2007年1月ごろフラッシュの放列のなか砂防会館から大勲位・中曽根康弘が元気いっぱい出てくるのをみかけたことがある。砂防会館には伊吹派(志帥会)事務所があったからだ。しばらくすると当時文科大臣の伊吹文明がしょぼたれて入っていき、あまりの対比に驚いたことがある。
11月15日午前、一般の人も無料で聞ける「世界の中の日本――日本の進路」というシンポジウムがあり中曽根康弘の講演を聞いた。前方にはSPが3人立っていた。足が少し不自由なようで、階段を降りるときSPの手を借りていた。1918年5月生まれということなので大勲位は今年90歳だ。
パネリストは後に書くとおりで司会はNHKの渡邊あゆみという豪華キャストだった。なおこの講演はワシントンでのG20首脳会議さなかの11月15日、麻生・小沢の17日の党首会談以前に開催されたものなのでそのつもりで読んでいただきたい。

2008年は「乱の年」と予言したがそのとおりになった。サブプライム問題は、国際関係でアメリカの一極支配から多極化へと転換する端緒となった。落ち着くのに早くても2,3年かかる。ただアメリカは日本の97年金融危機を学び、スピード感をもって対策を打っている。
金融危機の原因は、資本主義に内在する「欲望の過剰」と「資本の濫用」による秩序の崩壊だ。渋沢栄一がいうように倫理性が必要とされる。カネは万能ではない。経営の社会的責任についても考えるべきだ。
金融危機によりアメリカの力が失われる。傷が軽いのは中国・日本・韓国などアジアの国だ。こういう機会に、ブラジル、インド、中国、ロシアなどG20とG8の融合を作り出すことは日本の役割ともいえるし、ある意味でチャンスでもある。またIMFへ1000億ドル資金を拠出するようだが、やった以上効果をもたらさないといけない。IMFでの日本の発言権を強くすることは、国家を担う政治家ならだれでも考えることだ。
次に国内問題の話をする。衆議院の解散は早ければ1月、(2月、3月は予算があるため)遅くとも4月、5月だろう。現在与党は327議席を握っているが、与党2/3体制は崩壊し権力争奪戦で政局は乱れる。過半数の241で政権が逆転する。かつて吉田政権から鳩山政権に移ったとき政権交代が起こった。あのときよりいまは情報が早く国民の感度が鋭くなっている。与野党の差が少数なら10-20人でキャスティングボートを握れるので、党が割れることもありうる。また自民が勝った場合も参議院とのねじれが残るので大連立をやらざるをえない。その際、国家本位の立場で政策協定を結ぶべきだ。4年で日本がよくなればよいが、国民の不信感を招くようならもう一度総選挙をするか、大連立をやり直す結果になる。
総理大臣の4つの要件として先見性と結合力、そして説得力、国際性がある。説得する相手は国民だけでなく世界である。また政治家は人生観、宗教観を知ってもらうことが重要だ。
傾聴すべき話はなかった。国内政治の話も自民党をメインとして語られた。ただ「10-20人でキャスティングボートを握れる」という点は、自民党を飛び出した国民新党の9人程度ではダメといっているようで含蓄に富む。逆に民主から前原派20人程度が飛び出せば政局は動くということでもある。また小沢との大連立はかつての自民を再興することでもある。小沢が自民を脱党して15年、小選挙区制になり12年、自自公連立離脱から8年、小沢にとり故郷に錦を飾る思いだろう。さすが政界風見鶏といわれた人の発言だと思った。もっともわたしたちにとっては、そんなことになれば大政翼賛会の再興、挙国一致内閣成立で、ひょっとするとアベシンゾーのは復活も考えらるのでありがたくないのだが・・・。

引き続きシンポジウムが行われた。パネリストは寺島実郎氏(日本総合研究所会長)、R.フェルドマン氏(モルガン・スタンレー証券マネージング・ディレクター)、伊藤元重氏(経済学研究科長)、コーディネーターは田中明彦氏(東洋文化研究所教授)。むしろこちらのほうが刺激に富む発言が多かったので、いくつか紹介する。
フェルドマン●金融危機勃発で、時価会計を一時休もうという雰囲気になっているようだが、これはよくない。「1+1=3でいいでしょう」といっているようなものだ。厳格な資産査定は重要だ。
伊藤●100年に1度の金融危機といわれるが、背後で経済の構造変化が起きている。ひとつは世界の富をもつ日米欧がいっせいに高齢化社会に入ったことだ。貯蓄にカネが回り投資不足、需要不足が起きている。もうひとつはテクノロジーショックだ、1920年代の不況時には自動車、電機、機械といった産業がマーケットに大きな影響を与えた。いまはゲノムまで含むデジタル産業の時代である。ケインズに問われたようにどうやって需要をつくるかが問題だ。
寺島●アメリカ一極、ドル一極が、無極化の時代に入ったともいえる。今年1-8月の貿易統計をみると、対アジアが50%、ユーラシアまで広げると70%、対米貿易は14%に過ぎない。人の流れも、訪日外国人でアメリカ人より中国人が多くなっている。いままで日米二国間ゲームで思考回路をつくってきたが意識転換が必要だ。二国間の時代なら、ゲームの過程で、やがて落としどころが見えてきた。しかし多国間ゲームでは、日本が何を主張するかといった「理念性」が問われる。いまはせいぜいブレトンウッズ体制をパッチワークで維持しパニックを吸収することくらいしかないが、新しいヴィジョンや世界の構想が必要だ。
さてグローバル・マネーの行先として日本発の未来へのプロジェクトの話をする。日本は国土が狭く資源がないといわれている。たしかに国土面積は世界61位だが、排他的経済水域の面積では6位なのである。海底には希少金属の宝庫、熱水鉱床があり日本を資源大国にできる。マネーゲームに明け暮れた日本の資本主義を正気に立ち直らせるべきだ。
フェルドマン●無極化世界という話が出たが、無極というのは、ムラ社会のようなもので、だれも動けない状態だ。そうでなく分野によって極のある世界に持っていくべきだ。たとえば省エネでは日本が極になる。ただしそうなるためにはプロセスを改革する必要がある。農業改革で、ナシをドバイに売ることもできる。教育ではアニメ、ゲームを使い、マリオが教える微分積分の教育ソフトもつくれる。
伊藤●需要不足について。(民間企業の)設備投資では限度がある。医療、教育、育児、介護などの分野に需要を見出すべきだ。そして政府税制調査会委員なので、これは「私見と独断」でいうが、消費税を25%に上げて全部使えばよい。10兆円集めて10兆円使えば乗数は1である。不景気にはならない。ただ社会保険庁にそのまま渡したら問題であり、民間の市場メカニズムを入れないといけない。仕組みを変えることが重要だ。
(フロアから消費税以外の税はどうかという質問に対し)所得再分配は税でなく社会保障を利用すべきだと考える。その他の税では環境問題のインセンティブとしての炭素税、いま5000万円以上に課税される相続税の基礎控除の引き下げは考えられる。
このあとコンゴからの留学生の日本のアフリカ政策について、関西在住の方から金融工学は怪しい学問か、アカデミズムからみるとどうかという質問があった。
なお、田中明彦教授の「日本のPKOは82位」という話はあえてカットした。
シンポジウムはここで聞くことができる。
11月15日午前、一般の人も無料で聞ける「世界の中の日本――日本の進路」というシンポジウムがあり中曽根康弘の講演を聞いた。前方にはSPが3人立っていた。足が少し不自由なようで、階段を降りるときSPの手を借りていた。1918年5月生まれということなので大勲位は今年90歳だ。
パネリストは後に書くとおりで司会はNHKの渡邊あゆみという豪華キャストだった。なおこの講演はワシントンでのG20首脳会議さなかの11月15日、麻生・小沢の17日の党首会談以前に開催されたものなのでそのつもりで読んでいただきたい。

2008年は「乱の年」と予言したがそのとおりになった。サブプライム問題は、国際関係でアメリカの一極支配から多極化へと転換する端緒となった。落ち着くのに早くても2,3年かかる。ただアメリカは日本の97年金融危機を学び、スピード感をもって対策を打っている。
金融危機の原因は、資本主義に内在する「欲望の過剰」と「資本の濫用」による秩序の崩壊だ。渋沢栄一がいうように倫理性が必要とされる。カネは万能ではない。経営の社会的責任についても考えるべきだ。
金融危機によりアメリカの力が失われる。傷が軽いのは中国・日本・韓国などアジアの国だ。こういう機会に、ブラジル、インド、中国、ロシアなどG20とG8の融合を作り出すことは日本の役割ともいえるし、ある意味でチャンスでもある。またIMFへ1000億ドル資金を拠出するようだが、やった以上効果をもたらさないといけない。IMFでの日本の発言権を強くすることは、国家を担う政治家ならだれでも考えることだ。
次に国内問題の話をする。衆議院の解散は早ければ1月、(2月、3月は予算があるため)遅くとも4月、5月だろう。現在与党は327議席を握っているが、与党2/3体制は崩壊し権力争奪戦で政局は乱れる。過半数の241で政権が逆転する。かつて吉田政権から鳩山政権に移ったとき政権交代が起こった。あのときよりいまは情報が早く国民の感度が鋭くなっている。与野党の差が少数なら10-20人でキャスティングボートを握れるので、党が割れることもありうる。また自民が勝った場合も参議院とのねじれが残るので大連立をやらざるをえない。その際、国家本位の立場で政策協定を結ぶべきだ。4年で日本がよくなればよいが、国民の不信感を招くようならもう一度総選挙をするか、大連立をやり直す結果になる。
総理大臣の4つの要件として先見性と結合力、そして説得力、国際性がある。説得する相手は国民だけでなく世界である。また政治家は人生観、宗教観を知ってもらうことが重要だ。
傾聴すべき話はなかった。国内政治の話も自民党をメインとして語られた。ただ「10-20人でキャスティングボートを握れる」という点は、自民党を飛び出した国民新党の9人程度ではダメといっているようで含蓄に富む。逆に民主から前原派20人程度が飛び出せば政局は動くということでもある。また小沢との大連立はかつての自民を再興することでもある。小沢が自民を脱党して15年、小選挙区制になり12年、自自公連立離脱から8年、小沢にとり故郷に錦を飾る思いだろう。さすが政界風見鶏といわれた人の発言だと思った。もっともわたしたちにとっては、そんなことになれば大政翼賛会の再興、挙国一致内閣成立で、ひょっとするとアベシンゾーのは復活も考えらるのでありがたくないのだが・・・。

引き続きシンポジウムが行われた。パネリストは寺島実郎氏(日本総合研究所会長)、R.フェルドマン氏(モルガン・スタンレー証券マネージング・ディレクター)、伊藤元重氏(経済学研究科長)、コーディネーターは田中明彦氏(東洋文化研究所教授)。むしろこちらのほうが刺激に富む発言が多かったので、いくつか紹介する。
フェルドマン●金融危機勃発で、時価会計を一時休もうという雰囲気になっているようだが、これはよくない。「1+1=3でいいでしょう」といっているようなものだ。厳格な資産査定は重要だ。
伊藤●100年に1度の金融危機といわれるが、背後で経済の構造変化が起きている。ひとつは世界の富をもつ日米欧がいっせいに高齢化社会に入ったことだ。貯蓄にカネが回り投資不足、需要不足が起きている。もうひとつはテクノロジーショックだ、1920年代の不況時には自動車、電機、機械といった産業がマーケットに大きな影響を与えた。いまはゲノムまで含むデジタル産業の時代である。ケインズに問われたようにどうやって需要をつくるかが問題だ。
寺島●アメリカ一極、ドル一極が、無極化の時代に入ったともいえる。今年1-8月の貿易統計をみると、対アジアが50%、ユーラシアまで広げると70%、対米貿易は14%に過ぎない。人の流れも、訪日外国人でアメリカ人より中国人が多くなっている。いままで日米二国間ゲームで思考回路をつくってきたが意識転換が必要だ。二国間の時代なら、ゲームの過程で、やがて落としどころが見えてきた。しかし多国間ゲームでは、日本が何を主張するかといった「理念性」が問われる。いまはせいぜいブレトンウッズ体制をパッチワークで維持しパニックを吸収することくらいしかないが、新しいヴィジョンや世界の構想が必要だ。
さてグローバル・マネーの行先として日本発の未来へのプロジェクトの話をする。日本は国土が狭く資源がないといわれている。たしかに国土面積は世界61位だが、排他的経済水域の面積では6位なのである。海底には希少金属の宝庫、熱水鉱床があり日本を資源大国にできる。マネーゲームに明け暮れた日本の資本主義を正気に立ち直らせるべきだ。
フェルドマン●無極化世界という話が出たが、無極というのは、ムラ社会のようなもので、だれも動けない状態だ。そうでなく分野によって極のある世界に持っていくべきだ。たとえば省エネでは日本が極になる。ただしそうなるためにはプロセスを改革する必要がある。農業改革で、ナシをドバイに売ることもできる。教育ではアニメ、ゲームを使い、マリオが教える微分積分の教育ソフトもつくれる。
伊藤●需要不足について。(民間企業の)設備投資では限度がある。医療、教育、育児、介護などの分野に需要を見出すべきだ。そして政府税制調査会委員なので、これは「私見と独断」でいうが、消費税を25%に上げて全部使えばよい。10兆円集めて10兆円使えば乗数は1である。不景気にはならない。ただ社会保険庁にそのまま渡したら問題であり、民間の市場メカニズムを入れないといけない。仕組みを変えることが重要だ。
(フロアから消費税以外の税はどうかという質問に対し)所得再分配は税でなく社会保障を利用すべきだと考える。その他の税では環境問題のインセンティブとしての炭素税、いま5000万円以上に課税される相続税の基礎控除の引き下げは考えられる。
このあとコンゴからの留学生の日本のアフリカ政策について、関西在住の方から金融工学は怪しい学問か、アカデミズムからみるとどうかという質問があった。
なお、田中明彦教授の「日本のPKOは82位」という話はあえてカットした。
シンポジウムはここで聞くことができる。