◎貞節と一夫一婦
6世紀、古代ローマの貴族セクストゥスは、ローマ軍のアルデア攻囲戦での宴会で、いとこのコッラティヌスに妻の比べ合いの余興を持ちかけた。セクストゥスの妻らはローマで宴会を開いて遊んでいたが、コッラティヌスの妻ルクレティアは召使いたちと夜遅くまで糸紡ぎをしていた。ルクレティアの貞淑さに瞋(いか)ったセクストゥスは、数日後、剣で脅しながらルクレティアを強姦。
傷心のルクレティアは、夫と父にこの経緯を伝え、短剣で胸を突いて自刃した。
キリスト教では、貞潔が求められる一方で自殺は禁止されている。人生場裡には、そういう理不尽な事件はままあるものだ。
後にシェークスピアは、この事件を題材に『ルークリース凌辱』(The Rape of Lucrece)を書いた。
事情はやや異なるが、明智光秀の娘細川ガラシャの自殺、明治維新の大田垣蓮月の貞節など、こうした事件には見るべきものはある。
魂の伴侶、一夫一婦のビジョン、イスラムの一夫四妻のビジョン、サンヴァラ(交合図)など、一夫一婦の正統性について考慮すべきファクターは多いが、歴史的に不倫乱倫は一律に悪とされてきたのには、それなりの理由があるのだろうと思う。
(ルクレティア/クラナッハ・ザ・エルダー/ドイツ,バンベルク,バンベルク図書館蔵)