彼はごく自然に、相手の女が思い出すのを助けたいという態度を見せつつ質問の矛先を変えた。
「私がお尋ねしているその御婦人は」彼は答えた。「昨日、十五日の木曜、三時から六時の間に到着なさったと思います。みるからに苛立った心配そうなご様子だった筈ですので、きっとご記憶だと思いますが……」
これを聞いて記憶を呼び覚まされたのはルーペを手にした男の方だった。彼こそがこの館の主人であり、若い女の亭主であった。
「この方が仰っておられるのは二号室の女の方じゃないか。お前、よく知ってるじゃないか、なんとしても大サロンを所望すると言っていた人だよ……」
若い女は額を叩いた。
「ああ、そうだったわ!……わたしったら何を考えていたのかしら!」
彼女はくるりとフォルチュナ氏の方に向き直って言った。
「失念しておりまして申し訳ありません。その方はもうここにはいらっしゃいません。ほんの数時間しかここにはおられなかったのです」
この答えはフォルチュナ氏を驚かせるものでは全然なく、予想していたのだったが、それでも彼は酷く驚いた素振りをした。
「ほんの数時間ですか!」彼はオウム返しに答え、残念無念という様子をした。
「はい、こちらには朝の十一時頃、大きな旅行鞄ひとつだけを持って到着されました……。で同じ日の夜八時頃お帰りになりました」
「なんと、そうなのですか!……一体どちらに向かったのでしょう?」
「何も仰いませんでした」
フォルチュナ氏は今にも泣き崩れそうに見えた。
「可哀そうなルーシー!」と彼は悲劇的な調子で叫んだ。「彼女が待っていたのはこの私なのですよ……私が手紙を受け取ったのは今朝のことだったのです。ここで落ち合おうと書かれた手紙を……胸の張り裂けるような思いでここを発ったに違いありません!郵便というやつは本当に当てにならない!」
この館の主人と妻は、頭と肩で同じ意味を表す仕草をしていた。
「どうしろと言うのか? ……こちらには関係のない問題だ……放っておいてくれないかな」
しかしフォルチュナ氏は、思わしい反応がないからといって引き下がるような男ではなかった。
「彼女は鉄道の駅の方に向かったに違いないと思うのですが」と彼は食い下がった。
「さぁ、それは存じません」