浜田信郎さんのブログ「居酒屋礼賛」(7月27日付記事)で渋谷の富士屋本店が10月半ばに閉店する予定ということを知った。「今後は、閉店を惜しむ人たちで、ますます混雑してしまうんだろうなぁ」と締めくくられており、食べログのコメントをみると開店の17時でも列をつくっているとある。また「状況によって(閉店を)前倒しするかもしれない」」ということだったので、矢も楯もたまらず、伺うことにした。
来店するのはおそらく6年ぶりである。
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この店は渋谷駅から歩道橋を越えて桜丘町方向に5分程度の便利な場所にある。シブヤ経済新聞の記事には「自社ビルの地階」とあったので、富士商事ビル全体を見渡すと角にギター店がある8階建てのかなり大きなビルだった。「大衆立呑酒場富士屋本店 清酒カンバイ」とある目立たない入口から急勾配の階段を下りる。左右に「サマータイムマシン・ブルース」、ミュージカル「FREE TIME, SHOW TIME『君の輝く夜に』」、竹宮恵子カレイドスコープ展、石井光三オフィスプロデュース「死神の精度」など場所がら演劇関係のポスターがたくさん貼ってある。もちろんピースボートの「地球一周の船旅」のポスターもあった。
入店したのは開店直後の17時10分くらいだったが、ウワサほど満席ではなく7割くらいの入りだった。
この店にはじめて来たのは、いまから20年近く前の2000年ごろだ。それまで立ち飲み居酒屋に行ったのは、池袋西口の桝本屋酒店と四谷の鈴傳くらいだった。池袋は、偏見かもしれないが、いわゆる「労務者」風の方も訪れる店だった。そこで意気投合したお客さんに東口の別の店に誘われ、ご馳走していただいた記憶もある。四谷の客はほぼ全員サラリーマン客で、ブランド日本酒を1杯600円から800円くらいで飲ませる。日本酒に関する意識が高い客向けの店だった。一般的には角打ちの立飲み店は、乾きものを肴に1杯か2杯ひっかけて30分以内に退散するのが一種のルールのようなものだ。
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いつもにぎわっている店内(ただし写真は2012年2月のもの)
富士屋の客は、ほぼ全員サラリーマン(フリーの自営業者含む)だ。わたくしも上司を連れて訪れたことがあった。ずいぶん気に入ってくれた。だから30分よりはもう少し長めの滞在時間になる。
店内は、基本的にはロの字形で左側の2つのコーナーが飛び出しており、壁際にも席がある。(食べログによれば)80人くらい入れる大型店だ。
メニューは、ハムカツ200、アジフライ500、はんぺんチーズ揚げ300、豚カツ400など揚げ物、びん長まぐろのブツ350、さばの味噌煮300、地ダコの刺身350、〆さば350など魚、水なすの浅漬350、谷中生姜300、しいたけの天ぷら300、ポテサラ300、ゴーヤチップス350など野菜、その他、ちくわ天ぷら250、揚げシューマイ350、さつま揚げ250、厚揚300、肉豆腐350、もずく酢350、冷奴200、塩から200など、酒飲みが好きそうなツマミはたいてい何でもある素晴らしい店だ。それも短冊や黒板に山のように書かれているので高揚する。
わたくしはこの日、まずサッポロ黒の小瓶(300)と〆さば、次に酒(寒椿 300)と大葉入り白菜漬け(250)を注文した。
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入口に近い壁にテレビが置いてあり、高校野球の佐久長聖対旭川大高4-4の延長戦をやっていた。11回を終わり12回に入るところだった。(13回から)日本で初めてタイブレークをやった試合だった。
両側の壁には、かなりの数の色紙が並んでいる。大滝秀治の色紙が3枚あることは前から知っていたが、今回よくみるとその他、吉田類3枚、おんな酒場放浪記・倉本康子、「運徳才」の船越英一郎、JWP女子プロのLeon、阿部サダヲ、荒川良々などのものが掲げられていた。場所がよく、やはり人気店だからなのだ。BS-TBSの「夕焼け酒場」のポスターがあるのはわかるが、なぜか2014年の航空自衛隊の航空機カレンダーがかかっていた。
ビール会社の和服姿の美人画ポスターはよくみるが、この店には宝焼酎のものがあり、珍しい。
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6年前のわたくしの記録には「驚くことに女性2人連れ、若いアベック、そして若者3人連れなどが多くなっていた。店の人が『吉田クーン、冷蔵庫の下の段の氷出して』と声をかける。若いのに常連さんのようだ」と書いている。今回もこんなに早い時間なのにポツリポツリ女性客の姿がみえた。周囲の男性客と談笑中だった。この時間の店のスタッフは男性5人、女性1人、イイチコのエプロンの方がチーフのようだった。女性が、シブヤ経済新聞で紹介されていたおかみのヨシエさんかもしれない。この日も男性スタッフから「おあと、ナス味噌ーッ」と元気のいい声が飛んでいた。こちらも注文したくなる。
気分がよくなったので、最後に焼酎お湯割りと店の名物ハムカツを注文した。これが誤算だった。普通お湯割りというと、コップに焼酎を注ぎ湯でわって出してくれるのだが、この店はホッピーの中・外と同じように、焼酎の小瓶(360mlくらい)を1本と小さいジャーが出てきた。3杯くらい飲んだつもりだが、飲みきれず残してしまった。残念!
考えてみると、立ち飲み居酒屋は、ポストなどのランドマークと同じで、同じ場所にあって当たり前のように思っている。しかし「いい居酒屋は永遠にあると思うな」という格言の典型である。こんなにいい店が閉店とはじつにもったいない。「閉店は、東急不動産が中心となり進める再開発計画によるビル取り壊しに伴うもの」(シブヤ経済新聞)とのこと。
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都電が走っていたころの渋谷駅周辺(ミニチュア 東横百貨店屋上の観覧車、子ども電車などがあった遊園地まで再現されていた)
数年前から渋谷駅周辺は大変身中だ。すでに東口の東急文化会館はヒカリエに建て変わり、西口の東急プラザは2019年度完成予定で工事中。東急東横線その他、駅の場所も変わるようだ。
もっと前のことを思い出すと、よく来たヤマハ渋谷店、映画館の全線座、大盛堂書店はすでにない。ブックファーストですらもうない。東急プラザにあったロシア料理の渋谷ロゴスキーもない(いまは銀座5丁目のメルサにあるらしい)。
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わたくしの渋谷のもっとも古い思い出は、東急文化会館の隣あたりにあったクラシックの生演奏が聞けるカフェのような店だった。いまの価格でいうと1500円から2000円でワンドリンク付き、1日2回くらいの公演だった。クラシックのサックスのソロ・コンサートを聞き、ちょっと得した気分になれた。
もしやと思って、渋谷駅北側ののんべい横丁を通り過ぎると、まだ昔のまま残っていてホッとした。
10年もたてば世の中が変わって当たり前。要するにこちらが年をとったというだけの話かもしれない。
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●富士屋本店
電話:03-3461-2128
住所:渋谷区桜丘町2-3 富士商事ビル B1F
営業:17:00~21:30 (土曜は20:30まで 揚げ物のL.O. 30分前まで)
日曜・祝日・第4土曜は閉店
来店するのはおそらく6年ぶりである。
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この店は渋谷駅から歩道橋を越えて桜丘町方向に5分程度の便利な場所にある。シブヤ経済新聞の記事には「自社ビルの地階」とあったので、富士商事ビル全体を見渡すと角にギター店がある8階建てのかなり大きなビルだった。「大衆立呑酒場富士屋本店 清酒カンバイ」とある目立たない入口から急勾配の階段を下りる。左右に「サマータイムマシン・ブルース」、ミュージカル「FREE TIME, SHOW TIME『君の輝く夜に』」、竹宮恵子カレイドスコープ展、石井光三オフィスプロデュース「死神の精度」など場所がら演劇関係のポスターがたくさん貼ってある。もちろんピースボートの「地球一周の船旅」のポスターもあった。
入店したのは開店直後の17時10分くらいだったが、ウワサほど満席ではなく7割くらいの入りだった。
この店にはじめて来たのは、いまから20年近く前の2000年ごろだ。それまで立ち飲み居酒屋に行ったのは、池袋西口の桝本屋酒店と四谷の鈴傳くらいだった。池袋は、偏見かもしれないが、いわゆる「労務者」風の方も訪れる店だった。そこで意気投合したお客さんに東口の別の店に誘われ、ご馳走していただいた記憶もある。四谷の客はほぼ全員サラリーマン客で、ブランド日本酒を1杯600円から800円くらいで飲ませる。日本酒に関する意識が高い客向けの店だった。一般的には角打ちの立飲み店は、乾きものを肴に1杯か2杯ひっかけて30分以内に退散するのが一種のルールのようなものだ。
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いつもにぎわっている店内(ただし写真は2012年2月のもの)
富士屋の客は、ほぼ全員サラリーマン(フリーの自営業者含む)だ。わたくしも上司を連れて訪れたことがあった。ずいぶん気に入ってくれた。だから30分よりはもう少し長めの滞在時間になる。
店内は、基本的にはロの字形で左側の2つのコーナーが飛び出しており、壁際にも席がある。(食べログによれば)80人くらい入れる大型店だ。
メニューは、ハムカツ200、アジフライ500、はんぺんチーズ揚げ300、豚カツ400など揚げ物、びん長まぐろのブツ350、さばの味噌煮300、地ダコの刺身350、〆さば350など魚、水なすの浅漬350、谷中生姜300、しいたけの天ぷら300、ポテサラ300、ゴーヤチップス350など野菜、その他、ちくわ天ぷら250、揚げシューマイ350、さつま揚げ250、厚揚300、肉豆腐350、もずく酢350、冷奴200、塩から200など、酒飲みが好きそうなツマミはたいてい何でもある素晴らしい店だ。それも短冊や黒板に山のように書かれているので高揚する。
わたくしはこの日、まずサッポロ黒の小瓶(300)と〆さば、次に酒(寒椿 300)と大葉入り白菜漬け(250)を注文した。
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入口に近い壁にテレビが置いてあり、高校野球の佐久長聖対旭川大高4-4の延長戦をやっていた。11回を終わり12回に入るところだった。(13回から)日本で初めてタイブレークをやった試合だった。
両側の壁には、かなりの数の色紙が並んでいる。大滝秀治の色紙が3枚あることは前から知っていたが、今回よくみるとその他、吉田類3枚、おんな酒場放浪記・倉本康子、「運徳才」の船越英一郎、JWP女子プロのLeon、阿部サダヲ、荒川良々などのものが掲げられていた。場所がよく、やはり人気店だからなのだ。BS-TBSの「夕焼け酒場」のポスターがあるのはわかるが、なぜか2014年の航空自衛隊の航空機カレンダーがかかっていた。
ビール会社の和服姿の美人画ポスターはよくみるが、この店には宝焼酎のものがあり、珍しい。
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6年前のわたくしの記録には「驚くことに女性2人連れ、若いアベック、そして若者3人連れなどが多くなっていた。店の人が『吉田クーン、冷蔵庫の下の段の氷出して』と声をかける。若いのに常連さんのようだ」と書いている。今回もこんなに早い時間なのにポツリポツリ女性客の姿がみえた。周囲の男性客と談笑中だった。この時間の店のスタッフは男性5人、女性1人、イイチコのエプロンの方がチーフのようだった。女性が、シブヤ経済新聞で紹介されていたおかみのヨシエさんかもしれない。この日も男性スタッフから「おあと、ナス味噌ーッ」と元気のいい声が飛んでいた。こちらも注文したくなる。
気分がよくなったので、最後に焼酎お湯割りと店の名物ハムカツを注文した。これが誤算だった。普通お湯割りというと、コップに焼酎を注ぎ湯でわって出してくれるのだが、この店はホッピーの中・外と同じように、焼酎の小瓶(360mlくらい)を1本と小さいジャーが出てきた。3杯くらい飲んだつもりだが、飲みきれず残してしまった。残念!
考えてみると、立ち飲み居酒屋は、ポストなどのランドマークと同じで、同じ場所にあって当たり前のように思っている。しかし「いい居酒屋は永遠にあると思うな」という格言の典型である。こんなにいい店が閉店とはじつにもったいない。「閉店は、東急不動産が中心となり進める再開発計画によるビル取り壊しに伴うもの」(シブヤ経済新聞)とのこと。
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都電が走っていたころの渋谷駅周辺(ミニチュア 東横百貨店屋上の観覧車、子ども電車などがあった遊園地まで再現されていた)
数年前から渋谷駅周辺は大変身中だ。すでに東口の東急文化会館はヒカリエに建て変わり、西口の東急プラザは2019年度完成予定で工事中。東急東横線その他、駅の場所も変わるようだ。
もっと前のことを思い出すと、よく来たヤマハ渋谷店、映画館の全線座、大盛堂書店はすでにない。ブックファーストですらもうない。東急プラザにあったロシア料理の渋谷ロゴスキーもない(いまは銀座5丁目のメルサにあるらしい)。
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わたくしの渋谷のもっとも古い思い出は、東急文化会館の隣あたりにあったクラシックの生演奏が聞けるカフェのような店だった。いまの価格でいうと1500円から2000円でワンドリンク付き、1日2回くらいの公演だった。クラシックのサックスのソロ・コンサートを聞き、ちょっと得した気分になれた。
もしやと思って、渋谷駅北側ののんべい横丁を通り過ぎると、まだ昔のまま残っていてホッとした。
10年もたてば世の中が変わって当たり前。要するにこちらが年をとったというだけの話かもしれない。
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●富士屋本店
電話:03-3461-2128
住所:渋谷区桜丘町2-3 富士商事ビル B1F
営業:17:00~21:30 (土曜は20:30まで 揚げ物のL.O. 30分前まで)
日曜・祝日・第4土曜は閉店