エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-X-16

2024-02-14 10:46:47 | 地獄の生活
フェライユール氏が卑劣な手段で陥れられたのは、貴女様が目的だったからに他なりません。そしてこの私は、氏を破滅に追い込んだ悪党どもの名前をお教えすることができます。この犯罪を画策したのは最も大きな利益を得る人間、ド・ヴァロルセイ侯爵です……。その手先となったのはド・コラルト子爵と自称している凶悪なる人物。その者の本名及びその恥ずべき過去については、ここにおりますシュパンがお伝えすることができます。お嬢様はフェライユール氏という方を見初められました。それ故その方が邪魔になったのです。ド・シャルース様はド・ヴァロルセイ侯爵に貴女様との結婚を約束なさったのではありませんか? この結婚こそが侯爵にとって起死回生の手段、まさに溺れる者を救ってくれる舟だったのでございます。というのも侯爵にとって状況は破綻寸前だったのですから……人は侯爵を裕福だと見ていますが、実際はそうじゃない。破産状態、すっからかん。もう何も残ってはいない、情けない男です。こうなれば後はピストルで頭を撃ち抜くしかないと思っていたそのとき、貴女様と結婚するという希望が立ち現れたのでございます……」
 「さぁさぁ、おいでなすった!」とシュパンは思っていた。「喋りまくりが始まってるな」
 そのとおりだった。ド・ヴァロルセイという名前を口にするだけで、フォルチュナ氏は怒り心頭に発していた。かつて自分の依頼人であった侯爵のことが頭に浮かぶ度、彼はすっかり冷静さを失ってしまうのだった。冷静さこそが彼の一番の売りであったのに。頭に血が上った所為で彼の打算が表に出てしまった。彼のもともとの目論見とはどのようなものであったか? マルグリット嬢を驚かせ、彼女にあり得ないような考えを抱かせるように仕向け、こちらが何も言わないうちに彼女の方からぺらぺらと喋るようにさせ、自分は冷静に事態を把握する、というものであった。ところが実際は全然そうではなく、ぺらぺらと洗いざらい喋っているのは彼の方だった。
 はっと気がついたときは遅く、もう後戻りできなくなっていた。マルグリット嬢が自分に投げかけている強い視線で、彼はそのことを理解した。2.14

コメント    この記事についてブログを書く
« 2-X-15 | トップ | 2-X-17 »

コメントを投稿

地獄の生活」カテゴリの最新記事