「大変だ! えらいことになっちまった。よし、行くぞ……おっとっと、俺ときたら立っているのもやっとだ。邸の者たちは何と思うだろう……何を言われることやら……」
フォルチュナ氏は自分の部下であるシュパンを隅に連れていった。
「ヴィクトール」彼は早口で言った。「私はもう行くからな……払いはすべて済ませてある。だが馬車に乗せるとか何かで金が必要になるかもしれんから、十フラン渡しておく……残りは取っておけ。このどうしようもない奴をお前に任せるからな……よろしく頼む……」
十フラン金貨でシュパンの顔が少し明るくなった。
「いいっすよ」彼は口の中でぶつくさ呟いた。「酔っ払いの扱いにゃ慣れてますんで……祖母ちゃんが酒屋をやってたとき酔っ払いの扱い方のいろはを習いましたんでね」
「今の状態で邸に帰ることのないよう注意してやってくれ……」
「大丈夫、ご心配なく。彼とは仕事の話をしけりゃならないんで。そうするうちに、きれいに酔いを醒ますようにしてみせますって」
フォルチュナ氏がそっと立ち去る間に、シュパンは給仕を手招きして言った。
「ものすごく濃いコーヒーを一杯頼むよ。それとあら塩一つまみとレモン一個も。酔いを醒ますにはそれに限るからな」10.5