エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-XIV-8

2021-10-01 13:04:40 | 地獄の生活

「『どうしてもできるだけ早く貴方にお会いしなくてはなりません。どうか、明日十月十五日エルダー通り四十三番地、オンブール邸までお越し願えませんか。そこでマダム・ルーシー・ハントレーと仰っていただければ私のもとに案内してくれる筈です……三時から六時までお待ちします……どうか、重ねてお願いいたします。いらして下さいませ……。これを申し上げるのは私には辛いことですが、もし貴方から何も沙汰がない場合、これまでは跪き、両手を合わせてお願いしたものを是が非でも、どのようなことになろうと、断固として要求し一歩も退かぬ覚悟です』」

読み終えたカジミール氏は手紙をテーブルの上に置き、ブランデーをコップになみなみと注ぐと一気に飲み干した。

「以上です!」と彼は叫んだ。「署名もなければ、イニシャルもない、なにもなし……。これはいわゆるその世界の女ですな。こういう連中は手紙にサインをしないんです。厄介なことになるのを恐れて……それなりの理由があるんですよ……」

彼は馬鹿みたいに笑っていた。酔っ払い特有のしゃっくりで途切れ途切れの笑いである。

「あたしに時間があったら」と彼は続けて言っていた。「このルーシー・ハントレーとかいう女について調べてみるところですがね。偽名ですよね、もちろん……。しかしフォルチュナさん、一体どうなすったんです? まるで死人みたいに顔が真っ青ですよ……気分でも悪いんですか?」

実際フォルチュナ氏はしばらく前から、まるで長患いをした後の病人にように面変わりしていた。

「ああ、いやいや」と彼はもごもご呟いた。「なんでもありません。ただ、人と会う約束があったのを今思い出しましてね……」

「どなたで?」

「依頼人ですよ。決算のことで……」

相手はわざとらしく丁寧な身振りをした。

「見え透いた言い訳を!」と彼は遮って言った。「そんなもの、うっちゃっておきなさいよ。あなた、もう十分金持ちじゃないですか……さぁさぁ、もう一杯飲みましょうよ。そしたら元気になりまさぁね」

フォルチュナ氏は言うとおりにした。しかし非常にぎこちない動きだったので、というよりむしろ非常に巧みな動きだったので彼の袖がカジミール氏の前に置かれた手紙に引っかかった。

「それじゃ、あなたの健康に!」とカジミール氏が言った。

「あなたの健康に!」とフォルチュナ氏も同じように返した。そして乾杯のために伸ばした腕を元に戻す際、手紙が彼の膝の上に落ちるようにした。10.1

コメント