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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

読者回帰をめざしたブックフェア2016

2016年10月01日 | 日記
今年も東京ビッグサイトへブックフェアを見に行った(9月23日―25日)。主催者のメッセージに「出版業界からの要請を受け、次回2016年からは、ブックフェアを「読者向けイベント」と明確に位置づけて開催します」とある。昨年は大型ディスプレイや音響装置がいっぱいで、コーナー名も配信ソリューション、先端コンテンツ技術などとわけがわからなかった。
今年は(1)「本好き」の方々に喜んでいただく場、(2)まだ読書に馴染んでいない方々が、「本」を読むきっかけとなる場、を目標とした。
昨年は書籍のスペースは2階の展示も合わせると約1/6しかなかったのが、8割くらいに回復した。今年は10年前に戻ったというか、書籍のイベントらしくなった。開催時期も7月から「読書の秋」9月へ2か月遅くなった。また中国をはじめとする海外出版社のスペースが一時大きかったが、今年は1-2割くらいになった。その代わりスペース全体は1/4か1/5に縮小していた。出版推定販売額が11年連続でマイナスという状況なのだから仕方がない。とはいっても「読者ニーズ」に合わせた変更のようで望ましいことだ。

今年の目玉は郷土出版パビリオンだった。群馬の煥乎堂、岐阜の自由書房、鳥取・島根の今井書店など全国の27書店が出展していた。これらは書店新風会のメンバーなので名を知っている書店も多い。もちろん観光ガイド的な本がメインだが、煥乎堂は「高橋元吉詩集」「上州詩集」、長崎の好文堂は「グラバー魚譜200選」「長崎写縁」など一般書も売っていた。煥乎堂、豊川堂のように出版部門をもつ会社もあれば、地元出版社編集の本を販売する会社もある(たとえば好文堂は長崎文献社の本、京都の大垣書店は光村推古書院の本)。東京でも出版社の拠点は神田だけでなく、世田谷や都下にも広がりつつある。京都のミネルヴァ書房、東本願寺出版のように自前でブースを出す地方出版社もあるが、そこまではできない場合、地元書店とタイアップして出展することは望ましい方法だ。文化は身近なところから発信できたほうがよいのだから。

河出書房新社は1886年創業で今年は創業130周年だそうだ。外側ディスプレイにはこれまでの代表的書籍が展示され、戦前では島木健作「生活の探求」、正宗白鳥「文壇五十年」、米川正夫訳のドストエフスキー「貧しき人々」など、戦後では三島由紀夫「仮面の告白」、70年代には横尾忠則や粟津潔の本、80年代では山田詠美「ベッドタイムアイズ」、俵万智「サラダ記念日」、90年代はJ文学ということで松浦理英子「親指Pの修業時代」などの表紙が並び、なつかしい本も多くあった。
国書刊行会は、手塚治虫デビュー70周年記念で「オリジナル版復刻シリーズ」全6巻、「手塚治虫カラー作品選集」全3巻が目立つところに並んでいた。10年も前に出版した本もも含むが「小津安二郎と20世紀」「「帝国」と美術」「それいゆ復刻版」「怪異妖怪記事資料集成」などいまも魅力的なタイトルがたくさん並んでいた。

創業130周年の河出書房新社のディスプレイ
毎年見ている書物復権の会は、当方のパワーが落ちてきているからか、胸に迫るものはなかった。ただ青土社が出展していた。雑誌「現代思想」「ユリイカ」だけでなく良書を多く出版しているのだから、復権の会に加わってくれたことはありがたい。聞くと昨年から出展していたとのことだった。
出版梓会のブースはどうやら見忘れたようで、惜しいことをした。
いつもみてきた造本装幀コンクール。第50回の今年の三賞は文部科学大臣賞が「On the Beach1/2」(HeHe 装幀:松浦秀昭)、経済産業大臣賞が「サイエンスぺディア1000」(ディスカヴァー・トゥエンティワン 装幀:辻中浩一)、東京都知事賞が「SHUNGA」(永青文庫 装幀:高岡一弥)だった。どれもレベルが高いが、個人的には「藤城清二の旅する影絵 日本」(講談社)、「東京手仕事「ブランドブック」(東京都中小企業振興公社)、「球団創設80周年記念 阪神タイガース ヒストリー・トレジャーズ」(ベースボール・マガジン社)のほうが暖かさがあってよかった。これは装幀というより本の内容や写真のせいだとは思うが・・・。

最後にいくつか気づいた「小さな変化」をメモしておく。
大学出版部協会は以前武蔵野美術大学が充実していたことがあったが、今年はそれほどとも思わなかった。聖徳大学出版会の「あかずきん」、東大出版会の「とんがる東大」など、大学出版部だから論文集というわけでなく、一般の出版社との境界が消失したことを示す出版物も多くなったことを実感した。

また毎年みている大日本印刷のブースは今年は「honto」のみ。昨年と比べて進化した点を聞くと、今年6月から壇蜜、岸見一郎、住野よる、石田衣良らブックキュレーターが選書したブックツリーを始めたことだそうだ。すでにキュレーターは70人近く、テーマが1000に上るそうだ。たしかにバブル時代に出版点数が激増し、書店が超大型化すると選書やキュレーターの機能が重要になる。
大日本というと電子ブックや電子がらみの印象があるが、丸善、ジュンク堂、文教堂など書籍小売網を入手したので、やはり紙の本・雑誌の実売を上げざるをえず、いろいろやっているようだ。大資本が参入して、何か変わるのか、いまのところは変わったとは思えないが今後何かでてくるのかもしれない。
なお電子ブックの売り上げは伸びているようだが、今年のブックフェアではボイジャーが少しやっていただけだった(いちおう「電子書籍ゾーン」はあったが、堀内印刷所、平河工業社など「つくり」の電子化がメインだった。どこかに違う展示会があるのだろう)。
読書する側からすれば、選書の効率化はたしかにいま大事な課題だ。こぼれ話をひとつ。しばらく前から週刊読書人で日本図書館協会選定図書だけでなく、図書館振興財団の推薦図書のリストが出ていてどういう関係なのか疑問に思っていた。東京都立図書館のブースの人に聞いてみたがわからなかった。それで隣のブースの「週刊読書人」の人に聞くと、日本図書館協会は今年3月末で選定事業をとりやめたそうなので。それに代わるものをということで振興財団の新刊選書委員会のリストを掲載することにしたそうだ。サイトに選書員も公表している。振興財団は、図書館流通センター(TRC)が2008年に設立した財団をもとに2012年に作った組織だそうだ。TRCもいまは大日本印刷グループなので、やはり何かが変わる布石のひとつなのかもしれない。
しかし図書館協会が選定図書をやめてしまうとは、ちょっとため息が出る。協会のサイトには「選書の参考となる情報の提供状況が変化し、現在では本事業は図書館において新刊書の選定にはあまり利用されていない状況が明らかになりました」とある。これも状況変化のエビデンスのひとつだ。
出版業界の2大ガリバーの講談社は10月2日から「こねこのチー(テレビ東京系)の放映が始まるため「ネコボン」のみ、小学館は児童向け「図鑑NEO」のみの展示で寂しかった。また新潮社、文藝春秋も出展していない。その代わりというかダイヤモンド社とマガジンハウスがずいぶん久しぶりに出展していた。ただしマガジンハウスは雑誌のみだった。
冒頭にも少し触れたように、2015年の出版物推定販売額は1兆5,220億円、ピークの1996年に比べ1兆1,344億円減り30年以上前の1982年のレベルとなった、この20年でパイは6割弱に縮小している。大型書店に行ってもあまり楽しくなく、逆に書店ではたとえば1冊の本を1週間だけ売る森岡書店(銀座1丁目)のような店もあり注目を集めているが・・・。
もっと広く見ると日本の人口もどんどん減るし、ウェブ化・電子化はますます進むだろう。活字や紙の今後は明るくない。今年のブックフェアはたしかに読者からみれば望ましい方向に少し転換してくれてありがたいが、来年のブックフェアはいったいどうなるのだろうか。
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