三木奎吾の住宅探訪記 2nd

北海道の住宅メディア人が住まいの過去・現在・未来を探索します。
(旧タイトル:性能とデザイン いい家大研究)

【イマドキ北海道の暖房給湯システム】

2018年07月09日 06時23分35秒 | Weblog


今月中旬から来月、本州地区から見学予定の南幌「きた住まいる」モデル。
暖房給湯システムは地域集中LPガスやボンベ設置型プロパンが使われました。
合計10社の地域優良工務店+設計事務所たちが合議して、
最適と考えられた熱源・システムとして地域集中LPガスが3棟で採用され
ほか2棟では、プロパンボンベ設置型を選択されたようです。
北海道の地方では事実上、電気か石油かLPガスという選択になる。
3.11以降、オール電化への過度な依存から脱却して
さまざまな試行が繰り返されてきましたが、
今回、多くのモデルハウス参加者たちが、このような結論を出した。
取材したのは、山之内設計と晃和住宅コンビの住宅です。
ここでは暖房給湯システムとしてアースチューブをくぐらせて
地熱で加温させた新鮮外気を取り入れ床下空間に導入する。
そこでLPガス熱源の「エコジョーズ」によって加温させる。
そこで加温調整された暖気が、各階の床の一部、大きな開口部周辺の
「ガラリ」からゆったりと上昇気流に乗って室内に充満する。
給湯も同じエコジョーズから供給される。
加温に際して発生するロスの熱も、ヒートポンプ技術で活用する。
言ってみれば、パッシブな換気・地熱・ヒートポンプの合わせ技といったところ。
ことに暖房について言えば、室内での大きな「暖房器」は見当たらない。
寒冷地北海道では、どうしても冬の暖房熱源は必要。
そのなかでもっともコスパが現状でいいと考えられた
LPガスを地域単位で導入することで、イニシアルコストも軽減させられた。
かなり合理性が高いシステム構成だと考えられます。

写真は新鮮外気取り入れ口の様子と、温水循環のパイピングコントロール状況。
冬期間の積雪も考慮して、ひとの身長くらいの高さまで
コンクリートブロックでパイプが保護、被覆されています。
こういった様子を見ていると、まさに北海道での暖房選択は、
いかに短期間に変遷が繰り返されてきたかがわかります。
わたしがウォッチしてきたここ30年でも当初期からはまさに隔世の感。
合理主義的な選択が北海道では標準だと思い知らされる。
カタチにとらわれず、柔軟に最適解を求めていく市場のダイナミズムを感じます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【水害・土砂災害お見舞い申し上げます】

2018年07月08日 09時39分38秒 | Weblog
西日本一帯を襲っている大雨、すさまじいですね。
おかげさまで北海道札幌は一段落したような状況ですが、
全国ニュースから目を離せませんでした。
ちょうどスタッフが関西出張中で多くのみなさんから、
「こんななかを来てくれて・・・」ということだったようですが、飛行機は飛ぶのかとか、
行く先々の被害の状況とか気になって仕方ありませんでした。
関西からも京都鴨川の増水ぶりがテレビでも流れていて
鴨川沿いの先斗町の飲食店の「床」がほとんど水面に浮かんでいる様子。
四条大橋直下まで水量が増している様を見て驚かされました。

さらに数年前にも大きな土砂災害があった広島市で
またふたたび大きな住宅地での地盤崩壊が発生して、
現在で死者20人超というむごたらしい被害状況。
安全であるべきシェルターとしての住宅が、その建っている地盤状況で一変して
ひとの命を保全できなかったニュースをみて、
まことに暗澹たる思いを持っております。亡くなられた方々のご冥福をお祈りし、
被災されたすべてのみなさんにお見舞い申し上げます。
それにしてもまたしても広島市住宅街であります。
中国地方の「大蛇」伝承というのは、あれは土壌崩壊のさまをあらわした
寓話的表現ではないかと想像させられることがあります。
雨に弱い地盤構造がこの地域の特徴で、大雨が続くと山が崩壊して
まるで大蛇のように押し流されて行ってしまう。その様子ではないかと。
そもそも平らな地面が地形的に確保されづらくて、
住宅地を求めて、そのような危険姓のある場所に開発が行われてきた、
そういった土地・地域の事情が関係しているのではないかと危惧される。
以前、14年の土砂災害の時にもそういった感想を持ったのですが、
今回再び、同様の事態が起こってしまったことがなんとも悲しい。
わたしの3代前の祖父は広島県福山から北海道に移住したのですが、
どうしても広島のことが、身内のことのように心配させられます。
気候変動対応としてシェルターとしての住宅内環境を制御していくことは
建築技術の大きなテーマとして追究されていくべきですが、
まちづくりとか、地盤面の安全性向上も緊急度は高い。
注文戸建て住宅づくりのその基礎を文字通り支えることがらですので、
ぜひ、多くの知見が結集されていくことを祈念しております。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【空海開基・東長寺の「地獄図」参観】

2018年07月07日 08時44分27秒 | Weblog



本日は休日につき、非住宅ネタであります、それも
おっかない地獄の阿鼻叫喚図についてであります(笑)。
現代社会では「科学」という人間の価値判断基準が支配的になっています。
ごく当然だとそのことを思ってしまいますが、
こういうことは歴史的に見るときわめてごく最近、人類が経験していること。
科学的概念が広がる以前には、ひとはどう生きて考えたらいいか、
多くの場合、宗教がそのことにもっとも大きく関与していた。
生きがたく苦しみだけが多い現世の暮らしを離れ、
せめてあの世での救済を希ったのでしょう。
そのときに、反語表現として「地獄」という概念が持ち出されたのは、
どうも洋の東西を問わないらしいようです。
ふつうの会話にこうした「地獄」というバーチャルな概念が強く残り、
ひとの生き方に大きく影響したというのは、
相当に強烈なインパクトを「地獄」概念が持っていたからなのでしょう。
こういうバーチャル概念がなぜ広がっていったのか?
20世紀中庸に生まれた者としてリアルには想起しづらいものがある。
なぜこんな概念に深くとらわれていたのか、疑問もあった。
ときどき、寺院などでこの「地獄図」は見たことがありますが、
先日、福岡市内で時間待ちの時に、博多駅近くの「東長寺」で見学できた。

弘法大師・空海さんは宗教者としての成功を
唐の都で勝ち取って、意気揚々と凱旋帰国したのですが、
そのときの日本政府側との交渉の結果なのか、
しばらく博多に滞在していた。その時にこの寺を建てたとされている。
空海さんには司馬遼太郎さんの「空海の風景」を読んで興味を持ったのですが、
その空海さんと、この「地獄絵図」はあんまり結びつかない。
むしろもっと「科学的」宗教者であったように思われてならない。
満濃池の治水事業などを指揮し、成功させたという科学的知識が
ふかく時の権力層をかしづかせていったに違いないと思える。
ですから、この地獄絵図は迷える衆生のため、
わかりやすくキッチュな表現を後世になって造作したのでしょう。
空海さんとはまったく縁のない図だろうと思います。

それにしても、であります。
こういういかにもおどろおどろしくヘタな表現には迫力がある(笑)。
その上、この地獄絵図は暗い回廊の中に展示されている。
いかにもおっかない場所で、驚かせる表現を心がけている。
むしろそういう宗教側の必死さが伝わってくるように思います。
考えてみれば、芸能とかの娯楽接触が少ない時代、
またメディアが存在していない時代、こういう寺院は多くの人間が
集まってバーチャル体験を共有する数少ない機会。
そんな風景の中で、こういう表現にはニーズがあり、
クチコミの大きな手段であったのでしょうね。
寺というのは宗教と言うよりも、メディアだったのではないかと、
人間の想像力、表現力について興味深く見学させていただきました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【気候変動から人を守るシェルター機能住宅へ】

2018年07月06日 07時44分54秒 | Weblog
先週金曜日に沖縄から帰ってきて北見に行って
その後、日曜日からきのう木曜日までほぼ雨ばかり。
さすがに5日間も雨ばかりだったので、北海道も梅雨を考えた
家づくりをしていかなければと思わされた。
郷土を同じくする者として、建築家の山本亜耕さんから、
「北海道にも梅雨は既にありますね。なので対策は必要だと思います。」
「(わたしの雨への愚痴に)まったくですね・・ただ別の視点で見ると
-15℃から梅雨まで克服できたら又一つ進化できるかもしれません。」
っていうような書き込みもいただきました。
蒸暑地・沖縄のみなさんからも取材まとめについて必要な写真資料を
ご丁寧に送っていただいたりしておりましたが、
このように北海道は北海道で気候対応の進化は不可欠なのでしょう。
気候が大きく変動している時代の家づくり、お互いに学び合うことが必要。
さらに仙台の三浦正博さんからは、気候変動についての
「宇宙線由来説」という情報もお知らせいただいたりしておりました。
現在のCO2由来説のほかに、もうちょっとビッグスパンでの
気候変動要因の解析も必要という視点でした。

いずれにせよ、気象庁発表の警告が、
「これまで経験したことのない」というような表現が頻発される時代。
住宅が果たしていく、人間健康シェルターとしての役割は
どんどんと大きく広がって行っていると思います。
断熱気密という基本要件がほぼ確立して、北海道の場合にはかなり一般レベルで
その他の地域でも相当の進展が見られるようになって来て、
気候条件に対して、住宅はより柔軟に人間を守っていく機能を果たせる。
っていうか、具体的にどうすればいいかの方向感覚は見えている。
外気条件と仕分けて考えられるような室内気候条件を確立することで
このような対応力も高まっていくのだろうと思います。
また考えてみれば、このようにSNSを使って情報共有が、
それこそ日本語文化圏内では幅広く行われてきている現実ですね。
住宅というのはそこに「住文化」が伴っているので、
同じ民族同士の情報交換では、知識を共有して理解しあえる基盤が幅広い。
共感が深い、というようにも言えますね。
沖縄での蒸暑気候での室内湿度コントロールの知見が
北海道のあらたな「梅雨対策」にとってのヒントになる可能性もある。
ちょうど、沖縄でもほぼ北海道と同じレベルの断熱気密の住宅も出来た。
そういう室内気候の状況は、お互いの知見の情報共有の
ひとつの機会にもなって行くかも知れません。
室内気候コントロールの手段が断熱気密で確保されてきて
ひたすら外気導入、通風に頼らざるを得なかった建築技術の時代から
適切な室内気候制御システムの知恵も活用できる時代。
どうもこういう住宅の可能性って、単なる「需要を満たす」というレベルから
もっと「よりよく暮らす」レベルへと移ろっていくことを
垣間見せ始めているのかも知れませんね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【日本の建築を支えるアジアンたち】

2018年07月05日 07時08分58秒 | Weblog
沖縄で建築現場をみることが出来た今回のツアーでしたが、
印象的だったのは、糸満の建築現場で働いていたベトナム人職人さんたち。
一応いまの立場は「研修生」というものでした。
日本の人口構成が急速に高齢化していくなかで、
暑い日中の屋外労働のようなキツい仕事では人手不足は必然。
そもそも若年層の労働人口が減ってきているので、
こういった趨勢はやむを得ない側面がありますね。
日本でも事実上の労働力の自由化の方向に向かい始めたようです。
議論はあるでしょうが、経済実態から考えれば労働力受け入れは自然。
現実に建築関係では60代でも現役という職人さんが多い。
早晩、そういう職種では人手不足がより深刻にならざるを得ない。
経済を考えていけば、こうした担い手問題は喫緊の課題です。
日本人か外国人かで、出来る仕事に大きな違いがあるわけではないし、
日本社会の「公平性」が問われてくる状況が近未来に見える。
忙しく働いている職人さんにあれこれと聞くわけにも行かなかったのですが、
それでも二言三言、言葉を交わさせてもらった。
屈託ない笑顔を見させてもらって、若々しさがこっちまで伝わってきます。
「研修生」という立場での就労なので単身で働きに来ている。
まだ若く独身だというかれら。
「ニッポンの女性もきれいでしょう?」
と冗談めかして聞いてみた。当然だけれど
「キレイですね(笑)・・・」というような反応。
こういった立場の人たちは、家族を呼ぶことは出来ないとされます。

先日中国での「軸組構法」の建築への本格導入の動きを書きましたが、
とくに日本の建築にとって、この労働問題も含めた将来展望のなか
「国際化」は、避けては通れない問題になっていくでしょう。
中国では古来からの木造伝統建築へのリスペクトは大きいとされ
世界の中で唯一、この建築技術を遺し伝統化させてきた日本は
そういった文化的側面から注目が高まり、影響力を発揮しうる。
その技術を学ぶという中国・アジアからの需要も今後高まる可能性もある。
かれらアジアンたちは、日本語をなんとか話して
日本で働きたいと一生懸命だと感じます。
Facebookのシンガポール人スタッフの方も、IT技術+広告という
きわめて敏感なコミュニケーションの仕事領域ですが
なんとか日本語を使ってコミュニケーションを計ってくれる。
逆のことは、日本の若者にはあんまり考えられない。
世界的に資本主義が席巻する世紀になって、その市場が開放されていくのは
どうしても抗えない趨勢になっていく。

歴史的には日本社会というのはアジアからのエトランゼたちを
旺盛に受け入れ続けてきた時代を持っていると思います。
江戸期の鎖国から明治以降の「国民国家」形成期というのは、
むしろ日本史全体から見ればやや異形の時代だったように思える。
古代ではアジア世界からの移民をきわめて旺盛に受け入れ、
その「先進技術」を導入し続けてきた。
コメ文化の受容、漢字文化の学習、律令国家制度・仏教思想の導入など、
むしろこの列島社会はアジアのフロンティア地域だったのだろうと。
しかし現代は、そういう意味では逆転した立場での「国際化」なのでしょう。
この趨勢を受容しながら、どのように安定した社会環境を構築できるか、
不透明ですが、ニッポン社会が試されていくという予感があります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【北海道には「梅雨」はないの、ホント?】

2018年07月04日 06時28分30秒 | Weblog


もうカレンダーは7月に入っているのですが、
北海道地方は6月からずっと雨模様の天気の日々が続いております。
忙しいのと、出張が重なっていることもありますが、
最近、さっぱり早朝の散歩に行けておりません。
これは朝、雨で天気が良くなく、行く気にならないのもある。
北海道には梅雨はない、と耳にたこができるくらいに聞かされてきましたが、
とくに今年は、異常に雨が多いと思います。
きのうなどは、いかにも「梅雨末期」みたいな豪雨が北海道を襲っていて
石狩川などで氾濫箇所がいくつか出ている。
土砂崩れなどの情報も各地からもたらされている。

公式的な梅雨はないけれど、エゾ梅雨というのはあるとされている。
公式というのは、いわゆる「梅雨前線」の活動によるということのようですが、
きょうの天気図を見ると、梅雨前線っぽいのが北海道に掛かっている。
で、下の写真はわが家の室内の温湿度計ですが、
湿度の方が60%を超えてきています。
札幌のこの時期6月の外気湿度は平均的には72%程度と
湿度は意外に低くなく東京より高いくらいです。
ただし、気温との相関での「不快指数」はまったく違いがある。
外気に対して室内は、家電や人体などの発熱でやや高温になることもあって
相対的に湿度は下がるのですが、4月頃には40%程度で推移していた。
わが家は3種換気なのですが、それでも連続運転はしている。
ここ数年の間、長期間ずっと開閉させなかった場所にしまっていた衣類の一部で
カビの被害があった。こういうのは27年間住んでいてこれまでなかった。
わが家の工事を依頼している吉田建産さんに聞いてみると、
多くのご家庭で、冬ではなく夏型の結露被害が広がっている実感ということ。
やはり北海道でも、外気の湿度環境が大きく変わってきているのではないか。
北海道の生活文化として洗濯物は室内乾燥が多いということも関係するかも。
そろそろ北海道でも、夏型の湿気対策が本格的に必要になってくるのではと
住宅建築でも対策が考えなければならないかも知れません。
それにしても、この上、台風が北海道を狙って日本海を北上してきている。
長雨で地盤が緩んだりしているところに台風だと、
被害が拡大する恐れもあろうかと思います。充分注意していたいですね。

ブログで長年情報発信をしてきていますが、
わたしとして気付かなかった、至らない点について知人から意見を承りました。
ありがたい気付きの機会を得られたこと、感謝したいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【木の外壁、常識破りの「横見」板張り】

2018年07月03日 06時50分29秒 | Weblog


いやぁ、いいとこまで行っていましたね、Wカップ・西野ジャパン!
世界3位の実力国ベルギーにあわや、というところまで行った。
わたしはサッカーはまったく門外漢ですが、
この西野さんという監督には、非常に「勝負師」を感じました。
メリハリがハッキリしていて、負けてもいい試合での批判された戦いぶりといい、
きょうの、ただただ挑戦あるのみという戦い方もありと、小気味よかった。
結果はいいところまで追い詰めたというものでしたが、
勝負に行っての敗退は戦略的で、むしろさわやかで勲章ものでは。
戦い方がニッポン人的で共感を持てた。
・・・まぁ、おかげさまで眠い目をこすりながらのブログであります(笑)。

きのうの「なにあれ」わざわざショップin北見の続篇であります。
わたし的に面白くて興味津々だったのが、この木の外壁の張り方。
ふつうは、横張りとか下見板張り〜ドイツ張りという張り方が一般的。
横張りは小口を見せず凸凹していない張り方。
下見板張りは、板を横に張って小口が下を向いて見える張り方。
こういう張り方が「伝統的」といえる張り方で、
雨が外壁を伝って下に落ちていくのを促進するような張り方です。
ドイツ張りという名前通り、まことに理に適った手法だと思います。
長期的安定性という意味ではまことに合理的。
また、視覚的にはリズミカルな「陰影」を外壁にもたらすので、
美観的にも大変優れている構法でしょう。
たぶん、世界標準に近い外壁デザイン手法だと思います。
これに対してこの北見の兼用住宅では、ふつうヨコ方向で重ねる木を
タテ方向にで重ね張りしていっているのですね。
重ねられた部分、木材の小口がタテにまっすぐに並べられている。
下見、に対して「横見」ではないかと名付けてみた。
こういうタテに張る場合は小口を突きつけて、平面的に張っていくのが一般的。
ちょうどヨコ張りをそのままタテにするのが一般的で平滑な壁面になる。
それに対してこの張り方、コロンブスの卵のような新発見感覚。
工法的に考えると、現代住宅ではこの表層の下で、
断熱層があり、その外側で「気密層」があって、この家ではプラスターボードが
さらに曲面に沿って張られているということでした。
そのボードの外側に外壁材を止める胴縁材があって、
この外壁が構成される。なので、胴縁部分が「通気層」になっているので、
万が一の雨水の侵入に対しても、保護バリアとして機能している。
という意味では外壁の木の張り方は自由度が高い。
で、こういった張り方をチャレンジしてみたということでしょう。
とくにR形状の外観デザインとの調和、シンボリックに浮き立たせるには
こういった「横見板張り」という作戦もありだなぁと。
タテの陰影感でR外壁のボリュームを際立たせる効果が高そう。さらに、
「これって、横殴りのブリザードが来たら、タテに雪が吹きだまって、
面白い造形を見せてくれかも知れないね(笑)」
「そうすると、小口を向ける方向が重要だろうね」
「卓越風方向に向けたら、そういう造形が得られるかも知れないね」
「でも卓越風方向だけに向けるのは、配置的には困難ですね」
「道路側に面したR部分での張り方方向が重要かも」
などといろいろなデザイン談義を、
五十嵐淳さん、見学に来ていた照井康穂さんと意見交換していました。
こういう「見たこともない」ことに挑戦するのは、
やはり建築人としての貴重なモチベーションだと思います。
そういうフロンティア精神があらたな可能性を建築に生み出していくのでしょうね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【五十嵐淳「なにあれ?」のわざわざショップ in 北見】

2018年07月02日 07時42分27秒 | Weblog




先週金曜日夕方に札幌帰還。
で、翌日土曜日には案内いただいていた建築家・五十嵐淳さんの
北見でのオープンハウスに行ってきました。
北見は札幌からおよそ300kmですが、
旭川から回っても、十勝から回ってもどうもほとんど変わらない距離。
どっちにせよクルマが便利なので、往復600km超をカミさんと運転シェアで。
北海道の場合は、これくらいの移動距離は結構頻繁に通う範囲。
東京ー名古屋手前、豊橋くらいまでの距離で、
しかも最近はほぼ全線高速道路、もしくは高規格道路なので、
そうは感じない移動距離であります。

五十嵐淳さんは、道北・佐呂間居住の建築家ですが、
最近は札幌にも事務所を構えている。
今回の建物、開口一番「どういったコンセプトで?」
と聞いたら帰ってきた答は、表題のようなあいまい表現(笑)。
施主さんはこの建物を職住一体として使われるそうですが、
「どんな建物か、よくわからないくらいにして欲しい」という要望だったとか。
北海道の建築家の中でもモダンアート的志向の強い五十嵐淳さんに
設計を依頼するだけはあります。
仕事としては酒類販売、それもブランド日本酒専門に扱うお店ということで、
どっちかというと「わざわざ店」といった線を狙っている。
店舗部分は1階で、ごらんのような動線に沿ってカウンター越しに
お店のスタッフと会話しながら、自分のお酒の好みを伝えたりして酒を選んで
奥の冷蔵ケースから自分で好みのお酒をピックアップして
それを持ってこのR状の「店舗空間」に戻って精算して帰っていくという流れ。
一方で店舗側は、冷蔵ケースのとなりにストックヤードがあって、
裏口側から、在庫補給がワンウェイでできるようになっている。
「ちょっと変わっていてなに屋さんかわからない」印象的な外観で
入って見たら、合目的的な「動線」計画に沿った「間取り」になっていて、
その動線通りにスムーズに機能を使い切ることができている。
「まぁ全部が廊下の中にいるようなものですね(笑)」

なんですが、じゃぁ、生活の場である2階は?
こちらのご家族構成は夫婦2人だけ、ということもあって、
もちろんながら、こちらも「ほぼ廊下」。一部開口で膨らんでいる場所に
安楽椅子的な空間があって、ここの対面にテレビの想定位置。
この壁間の距離はおおむね2.7mのスパンと聞きました。
これくらいの距離感があると、居室の壁間とも言える「兼用可能」なスパン。
ほかの空間もこのモジュールで構成されていますが、
どの空間も十分に「用をかなえて」いる。
ただし2階は天井高さが3.6m程度となっているので、
そういったことが人間の空間認識で開放系、プラス方向に働いている。
でも施工は大変そうであります、このR形状。
事実、数社の工務店から断られたのだとか、
構造は木造ですが、このRの曲面を作っていくのは手間も時間も掛かる。
3次元曲線に沿って構造材柱をどのような「向き」に立てていくか、
その柱にどのように「梁」を掛けて行くか、
外壁側でもプラスターボードを曲面加工して貼り合わせている。
さらに2階では住居部分でもあり「付加断熱」分、外壁が1階よりも膨らんでいる。
そういった部分の納めはどうなっているのか、
また、外壁は木を張っていますがそれも「下見板張り」ならぬ
いわば「横見板張り」仕上げ。下地の組み方は?などなど面白い。
・・・まぁ、いろいろアバンギャルドなモダンアート建築なので
どう作っているかについて、興味は尽きませんでした(笑)。
施工は網走市の石川建設さん。五十嵐さんのファンでもあるので、
相当に頑張ってくれた、と五十嵐さんも絶賛されていました。

建物はAEONのほど近くで目抜き通りに面している。
たしかに不思議なモダンアート造形で、「なにさあれ?」と興味は惹かれる。
イマドキの消費者心理として、こういう方が「そそられる」かも。
五十嵐さんの建築、コンセプトから考えるとかなりわかりやすい。
またかれが近作でよくこだわっていた「動線」計画をメインにした建築。
それも、成熟したわかりやすさを持っていると感じました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【蒸暑前提の快楽的「伝統」のいごこち】

2018年07月01日 09時17分53秒 | Weblog
写真は、沖縄からの帰路一時逗留した福岡・博多の「町家」空間。
日本の都市住宅ではこういう「中庭」空間が普遍的に存在した。
その経済力によって、空間性の「格差」は存在したし、
また日本一円、北海道でも日本海側の酒蔵などの建築施設では
ほぼ同様の間取り構成での空間がしつらえられていた。
ただし写真のような艶やかな植栽、高温多湿な風情は年に数日しかなかった。

こうした空間性には北海道から遙かに訪れるエトランゼとしては
民族的空間郷愁はたっぷりと持っております。
沖縄的な言い方では「雨端〜あまはじ」、一般的には濡れ縁、
という、室内であるか外であるか、あいまいな空間越しに
「管理されたそと」としての中庭でたっぷりの湿度貯蔵と水分蒸散機能を
同時に果たすような植栽、中庭をながめ、
なお、その水分保湿、蒸散機能の結果、室内側に「微風」も感じられただろうと
そのたたずまいを感受することも認識できる。
こうした空間性、雨はじでのいごこちのここちよさは素晴らしいと思う。
ただし、この「いごこち」はきわめて刹那的でもあると思う。
第一、不確実性の方がはるかに勝っているだろう。
やはり蒸暑の一時期だけ、その快楽性を発揮する空間ではないか。
このままの空間で雪がそこにうずたかく積もったら危険ですらある。
さらにこうした快楽性は、現代の高断熱高気密空間でも
建具などの「開閉」の工夫で十分に実現も可能だろうと思われる。
そうすることで、蒸暑以外の季節にも建物の空間快適性は高められる。
沖縄でのあらたな高断熱高気密空間の胎動は、
こうした建築の進化がまったくシームレスにあり得ることを語っていた。

それにしても、と思う。
日本の知識人のありよう、その文化というものは、
多分に「情感的」というか、情緒的な部分が多いのだと。
「心頭を滅却すれば火もまた涼し」とか、「武士は食わねど高楊枝」文化。
そういう「ガマンを強いる」ことが、まるで高級な心根であるかのように
生活文化的に無理強いして拡散されてきたのではないか。
日本文化でも民家の系譜にはそういうやせ我慢の発想はないと思う。
一方で人類は普遍性を持って、生活を進化させてきている。
その知恵と工夫を大いに活かして、いごこちをも「科学」する、
そういった態度、姿勢が建築人には不可欠なのではないか。
最近2020年断熱義務化へのアンケート結果の開示がされつつあるという。
そこでは、作り手・設計者のなかから「表現の自由」みたいな論から
断熱義務化を否定する声がアンケートには出ているとされていた。
ことはアンケート結果のことであり、自由に思いを書くことは否定しない。
しかしそれを盾にとって、進化を拒否することが喜ばしいこととは思われない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする