パオロ・コニェッティ他『どこか、安心できる場所で』
表紙に描かれているのは、深い海を泳ぐクジラとダイバーの姿。
白と青とグレーの清潔な表紙だ。
白抜きで置かれたタイトル「どこか、安心できる場所で」を見て、海の近くの、ゆったりとくつろげる場所のことかと思ってしまっても仕方がないだろう。
サブタイトルの「新しいイタリアの文学」から、地中海を思い浮かべるのも自然なことだと思う。
でも、そんなに爽やかな物語ではない。
13人の作家による、今のイタリアを書いた短編集。
おそらく膨大な数の作品の中から選ばれたのだろうが、意図せず孤独感が浮かび上がってきたように、ぼくには感じられた。
大家族をイメージさせるイタリアだが、この孤立した感じが、今のイタリアなのかもしれない。
孤独を感じるとき、人の孤独感に敏感になり、そんな姿を見ることで、自分と同じような人がいると、孤独の辛さが少しは楽になることもある。
そんな弱った心に染み込み話がいくつもある。
ダリオ・ヴォルトリーニの『エリザベス』は、ある男が、夜に家の前を通りかかった女性を見かけるところから始まる。
お腹を痛そうに押さえているその女性は、黒人で、おそらくアフリカから来た移民、あるいは不法滞在者だ。
病院へ行きたがらない女性を説得し、男は車で病院まで彼女を送っていく。
診察室に消えた彼女を、男は通路の椅子に座って待つ。
夜は更けていく。
見ず知らずの女性を、状況もわからず待つことに、男はだんだん苛立っていく。
しかし「最新の意識を持つイタリア人の義務感だ」と男は思うのだ。
これはどういうことだろう。
移民を排除するのではなく、受け入れることを指しているのだろうか。
苛立ちながらも、男は正しいことをしていると感じている。
そして、無事2人は再会する。
最後の一行に、彼女が辿ってきた辛い経験が見えた気がする。
装画はアレッサンドロ・サンナ氏、装丁は山田英春氏。(2020)
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