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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

2006教育基本法に基づく教科書検定制度の改悪

2009年03月03日 | 集会報告
2月27日夜「これからの教育・教科書をどうする!こんなにひどい新学習指導要領と新教科書制度」という集会が文京区民センターで開催された( 主催:2・27教科書集会実行委員会 参加120人)。
近々告示される教科書検定制度改訂は、2006年の教育基本法改悪、07年の学校教育法改悪、08年の史上最悪の学習指導要領に基づくものである。俵義文さんの講演を中心に、配布された資料も使って報告する。

●愛国心と格差教育を教科書に強制する新検定制度
   俵 義文
さん(子どもと教科書全国ネット21・事務局長)
2006年に教育基本法、07年に学校教育法が改悪され、それに基づき史上最悪の学習指導要領が08年に誕生した。47年教育基本法は国民の教育権に沿うものだったが、06年教育基本法は現行憲法が禁じている国家の教育権という立場に立つものである。
文科省は、学習指導要領に忠実な教科書をつくらせ、その教科書に忠実に教えさせることで、指導要領を教育現場に徹底すると言っている。2008年12月25日検定審議会は「教科書の改善について」という報告書を文科大臣に提出した。今回の検定制度改悪は、最悪の学習指導要領を教科書に反映させるための改定である。
08年学習指導要領のポイントは、学力格差をいっそう広げ固定化することと道徳教育の強化の2つである。
まず学力格差を拡大する教科書にするため「発展的な学習内容」と「補充学習」を盛り込んだ。「発展的な学習内容」とは、たとえば小学校3年の教科書に4-6年で学ぶ内容や中学で学ぶ内容を「できる子」向けに入れてもよいというものである。前回の学習指導要領改訂で加わったが、小中学校ではページ数の10%、高校では20%という上限があった。今回この制限を撤廃した。一方「補充学習」とは1-2年生向けの内容を3年生の教科書に入れて、「できない子」に繰り返し学習させようというものである。1冊の教科書に「できる子」向けのページと「できない子」向けのページが入る。検定制度には、手続きを定める検定規則や実施細則と、基準を定める検定基準がある。これは検定基準の変更・新設である。
いままで生徒は、教科書に書いてあることはすべて先生に教えてもらえると期待していた。ところがこれからは「できない子」向けのページしか教えてもらえない子が出現し「君は『発展的な学習内容』のところはやらなくていいよ」といわれるようになる。子ども同士を分断する結果となり、子どもに「どうせできない子だから」という意識をもたせることになる。格差を容認し、教科書を差別的教育を進める道具にするものである。
次に、道徳教育を強化する手段として、検定申請時に教科書の内容と教育の目的・目標との対照表を提出することにした。これは実施規則変更など手続きの改定である。文科省がいう「教育の目標」とは教育基本法2条や学校教育法21条、学習指導要領総則に盛り込んだ愛国心、道徳心、公共の精神など国が決めた徳目を指す。学習指導要領で、道徳をすべての教科に入れる制度に変えたが、愛国心は何ページのどこに書いてあるか対照する一覧表を、検定申請時の添付書類として提出させるものである。
また「公正・中立」「一面的な見解の断定的な記述の排除」という言葉をことさらに強調している。文科省のいう公正中立の基準は教育基本法・学校教育法の「教育の目標」に合っているかどうかである。これに反するものは検定で排除される。麻生首相は12月にインタビューで「1941年12月に第二次世界大戦が真珠湾攻撃で始まる」と発言し新党日本の田中康夫代表が質問主意書で訂正を求めたが、訂正しないという答弁書を2月24日に閣議決定した。これは政府見解となったことを意味する。今回の検定制度改訂により、歴史の教科書に第二次世界大戦は1939年9月のドイツのポーランド侵攻ではなく、1941年12月に始まったと書かないと検定に合格しないかもしれない。また9条の会が教科書に掲載されていることを「偏向」と攻撃する国会議員がいるが、この改訂検定制度は不当な攻撃に道を開くものだ。
検定制度はまもなく告示される。「慰安婦」を教科書に復活させたくても、できなくなる可能性すらある。この制度改悪に反対し、たとえ運用が始まっても、政府の意のままに教科書がつくられるようにならないよう教科書会社に働きかけていきたい。

わたくしが遅れて参加したせいもあり、6人の方の報告のうち3人の方の報告の一部を紹介する。
●補助教材の問題点  吉田典裕さん(出版労連
新学習指導要領に基づく教科書は今年5月に検定を受け2011年から使用される。ところが算数・数学・理科の前倒しの移行措置は今年4月に始まる。昨年11月中ごろ、補助教材をつくるので12月1日に校正刷りを出せという指示が突然、教科書会社にあった。大慌てで作成したが、文科省の対応が遅れ意見が届いたのは御用納めの12月26日だった。これは委託事業なので、上限枠がありそれを超えても赤字になるだけ、枠内で収まっても差額は国に返還することになっており、しかも支出は直接費だけで人件費は含まれない。補正予算を含めた総予算は26億だが、個々の会社は赤字になるだろう。
従来、国が関与する補助教材には「心のノート」や小学校用の「英語ノート」などがあった。これは国が執筆・編集する国定教科書そのものだった。今回は民間がつくるものに国が意見を言い内容を統制する新しいタイプの補助教材だ。教科書検定は法的根拠があるが、補助教材には国が検定する根拠はない。担当セクションは教育課程課である。国が、委託事業だということで教育内容に権力的に関与し、しかもマスコミが報道しないこともあり、われわれがこの状況に馴らされていくことは恐ろしいことだ。

●教科書に「慰安婦記述」の復活を  西野瑠美子さん(VAWW-NETジャパン
「慰安婦」については、97年には7社すべての教科書に記述されていた。2000年には4社の教科書から消え、いま本文で記述されているのは1社だけだ。この背景には「政府関係者から記述を削除してほしい、と教科書会社が言われ、教科書会社が執筆関係者に(削除を)了解してほしいと言った」ことが2000年8月9日の毎日新聞で報道された。教科書会社が「自主的」に削除するよう政治的圧力がかかったまさに同じ年にNHK女性国際戦犯法廷番組改ざん問題が起こった。そのときの官房副長官は安倍晋三だった。
昨年11月、第9回アジア連帯会議が開催され「日本政府は、日本軍『慰安婦』のような類似犯罪の再発を防ぐため、日本の歴史教科書にこの問題を正しく記述し、現在と未来の世代を教育すること」を決議した。
また国連規約人権委員会から「(慰安婦問題について)学生および一般公衆を教育」するよう勧告を受けた。今年1月谷岡郁子参議院議員(民主)が質問主意書を提出すると1月13日に「勧告は、法的拘束力を持つものではなく(略)当該勧告に従うことを義務付けているものではないと理解している」「(93年の河野)官房長官談話の趣旨は、慰安婦の問題を長く記憶にとどめ繰り返さないという決意を表明したものであるが、特に具体的な研究や教育を念頭に置いたものではない」という答弁書を送付した。これは閣議決定と同じ扱いだが、政府の条約遵守義務違反を堂々と述べたものだ。
この答弁書には「慰安婦の問題を含め、教科用図書で具体的にどのような事象を取り上げ、それをどのように記述するかは(略)該図書の著作者等の判断にゆだねられている」とも書かれている。これを利用し、扶桑社を除く7社に「中学歴史教科書の「慰安婦」の記述の復活を求める要請書」を送った。教科書会社を励ます運動を進めたい。

●大江・岩波沖縄戦裁判と検定改悪の関係
   小牧 薫
さん(大江健三郎・岩波書店沖縄戦裁判支援連絡会(大阪))
最高裁に上告棄却を求める署名7302筆を本日、雪のなか提出した。
最近の動きとして、沖縄戦裁判の傍聴をした教員の勤務校に「年休をとって傍聴をするのは政治活動だ。それを認めた校長は責任を取れ」と匿名の電話が2月16日にあった。一週間後の23日、今度は増木重雄と名を名乗り「校長が教諭を処罰しなければ地域にビラをまく」と、脅迫ともいえる電話をかけてきた。校長は毅然とした態度をとったが、もし教育委員会がひるむと大変なことになる。
今後も沖縄戦裁判で明らかになった事実をきちんと学ぶとともに、よりよい教科書をつくるためいっしょにがんばっていきたい。
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