「ド・ヴァロルセイ侯爵がいまだにのうのうとしていられるのは何故なのか? それは私には奇跡のごとく思われます。もう既に六か月前、彼の債権者たちは彼を差し押さえると脅していたのですよ。ド・シャルース伯爵の死後、一体どのようにして彼らをなだめて来られたのでしょうか? こればかりは私にも分かりません。確かなことはですね、お嬢様、侯爵が貴女様との結婚という野望を諦めてはいないということです。それを実現するためなら、どんなことでも、よろしいですか、どんなことでも彼はやる気だということです……」
今やすっかり落ち着きを取り戻したマルグリット嬢は、まるで関係のない話を聞くかのように全く表情を表さず聞いていた。フォルチュナ氏が一息吐いたので、彼女は氷のような冷たさで言った。
「そのことはすべて存じております」
「な、何ですと! 御存知だったと仰るのですか?」
「ええ。ただ、私の理解力を越えていることが一つあります。ド・ヴァロルセイ様はただ私の持参金だけが狙いというわけですわね? それでは、何故いつまでも私との結婚に固執していらっしゃるのでしょう、私には持参金など全くありませんのに?」
フォルチュナ氏の得意そうな姿勢が少しずつ崩れ始めていた。
「そこでございますよ」と彼は答えた。「私も最初にまずそのことを自問いたしました。で、その理由を突き止めたと考えております。さよう、侯爵は亡きシャルース伯爵から何らかの書面を受け取っているに違いないと、私、断言してもようございます。証書、あるいは遺言書に類する書類です。つまり、貴女様の出生を証明し、従いまして貴女様に相続権があることを証明する記録です」
「で、その相続権を、彼が私の夫になれば行使できるということですか?」
「そのとおりでございます」
フォルチュナ氏と全く同じことを、かの老治安判事も言っていた。ド・ヴァロルセイ氏の行動の動機としてはそれしか考えられない、と。しかし、マルグリット嬢はそのことを言うのは差し控えた。警戒することが習慣になっている彼女は、この男が彼女に対して抱いているらしい並々ならぬ関心に不安を覚えずにいられなかった。これには何かの罠が隠されているのではなかろうか……? そこで彼女はフォルチュナ氏には守りとおすことの出来なかったある決心をした。相手には好きに喋らせておき、自分からは知っていることを何も話さない、という。
「貴方の仰るとおりなのかもしれません」と彼女は言った。「でも、そのように申し立てられるからには、根拠がおありになるのでしょうか」2.20
今やすっかり落ち着きを取り戻したマルグリット嬢は、まるで関係のない話を聞くかのように全く表情を表さず聞いていた。フォルチュナ氏が一息吐いたので、彼女は氷のような冷たさで言った。
「そのことはすべて存じております」
「な、何ですと! 御存知だったと仰るのですか?」
「ええ。ただ、私の理解力を越えていることが一つあります。ド・ヴァロルセイ様はただ私の持参金だけが狙いというわけですわね? それでは、何故いつまでも私との結婚に固執していらっしゃるのでしょう、私には持参金など全くありませんのに?」
フォルチュナ氏の得意そうな姿勢が少しずつ崩れ始めていた。
「そこでございますよ」と彼は答えた。「私も最初にまずそのことを自問いたしました。で、その理由を突き止めたと考えております。さよう、侯爵は亡きシャルース伯爵から何らかの書面を受け取っているに違いないと、私、断言してもようございます。証書、あるいは遺言書に類する書類です。つまり、貴女様の出生を証明し、従いまして貴女様に相続権があることを証明する記録です」
「で、その相続権を、彼が私の夫になれば行使できるということですか?」
「そのとおりでございます」
フォルチュナ氏と全く同じことを、かの老治安判事も言っていた。ド・ヴァロルセイ氏の行動の動機としてはそれしか考えられない、と。しかし、マルグリット嬢はそのことを言うのは差し控えた。警戒することが習慣になっている彼女は、この男が彼女に対して抱いているらしい並々ならぬ関心に不安を覚えずにいられなかった。これには何かの罠が隠されているのではなかろうか……? そこで彼女はフォルチュナ氏には守りとおすことの出来なかったある決心をした。相手には好きに喋らせておき、自分からは知っていることを何も話さない、という。
「貴方の仰るとおりなのかもしれません」と彼女は言った。「でも、そのように申し立てられるからには、根拠がおありになるのでしょうか」2.20
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