マリオ・バルガス=リョサ『シンコ・エスキーナス街の罠』
血で書かれたかのような赤いタイトル文字は、ところどころ滴り落ちている。
背景の黒、赤と白の文字は、不気味さを湛えている。
けれども、怖さを追求した感じがなくて、適度に力を緩めたような印象を受ける。
怖いものに興味はあるけれど、本当に怖いのは冗談にならないから勘弁してくれ、そんな思いをくむかのように。
それは、読んでみて納得する。
本当は、とても怖い実話だけれど、実話だと言ってしまうと読めなくなるので、冗談だとかわすようなものなのだ。
舞台はペルー。
金持ちのスキャンダルと、そのネタで強請りをするゴシップ誌の編集長。
そして殺人事件が起こる。
全体に、大味な小説のように感じながら読んでいたが、ところどころ緊張感もあって楽しい時間だった。
もう少し膨らませられそうな気配はあるけれど、十分かもしれない。
何が怖いのかというと、ペルーを支配する闇の権力。
合間に入っているエロティックな描写が緩衝材のようになり、本当にあることなのか、そうではないのか、曖昧なままになる。
装丁は水戸部功氏。(2020)
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