フォルチュナ氏は度肝を抜かれた。この問いかけは彼の思い描いていた計画の変更を迫るものだった。どう返答するかによって状況は大きく変わってくる。彼は躊躇した。
「お答えなさい!」とマダム・ダルジュレは迫った。「彼女には他に好きな人がいるんでしょう?」
「じ、実を申しますと」彼は口ごもった。「どうもそのようで……。ですが確証があるわけではありませんので、マダム……」
厳しい威嚇の態度で彼女は遮った。
「ああ、なんという卑劣な奴!」彼女は叫んだ。「裏切者、恥知らず!……これですべてが分かったわ、ええ、何もかも……しかも私の家で!……許さない!……でもまだ間に合う……」
そう言うと彼女は呼び鈴の紐まで走って行き、ちぎれんばかりに紐を強く引いた。召使が現れた。
「ジョバン、急いでトリゴー男爵を呼びに行っておくれ。今立ち去られたばかりだから、すぐ連れ戻して。どうしてもお話しなければならないことがあるからと言って……。もしも捕まらなかったら、彼のクラブか、お友達のところまで行ってね。見つかりそうなところは全部探すのよ……急いで。彼と一緒でなければ家に戻ることを禁じます」
召使が行こうとすると、彼女は呼び止めた。
「私の馬車の準備が出来ている筈だから、それに乗って行きなさい」と彼女は付け加えた。
この間、フォルチュナ氏の顔はみるみる変化した。
「ほほう、こりゃどうだ!」と彼は思っていた。「ちょっとした騒ぎを惹き起こしちまったじゃないか! あのヴァロルセイ侯爵め、化けの皮をはがされたな……。これで彼がマルグリット嬢と結婚することなど金輪際ないな……。もちろんこの俺が気の毒などと思うものか、あの悪党、俺から四万フランをだまし取っていったんだからな……しかし、俺がこのことで果たした役割をもし知ったら奴は何と言うだろう!うっかり言うつもりもなく喋っちまった結果がこうなった、なんて信じないだろうな。そしたらどんな復讐を考え付くやら! あのような気性の激しい男が身の破滅を知ったら、どんなことでもやりかねんぞ……やれやれ、くわばらくわばら……早速今夜から俺は地区の警察署長に予告して、武器なしでは外出しないようにしよう……」
召使が行ってしまった後、マダム・ダルジュレはフォルチュナ氏の方に向き直った。彼女はもはや別人のようだった。彼女の内に燃えたぎる感情が彼女をすっかり変身させていた。頬には血の気が戻り、目は輝いていた。
「話はここまでとしましょう。来客があるので」と彼女は言った。
フォルチュナ氏は勿体ぶったのと同時におもねった態度で頭を下げた。1022