「あの女はどうかしている」と彼は考えていた。「完全に狂っている……全くいかれちまってる……人間の高慢さというのはどこに巣食っているのか分からんもんだ……彼女があの富をいらないと撥ねつけるのは、ド・シャルースの娘がどこまで身を落としたか世間に知られたくないためだ……兄を脅したくせに、その脅しを現実のものにするつもりはなかったんだな……。巨万の富より現在の地位の方が良いってか……奇妙な女だ、まったく!」
彼は怒り、悔しがりはしたものの、決して希望は捨てていなかった。
「幸いにも」と彼は考えていた。「あの誇り高き御婦人には、この空の下のどこかに息子がいるのだ……。さっき俺は彼女を説得しようとして、迂闊にも危うくそれを口に出しそうになったが、彼女に対してもっと粘り強くやれば、それにヴィクトール・シュパンの力も借りれば、俺はきっとその息子を探し出してみせる……。さぞかし頭のいい青年なんだろう……その息子がママと同じように莫大な富に見向きもしないかどうか、こりゃ見ものだぜ」10.24