇が国民の名において公布」という大きな文字で締めくくっている。間違いではないが、こんなに大きく天皇という文字を入れなくてもよいと思うのだが。
育鵬社(p48)は憲法の3大原理のひとつ「平和主義」の説明なのに、自衛隊観閲式でオープンカーで起立した安倍首相が旭日旗に敬意を払い脱帽している写真を大きく掲載している。

そもそもこの2社は公民という科目の捉え方が他社と違うようだ。育鵬社は巻頭1pで「公民は、このように自分を国や社会など公の一員として考え、公のために行動できる人のことをいいます。(略)自分以外のもののためにも、努力し活動できる人が公民なのです」と定義し、右段末尾で「国と社会を支えることのできる「公民」へと成長していきましょう」と締めくくる。 
自由社も巻頭8pで「社会は国家というまとまりをもって初めて社会としての力を発揮します。私たちは、日本といういう国家の公民です。日本を支える公民として(略)しっかり学んでいきましょう」と科目の「目的」を説明する。
これではまるで戦前型の滅私奉公の人間になろうと呼び掛けているようだ。しかし学習指導要領(2017年改訂 p57)をみると、調べまとめる技能、説明したりそれらを基に議論したりする力と並び、「国民主権を担う公民として(略)自覚などを深める」としか書かれていない。この「国民主権を担う」という部分がとくに重要であり、これは現行憲法に沿った考え方だ。ちなみに東京書籍、教育出版は「持続可能な社会の実現」、日本文教出版は「社会とのかかわり」、帝国書院は「社会の中で生きる」に焦点を当てている。
なお、育鵬社の愛国心の定義でも同じようなことがいえる。
「国家と私たち」(p180)というタイトルで、「国の名誉や存続、発展などのために行動しようと思う気持ちを愛国心といいます。この愛国心が、多様な人々をひとつの国民へとまとめる重要な役割を果たしています」と定義する。しかし学習指導要領解説(社会編 平成29年7月)には「伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国や郷土を愛する」態度(p59)としか書かれていない。「愛国心が国民をまとめる重要な役割」というのは、育鵬社独自の見解であり、そういう生徒をつくりたいという強い願望なのだろう。
左下の欄外にはご丁寧にも「国旗国歌法」、右ページ上には国歌「君が代」の意味を掲載している。

伊勢神宮を特筆し、国家神道を思わせる日本教科書・道徳
道徳は、学校図書が撤退し、東京書籍、教育出版など7社になった。
先に述べたように、授業のまとめを22の徳目に落とし込もうとしていることが目立つ。
日本教科書の道徳 3年「C 集団や社会とのかかわりの最終ページ148ページ「もっと知りたい」というコラムは「伊勢の神宮」というタイトルで伊勢神宮と式年遷宮の2つを説明する。直前は「海と空」というトルコの航空機が日本人を救援にきてくれたという題材なので、伊勢神宮のコラムを入れる意図がわからない。このページの左のページは「D 自然や崇高なものとのかかわり」の扉のページになっており、深い森の木のイラストがあるのだが、まるで伊勢神宮の巨木のようだ。
式年遷宮を「すべて清らか。神様も、国も、国民も共に若返る」と説明するが、やはり国家神道の称揚を思い出させる。

知識だけでなく、行動まで自己評価させる日本教科書・道徳
自己評価について(p190)、「中学生で身につけたい22の心」というタイトルで、1レベルは「意味はわかるけれど、大切さを感じない」、2レベル「大切さや意味はわかるけれど、態度や行動にすることができない」、3レベル「大切さや意味は理解していても、、態度や行動にできる時とできない時がある」、4レベル「大切さや意味は理解していて、多くの場面で態度や行動にできている」の4レベルで評価するものだ。3レベルや4レベルは「態度や行動にできているか」を評価するものだ。こんなに露骨に、授業で子どもの内心に踏み込んでよいものか。いい成績を取るには「ウソ」を書け、「ウソも方便」と言っているようなものである。こんな教科書は使わないほうがよいと思う。

内容も高度、ページ数も290pある技術科教科書(開隆堂)
☆その他、いまは男女共修の技術科教科書にプログラミングが入った。技術は
A材料と加工、B生物育成、Cエネルギー変換、D情報の4分野で構成される。情報がまさにそうで、290pほどの教科書の90p近く約3割を占める。内容は、たとえば「案内ボタンのプログラム」(教育出版p234)、「課題を解決するプログラムの制作」(東京書籍p226)、「実習例 立入禁止エリアを判断する金属回収ロボット」(開隆堂p252)といったものだ。
ただでさえ
技術科は授業時間が少ないのに、先生方はどのように教えるのだろう、と思った。
国語や社会は昔から教科書のページ数が多かったが、いまは数学や理科も厚い。薄いのは音楽、美術くらいだ。今回は前回と比較し
ページ数が7.6%増え2004年ごろと比べ1.5-1.6倍に増えたという問題もある。
英語が小学校で正式教科になったため、中学英語の
語彙数が最大1.5倍に増え文法でも従来は高校で扱ったもの(たとえば仮定法)が中学に下りてくるなど、高度(生徒にとっては難しく)なったこともある

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「解説」が秀逸な東京国立近... | トップ | 高輪の丘に立つドイツ表現主... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

日記」カテゴリの最新記事