阿部 昭『単純な生活』
グレーと黄色、紺の太い線が引かれた表紙。
この表紙は美しい方だ。
小学館のP+D BOOKSというシリーズは、さまざまな色の線を組み合わせた独特なデザイン。
タイトルの1文字が1つの線に入るように、線の数が増減する。線の色は、毒々しかったり、とても地味だったりと、想像の範囲を超えた組み合わせだ。
小学館のサイトに、すべての本の表紙が載っているので、見ていると楽しい。
いまから40年ほど前、阿部 昭は日常を綴ったエッセイを、雑誌に連載していた。それを1冊にまとめたものがこの本だ。
40代後半の2年半。自身は歳をとったと実感し、子どもは成長し家を離れていく。
たいしたことは書かれていない。
猫を3匹飼っていて、仕事をしていると邪魔をする、原稿の上にフンをしたとか。
天気がいいので仕事を放り出し、鎌倉までバスで行くと、古本屋の店先に自分の本が300円で売られていて、思わず買ってしまいそうになる話とか。
40年前と聞くと大昔のように思うが、不思議と今の出来事のように読める部分が多い。
毎月雑誌で、この人の文章を読めたら楽しかっただろうと思う。
1日1編ずつ、103日かけてこの本を読んでも良かったかもしれない。
たいしたことは起きていない。
でも飽きない。
阿部 昭だからこそ書ける単純な生活なのだ。
蛇足ながら、この数年後、54歳で著者が亡くなったことを知ると、何気ない日常が、より愛おしく感じられる。
装丁はおおうちおさむ氏。(2020)
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