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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

古都・東山の京都国立博物館

2020年01月11日 | 博物館など
1 地図でみると、3つも建物があるので、東京国立博物館より少し小規模にせよ、収蔵品数がかなりある大きい展示かと期待した。しかしそれは違っていて、展示部分は3階建て延べ床面積17,997平方メートルの平成知新館だけだった。東京国立博物館は展示館が5つで、うち平成館だけでも延べ床面積が19,393平方メートルなのでこれより狭いほどだった。

平成知新館
陳列区分は、3階が陶磁、考古、2階は絵巻、仏画、中世絵画、近世絵画、中国絵画、1階は彫刻が大きく書跡、染織、金工、漆工、その他、子年にちなんだ特集展示を開催していた。
いわゆる平常展示(コレクション展)だが、この博物館では1か月から3か月に1度入れ替えているようだ。コレクションの数が膨大だからかもしれない。だから4月に行っても同じものを見られるとは限らないようだ。
順路は上階からが推奨されていたので、3階の陶磁室から見始めた。以下、簡単なわたくしの感想メモである。残念ながら東京国立博物館とは違い、室内はいっさい撮影禁止だったので、写真は1点もない。
陶磁室では「日本と東洋のやきもの」のタイトルで日本、中国、朝鮮の陶磁器を展示をしていた。野々村仁清の黒と金の渋い配色の「色絵若松図茶壺」(重文 17c)に最も惹きつけられた。その他、5枚組の色絵松竹市松文角皿(18c)もよかった。
考古室では、大きく完全な姿で残っている銅鐸は見事だと思ったが、こちらが関心がないため素通りしたようなものだった。なぜ京都以外では兵庫と鳥取のものが多いのか、きれいな状態で発掘されるものが多いのからかと思ったら「鳥取・兵庫の原始古代」という展示だったからだ。
2階に下りて、まず絵巻室を見学した。源氏物語絵巻「葵」の巻(伝土佐光起筆 六巻のうち、巻一、巻二、巻三)が部屋の三方に展示されていた。葵の出産を中心に、六条御息所の闘いというか呪いが文字(詞書)と絵で描かれていた。絵そのものの評価は、わたしにはよくわからないものの「これが源氏物語絵巻なのか」と興奮した。ただし国宝・隆能源氏とは異なる。
中国絵画は牧谿(もっけい 13c 南宋)の水墨画が中心、中世絵画は「松竹梅の美術」というくくりだったが雪舟の「四季花鳥図屏風」(6曲1双 15c 重文)があった。近世絵画は「賢聖障子」(9面 住吉広行 1792)という中国の殷から唐の32聖人の画が中心だった。京都御所紫宸殿の高御座後方の障壁画とのことだが、こちらは美術品のひとつとして鑑賞しているだけなので、ありがたみはわからない。

1階は仏像のある大きな彫刻室が中心だ。筋骨隆々の金剛力士立像(2躯)が出迎えてくれる。乳首が大きいのがちょっと面白い。もっとも好きだったのは「如意輪観音半跏像」(廬山寺 13c 重文)、顔の表情だけでなく手足もふくよかで見ている側の心が安らかになる。有名な広隆寺の弥勒菩薩の半跏思惟像をみたときの記憶がよみがえった。
この部屋で「神像と獅子・狛犬」という特集展示を開催していた。神社の前に鎮座する狛犬の阿吽(あうん)は有名だが、じつは多くは向かって左が口を閉じた狛犬で、右は口を開いた獅子だそうだ。見分け方は狛犬には頭に角があるとのこと。たしかにライオンに角はないので、鳳凰、鵺(ぬえ)などと同じく想像上の動物だ。いつ誕生したのかはわからないが、1200年くらい前の寺の記録に、舞のときに頭にかぶる仮面として狛犬が登場するそうだ。八坂神社・高山寺などの狛犬のペアが6対も展示されていた。今度神社に行ったら頭に角があるかどうか、見てみよう。
また狛犬は石造りのものをみることが多いが、かつて仏像と同じく金箔の狛犬もあったようだ。これならかなり派手で、民にありがたがられたのではないか。
書跡室は「いにしえの旅」というタイトルでくくられていた。「咏淀川十一景詩屏風」(中島棕隠 6曲1双 1843)はのびのびした字だった。わたしたちは書を、書道や習字のお手本として眺めがちだが、これなら空間構成の美術品としてみることもできる。朱色の落款もアクセントとなっている。「仏説四十二章経」(蘭渓道隆 1276 重文)のようなきちんとした楷書の書も精神性だけでなく美術品としてながめても価値があった。
ただ文字の意味がまったくわからない外国人にとって、どうなのかというのは難しい。文字1字ずつの連続ということはわかるだろうが、わたしたち日本人が手書きのアラビア語文書はハングル文書を「美術品」としてみることはやはり無理があるように思える。
蘭渓道隆は教科書で見覚えのある人名だが、はじめて作品をみた。
「奥の細道図巻」(与謝蕪村 2巻のうち上巻 重文)が展示されていた。「月日は百代の過客にして、行き交ふ年もまた旅人なり・・・」という字はわたくしがみても大したものとはいえないが、合間に書かれた芭蕉の旅姿の絵はさすが蕪村、味があってよかった。これなら文字がわからない外国人も楽しめると思う。

染織室は「染めと織りの文様 ―古典文学をまとう」で、まとめられていた。謡曲文様小袖(紺繻子地 19c)は、「高砂」の熊手と箒、松風の汐汲みの絵柄が入っているとか、ずばり和歌の文字が絵柄として入っているというような着物の展示だった。玉川文様単衣(紫ジョーゼット地 繍 19c)が好きだった。 
金工室は、刀や甲冑などの銘品期待していたのだが、茶釜8点のみだったので素通りした。
漆工室も期待したのだが、木彫彩色兎形香合(迎田秋悦)の白兎がきれいだったのと、茄子蟷螂蒔絵巻煙草箱(蒔絵・魚野自醒 20c)がよかったくらいである。
照宮内親王殿下御婚儀御調度和食器参考品として小吸物椀、雑煮椀などの食器が展示されていた。1943年昭和天皇の長女・東久邇成子が婚約し、嫁入り道具をつくることになり、食器は美濃屋の稲垣孫一郎に発注された。しかし戦時中で十分な材料や職人が集まらないからという理由で、1772年から続く店の暖簾まで下し1945年に廃業した。そして所有していた漆器を博物館に寄贈した。というわけで、唐花唐草七宝塗菓子器(塗り:青野伊助 19c)をはじめ、これらの展示は美濃屋コレクション、「京漆器を愉しむお正月」というタイトルだった。わたくしは東博のようなレベルの漆器を期待していたのでちょっと物足りなかった。
最後に特別展示室で新春特集展示「子づくし―干支を愛でる」をみた。栄螺(サザエ)に鼠金銀造り簪、初音蒔絵文台、鼠の根付、仏の死に際し多くの動物が集まりそのなかに鼠もいたので仏涅槃図、と語呂合わせのように鼠関連のものを集めたような展示だった。そのなかでは「新羅十二支像護石拓本のうち子像」(7-9c)がサイズが大きかったことと「からくり人形 大黒と鼠」(19c)の鼠が少女の左の大黒袋から飛び出し、半円軌道の上を走り右の箱に逃げ込む仕掛けが面白かった。鼠は大黒の使いという話からモチーフがとられているそうだ。

「四季山水図屏風」(式部輝忠)
地下1階の講堂で20分のシアター映像を放映するというので行ってみたが、丹青社と岩波映像につくってもらったこの博物館の歴史などPR映画のようなものだった。また平成知新館出口のあたりに「四季山水図屏風」(式部輝忠 16c)と「韃靼人狩猟・打毬図屏風」(伝狩野宗秀 16c)の2つの屏風があり、それのみ撮影できた。ただ説明を読むと高精細複製品ということで、まあキヤノンのPRだった。
その他、外から見るだけだが、片山東熊設計の旧館(明治古都館 耐震性能の問題で2015年に完全閉鎖)と(旧)正門、京都の実業家・上田堪一郎から寄贈された茶室「堪庵」、5万3000平方メートルの敷地に広がる東・西・噴水のあるエリアの3つの庭園、考える人(ロダン)などの屋外展示などもあった。
総じて東京国立博物館より質・量ともに劣るが、寄託品も含めると国宝115、重文822と数多く収納していてさすが国立博物館という感じだった。

1895年竣工の正門(ふだんは出口専用)
さて京都なので、周囲がすごい。道路を隔てて南の三十三間堂は書いたとおりだが、南東に智積院、東は妙法院門跡、北は豊国神社と方広寺、西は鴨川をはさみ800mのところに東本願寺、さらに400mのところに西本願寺がある。目と鼻の先50mのところにうぞうすいで有名な老舗・わらじや、西に600mのところには高級旅館・枳殻荘と庭園・渉成園があった。烏丸通の1本東側の不明門通の駅の近くはもちろん和風旅館が立ち並ぶ通だった。少し歩いただけでこうだったので、面白いものはたくさんあるだろう。

渉成園の門
☆いま朝ドラでやっているスカーレットは女性陶芸家がヒロイン(戸田恵梨香)で舞台は信楽だが、東山というと清水焼が有名なので、何かみられないかと期待した。しかし50年近く前の1965年ごろ山科の清水焼団地にすでに移転していた。
蛇足だが、スカーレットはなかなかいいドラマだと思う。はじめは吉本新喜劇のテレビドラマ版かと思ったが、現在80代前半の女性の骨太の人生ドラマになっていて、よい作品だと思う。


住所:京都市東山区茶屋町527
電話:075-525-2473
開館日:火曜日~日曜日(月曜祝日のときは火曜休館 年末年始は休館)
開館時間:9時30分~17時(入館は16時30分まで 金・土は20時まで開館)
入館料:一般520円、大学生260円、70歳以上と高校生以下は無料

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