◎僧は自分の首がストンと落ちたことに気がつかなかった
『巌頭が僧に問うた、「どこから来た」。
僧「長安から来ました」。
巌頭「黄巣が通り過ぎてから、剣を手に入れたか」。
〔安禄山の乱後100年ほどして黄巣の乱が起きて、唐朝滅亡に導いたが、黄巣は「天賜黄巣」と銘のある剣を手に入れて、反乱を起こし、880年長安を陥れ大斉国を建てたが、唐朝の反撃にあい、884年郷里の山東で自決した。その剣のこと。〕
僧 「手に入れました」。
巌頭は首を伸ばし差し出して、「ストン」。
僧「先生の首が落ちました」。
巌頭はカラカラと大笑いした。
僧はその後、雪峰のところに来た。
雪峰「どこから来た」。
僧「巌頭から来ました」。
雪峰「なんと言っていたか」。
僧は先の話を提起した。
雪峰は三十棒食らわして追い出した。』
(碧巌録第六十六則)
巌頭も雪峰も、さっさと自分の首を落としなさいと言っている。
さらに、
『竜牙が修行行脚していた時、この問いを出して、徳山に問うた、「拙者が鏌鋣(ばくや)の剣を持って先生の首をとろうとしたらどうしますか」。⦅鏌鋣の剣:名剣の代名詞⦆
徳山は首を伸ばし差し出して、「ストン」。竜牙 「先生の首が落ちました」。
徳山は方丈に帰った。
竜牙は後に洞山にこの話をした。
洞山「徳山はその時何と言った」。
竜牙「何も言いませんでした」。
洞山「何も言わなかったことはさておき、わしに徳山の落ちた首を貸してくれないか」。
竜牙は言下に大悟した。そして、香を焚き遥かに徳山を望んで礼拝し懺悔した。ある僧が徳山に伝えた。徳山「洞山のおやじ、善し悪しを知らんな。こ奴は死んでからかなりたつ。救って何になろう」。
この公案は竜牙のと同じだ。徳山が方丈に帰ったのが、言葉にならない最も玄妙なところだ。』
首を落とされた徳山が無言で自室に帰ったのは、竜牙に見込みがあったからだろう。