エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-XII-23

2024-11-05 11:00:06 | 地獄の生活
二時半の鐘が鳴った。まだたっぷり一時間半ある。
「この時間を利用して何か食べることにするか」と彼は考えた。胃が引っ張られる感じが彼に今日はココア一杯しか腹に入れていないことを思い出させた。ちょうどカフェの前を通りかかったので、中に入り、昼食を注文した。ド・ヴァロルセイ侯爵邸に彼が決めた時間にちゃんと到着できるように調整するつもりだった。自分の逸る心にまかせて行動するなら、もっとずっと早く到着していたことであろう。この二番目の会見こそが決め手になるのだから……。しかし、マダム・レオンとドクター・ジョドンに見られる危険性を考えて、彼は慎重になった。特にドクターの存在が彼を大いに悩ませた。
「ああ、よかった、モーメジャンさん!」 侯爵は彼が姿を現したとき、大声で叫んだ。おそらく一時間以上も今か今かと待ち構えていたに違いない。彼の口調がそれを物語っていた。
パスカルは重々しくポケットから千フラン札を二十四枚と一枚の有価証券を取り出し、テーブルに置いて言った。
「さぁこれです、侯爵。当然ながら、手数料の五十ルイは予め差し引かせて頂きました。ここに御署名をお願い致します。二か月後、私を受取人として二万五千フランを振り出すという内容の証書です。これをもって手続きは完了でございます……」
書面にサインをするとき侯爵の手は興奮に震えていた。ついさっきまで、彼は疑っていたのだ。この代理人と称する男が突然現れ、あまりにも都合よく提示してくれた約束を。
「これでゲームの借りは清算することができましたよ」と署名を終えたとき彼は言い、札束を無造作に引き出しの中に投げ込んだ。「しかし、まだまだ窮地を脱したわけではない……この二万四千フランは、トリゴー男爵が貸すと約束してくれた十万フランの穴を埋めてくれるわけではないのでね!」
パスカルが何も答えなかったので、侯爵は喫煙室を大股に歩き回り始めた。精彩のない表情で、眉に皺を寄せ、目の前に決断のときを控えているが、その重大な影響を前もって推し量っているという様子で……。フォルチュナ氏との決別依頼、ド・ヴァロルセイ侯爵は次々と大きな困難に見舞われ続けているかのごとく思われた。どの件も有能な法律顧問を必要とするのに、彼には頼れる当てが思いつかなかった。彼が抱えている案件を相談できるような、名の通った優れた公証人、大訴人、あるいは弁護士はいなかった。だからと言って、行き当たりばったりの者に託して事情を話せば、それを元に強請られることがないとは言えまい?
つまるところ、彼はちょうど良いときに彼を助けに来てくれたこの目の前にいる男を雇うことは出来ないだろうか、と思案していたのだ。この男ならぴったりではなかろうか。抜け目がなく、貪欲、それに多少後ろ暗いこともやってのけてくれそうだ……。11.5

コメント    この記事についてブログを書く
« 2-XII-22 | トップ | 2-XII-24 »

コメントを投稿

地獄の生活」カテゴリの最新記事