エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

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2021-10-17 12:35:13 | 地獄の生活

マルグリット嬢とマダム・ダルジュレが敵対するか同盟関係を結ぶかによって事件は紛糾するか解決に向かうか、どちらかの結果となり、上手くやりさえすれば彼に利益をもたらすことになるだろうと。

 しかしこの瞑想は隣室からの何やら言い争う声によって邪魔された。彼はすぐさま声の方向に近づき、何か聞き取ろうと耳を澄ますと、男の野太い声が次のように叫ぶのが聞こえた。

 「一体何なんです! ブイヨット(昔のカードゲーム)の佳境に差し掛かっているところを抜けて、貴重な時間を割いて貴女のところにはせ参じたというのに、この扱いですか!……クソッたれ!……自分に関係のない問題に首を突っ込むとどうなるか、の良い教訓になりましたよ……それではさらばです、マダム、いつか高い代償を払って分かる時がきますよ。貴女がそんなにも大事にしておられるコラルト氏というのがどういう人物かをね……」

 このコラルトという名前はフォルチュナ氏の記憶に深く刻まれている名前の一つだったが、今はそのことに気づかなかった。彼の全神経は今聞いたことに集中し、それを現在の懸案の事項に結び付けようと懸命になっていた。そうしたことから彼を現実に引き戻したのは、ドアの戸枠に触れる衣擦れの音だった。マダム・リア・ダルジュレが入って来た。

 彼女は青いサテンの折り返しのある非常にエレガントなグレーのカシミアの部屋着を着て、髪は上品に結われていた。普段の入念な身だしなみを何一つ忘れてはいなかったが、それでも彼女が四十歳を超えていることは誰の目にも明らかだった。彼女の陰気な顔つきからは希望のない諦めが読み取れたし、赤く充血した目とその周囲の青い隈がごく最近の涙の跡を物語っていた。彼女はフォルチュナ氏をじろじろ見つめ、ぶっきらぼうな、これ以上ないほど突き放した口調で尋ねた。

 「私にお話がおありだとか?」

 フォルチュナ氏は頭を下げた。殆ど狼狽していたと言ってもよい。彼が予想していたのはブーローニュの森を黄土に汚れアンモニア臭をぷんぷんさせた馬で乗り回す頭の空っぽな女であったが、全然違った。目の前にいるのは容色が衰えたとはいえ、自分の家系に誇りを持つ威厳ある態度の女であり、彼は圧倒された。

 「実はその、奥様」彼は口ごもった。「非常に重要な案件について話し合うために参ったのです」

 彼女は肘掛椅子にばたりと座りこんだが、相手に椅子を勧めることはせず、言った。

 「お話しなさい」1017

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