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二人の写真家

2018-11-05 18:07:05 | 写真
Margit Erb - Director, Saul Leiter Foundation



 今二人の写真家が気になっている。
一人はソール・ライター。50年代から70年代までファッション誌の写真を飾った写真家だったが、方針の対立からその世界から手を引いた。
その後は絵をかいたり写真を撮ったりしていたが、一部の批評家を除いてほぼ無名に近い存在だったらしく、当然生活も苦しかった。
それが2000年代になってからドイツの写真誌に認められて一躍、というか再び写真家として広く知られるようになった。

 彼は最初画家を目指していたが、友人の勧めもあって写真家を目指したらしい。
というだけあって、彼の描いた絵はとても質が高い。(32分40秒あたりから)
いま、彼の描いた絵がかなり残っていて、それらはこれから徐々に発表されていくという。おそらくだが、これだけのレベルの絵なので、これから彼の絵が非常に高く評価される時がやってくるのではないか、と彼女も言っているし、僕もそれは全く同意見だ。

 もしかすると、数十年後には写真家としてではなく、むしろ画家としての名声を確立するかもしれない。
ただ、それらは今リアルタイムで進行中のことなので、まだだれにもわからない。

 僕もつい最近彼のことを知るようになったので、詳しいことはわからないが、これらの絵と写真から判断するに、相当の芸術家であることは間違いない。
特に彼の写真にあらわれている「色」とハッと意表を突く「構図」、そしてガラスに映る水滴や反射を巧みに使い、モデルの心の奥まで表現するその感覚は…まさに凄腕である。

この写真も必見!

 とにかく彼の写真は少なくとも僕の常識を覆すほど斬新だ。
いい写真というと、ガチっと構図を決めて、とくにストリートフォトグラフィーの場合なにかそこに「意味」のようなものをこめてとった写真がいいものだと思っていた。
ところが、彼の場合はそんなものは2義的なもので、まず一番目に「色」を持ってきている。そのあとに印象に残るのが構図、しかも、その構図もまるで北斎や広重の絵のように意表を突くような斬新さ。

 よくこういう光景を瞬時に切り取ったな、と感心する。
このプレゼンテーションで紹介されているほとんどの写真が素晴らしいが、特に僕の目に焼き付いたのが49分10秒あたりに出てくるウィンドウかミラーに映った町の情景だ。「Window 1957」
これをカメラで切り取れるのは本物の「芸術家の眼」を持った者のみにしかできない。ふつうはこれは見逃してしまうだろう。そう、まるで印象派の「絵」のようだ。

 この写真はおそらく一切の加工を施してない、そのまんまの写真だろう。考えたことがあるだろうか、僕らが普段歩いている街にこのような情景があるということを!
このプレゼンテーションをしている女性はライターのアシスタントだったみたいだが、彼女も言っているように、これから膨大に残された彼の写真と絵が世に出ていく過程で、世間でどのような評価を受けていくかということがとても楽しみだ。

 
 さて、二人目だが、この人はソウル・ライターとはまったくタイプの違う写真家だ。
ただし、その写真家としてのレベルの高さという点でこの人も全く引けを取らない。
彼の名前はマイケル・ケンナ。
この人も最初は画家を目指していたが、途中で写真に転向したらしい。彼が画家を目指していたというのは、ちょうどライターが画家を目指していたというのと同じくらい、その写真を見れば納得できる。

 ライターの写真もそうだが、このセンス、これはまさに「画家が撮った写真」である。
そして数時間にも及ぶこともあるという長時間露光、そして彼独自の熟練した現像技術(彼は今でもフィルム写真)、さらに白黒世界が生み出すあの独特の幻想、神秘性。

 この二人の作品を見ていると感じるのは、完全に作品を自分のものにしているということ。言い換えると他の人には絶対にまねできない、作品そのものがまさに彼ら自身、という感じ。
しかも、ユニークでありながら、同時に普遍性に達している。
ライターの写真は瞬時に現出した「美」を手練れの剣士のように瞬時にきりとり対象をアートに変える魔術、一方ケンナのほうは素材は現実からとりながらもそれを彼独自の感覚と技術で「詩」の領域にまで高めている。

 一見全く違うタイプの写真家だが、二人に共通しているものは、「美」にたいする先鋭かつ鋭敏すぎる感覚、そして「自分の」感覚に対する絶対的な信頼である。
うまい写真はちょっと練習すればたぶん誰でもある程度のものはとれる。
ただ……この二人のようなレベルとなると、さらに「特別な何か」が絶対に必要である。幾多幾千の写真はあっても時代を越えて残っていくのはこういう作品だけだろう。

マイケル・ケンナの作品
 
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