ジュリア・フィリップス『消失の惑星』
手に取ったときの、カバーの細かな凹凸が手に馴染んで心地よい。
表紙には、こちらを向きつつ立ち去ろうとしている女性の写真があり、白い縁で顔が半分隠れている。どこかへ消えてしまいそうな予感がするのは、タイトルが『消失』だからだろう。
好きな人が離れていくようなラブストーリーを想像したのだったが。
八月から翌年の七月まで、13編の物語が続いている。
最初は気づかなかったが、ジグソーパズルのように、物語と物語が結びついている。
人は誰かの子供であると同時に親でもあり、誰かの友人でもある。そんなさまざまな側面を見せることで、パズルは立体的になっていく。
舞台はカムチャッカ半島のいくつかの街。
ユーラシア大陸の一部なのに、山脈が陸路を閉ざし、大陸の街へ出るには飛行機か船を使わないとたどり着けない。
そこでは、ロシア人と先住民たちが、お互いに偏見を抱えたまま生活していて、登場人物たちの鬱屈感がゆっくりと伝わってくる。
これほどまでにカムチャッカ半島の生活を知らなかったのかと驚く。
事件は最初に提示される。
その暗い出来事が、人々の日常に影を落としている。
事件は解決されるのか、それとも風化していくのか。なかば絶望的な気分に覆われつつ読み進める。
読後は、物語の構成と展開の見事さに、なんとも言えない虚脱感に包まれる。
愛の物語には違いない。
写真はIgor Ustynskyy氏、装丁は早川書房デザイン室。(2021)
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