この点検作業は毎日行われるものであったが、今日は会計係が報告をしている間、フォルチュナ氏は心ここに在らずといった様子であった。彼はしょっちゅう手を止め、外からほんの小さな物音が聞こえてくる度に耳を澄ました。というのは、石炭卸売商人との面談の前に彼はヴィクトール・シュパンをド・シャルース伯爵の下男のカジミール氏のもとに送り、伯爵に関する最新の情報を集めてくるよう言いつけていたのだ。それから一時間以上も経つのに、いつもなら仕事の速いシュパンがまだ戻ってきていなかった。
しかしついに彼が姿を現したので、フォルチュナ氏は会計係を身振りで追い払い、シュパンの方に向き直った。
「どうだった?」と彼は聞いた。
「もう誰もいませんやね」とシュパンは答えた。「伯爵は亡くなりました……彼は遺言を残さなかったっていう話です……てわけで、あの綺麗な娘さんは路頭に迷うことになりました」
フォルチュナ氏の悪い予感は的中したのだが、彼は眉ひとつ動かさなかった。静かな口調で彼は言った。
「カジミールは約束の時間に来るのか?」
「出来るだけ行くようにする、と言ってました……奴が来るって百スー賭けてもいいっすよ……奴さん、フォルチュナさんのことを買ってるんすよ。何かおいしいもんにありつけそうなら十里の道でもやって来やすよ」
フォルチュナ氏もシュパンと同意見だった。
「それならいいんだが」と彼は言った。「ところでお前、随分道草喰ってたじゃないか、ヴィクトール」
「ま、そうですがね、俺の方でもちょいとした仕事がありやしてね。百フランの仕事なんで、ご勘弁ねがいやすよ……」
フォルチュナ氏は眉をひそめた。
「仕事熱心なのは結構なことだが」と彼は言った。「お前、ちょっと金、金って言いすぎじゃないか、ヴィクトール、ちょっとどころじゃないぞ……いくらあっても足りないぐらいじゃないか!」
剽軽な若者は悪びれることなく顔を上げ、もったいぶった調子で答えた。
「あっしには面倒を見なきゃいけない責任がありますんで」8.21