エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-XII-24

2024-11-08 15:19:30 | 地獄の生活
躊躇している時間もないので、彼は心を決めた。危険は承知の上だ。彼はパスカルの前まで来ると、ぴたりと立ち止まった。
「君は私に二万四千フランを都合してくれたのだから、どうだろう、残りの金子も用立ててはくれぬか?」
パスカルは首を振った。
 「貴方のような地位にあられる方に二万四千フランをご用立てするのは、何ら危険はございません。仮に大船が沈没しても、残滓を集めればそれぐらいの金額にはなりましょう。ですが、その二倍、三倍の金額ということになりますと、話が違ってまいります。じっくり検討することが必要になります。貴方様がどういう状況でいらっしゃるのか、それを把握する必要がございます」
「それでは私がこう言ったとしたらどうだ……私はほぼ破産状態にある、と?」
「さほど驚きはいたしません……」
こうなるとド・ヴァロルセイ侯爵はもう後へは退けなかった。
「そうか。実を言うと、私の財政状態は相当酷い状態になっておって……」
「なんとなんと! それはもっと早く仰ってくださるべきでした……」
「ああ、いやいや、ちょっと待ってくれ……これを元通りに回復させることは出来ると思っている。それどころか、今まで以上に富を増やすことも可能だと……。私はある方との結婚を考えている。それが成立すれば、私はパリで最も裕福な男の一人になる……。が、そこまで漕ぎつけるには時間が掛かるし、金も要る。しかも私の債権者たちは毎日のように私を責め立ててくる……。君は言っておったな、かつて私のような状況にある男を救ったことがあると。どうだ、私を救ってくれぬか? 報酬額については、君自身が決めてくれて結構だ……」
苦しみを堪えるより喜びを堪える方が難しいものだ。パスカルはもう少しで本心を漏らしそうになった。目的を達した、と彼は思った……。しかし自制心を取り戻し、落ち着いた明確な口調で彼は答えた。
「具体的な計画を理解いたしませんと、私には何も申し上げられません。お話くださいますか、侯爵、伺いますよ……」11.8


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